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2018年12月15日土曜日

【書籍紹介】免疫学を勉強したい方に最初にお勧めする本

 免疫学についていくつか記事を書きましたが、勉強するのによい本はなんですかね、という質問を何回かいただきました。

 ちょっと本格的に免疫学を知ってみたいな、という方向けにお勧めの本を紹介してみたいと思います。


1. Janeway's Immunobiology




 【書名】Janeway's Immunobiology
 【著者】Kenneth Murphy, Casey Weaver
 【出版社】Garland Science
 【リンク】Amazon.co.jp Amazon.com Kindle 7net
      honto e-hon 紀伊國屋書店 図書館


 まずおすすめなのはこの Janeway's の Immunobiology です。2016年出版、とても分かりやすい図版と丁寧な項目立てでよい教科書です。
 かなり新しい事項についても書かれていて、初めてしっかりと免疫学を勉強するのにはとてもよい一冊であることは間違いありません。医学部生や研究で免疫を扱う人の入門書として一番かなと思います。
 ただし、英語です。そこで、この翻訳本を次に紹介します。


2. 免疫生物学 (Janeway's Immunobiology の翻訳本)




 【書名】免疫生物学
 【著者】ケニス マーフィ、マーク ウォルポート、ポール トラバース
 【出版社】南江堂
 【リンク】Amazon Kindle 楽天ブックス 7net
      honto e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 1.で紹介した本の翻訳本。ただし版が一つまえのものであり、すでに10年以上たっています。よって、内容が最新でなく、この本の後にかなり概念が変わったところもあります。日本語の本でしっかり勉強を始めるのであれば、よい一冊です。この本から始めるのも 1. の英語がとっつきにくければよいと思います。

 その後、新版が発売されましたので追記します。まだ手元にないので読めていませんが、下のものです。

3. 分子細胞免疫学


分子細胞免疫学 原著第9版 アバス–リックマン–ピレ


 【書名】分子細胞免疫学 原著第9版 アバス–リックマン–ピレ
 【著者】Abul K. Abbas
 【出版社】エルゼビア・ジャパン株式会社
 【リンク】Amazon Kindle 楽天ブックス 7net
      honto e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 かなりしっかりした生物学から押さえてあり詳細な免疫学の一冊。本格的に勉強するのであればこの本か、この本の原本である Cellular and Molecular Immunology 9th Edition はお勧めできます。
 とにかく、基本的な免疫学の基礎から、最新の免疫チェックポイント機構の話まで網羅されており、この本を読んでおけば免疫学の基本部分の取りこぼしはないでしょう。
 やる気に溢れている方はここから始めるのもかなりいいと思います。


4. 休み時間の免疫学 第3版



 【書名】休み時間の免疫学 第3版 (休み時間シリーズ)
 【著者】齋藤紀先
 【出版社】講談社
 【リンク】Amazon 楽天ブックス 楽天kobo 7net

 1.~3. はいずれも難しすぎる…分子生物学の基礎ができてないからきつい、という方は、まず概念を簡単につかまえるのに、この一冊を入門のための入門本としておすすめしておきたいと思います。読み物としてまずはこの本で馴染んで、世界観の入口をつかむのはいいかもしれません。ただし、この本のレベルはあくまでも基礎の基礎なので、この後の勉強には、上で紹介した1.~3.のいずれかに進むことが大事ですね。

 私がこのブログや noteにも書き出したマガジン(▶ここ) でも、この本より優しく、この本より先へ、この本より最新のことまで、はひとつの目標なんですけどね。読み物としてこの本は優れていますね、本当に。



 さて、4冊紹介いたしました。
 免疫学を学ぶには、分子生物学、生化学、微生物学も同時に学んでおかねばなりません。それらの本はまた紹介していきたいと思います。







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2018年11月23日金曜日

かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その3

 簡単に免疫システムを解説してみようという企画の第三回です。






前二回はこちら
 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1
 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その2


振り返り


前回までは


 さて、前二回は獲得免疫の話をしてきました。といってもすごくざっくりで、王道のみを行きました。

 簡単にまとめなおすと、獲得免疫= adaptive immune system はリンパ球であるB細胞とT細胞によって担われていたのでした。

 B細胞は液性免疫担当で、抗体をつくる。T細胞はヘルパーと細胞障害性にわかれ、細胞性免疫(CTL)と調整役をになっている。

 B細胞もT細胞もペプチド特異的に反応を起こし、そのペプチドが病原体由来であるから、敵を認識できる。そういうことでした。


はしょったけれども


 さて、まだまだまだまだたくさん獲得免疫には仕組みや論点があります。例えば、抗体というのは一種類ではなくて、クラスと呼ばれるいくつかのグループがあります。IgGとかIgMとかきいたことがあるかと思います。




 また、T細胞も単純にヘルパーとCTLだけではなくて、全体をよく調整する制御性T細胞 (Treg) などの違う亜集団がいます。





 さらに、実はリンパ球はB細胞とT細胞だけではなくて、NK細胞、NKT細胞などのちょっとちがう種類の登場人物もいるのです…。

 そして、どうやって最適化しているかリンパ球を教育しているか、などや、他の主人公たちの役割と連携、そういったこともまだまだまだまだたくさんストーリーがあるのです。

 しかし、これらは二巡目で話す話。まずはこれまではなした部分がエッセンシャルかな、と思います。




自然免疫系


 さて、そこで、今回のは自然免疫にうつっていきたいと思います。

 自然免疫 = innate immune system とはなにか。定義するのは厳密には難しいですが、獲得免疫以外の方法で病原体を除去する仕組み、とまずは考えてよいのかなと思います。

 獲得免疫というのは実は、原始的な生物にはありません。あまり好きな言葉ではありませんが下等生物では発達していないんですね。哺乳類では非常に発達していますが、昆虫や魚などでは発達していません。

 そうすると、そういった生物では感染症の病原体はやりたい放題なのか?そうではないですね、実際には免疫システムを持っています
 その主体が自然免疫系なのですが、自然免疫系とは簡単に言うと、「病原体」を「食べて」、「炎症を起こし」「排除する」という仕組みになっています。


