ラベル 診断基準 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 診断基準 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2019年4月17日水曜日

リ・フラウメニ (Li-Fraumeni) 症候群について

 ドラマ「ラジエーションハウス」の第2話(フジテレビ)を観ました。
 テーマはリ・フラウメニ (Li-Fraumeni) 症候群という症候群でした。

 ちょっと簡単に解説してみたいと思います。



まずは情報のあるところから


 日本語の情報は GRJと難病情報センターがとてもよくまとまっていますね。

 ▶ リ・フラウメニ症候群 GenesReviewsJapan
 ▶ 難病情報センター リ・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群とその類縁症候群
 ▶ Cancer.net Li-Fraumeni Syndrome

 ▶ 医療従事者にはこのレビューがオープンでわかりやすくお勧め
  Li-Fraumeni Syndrome W. Vogel J Adv Pract Oncol. 2017 Nov-Dec; 8(7): 742–746.



リ・フラウメニ (Li-Fraumeni) 症候群とは



 そもそも「症候群」とはなんでしょうか。

 Wikipedia の記載では、「症候群(しょうこうぐん、英: syndrome、シンドローム)とは、同時に起きる一連の症候のこと。原因不明ながら共通の病態(自他覚症状・検査所見・画像所見など)を示す患者が多い場合に、そのような症状の集まりに名をつけ扱いやすくしたものである。」とのこと…ん?

 病気のことなのはわかるけど、普通の「●●病」などとはどう違うのかな…と。

 まず、症候というのは症状や徴候、つまり苦しい状態であったり体に変化が現れたりすることですが、いろいろな症候が同時に起きる状態があるんですね。
 そういう場合には、●●病となずけるには、原因がはっきりとわかり、それが元になって様々な症候が起こっている、ということが分からないといけないのです。
 症候群は、原因不明ながら共通の病態がある場合に使われるのです。

 なので、症候群という名前のついている病名の場合には、原則的には、原因が不明であるのですね。そして一連の症候がでるそれなりの集まりであるということなのです。

 さて、くどくど説明から入りましたが、ちょっとこれは大事で、今回のテーマであるリ・フラウメニ症候群(Li-Fraumeni synd.; LFS) も明確な原因はまだ確定していないんですね。ただし、述べていくように、TP53 という遺伝子に異常があるのだろうということはほぼ確定的にわかっていますので、リ・フラウメニ病と呼んでもよいことになってくるのかもしれません。

 というわけで進めていきます。
 この症候群名は発見者である Frederick P. Li と Joseph F. Fraumeni, Jr からきています。以下は LFS と略していきます。

 LFS は家族性に様々な「がん」を多発してくる症候群です
 これは遺伝性症候群と言われます。家族性に同じような病気が起こってくるからで、これが遺伝するからですね。

 遺伝の様式は常染色体優性遺伝です。ここは遺伝様式の話で込み入るので今回は割愛してしまいますが、病気の因子がある方のお子さんには性別に関わらずそれぞれ 1/2 の確率で同じ因子が受け継がれ、フェノタイプを示す(発症する可能性がある)ことになります。

 この病気=症候群はさまざまな「がん」を生じてくるのですが、古典的なリ・フラウメニ症候群とその類縁症候群であるリ・フラウメニ様症候群の二つの病型が知られていて、以下のような臨床診断基準に基づいて診断されています。

 LFSは実際には非常にまれな症候群で、全世界でも報告は 400 家系に満たない程度です。しかし実際には、のちに述べる原因であるTP53 遺伝子の異常が2万分の1程度の高頻度で認められる可能性もあるとされています。


LFS の診断はどうするのか


臨床診断基準


 LFS には以下のような臨床診断基準があります。「臨床」診断基準とは、これらの症候を認めた場合にこの症候群とまずは診断できる基準です。
古典的LFS基準 (以下の全てを満たす場合)

・発端者が45歳未満で肉腫と診断された
・第1度近親者が、45歳未満でがんと診断された
・第2度近親者以内に、45歳未満で診断された癌患者
   あるいは肉腫患者(診断時の年齢問わず)がいる
Li FP, Fraumeni JF et al. Cancer Res 1988;48:5358-5362
Chompret基準 (以下のいずれかに当てはまる場合)
 この基準を満たす患者の少なくとも20%は
 検出可能なTP53変異を有する

