2018年11月22日木曜日

かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1


 今、私はウイルス学を研究しているんですが、実際には免疫学をやっています。

 細かいことはまた説明しますが、免疫学というのはとても広い分野であり、感染症の理解には必須ですし、現在ではオンコロジーといって、腫瘍・がんなどを研究する分野でも重要です。


 感染症、ワクチン、がん…そういったものを理解するのにも免疫は基本的なところで、勉強しておいと損はないと思います。




免疫学はわかりにくい…

 
 免疫学というのは非常に細かく大量のストーリーがあるのですが、簡単な本を読んでもそれはそれで漠然としていて非常にわかりくいですね。

 私は研究分野がそこなので、免疫学についてなんとなく知っているといえば知っている、しかし全体はわからない…何故か。それは分野自体があまりに細分化、専門化しすぎるほど、想像を絶すような複雑で多岐にわたるシステムであるためなんですね。

 おそらく、免疫学の全体像をすべて完璧に語れる人はいないだろうし、なにが主で、なにが枝葉末節であるかの区別も難しい。定説もつねに覆されて、新規にわかる仕組みもあまりに多い。だから非常に複雑怪奇に感じてしまい、全体像もつかめない。

 さらに免疫学分野ではわかってきたことを次々と関連するところにくっつけていってレビューや教科書も膨らみながら書かれているので、初学者にとってみれば、最初から枝葉末節に入り込んで知識の海で溺れるようになってしまっているわけです。

 細かい知識や正確な情報がもりもりの免疫学っていうのは、免疫学をずっとやってきた人はいいんだけど、そうじゃない人にはもう、ただ細かくて沢山何かがある領域になってしまい、とっつきにくい、どこから入ればいいのかわからない、理解不可能、挫折…そういう領域になってしまっているように思います。
 そこで、私は今回非常に、非常に単純かつ初歩レベルではあるものの、エッセンスになる免疫学の部分を書いてみたいと思うわけですが、これをするためには免疫学の研究の歴史にある程度沿って見ていくこと、雑ではありますけれど、大事なところから見ていく、
 そういうことができるのではないかと思っているのです。



研究がすすむと分野はどんどん細かくなり知識量が増える



 といいますのは、免疫学に限らず、研究というのは問題がある/目立つなどの大きな現象、分かりやすい現象、比較的単純な現象、すなわち「メインストリーム」ともいうべきところからすすむことが多いと言えるように思うからなのです。だんだん細かく、マニアックになっていきますが、イメージとしては、原理原則や作用の大きなものがまず見つかり、例外や調整機構、細かい装飾部分は遅れて見つかってくることが、比較的多いのかな、という考え方です。



免疫学はどこからはじまったのか



 さて、免疫学に戻りますが、そうすると、そもそも免疫学はどこら辺から、つまりどういう問題意識やどういうことが不思議だなぁ、と思って研究することが始まったかと考えると、これは明らかに経験的なものからきていて、一度かかった感染症には二回目はかからないことが多い、そういう経験がなぜなんだろうね、ということなんだと思うんですね。免疫学がスタートする一つの大きなトピック。


 免疫という言葉自体がそこらへんをうまく訳していて、「疫=病気」を「免」じるというわけで、くどいですが、この仕組みを知りたいというのが免疫学のはじまりの1つといえると思うのです。これは先に言ってしまうと、現在の概念でいうところの獲得免疫 (adaptive/acquired immune system) ということになりますね。



獲得免疫と自然免疫


 免疫学に早速入っていくわけですが、現在わかっている免疫システムを、ラフに、実に暴力的に、大雑把にわけると、免疫は自然免疫(innate immunity) と獲得免疫に分かれるんですが、獲得免疫が初めの課題設定において分かった部分で、ここが最初の解明ポイントだったんだとラフに考えてよいと思うのです。


 1つここで割込み注意というか書き方なんですが、私はわざとクドく書きます、何度も同じことを。かつ、言い換えを多用します。

 これは、繰り返しこそが教育・学習とお笑いの基本であり、言い換えこそが概念理解の近道であるとともに、記憶定着のテクニックとして重要との考え方からです。

 かつ、繰り返すたびに少しずつ情報を付け加えたり、削ったり、整理していきますので、ラフな彫刻を細かく修正するイメージで繰り返しで何度も言います。さらに、概念自体、最初からきれいに定義付けず、少しずつアップデートしていき、理解を段階的にしたいとおもっています。

 なので、くどいなぁというのは当然出てくるとは思いますがご容赦あれ。
 さて、 免疫システム全体を 獲得免疫(acquired immune system)と 自然免疫(innate immune system ) に分けました。







 ラフに大雑把に、こんな風に分けてしまいますね。

 さて、この話、まずは獲得免疫を考えて行きたいと思います。自然免疫の方が自然なんじゃろ?みたいに思うと思うのですが、実は先に研究がすすんだのは獲得免疫とも言っていいこと、そして、獲得免疫の仕組みがわかると、まずは理解しやすいのかな、というのが理由です。