 獲得免疫は「病原体」を「認識」して「排除し」、「記憶する」のでした。食べてはいないですね。しかし、違いはそこだけではありません。


自然免疫と獲得免疫の大きな違いはいくつもあります。

まず、
  ① 登場人物が違う、
  ② 病原体の認識方法や認識の考え方が違う、
  ③ 排除の方法が違う、④記憶の在り方がちがう、
  ⑤ もっている生物が違う
といったことがあげられます。

順番にみていきます。


自然免疫系の登場人物たち


 まず、獲得免疫では登場人物の主体はリンパ球と抗原提示細胞でした。抗原提示細胞は病原体を食べますが、リンパ球は基本的には食べません。基本的には。

 一方、自然免疫を担う細胞は主に好中球、マクロファージ、樹状細胞、NK細胞、好塩基球・好酸球、肥満細胞などです。うわーいっぱい出てきた。


Lymphocytes はリンパ球で、獲得免疫です


 
 しかし簡単にいうと、リンパ球以外の白血球と樹状細胞あたりなんです。

 そして実は、こういった細胞によるものだけでなく、補体と呼ばれるタンパク質やサイトカインやエイコサノイドというタンパク質や脂質によっても自然免疫は担われています。しかし、細胞でないこれらはまずは割愛して進みます。



自然免疫における病原体認識の仕方



 さて②の病原体の認識方法や考え方についてですが、獲得免疫系はペプチドを認識するのでした。ペプチドはアミノ酸の鎖で、タンパク質の一部です。そう、タンパク質を認識するとも言えますね。特異的な配列を読めるので、非常に特異的です。これを「抗原特異性」とも言います。

 しかし冷静に考えると、獲得免疫系はタンパク質しか認識できない。そして、いちいち配列をよんで、特異的なものにしか反応しないんですね。これがちょっと問題になったりもします。かつ、抗原提示をうけてから活性化し、そして動き出すので、速度がのろい。初速がないんですね。反応し始めるのに時間がかかります。

 さて、じゃぁ自然免疫系はどうなのかといいますと、実は非常に速い反応をします。目の前に病原体が現れたら、ほぼ即座にたべます。そして食べると、炎症を起こす指令をだします。
 これはなぜかというと、病原体の認識方法と考え方が全く違うからです。

 自然免疫系における、病原体の認識は「特異的な配列をよむ」方法ではなくて、「パターンを認識する」という方法をとっているのです。

 パターン?

 そうパターンです。例えば、ヒトを構成する成分はタンパク質や脂質、糖質などいろいろあります。もちろん病原体も成分を持っています。しかし、細菌や真菌(カビの仲間)、ウイルスなどは時に、ヒトがもっていない成分を持っています。

 しかも、それらはタンパク質だけでなく様々な分子、ときに糖、時に核酸(DNAやRNA)などです。それらの成分や化学式がすこし違う。ヒトのそれとは少しちがう

 たとえば、リポポリサッカロイド(LPS)というお砂糖のなかまの糖がつらなった成分は、細菌の細胞の外側を構成していますが、哺乳類には非常に似たものはありません。例えば、ウイルスが自分のゲノムを複製するときにつかうRNAの頭の部分には、ヒトの仕組みとは違うキャップという防護構造がついています。

 そう、そういう、病原体にはあってヒトにはない、分子のパターンを認識する分子があるんです。パターンというのは、決して多糖類の配列を読んでいるのでも、RNAの配列をよんでいるのでもなく、そういうパターンで現れる構造に反応するようにできているんです。特異度は低いけれども、ヒトにはないものを一緒くたにみることができるんですね。

 こういう、ヒトになくて、病原体 (pathogen) にみられる分子(molecular) のパターン(pattern)のことを、病原体特異的分子パターン(Pathogen-associated molecular pattern, PAMP)と言います。ヒトにはなくて、病原体にある分子の一群。

 これは、免疫の有名で私もすきな教科書を書いている Janeway がなずけたものです。

いい教科書、なんだけど英文はくどい


 さて、これらPAMPを認識するような分子のことを、パターン認識受容体(pattern-recognition receptors, PRRs)と言っています。受容体(receptor)というのは受け手の分子のこと。TCRやBCRのRですね。

 これらの受容体は、例えば病原体だけにあるLPS、病原体由来だけのRNAやDNAに反応して、形を変え、ほかの分子に情報を伝達します。この受容体は血球細胞である好中球やマクロファージ、樹状細胞などにあって、それらのシグナルで貪食がおこったり炎症を起こしたりするんですね。

 PRRs の代表的なものが、Toll様受容体(Toll-like receptor、TLR)という分子なんです。大阪大学の審良静男先生ががんがんみつけられたんですね。Toll受容体とはハエでみつかった分子で、ドイツ語由来です。それに似ているタンパクとしてあとから見つかったんですね。




 このTLRが見つかったことで、自然免疫の研究が一気に爆発しました。

 それまでは自然免疫というのおは獲得免疫とは違い、非常に原始的で、大した仕組みじゃないぐらいに思っていた人もいたような感じだったんですね。つまりちゃんと認識しないで手当たり次第に食べて処理していた、と思っていたんですね。

 それが、TLRがみつかり、自然免疫系も実は PAMP を認識してしっかり選別していることが分かってきたわけです。

 TLRs にはいくつも種類があります。TLR1とかTLR9とか。現在11種類ほどが見つかっています。具体的にはTLR1や2はリポタンパク質、TLR2はまたペプチドグリカンなど、TLR3は二本鎖RNA、TLR4はLPS、TLR5は病原体の鞭毛、TLR5はリポタンパク質、TLR7・87は一本鎖RNA、TLR9はDNAのGCの多い配列…という感じです。

 このように、自然免疫は、配列をよむのではなく、ヒトにない分子を見つけると刺激されます。そうすると、好中球やマクロファージは病原体を食べて消化し、樹状細胞は食べたのちに抗原提示をして獲得免疫への橋渡しをします。

 さらになんと、TLR以外のパターン認識をする分子も見つかってきています。例えば、RLRs (RIG-I、MDL5、LGP1)などやNLRs (NOD1, NOD2, NALP3)と呼ばれる分子で、これらは受容体というより引っ付く分子なので、PRMs (pattern-recognition molecules)などと呼ばれたりもします。

