2020年2月7日金曜日

飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違いについて

 今、新型コロナウイルス SARS-CoV-2(2019-nCoV) の流行が問題になっていますが、感染経路に関する話で、よく「飛沫感染」や「空気感染」といった言葉、「接触感染」などといった言葉が言われていると思います。

 いくつか質問を受けましたので、今回は飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違いについて簡単にまとめておきたいと思います。

 感染様式というのは英語では mode of transmission と言われますので興味のある方は、こういった単語で検索してみるといろいろと調べられると思います。



飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違い



 感染症を引き起こす微生物(病原性微生物)には、細菌、真菌、ウイルス、リケッチア、マイコプラズマ、寄生虫などなどがありますが、風邪や上気道炎、肺炎(下気道感染症)は感染している人や動物などが吐き出した飛沫を吸い込んだり、手についた病原体が口や鼻から入り込んだりすることで感染します。

 時にエアロゾルといって、液体が霧のようになったものを吸い込むことでも感染し、加湿器や浴場などの水が感染の原因になることもあります。


飛沫とは


 さて、咳やくしゃみなどをすると、飛沫が飛び散ります。飛沫とは、ようは「しぶき」ですが、水分を含んだ分泌物で、唾液・鼻水・痰などが飛び散るのですね。

 飛沫というのは水分がもちろん含まれていますが、それ以外の分泌物や細菌やウイルスが混ざっています。そして、はじめに飛び散った水分が入った状態のしぶきを、とくに飛沫と呼びます

 くしゃみ一回で個数にして 約40,000個ともいわれる飛沫が飛び散ります。また、咳をしたり、5分間おしゃべりをすることで 約 3,000個の飛沫が飛び出すとされていますが、これには幅がありあくまでも目安ではあります。

 多くの風邪やインフルエンザなどはこの飛沫で感染するため、飛沫感染をする、と言います。英語ではこの経路を droplet-borne route と呼びますね。

 これを起こすものとしては、インフルエンザ、風邪、マイコプラズマ、風疹、百日咳、おたふくかぜ…などなどがあげられます。

 この、飛沫というものは、大きさは 5µm 以上で、比較的すぐに落下していくという特徴があります。そのため約 1~2 m の範囲で人に感染が起こることが多いとされています。

 よって、よく用いられる「濃厚接触」という言葉は、明確な定義はないものの、およそ2m以内に長い間一緒にいた場合や医療従事者などをさすことが多いですね。

 また、今回の新型コロナウイルスも飛沫感染がメインのルートだろうと考えられています。



飛沫核とは


 一方、「空気感染」というものを聞いたことがある人もいるかと思います。
 これは別の呼び方があり、飛沫核感染とも呼ばれます

 飛沫核というのは、先ほど説明した飛沫の、水分が蒸発したあとに残る部分の小さな粒子をさします。この中にある種の細菌やウイルスが入っていると、感染を起こすことがあり、それが空気感染(飛沫核感染)というものです。英語ではこの経路を airborne route と言います。

 飛沫核は、大きさは 5µm 未満で、比較的長い間空間をさまよい、遠くまで飛んでいくことも知られています。2 mを超えるような距離でも感染することがあるため、同一の電車の車内などにのると感染するような場合もあるんですね。

 空気感染(飛沫核感染)はそういうわけで飛沫感染より広がりやすいのですが、水分が失われた状態でも感染性をたもつ限られた病原体だけが起こすことが知られています。
 空気感染(飛沫核感染)を引き起こす病原体としては、麻疹(はしか)、結核、水痘(水疱瘡)があるのです。
 

J. Wei, Y. Li / American Journal of Infection Control 44 (2016) S102-S108 より



その他の感染経路


 そのほかの感染経路としては接触感染と経口感染(特に糞口感染)、媒介物感染があげられます。

 接触感染は皮膚や粘膜に直接、病原体のついたものが触れることで感染するもので、インフルエンザや風邪でも起こりますし、伝染性膿痂疹(とびひ)、咽頭結膜熱(プール熱)、梅毒、淋病なども有名です。英語ではこの経路を fomite route と言ったりします。

 経口感染は手などから食べ物などを介したり汚染された手で口をさわるなどするとおこるもので、ロタウイルスやノロウイルスなどが特に有名です(これはときに次に紹介する媒介物感染に含まれて考えられます)。

 媒介物感染というのは英語では common vehicle transmission と vector borne transmission という風に分けて考えることがおおいのですが、汚染された水、食べ物、血液や、昆虫などを介して感染するもので、コレラ、肝炎、マラリア、ジカ熱、SFTS などがあります。



それぞれの予防法・対策



 飛沫感染を防ぐ方法の一つとしては(サージカル)マスクの着用が挙げられます。大事なことは、感染者側がマスクをすることで飛沫を飛び散らせないようにすることです。そしてまた、感染者と距離を置くこと、患者などであれば個室管理が重要になります。

 空気感染の予防法は、飛沫核を防ぐことになりますが、これは通常のマスクでは対応できません。そこで、N95マスクなどの特殊なマスクを用いることが必要になります。その他の対策としては、陰圧室といって部屋の気圧が低い部屋に患者を収容したり、HEPAフィルターなどの高機能のフィルターで空気を清浄するなど空気予防策と呼ばれる対応が用いられます。



参考になるサイトなど



 ▶ 感染症とは AMR
 ▶ 標準予防策と感染経路別予防策 AMR
 ▶ 飛沫感染予防策としてのサージカルマスク BD
 ▶ Airborne spread of infectious agents in the indoor environment


まとめ



 このように感染症は必ず感染経路があります。
 それぞれの病原体がどのような感染経路をとるかを理解し、それに対して適切な予防策をとることがとても重要になりますね。





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1 件のコメント:

  1. 新型コロナウイルスへの対処方法がよくわかりました。
    多くのかたにこの情報をお伝えしてもよろしいでしょうか?

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