 さて、免疫の学問分野や考え方は、そもそも感染症に対するものからはじまっているんですが、後々に概念を変えるというかどんどん概念がひろがっていったのが歴史なんですね。

 でもここでは、最初は免疫というのは、感染症に対するもの、という単純化したところから考えてよいと思うので、単純に感染症に対するもの、として始めます。

 さて、獲得免疫は、くどいですが、一度かかった感染症には二回目はかからないという仕組み。ということは、かかった感染症を「認識して」、「記憶して」、「二回目はすぐに対応」する、という少なくとも三つのステップを含んでいることになりますね。そうでないと機能が達成できませんね。


 まずはこの先の方針としては、この機能を実現する登場人物である「細胞の種類」と、「具体的な働き方」、「働き方を仕組みづけている分子機構」、という順番で見ていき、最後に全体のシステムを見直すのがわかりやすいかなと思います。


‏ 方針を先にしめしておくと、研究がすすんで分かってきた新しい知見や最新のトピックなんかは、あとでレビューしながら少しずつ付け足すのがよいと思うのです。

 またまたくどいですが、メインストリームをまず理解するのが優先で、例えば免疫寛容、制御性T細胞、免疫チェックポイント…とかとかとかの、いろいろなことは最初から組み入れると非常に分かりにくいうえに、挫折を生むだけなの、と思って、あえて触れずにまずは行きます。あくまでも、どこまでもメインストリームをラフにみるのがよいのです。


獲得免疫について


 さて、いよいよ、それではラフに獲得免疫に入っていきますが、獲得免疫は意味合いから言って、基本的には病原体を「認識」し、「覚え」、「攻撃・排除」する機構です。しかも、二回目は強くまたは早く動くことが想像できますね。なにしろ免疫は「二度無し」なので。

 生物の減少を理解するには、どの分野でも大体そうなんですが、それぞれの機能をになう「登場人物=細胞の種類」がいて、それぞれに働く仕組みがあるんですね。

 獲得免疫において、主役たる登場人物は「リンパ球と抗原提示細胞」になります。主役なのですが、説明はおってしていきます。今はそんなもんか、と思っていただければ良しとさせてください。


感染症



さて、免疫の話題にどっぷり突っ込むわけですが、端緒として、まず、感染症とは何か。ここから行きたいと思います。

うつる病気?ウイルス?細菌?なんだろ。…いや難しいですね。いろんなアプローチや定義がでてきてしまいますね。そこで、そこはもうつっこまず逃げます。もう概念を整理するとかしないとかも放棄して、ここでは最初に「ウイルス感染症や細菌感染症」というものをラフに考えながら進めてみたいと思います。

 さて、感染症 (infectious diseases) を引き起こす「悪い」微生物を「病原体 (pathogen)」と言います。Patho は病気の、というような意味、gen は元となる、というような意味ですね。病理学は pathology (logy logos から来ていて学問の意味)、病気を引き起こすはpathogenic (genic は作るですね、インスタのphotogenic 写真を作れるというような意味ですね)

それましたが、病原体 はなんらかの方法で人体内に入ります。科学的に人はヒトと書くので、ヒト体内としましょうか。

実は病原体がヒト体内に入ってくること、これを防ぐ物理的なバリアである「皮膚」や、排除するのに有用な「唾液」「鼻水」「涙」、気道にあるちいさな毛の運動、などなども免疫機構といえてしまうのですが、取り敢えずおいておいて、ヒト体内に病原体が、はいる、と考えてください。はいる、の定義も難しいところがあるのですが、侵入した、とラフに押さえます。

細菌 (bacteria)というものは自分だけで増える能力がある、微生物なんですね。ですから環境がよければ増えるわけです。

一方、ウイルス(virus) は自分だけでは増えられないんです。じつは自分を増やす仕組みが完全ではないんですね。よって、ヒトの細胞の機能を利用し乗っ取ってて自分を増やすのです。ですから、ウイルスにとって、はいる、といった時には、個々の細胞の中まではいることが必要なんです。

さて、細菌だとかウイルスだとかの病原体はヒト体内にはいり、ラフに考えてしまうと血液中、血液のながれ、すなわち血流に乗ればそれだけでわれわれの体の何かに認識されるのでしょうか?



感染症を認識する



 認識、というのが難しいですね。

 ここはのちのちにもとても大事なポイントなのです。血液のなかでは抗体と呼ばれるある種のタンパク質を含むさまざまな体の成分が病原体にくっつきますが、それだけでは免疫システムに認識された、とまでは言えないのです。くっつくというのも大事な機能なのですが、「認識された」というのとはちょっと違います。

では、獲得免疫系において、病原体を認識するというのは、どういうことか。

くどいですが、「獲得免疫においては」です。
これは簡単に言ってしまうと、ある種のリンパ球が、これは病原体だ、と反応することである、とまずは簡単に考えてしまえるのです。

要素に分解しましょう。主役、主体はリンパ球です。対象は病原体。そして、認識というのは、反応なのです。反応というのはこれまた突き詰めると難しいですが、リンパ球の中で変化が起こること、と考えてしまいましょう。