 いずれにせよ、これらの分子はいずれも「パターンを認識」して自然免疫系の主人公たちが頑張り始める、ということになります。



自然免疫系における病原体排除の方法



 さて、では戻りに戻って、自然免疫の③病原体排除の方法ですが、これはまずは食べることです。細菌などのものを好中球やマクロファージが食べる。そして消化します。これは自然な流れで、食べたあとに酵素をつかって細胞内で処理します。

 じつはここからがすごいのですが、ウイルスなどに感染された細胞は、自爆することもあります。先述べたPRMs やTLRの一部は、自分の中にウイルス由来でヒトとは違う構造をもったRNAやDNAがいることに気づきます。すると、ほかの分子を活性化させて、細胞に自爆を促すことがあるのです。

 具体的にはインフラマゾームと呼ばれる酵素の一群がカスパーゼという自爆酵素を活性化させ、細胞が自分自身をずたぼろにするんですね。そうして、感染したウイルスごと消えます。こういう仕組みもあるんですね。

 そして自然免疫系の重要なことは、炎症を誘導すること。まわりに TNF や IFN と呼ばれる分子をばらまいて、ほかの免疫細胞を呼び寄せたり、暴れさせたりします。

 さらには、獲得免疫を活性化して橋渡しをするのも自然免疫の仕事なんですね。
 先にのべた樹状細胞は抗原提示能があります。そしてT細胞やB細胞を活性化するわけです。


自然免疫系のざっくりまとめ


 さて、これが概要に自然免疫のざっくり概要ですが、実はどうも④記憶もあるようなのです。ここは最先端で難しい話もあるのですが、エピジェネティクスといって、DNAに修飾が加わって、遺伝子の発現パターンを変えることで一部の細胞が経験値をためている可能性があるのです。ここら辺は最先端でまだまだですけどね。

 そして、⑤持っている生物、これはかなり原始的な生物から持っているんです。というのは、自然免疫の主たる排除方法の貪食というパクパク食べる機能は、イリヤ・メチニコフというロシア人の科学者がミジンコでみつけたんですね。そのぐらいいろいろな生物にあるんです。


イリヤ・メチニコフ


 さて、ざっくりと、「細胞によって行われる」、自然免疫についても駆け足で見ました。ラフに王道を、がモットーでしたので、まずはこんな感じで一度締めたいと思います。免疫はまだまだまだまだ奥深く全くこれでは軽いレベルですが、ざっと獲得と自然の両方を眺めたかなという感じでしょうか



 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1
 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その2


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2018年11月22日木曜日

かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その2


 第二回です。前回に引き続き。

 前回の記事 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1


 どこまで話していたかというと、免疫システムにはそして獲得免疫と自然免疫がある。
 そして獲得免疫をまず見ていくことにしていました。

 獲得免疫の主人公の一つはリンパ球ですが、これはB細胞とT細胞に分かれていました。

 そして、B細胞は抗体をつくって液性免疫を担い、T細胞は細胞を殺すことができて、細胞性免疫を担う。という話まで来ていました。

 さてはて、ここまで分類しましたが、進めていきましょう。



T細胞はペプチドを認識する



 T細胞は病原体をどうやって認識するのか?免疫の説明をするときにはいつでもわかりやすく話をうまく組み立てていくのは難しいのですが、まずはT細胞の認識の仕方、ここから攻めます。

 さっと答えからいうと、病原体の持っているタンパク質 (protein) の一部である、ペプチド (peptide)、すなわちアミノ酸 (amino acid)の繋がった「鎖」を認識して、病原体をみつけます。 

 タンパク質というのはアミノ酸が鎖のようにながーくつながってできているんですね。アミノ酸は、全部で20種類が使われますが、それぞれが手をつなぐように結合していきます。 



  
 パーツであるアミノ酸一つ一つについては、ウイルスのものもヒトのものも同じ成分なので違いはありません。そこで何の差をみるかというと、「鎖の配列」を見分けるんですね 。

 繰り返しますが、アミノ酸は20種つかわれます。そうすると、例えばペプチド鎖が10個であれば、20の10乗の組み合わせが作れることになります。すごい数です。

 そうすると、たとえ10個ぐらいのアミノ酸がつながった短い鎖であっても、病原体に特有で、それでいてかつ、ヒトには存在していない、そういう配列の鎖が作られうるんですね。

 細かい機構は後回しにして、こういったペプチド鎖を認識する仕組みをT細胞はもっている、とまずは考えておきます。



抗体も認識するのはペプチド



 さて、突然また一度話がとびますが、実はB細胞の作る“ミサイル”である抗体もペプチド鎖を認識します。

 病原体のペプチド鎖を認識するんですが、時にそれは大きなタンパク質そのものの一部だったりします。 



 

 つまりB細胞の作る抗体もT細胞もペプチド鎖を認識する

 まとめるとB細胞のつくる抗体も、T細胞も、病原体のペプチド鎖の配列を読んで“敵”を認識するわけです。

 T細胞やB細胞のつくる抗体は配列を認識する…すなわち配列を読む(?) どういうこと?
 となりますが、仕組みは簡単です。ある一つの抗体はある一つの配列としかくっつかないのです。あるひとつのT細胞は、ある一つのペプチド鎖でしか刺激されないのです。

 これが免疫学の大発展に繋がったキーポイントです。

 もう一度噛み砕くと、B細胞は1種類のペプチドを認識する抗体しかつくりません。1つの細胞が1種類だけをつくります。

 T細胞も同じく、1つの細胞は1種類のペプチド鎖を認識します。


無数の敵に対応するには



 では、100万種類の病原体を認識するのにはどうすればよいか… 。
 答えはシンプルに、100万種類、B細胞とT細胞を作ればいいのです。 

 さてはて、ヒトの遺伝子は2万5千個もないのです…。その時点で100万種類の抗体や100万種類のT細胞は作れない気がしますね。

 その当時の常識的にはそうでした。しかし、すごい発見があったわけです。


 それが、遺伝子をコードするDNAの編集がリンパ球では起こり遺伝子を書き換える仕組みが存在する、ということです。

 遺伝子はヒトをはじめ一個体内ではどの細胞でも同じ情報、同じ配列、同じ状態で安定してる。そういう「常識」がぶち壊される仕組みがあったわけです。


VDJ 遺伝子再構成



 細かいことは除きますが、まず抗体から見ていきます。

 抗体は重鎖2個と軽鎖2個の4つのパーツが組み合わされてできていますが、重鎖そのものもいくつかのパーツのツギハギでできています。



 