・発端者が46歳未満でLFS腫瘍
 (軟部組織肉腫、骨肉腫、閉経前乳癌、脳腫瘍、
 
副腎皮質腫瘍白血病、細気管支肺胞上皮癌)既往歴があり、
 かつ第2度近親者以内に56歳未満でLFS腫瘍
 (発端者が乳癌の場合は乳癌以外)がある
・発端者に初発46歳未満の多発性腫瘍
 (多発性乳腺腫瘍を除く)の既往歴があり、
 そのうち2つがLFS腫瘍である
・家族歴に関係なく、発端者が副腎皮質腫瘍
 脈絡叢腫瘍もしくは胎児型遅形成横紋筋肉腫と
 診断された(診断時の年齢問わず)
・31歳未満の乳癌
Tinat J et al. J Clin Oncol 2009;27:e108-109

 診断基準の中の水色のところは、今回のドラマの中で出てきたキーワードでした。

 そして現在では、確定診断は TP53 遺伝子の遺伝子検査によって行われています。
 

遺伝子検査


 上でのべた診断基準のいずれかを満たした場合や、35歳未満で乳がんを発症したがBRCA1/2遺伝子変異が見つからなかった場合などが、TP53 遺伝子検査の適応とされています(NCCN; National Comprehensive Cancer Network の Clinical Practice Guidelines in Oncology, Genetic/Familial High-Risk Assessment: Breast and Ovarian, version 2, 2017 による)。 

 脇道にそれますが、BRCA 遺伝子の異常は乳癌などを起こすことで有名で、アンジェリーナ・ジョリーさんが乳房と卵巣を予防的に切除したことで有名になった、家族性乳癌・卵巣癌などの原因遺伝子ですね。
 LFS とおなじような遺伝性の腫瘍性の起こりやすい病気です。




TP53 と LFS




 さて、ここで、TP53 とは何か、ここを説明しないとちょっとわかりにくいですね。
 この遺伝子は、がんの領域の研究や勉強をしている人には超絶有名なスーパースター的な遺伝子なのです。知らなければモグリといってもいいぐらいに。

 まず TP53 の情報のあるところとして、GeneCards という便利なサイトのリンクを貼っておきますね。英語なのですが… ▶ TP53 Gene - GeneCards
 Wikipedia の記事がわかりやすいかもしれません ▶ p53遺伝子 Wikipedia

 TP53 は、Tumor Protein P53 という名称からの略称で、腫瘍に関わる遺伝子で、53kDaという大きさをもつプロテイン=タンパク質として名付けられたのですね。遺伝子名を呼ぶときには p53 と呼ぶことになります。

 この p53 遺伝子は癌抑制遺伝子といわれますが、細胞が おかしくなってがんなどになりそうなときに、細胞の機能を停止させたり、細胞自体をアポトーシスといって殺すことによって、ひどい異常が生じないように制御する、ブレーキ的な役割をもつことがよく知られています。

 ゾウではがんがとても少ないのですが、ゾウはp53をたくさん持っているため、という考察もあるんですね。▶ How elephants avoid cancer

 さて、簡単ではありましたが、そんな TP53 はLFSの原因になるのでした。
 古典的 LFS の臨床診断基準を満たす患者のうち70%では、TP53 遺伝子に病的とされる配列の変異、すなわち TP53 がうまく働かなくなっていることがあると考えられています(Varley JM. Hum Mutat. 2003;21:313–320)。

 TP53 遺伝子の変異側から見ると、病的とされる変異のある人の95%が、古典的LFS基準か Chompret 基準かのどちらかを満たしていたという報告もあるのですね(Gonzalez K et al. J Clin Oncol. 2009;27:1250–1256)。

 LFSの患者とその家族は、多発の原発がんを生じるリスクがありますので、発症前の遺伝子検査や、出生前診断などを含む検査についても、遺伝カウンセリングと合わせて十分に考慮される必要があると言えます。