リンパ球

さて、主人公がでてきました。リンパ球。登場人物です。ここでごく簡単に、リンパ球とはなにかということを示さないといけませんね。

 簡単に言うと、血液にいる細胞 (血球)の中の、白血球の中の、主に獲得免疫をになう細胞なんです。


 上の図は血液の細胞がどういう風に分かれていくかを書いているのですが、

 血液の細胞の中には、いろいろな種類がありますが、その中に免疫をつかさどる、核をもった細胞がいて、それらが白血球と呼ばれています。これは、血の成分をいくつかにわけると白く見えるところにあるんですね。英語ではLeukocyte と言います。Leuko が白いというような意味、cyte は細胞なんですね。





さて、白血球ですが、このうち、獲得免疫に関係している比較的小さな細胞、これをリンパ球というのです。





 今はそう理解しておきますし、大きくは間違っていません。
 さらに、そのリンパ球を大きく2つにわけると、「B細胞」と「T細胞」になるのです。
 この二つの細胞が獲得免疫の主役になってきます。

 この二大細胞は、機能も違えば、発達の仕方も大きく異なるわけですが、密に連携して獲得免疫系を作っているわけです。


B細胞


 さて、実は私はB細胞の専門家的なところでもあるのでこだわりがあると言えばあるのですが、こちらから見ていきます。

 そもそもB細胞の名前の由来は鳥におけるファブリキウス嚢 (Bursa Fabricii) で発達する細胞という意味でしたが、哺乳類では骨髄(Bone marrow)でまず整うため、とりあえずどっちもBだし、というわけでB細胞という名前のままきているんですね。

 このB細胞の機能は、ミサイルを作ること…当然たとえなんですけれども、抗体 (antibody) と呼ばれるタンパク質を作るのがお仕事なんです。



 抗体というのは細胞から出されて、病原体などにくっついたりし、その後爆発します。嘘です、爆発はしないんですが、いろいろな機能を発揮して、病原体を攻撃するんですね。血液の中を飛んで行って、感染症にアタックするミサイルのイメージを個人的にはもっています。

 抗体の anti は何かに「対する」というような意味で、body は体なんですが、body というのは生物学では小さな成分のことをよくさします。なので、何かに対していく小さな成分、というニュアンスですね。

 この抗体というのは、正体はタンパク質であって、細胞と比べるととても小さく、細胞を取り除いた血液、これを血清といいますが、この血清にも含まれます。そういったことから、「抗体による免疫を、液性免疫と呼ぶ」ことがあるわけです。

 抗体が実際にはどのように働くのかは取り敢えず細かくはおいておいて、病原体にくっついて印をつけたり、病原体が細胞に出入りする邪魔をする、と考えておけばいいのかなと思います。 

 さて、リンパ球というのが獲得免疫の主人公で、それは二つに大きくわかれ、B細胞とT細胞であるということを言いました。そして、B細胞は抗体というものを作る、ということまで言いました。まだ難しくはないですね。


 さて、病原体にもどると、これらは増えたり細胞に入ったりしたいわけです。
 ここからしばらくは、話を簡単にするために「ウイルス」で考えていきたいと思います。ウイルスは自分では増えられないので、細胞に入って、その中で増えちゃいたい。そういう病原体です。そして、増えたら今度は細胞から子孫のウイルスをばら撒きたいというわけです。

 さて、液性免疫を担う抗体はミサイルでした。血流にぷかぷかと浮かんで直接存在しているウイルスにくっつくことはできますが、ウイルスが一度細胞の内側に入ってしまうと、太刀打ちできないのです。細胞内までおっかけていくことは原則的にはできないんですね。これは大変にこまります。ウイルスにとっては細胞にはいると逃げ切った形になってしまうわけですからね。




T細胞 


 そこで、ウイルスに入られてしまい乗っ取られてしまった細胞、すなわち感染細胞を、細胞ごと壊してしまうシステムも、獲得免疫は準備しているんです。

 それが、細胞を殺す細胞によって担われる機能であり、そのために細胞性免疫と呼ばれます。

 そして、この細胞性免疫を主に担うのがもう一つのリンパ球であるT細胞の一部なのです。


 このT細胞は、細胞がウイルスに感染しているかどうかを認識して、感染していれば細胞ごとぶち殺してウイルス=病原体が増えるのを防ぐというわけなんですね。


一回目はここまでで


 さて、今回はいったんここで切りたいと思います。

 今回の要点は、免疫には獲得免疫と自然免疫がある。そして獲得免疫をまず見ていくことにしました。獲得免疫の主人公の一つはリンパ球ですが、これはB細胞とT細胞に分かれています。そして、B細胞は抗体をつくって液性免疫を担う。T細胞は細胞を殺すことができて、細胞性免疫を担う。

 そういう話でした。単純化したので簡単ですね。もちろん細かいことは切っていますので、ごく単純化しているのを忘れてはいけませんけれども。

 次回からはリンパ球の機能をみていきたいと思います。


 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その2
 ▶ かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その3


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