 実はB細胞は、発達する段階のあるところで、この重鎖にどのパーツをつかうかという組み合わせがランダムに選択され、DNAそのものが編集されます。

 これが VDJ 遺伝子再構成といわれる、驚きのしくみです。



 この図は重い鎖の部分をコードしているDNAの概念図です。

 図の一番上は、今まで受け継いできたDNAです。Vという4つの箱、Dという4つの箱、Jという4つの箱が描かれています。

 下に向かうにしたがって、これはB細胞のなかでDNAが組換えれる様子を表しています。

 VやDなどの箱からランダムに1つずつをえらんで、一番下のようにつなげて組換えてしまう。こういうことが起こります。これを VDJ再構成 (V(D)J recombinationまたはsomatic recombination)といっています。

 図では簡略化されていますが、実際にはたくさん“箱”があり、V部分が50の遺伝子断片、D部分30の遺伝子断片、J部分が6種類の遺伝子断片とすると、50×30×6 = 9000種類が作れることになります。実際には、抗体の重鎖部位は44個のV 、27個のD、6個のJがあります。

 実は軽鎖にも同じような構成があり、いろいろと計算しますと約3000億種類の抗体をつくることができることになります。

 この仕組みを見つけたのが利根川進先生で、これでノーベル賞を取っています。そのぐらいすごいことですね。


体細胞超変異


 しかし、生物はまだまだもっといろいろなパターンの抗体を作る仕組みがあるんです。さらに凄いことがおこります。

 抗体のV領域は抗体の最先端の部位で、ペプチドと直接くっつくところなのですが、ここの塩基配列がこれまたランダムに変えられてしまうのです。塩基配列というのはDNAの文字のことですね。

 これを体細胞超変異 (somatic hypermutation; SHM)といいますが、これを起こす遺伝子がAID、そうあの本庶先生が見つけ、ノーベル賞をこれでとりたかったのだろうとさえ思われる、スーパー大発見だったのですね。


つまり抗体は、


 さて、いちどまとめますと、抗体はB細胞がつくります。B細胞は発達段階で自分の抗体の遺伝子を組換え、超変異を起こします。

 それらがそれぞれの細胞で起こるので、様々な種類の抗体をつくるB細胞が生まれてきます。ただし、1つのB細胞は1種類の抗体だけをつくると考えてください。


B細胞はわかった。T細胞は?


 さてさて、T細胞、忘れてません。

 T細胞も一つの細胞は1種類のペプチド鎖を認識するのでした。

 ここで登場するのが分子なのですが、T細胞がペプチドを認識する、そのために使う分子が、T細胞の表面にくっついているT細胞受容体(TCR、T cell receptor) です。

 TCR は複数の分子の塊からなっています。




 このTCRも、抗体同様にパーツの組み合わせをランダムにすることと、超変異ではなく、TdTという分子がおこすのですが、先端部分のDNAの塩基配列を変更する仕組みで大量の種類が作られます。

 理論的には上10の18乗ぐらいできます。
 100万なんて超えましたね、軽く。

 ここでもまた、T細胞一つは1種類のTCRをもつ、すなわち1種類のペプチドを認識することはかわりません。


ランダムに作りっぱなしか



 さて、ここで一度くぎりますと、B細胞もT細胞も、自分の遺伝子をいじくっていろんなパターンの細胞を作ってしまうということが分かりました。

 では、これら作られたすべての細胞が体に残り、働くのか、といえば、そうじゃないんです。ちゃんとセレクションするんですね。

 細かい仕組みはまずは省きますが、自分の体由来のペプチドに強く反応してしまうT細胞は有害なので死にますし、ペプチドをうまく認識できない細胞も死にます。

 これは、T細胞に関しては胸腺という心臓の上にある部分でおこります

 この選択のはなしだけでも膨大な知識になるのがすごいのですが、今は取り敢えず、ペプチドを認識できて、かつ、自分由来のペプチドには反応しないT細胞だけが生き残っている、と考えてみます

 実際にはB細胞はちょっと違いますが、いまは似たようなものと考えておきましょう。

 さて、そうすると、身体の中には、自分は攻撃しないけど、“敵”のペプチド鎖は認識できる、という特性のB細胞とT細胞がそれぞれ無数の種類、作られてストックされていることになります

 つまり兵隊さんは揃っていて、それぞれある1つのペプチドを認識できるわけですね。

 これが平時の状態、としておきます。そうやって獲得免疫は体制を整えて待っているわけです


いざ病原体が入ってきたとき


 さて、では病原体が身体に入った状況にもどります。
 話を進めながら登場人物が増えます。

 病原体が身体に入ってくると、すぐにペプチド認識がされて、攻撃が開始されるのかというと、そうではありません。そんなすぐに反応はしません

 まず、病原体をパクパク食べて消化するという役割の細胞が体にはいます。

 そういう細胞は、パクパク食べて細胞のなかで病原体を消化したあと、その消化断片であるペプチド鎖を細胞表面に提示します。

 ペプチド鎖は抗体に認識されたりT細胞表面のTCRに認識されますが、これを、抗原 antigen といいます。

 そして、パクパク食べて抗原を細胞表面にだす細胞のことを、抗原提示細胞 (antigen presenting cell; APC) と呼びます。

 さて、このAPCは色んな種類がありますが、特に働きが強いのは3種なのです。
 樹状細胞、単球・マクロファージそしてB細胞です。

 あれ、B細胞は抗体を…とB細胞は混乱するので置いておきます。単球というのはパワーアップするとマクロファージになる細胞なのでが、これはパクパク食べる能力、貪食能の強い細胞です。

 しかし実は最も大事な役割をはたすのは樹状細胞 (dendritic cell; DC) というものです。

 この樹状細胞だけがナイーブT細胞をエフェクターT細胞に活性化することができるのです。はぁ?
 突然ナイーブとかエフェクターとか、出てきてしまいました。それはなんじゃろな? 