LFS の場合のがん発症のリスク



 LFSはさまざまな原発性のがんを多発するリスクが高い遺伝性腫瘍ですが、確定診断をうけた場合(TP53遺伝子に病的変異がある場合)、LFSに関連するがんの発症リスクは30歳までに約50%、60歳までに約90%と推定されています(Lustbader ED et al. Am J Hum Genet 1992;51:344-356)。



LFSの症状


 LFSでは、若くしてがんを発症するリスクが高く、かつ、多発することも多いのですね。中心的ながんは、軟部組織肉腫、骨肉腫、乳癌、脳腫瘍、副腎皮質癌などで、これらが全体の約80%を占めています。
 これらのがんによる症状や障害が、がんが発症すると出てくるのですね。



LFSの合併症



 TP53遺伝子は癌抑制遺伝子で、細胞の異常を直したりおかしくなった細胞を始末したりするのでした。ここがおかしいために、LFS患者では、放射線によって二次性の悪性腫瘍の合併がおこることが知られています。
 このため、放射線治療をできるだけ回避するのがよいとされています。
 さらに、日光への曝露、喫煙、職業被曝、過度な飲酒、発がん性物質曝露などは、回避または最小限にすることが推奨されているのですね。



LFSの治療法



 これは根本的な治療法はないので、発症したがんに対する治療ということになります。
 先に述べたように放射線治療は最小限にとどめることが重要ですが、基本的には通常のがん治療を行う。
 そして、BRCA遺伝子のところで述べたように、TP53遺伝子の異常を有する女性に対しては予防的乳房切除術も選択肢の一つとして提案されたり実際に行われたりもしています。


というわけで



 実際の臨床現場では、臨床診断基準にあるような、家族内でのやや特殊な腫瘍や通常より若かったり多発したりするがんを見つけた場合には疑って診断し、検査で確定する、ということになりますね。
 遺伝性疾患であり、発がんのリスクも高いこと、そして根本原因の治療はできないことから、遺伝カウンセリングなどが重要になりますね。

 このあたりはドラマでも少し触れられていましたが、こういった遺伝性のがんを起こす症候群もあるんだなぁと知ってもらえる機会だったのかなと思いました。

 ドラマに出てきた副腎皮質癌と骨肉腫についてはまた別にまとめます。


おすすめの教科書



 がんと遺伝子について本格的に勉強してみたいとおもったら、断然お勧めはこの本!


 医療従事者には特におすすめいたします。


 






気が向きましたら応援クリックをお願いします!↓
  

note に 医学・医療関係の記事をまとめています

病理の話題は別ブログにまとめています

研究関係の話題は別ブログにまとめています

その他のブログ一覧はこちら

投げ銭・ご寄付などのリンク
もしよい情報などがありましたら
▶ リンク

2018年11月15日木曜日

精巣生検におけるJohnsenのスコア

 不妊治療の男性側因子の検索目的になされる精巣生検において、増精能の量的な評価を行うためのスコアである Johnsen’s score を示します。




● Johnsen's score

Score 10
Complete spermatogenesis with many spermatozoa (spermatozoa are here defined as cells having achieved the small head form of the spermatozoon).  
Germinal epithelium organized in a regular thickness leaving an open lumen.
完全な数多くの精子のある造精機能を認め、精細胞層が厚く正しく配列し、精細管の内腔は開いている
Score 9
 Many spermatozoa present but germinal epithelium disorganized with marked sloughing or obliteration of lumen.
 多くの精子が認められるが、精細胞配列が不規則で内腔が狭い
Score 8
 Only few spermatozoa (<5-10) present in section.
 精細管内にわずかな精子(510)が認められる
Score 7
 No spermatozoa but many spermatids present.
 精子は認められないが、精子細胞は多数認められる
Score 6
 No spermatozoa but only few spermatids (<5-10) present.
 精子は認められず、精子細胞はわずかに(510個)認められる
Score 5
 No spermatozoa, no spermatids but several or many spermatocytes present.
精子および精子細胞は認められないが、少数~多数の精母細胞が認められる
Score 4
 Only few spermatocytes (<5) and no spermatids or spermatozoa present.
 精子・精子細胞は認められず、精母細胞はわずかに(5個未満)認められる
Score 3
 Spermatogonia are the only germ cell present.
 精祖細胞のみ認められる
Score 2
 No germ cells but Sertoli cells are present.
 精細胞はみとめず、セルトリ細胞のみ認める
Score 1
 No cells in tubular section.
 線維成分のみで細胞組織はない