 先ほどまで延々と話した沢山準備しておいた多種類が存在するT細胞ですが、これらはまだ病原体のペプチドに出会ったことはないものとします。

 これが、敵をしらずまだまだウブということで、ナイーブT細胞 (または immature T細胞)と呼ばれるものです。

 このナイーブT細胞は、APCである樹状細胞の表面に提示されたペプチドが自分のTCRで認識されるものであった場合、樹状細胞に刺激されます。言い換えると、ナイーブT細胞は樹状細胞表面に出ているペプチドとくっついて、刺激されるということになります。

 これが、認識、になりますよね。

 刺激されたナイーブT細胞は、ここで初めて頑張るぞ、頑張って働くぞ、となり、活性化し、増殖します。数も増えますし、機能を発揮しようとしていろいろな遺伝子が発現したりします。こういう風に動き出した状態のT細胞をエフェクターT細胞と総称しています。

 さて、上の図。エフェクターT細胞の分化する図、あれ、なんか2種類ありますね。ここでT細胞を見直す必要がでてきました。

 免疫学が分からなくなる理由の1つは登場人物があまりに多いことにもあります。

 とくに、一つの細胞内でいろんな種類があったりして…。

 そう、T細胞は実は一枚岩ではなく、非常にたくさんの役割分担された亜集団からなっているのです。これが教科書では最初からこれでもかこれでもかと紹介されて混乱をまねくところなのです。

 なので、混乱しないようにまずザックリT細胞を2つに分け、細かくは進みません。

 その前に少し復習しますと、T細胞は、感染した細胞を壊すという細胞性免疫を担うのでした。しかし実は、先に述べたときはT細胞の「一部」、と書きました。伏線伏線。

 実は、T細胞は細胞壊し屋さんだけでなく、司令塔となったり、B細胞などほかの種類の細胞を助けたりという役割をする亜集団もいるのです。

 

CD4とCD8


 ここでT細胞をどうやってわけるか。形?形ではなかなかわかりません。

 しかしいい方法があるのです。まずザックリ2つにわける方法として、明確なタンパク質の指標があるのです。それが細胞の表面に出ているCD4とCD8という分子なのです。

 T細胞では、この CD4とCD8は、正常なT細胞ではどちらかしか出ていません。発達の段階の途中では両方出てたりしますが、成長するとどちらか片方をほぼ必ずだしています。

 そして、出ている分子がCD4なのかCD8なのかによって細胞の機能が大きく異なるのです。なんて便利なマーカーなんでしょう。

 ここで、CD4を発現した、発現というのは、タンパク質が作られてでていることですが、発現したT細胞はなにをするかというと…他のT細胞を助ける、B細胞の分化成熟や抗体産生を助ける。ヘルプします。

 よって、これをヘルパーT細胞と呼びます。くどいですが、ヘルパーT細胞はCD4陽性細胞です (陽性というのは検出できるという意味ですが、この場合には発現しているという意味ですね。逆は陰性になります)。

 さて、逆のCD8陽性細胞はというと、これこそがウイルス感染細胞などを破壊する細胞で、キラーT細胞と呼ばれます。別名としては細胞傷害性T細胞 (cytotoxic T lymphocyte; CTL) とも言います。



 登場人物が増えましたね。
 リンパ球は主にB細胞とT細胞でした。
 このうちT細胞はヘルパーT細胞と細胞障害性T細胞に別れました。



 さぁ、まだわかれます…!分かれるんです。

 このうちヘルパーT細胞、CD4陽性細胞は、分泌するサイトカインという分子の種類により、Th1細胞、Th2細胞、Th17細胞にわかれます。Tfh 細胞(濾胞ヘルパーT細胞)という重要なT細胞がここ10年ほどであきらかになりました。ぎゃー‼️めちゃくちゃや!





 これ以上は…この時点ではメインストリームとは言いがたいので引き返しますが、Th1細胞は細胞性免疫をヘルプ、Th2細胞はアレルギーに関する部分などをヘルプTfh細胞は液性免疫をヘルプ、Th17細胞は自己免疫の調整など、機能が違います。

 大事なことは、ヘルプ機能があるということで、最も基本的なのはTfhです (図の中のTreg というのはまた改めて補足で話していくことになるかもしれません)。

 さてここでTfhは液性免疫、つまりB細胞を助けます

 B細胞にサイトカインなとよばれる連絡をするための分子をかけて活性化させるのです。

 大分深入りしましたね、しかし流れを見直せば大丈夫です。見直しましょう。

 病原体が来ると、抗原提示細胞が食べてペプチドを提示します。それを認識したナイーブT細胞が活性化してエフェクターT細胞になる。まずは、それだけですね。


ヘルプ機能


 さて、エフェクターの片割れヘルパーT細胞のうちTfhはB細胞を助けます。どう助けるのか。ここで、共刺激という考え方がでてきます。

 共刺激とは、ある意味セーフティネットというかプルーフなのですが、免疫細胞はいくつかの刺激を共に同時に受けて初めて刺激がしっかり入る、というものです。

 一つの刺激だけではすぐには刺激をうけず、暴走しないんですね

 さて、B細胞。抗体を作るのでした。しかし実は抗体はミサイルのごとく打ち出すだけではなく、その抗体分子が細胞表面にも付いているのです。

 これを特別にB細胞抗原受容体 (B cell receptor, BCR) と呼びます。打ち出す抗体と同じペプチドを認識します。




 抗原提示細胞、実はT細胞だけに抗原提示をしているのではありません。

 B細胞もBCRを使ってペプチドを認識しています。

 そしてそれら、抗原提示はリンパ節など、リンパ組織とよばれる狭い限られたところで起こっているのですが、T細胞とB細胞は同じペプチドを近くで、抗原提示細胞によって提示されていることになります。

 ここで共刺激の伏線を回収します。 実はB細胞の活性化には、B細胞受容体、B細胞補助受容体 (CD21などの分子なんです)、CD4陽性T細胞からのシグナルの3つが必要なのです。

 補助受容体は抗原提示細胞から、刺激されます。

 すなわち、病原体がパクパク食べられ、ペプチド提示がT細胞とB細胞にされる、それも近くで。

 T細胞の一部はTfhとなりB細胞にサイトカインという活性化分子を振りかける。B細胞は抗原提示されていて、共刺激で活性化します。

 さてここで、活性化B細胞とは、すなわち抗体産生に特化した細胞であり、形質細胞 (plasma cell )と名前を変えます。そして抗体を打ち出して、ウイルス表面にべたべた付ける。この抗体は抗原提示されたペプチドと同じ配列ですから、病原体に特異的にくっつきますよね。

 これで液性免疫は稼働しました。

 この後、液性免疫は最適化していきますが、それは後に。
 残りのT細胞をみます。残しておいたCD8陽性細胞。


細胞性免疫をつかさどるCTL


 CD8陽性細胞の一部は細胞障害性T細胞 (CTL)でした。
 お仕事は、感染細胞をぶち壊します。どうやって壊すか。シンプルなんです。

 感染細胞は細胞内に入ってきたウイルスなどの成分を分解して細胞表面に出します。説明を、省いていましたが、ペプチドはある、優勝カップというかお皿のようなものに乗っけられて表面に提示されます

 この、カップの名前が主要組織適合遺伝子複合体 (major histocompatibility complex; MHC) といい、ヒトにおいてはヒト白血球型抗原 (Human Leukocyte Antigen; HLA) です。

 きいたことがあるかなぁ、白血球の血液型みたいなもので、拒絶反応などにも関係するんですね。





 さて、またもどります。

 感染細胞はこのMHCに、自分の細胞内で分解したウイルスのペプチドを乗せて提示します。するとCD8陽性のCTLはこれをTCRをつかって認識し、CD4陽性細胞のヘルプを得つつ、感染細胞を攻撃します。

 CTLは細胞の膜に穴を開けるパーフォリン、細胞を分解するグランザイムなどをかけたり、細胞の自殺をうながす Fas 分子を刺激します。 




 こういう流れで、抗原提示後には液性免疫も細胞性免疫も提示されたペプチド特異的に発動されるんですね。

 さて、抗体の細かい作用は、またにしますが、これらが発動されると、病原体も感染細胞も、除去されます。これが第1段階の獲得免疫の機能のオーバービューなのですが、まだ、記憶、の話がされてませんね



免疫記憶をごく簡単に


 免疫の記憶は実際には複雑ですが、概要は単純です。

 すなわち、一度活性化したB細胞、ヘルパーT細胞、細胞障害性T細胞の一部は、メモリー細胞として身体に残って潜むんです。一度活性化すると性質が、少し変わります。抗体も最適化されます。そして待つ。

 再び、同じペプチドが体内に取り込まれて抗原提示されたとき、メモリー細胞たちは速やかにエフェクター細胞として、活性化します。また、抗体はちょびちょび作られていて、ベースにすでに液性免疫が稼働しているんですね



というわけで、ざっくりと


 これが獲得免疫のメインストリームの枝葉末節きりおとしの、オーバービューのエッセンスです。まずはメインストリームです。あとで追加したり、調整機構の修正、もっとたくさんの登場人物の紹介をしないといけません。

 しかし一巡目はこれでいいかなと思います。ざっくりと獲得免疫の話をしました。

では次は



 次は自然免疫を話して、その後、これらの免疫機構のオーバーラップと発達、詳細の補充と、疾患の実際、研究のフロンティアと進むのがいいのかなぁと思います。

 繰り返しますが、何巡もする必要があります。また獲得免疫の話にも戻ってくるんですね。
 ということで、第二回はこれでおしまい。また次に。


かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1


 今、私はウイルス学を研究しているんですが、実際には免疫学をやっています。

 細かいことはまた説明しますが、免疫学というのはとても広い分野であり、感染症の理解には必須ですし、現在ではオンコロジーといって、腫瘍・がんなどを研究する分野でも重要です。


 感染症、ワクチン、がん…そういったものを理解するのにも免疫は基本的なところで、勉強しておいと損はないと思います。




免疫学はわかりにくい…

 
 免疫学というのは非常に細かく大量のストーリーがあるのですが、簡単な本を読んでもそれはそれで漠然としていて非常にわかりくいですね。

 私は研究分野がそこなので、免疫学についてなんとなく知っているといえば知っている、しかし全体はわからない…何故か。それは分野自体があまりに細分化、専門化しすぎるほど、想像を絶すような複雑で多岐にわたるシステムであるためなんですね。

 おそらく、免疫学の全体像をすべて完璧に語れる人はいないだろうし、なにが主で、なにが枝葉末節であるかの区別も難しい。定説もつねに覆されて、新規にわかる仕組みもあまりに多い。だから非常に複雑怪奇に感じてしまい、全体像もつかめない。

 さらに免疫学分野ではわかってきたことを次々と関連するところにくっつけていってレビューや教科書も膨らみながら書かれているので、初学者にとってみれば、最初から枝葉末節に入り込んで知識の海で溺れるようになってしまっているわけです。

 細かい知識や正確な情報がもりもりの免疫学っていうのは、免疫学をずっとやってきた人はいいんだけど、そうじゃない人にはもう、ただ細かくて沢山何かがある領域になってしまい、とっつきにくい、どこから入ればいいのかわからない、理解不可能、挫折…そういう領域になってしまっているように思います。
 そこで、私は今回非常に、非常に単純かつ初歩レベルではあるものの、エッセンスになる免疫学の部分を書いてみたいと思うわけですが、これをするためには免疫学の研究の歴史にある程度沿って見ていくこと、雑ではありますけれど、大事なところから見ていく、
 そういうことができるのではないかと思っているのです。



研究がすすむと分野はどんどん細かくなり知識量が増える



 といいますのは、免疫学に限らず、研究というのは問題がある/目立つなどの大きな現象、分かりやすい現象、比較的単純な現象、すなわち「メインストリーム」ともいうべきところからすすむことが多いと言えるように思うからなのです。だんだん細かく、マニアックになっていきますが、イメージとしては、原理原則や作用の大きなものがまず見つかり、例外や調整機構、細かい装飾部分は遅れて見つかってくることが、比較的多いのかな、という考え方です。