   Spermatogenesis: 精子形成または造精能、 Spermatozoon: 精子、
   Spermatid:精子細胞、Spermatocyte: 精母細胞


Score
精子
精細胞
精母細胞
精原細胞
セルトリ細胞
10
++
++
+
+
+
9
++
++
+
+
+
8
<5-10
++
+
+
+
7
-
++
+
+
+
6
-
<5-10
+
+
+
5
-
-
5
+
+
4
-
-
5
+
+
3
-
-
-
+
+
2
-
-
-
-
+
1
-
-
-
-
-






● 文献

1) Johnsen SG. Testicular biopsy score count – a method for registration of spermatogenesis in human testes: normal values and results in 335 hypogonadal males. Hormones 1970;1:2-25.
2) 外科病理学
3) 寺田 充彦 他 不妊症の臨床と病理. 病理と臨床 1989;7:173-80.



にほんブログ村 病気ブログ 医者・医師へ 

2018年8月12日日曜日

GISTのリスク分類


GISTのリスク分類について


Fig.1 GIST(HE) 


 Gastrointestinal stromal tumor (GIST, 消化管間質腫瘍) の病理診断においては、リスク分類が求められる。なぜなら、リスク分類によって、予後予測に役立つだけでなく、術後化学療法の適応の決定に資するからである。

 GISTの悪性度を細胞形態のみで判断することは困難である。
 唯一、他臓器への転移があれば悪性であると断定が可能である。
 よって転移がない場合には、良性/悪性と診断するのではなく、リスク分類(高、中、低)を行う。

 リスク分類は主として2つが用いられている。これらの分類はいずれも、腫瘍径と細胞増殖能の指標を組み合わせてつくられている。これらの分類はいずれも、腫瘍径と細胞増殖能の指標を組み合わせてつくられている。これら2つのリスク分類は GIST診療ガイドラインに採用されている。

GIST診療ガイドライン 2014年4月改訂(第3版): 構造化抄録CD-ROM付

● Fletcher 分類


 最も汎用されているリスク分類は Fletcher 分類 (Fletcher CD et al: Hum Pathol 33: 459-465, 2002, PMID: 12094370)で、この分類は腫瘍径と核分裂像数を組み合わせたものである。この分類はまたGIST診療ガイドラインにも採用されている。




 2項目のみで評価が可能であるが、原発臓器によるリスクの違いが取り入れられていない。また、Ki67(MIB-1) 標識率や壊死の有無も組み入れられてはいない。


 Miettinen 分類




 GISTは腫瘍発生臓器によって予後が異なることが示されている。そこで、これらを取り入れた Miettinen 分類 (Miettinen M et al: Semin Diagn Pathol 23: 70-83, 2006, PMID: 17193820)が現在では使われるようになりつつある。GIST診療ガイドラインにもこの分類が取り入れられている。







● リスク分類を行う上での注意事項


 核分裂像に関しては対物40倍視野で核分裂の数を調べ、50視野を合計して(/50HPF)算出することとなっているが、視野数によって結果が異なるので、視野数を明記することが必要である。


● その他の予後予測因子



 臨床的な予後予測因子としては、腫瘍径(≧5cm)、周囲臓器への浸潤、血行性転移、腹膜播種、腫瘍破裂、不完全切除などがあり、病理においては核分裂像数(≧5/50HPF or ≧10/50HPF)、腫瘍細胞の多形性、壊死・出血の有無などが挙げられている。遺伝子的にはc-kitPDGFRAPDGFRBなどの遺伝子の変異が検討されている。



● 文献


1)Fletcher CD et al: Diagnosis of gastrointestinal stromal tumors: a consensus approach. Hum Pathol 33: 459-465, 2002

2)Miettinen M, Lasota J: Gastrointestinal stromal tumors: pathology and prognosis at different sites. Semin Diagn Pathol 23: 70-83, 2006


● 参考になるサイト