免疫学はどこからはじまったのか



 さて、免疫学に戻りますが、そうすると、そもそも免疫学はどこら辺から、つまりどういう問題意識やどういうことが不思議だなぁ、と思って研究することが始まったかと考えると、これは明らかに経験的なものからきていて、一度かかった感染症には二回目はかからないことが多い、そういう経験がなぜなんだろうね、ということなんだと思うんですね。免疫学がスタートする一つの大きなトピック。


 免疫という言葉自体がそこらへんをうまく訳していて、「疫=病気」を「免」じるというわけで、くどいですが、この仕組みを知りたいというのが免疫学のはじまりの1つといえると思うのです。これは先に言ってしまうと、現在の概念でいうところの獲得免疫 (adaptive/acquired immune system) ということになりますね。



獲得免疫と自然免疫


 免疫学に早速入っていくわけですが、現在わかっている免疫システムを、ラフに、実に暴力的に、大雑把にわけると、免疫は自然免疫(innate immunity) と獲得免疫に分かれるんですが、獲得免疫が初めの課題設定において分かった部分で、ここが最初の解明ポイントだったんだとラフに考えてよいと思うのです。


 1つここで割込み注意というか書き方なんですが、私はわざとクドく書きます、何度も同じことを。かつ、言い換えを多用します。

 これは、繰り返しこそが教育・学習とお笑いの基本であり、言い換えこそが概念理解の近道であるとともに、記憶定着のテクニックとして重要との考え方からです。

 かつ、繰り返すたびに少しずつ情報を付け加えたり、削ったり、整理していきますので、ラフな彫刻を細かく修正するイメージで繰り返しで何度も言います。さらに、概念自体、最初からきれいに定義付けず、少しずつアップデートしていき、理解を段階的にしたいとおもっています。

 なので、くどいなぁというのは当然出てくるとは思いますがご容赦あれ。
 さて、 免疫システム全体を 獲得免疫(acquired immune system)と 自然免疫(innate immune system ) に分けました。







 ラフに大雑把に、こんな風に分けてしまいますね。

 さて、この話、まずは獲得免疫を考えて行きたいと思います。自然免疫の方が自然なんじゃろ?みたいに思うと思うのですが、実は先に研究がすすんだのは獲得免疫とも言っていいこと、そして、獲得免疫の仕組みがわかると、まずは理解しやすいのかな、というのが理由です。


 さて、免疫の学問分野や考え方は、そもそも感染症に対するものからはじまっているんですが、後々に概念を変えるというかどんどん概念がひろがっていったのが歴史なんですね。

 でもここでは、最初は免疫というのは、感染症に対するもの、という単純化したところから考えてよいと思うので、単純に感染症に対するもの、として始めます。

 さて、獲得免疫は、くどいですが、一度かかった感染症には二回目はかからないという仕組み。ということは、かかった感染症を「認識して」、「記憶して」、「二回目はすぐに対応」する、という少なくとも三つのステップを含んでいることになりますね。そうでないと機能が達成できませんね。


 まずはこの先の方針としては、この機能を実現する登場人物である「細胞の種類」と、「具体的な働き方」、「働き方を仕組みづけている分子機構」、という順番で見ていき、最後に全体のシステムを見直すのがわかりやすいかなと思います。


‏ 方針を先にしめしておくと、研究がすすんで分かってきた新しい知見や最新のトピックなんかは、あとでレビューしながら少しずつ付け足すのがよいと思うのです。

 またまたくどいですが、メインストリームをまず理解するのが優先で、例えば免疫寛容、制御性T細胞、免疫チェックポイント…とかとかとかの、いろいろなことは最初から組み入れると非常に分かりにくいうえに、挫折を生むだけなの、と思って、あえて触れずにまずは行きます。あくまでも、どこまでもメインストリームをラフにみるのがよいのです。


獲得免疫について


 さて、いよいよ、それではラフに獲得免疫に入っていきますが、獲得免疫は意味合いから言って、基本的には病原体を「認識」し、「覚え」、「攻撃・排除」する機構です。しかも、二回目は強くまたは早く動くことが想像できますね。なにしろ免疫は「二度無し」なので。

 生物の減少を理解するには、どの分野でも大体そうなんですが、それぞれの機能をになう「登場人物=細胞の種類」がいて、それぞれに働く仕組みがあるんですね。

 獲得免疫において、主役たる登場人物は「リンパ球と抗原提示細胞」になります。主役なのですが、説明はおってしていきます。今はそんなもんか、と思っていただければ良しとさせてください。


感染症



さて、免疫の話題にどっぷり突っ込むわけですが、端緒として、まず、感染症とは何か。ここから行きたいと思います。

うつる病気?ウイルス?細菌?なんだろ。…いや難しいですね。いろんなアプローチや定義がでてきてしまいますね。そこで、そこはもうつっこまず逃げます。もう概念を整理するとかしないとかも放棄して、ここでは最初に「ウイルス感染症や細菌感染症」というものをラフに考えながら進めてみたいと思います。

 さて、感染症 (infectious diseases) を引き起こす「悪い」微生物を「病原体 (pathogen)」と言います。Patho は病気の、というような意味、gen は元となる、というような意味ですね。病理学は pathology (logy logos から来ていて学問の意味)、病気を引き起こすはpathogenic (genic は作るですね、インスタのphotogenic 写真を作れるというような意味ですね)

それましたが、病原体 はなんらかの方法で人体内に入ります。科学的に人はヒトと書くので、ヒト体内としましょうか。

実は病原体がヒト体内に入ってくること、これを防ぐ物理的なバリアである「皮膚」や、排除するのに有用な「唾液」「鼻水」「涙」、気道にあるちいさな毛の運動、などなども免疫機構といえてしまうのですが、取り敢えずおいておいて、ヒト体内に病原体が、はいる、と考えてください。はいる、の定義も難しいところがあるのですが、侵入した、とラフに押さえます。

細菌 (bacteria)というものは自分だけで増える能力がある、微生物なんですね。ですから環境がよければ増えるわけです。

一方、ウイルス(virus) は自分だけでは増えられないんです。じつは自分を増やす仕組みが完全ではないんですね。よって、ヒトの細胞の機能を利用し乗っ取ってて自分を増やすのです。ですから、ウイルスにとって、はいる、といった時には、個々の細胞の中まではいることが必要なんです。

さて、細菌だとかウイルスだとかの病原体はヒト体内にはいり、ラフに考えてしまうと血液中、血液のながれ、すなわち血流に乗ればそれだけでわれわれの体の何かに認識されるのでしょうか?



感染症を認識する



 認識、というのが難しいですね。

 ここはのちのちにもとても大事なポイントなのです。血液のなかでは抗体と呼ばれるある種のタンパク質を含むさまざまな体の成分が病原体にくっつきますが、それだけでは免疫システムに認識された、とまでは言えないのです。くっつくというのも大事な機能なのですが、「認識された」というのとはちょっと違います。

では、獲得免疫系において、病原体を認識するというのは、どういうことか。

くどいですが、「獲得免疫においては」です。
これは簡単に言ってしまうと、ある種のリンパ球が、これは病原体だ、と反応することである、とまずは簡単に考えてしまえるのです。

要素に分解しましょう。主役、主体はリンパ球です。対象は病原体。そして、認識というのは、反応なのです。反応というのはこれまた突き詰めると難しいですが、リンパ球の中で変化が起こること、と考えてしまいましょう。



リンパ球

さて、主人公がでてきました。リンパ球。登場人物です。ここでごく簡単に、リンパ球とはなにかということを示さないといけませんね。

 簡単に言うと、血液にいる細胞 (血球)の中の、白血球の中の、主に獲得免疫をになう細胞なんです。


 上の図は血液の細胞がどういう風に分かれていくかを書いているのですが、

 血液の細胞の中には、いろいろな種類がありますが、その中に免疫をつかさどる、核をもった細胞がいて、それらが白血球と呼ばれています。これは、血の成分をいくつかにわけると白く見えるところにあるんですね。英語ではLeukocyte と言います。Leuko が白いというような意味、cyte は細胞なんですね。





さて、白血球ですが、このうち、獲得免疫に関係している比較的小さな細胞、これをリンパ球というのです。





 今はそう理解しておきますし、大きくは間違っていません。
 さらに、そのリンパ球を大きく2つにわけると、「B細胞」と「T細胞」になるのです。
 この二つの細胞が獲得免疫の主役になってきます。

 この二大細胞は、機能も違えば、発達の仕方も大きく異なるわけですが、密に連携して獲得免疫系を作っているわけです。


B細胞


 さて、実は私はB細胞の専門家的なところでもあるのでこだわりがあると言えばあるのですが、こちらから見ていきます。

 そもそもB細胞の名前の由来は鳥におけるファブリキウス嚢 (Bursa Fabricii) で発達する細胞という意味でしたが、哺乳類では骨髄(Bone marrow)でまず整うため、とりあえずどっちもBだし、というわけでB細胞という名前のままきているんですね。

 このB細胞の機能は、ミサイルを作ること…当然たとえなんですけれども、抗体 (antibody) と呼ばれるタンパク質を作るのがお仕事なんです。



 抗体というのは細胞から出されて、病原体などにくっついたりし、その後爆発します。嘘です、爆発はしないんですが、いろいろな機能を発揮して、病原体を攻撃するんですね。血液の中を飛んで行って、感染症にアタックするミサイルのイメージを個人的にはもっています。

 抗体の anti は何かに「対する」というような意味で、body は体なんですが、body というのは生物学では小さな成分のことをよくさします。なので、何かに対していく小さな成分、というニュアンスですね。

 この抗体というのは、正体はタンパク質であって、細胞と比べるととても小さく、細胞を取り除いた血液、これを血清といいますが、この血清にも含まれます。そういったことから、「抗体による免疫を、液性免疫と呼ぶ」ことがあるわけです。

 抗体が実際にはどのように働くのかは取り敢えず細かくはおいておいて、病原体にくっついて印をつけたり、病原体が細胞に出入りする邪魔をする、と考えておけばいいのかなと思います。 

 さて、リンパ球というのが獲得免疫の主人公で、それは二つに大きくわかれ、B細胞とT細胞であるということを言いました。そして、B細胞は抗体というものを作る、ということまで言いました。まだ難しくはないですね。


 さて、病原体にもどると、これらは増えたり細胞に入ったりしたいわけです。
 ここからしばらくは、話を簡単にするために「ウイルス」で考えていきたいと思います。ウイルスは自分では増えられないので、細胞に入って、その中で増えちゃいたい。そういう病原体です。そして、増えたら今度は細胞から子孫のウイルスをばら撒きたいというわけです。

 さて、液性免疫を担う抗体はミサイルでした。血流にぷかぷかと浮かんで直接存在しているウイルスにくっつくことはできますが、ウイルスが一度細胞の内側に入ってしまうと、太刀打ちできないのです。細胞内までおっかけていくことは原則的にはできないんですね。これは大変にこまります。ウイルスにとっては細胞にはいると逃げ切った形になってしまうわけですからね。




T細胞 


 そこで、ウイルスに入られてしまい乗っ取られてしまった細胞、すなわち感染細胞を、細胞ごと壊してしまうシステムも、獲得免疫は準備しているんです。

 それが、細胞を殺す細胞によって担われる機能であり、そのために細胞性免疫と呼ばれます。

 そして、この細胞性免疫を主に担うのがもう一つのリンパ球であるT細胞の一部なのです。


 このT細胞は、細胞がウイルスに感染しているかどうかを認識して、感染していれば細胞ごとぶち殺してウイルス=病原体が増えるのを防ぐというわけなんですね。


一回目はここまでで


 さて、今回はいったんここで切りたいと思います。

 今回の要点は、免疫には獲得免疫と自然免疫がある。そして獲得免疫をまず見ていくことにしました。獲得免疫の主人公の一つはリンパ球ですが、これはB細胞とT細胞に分かれています。そして、B細胞は抗体をつくって液性免疫を担う。T細胞は細胞を殺すことができて、細胞性免疫を担う。

 そういう話でした。単純化したので簡単ですね。もちろん細かいことは切っていますので、ごく単純化しているのを忘れてはいけませんけれども。

 次回からはリンパ球の機能をみていきたいと思います。


 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その2
 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その3


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