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2020年2月7日金曜日

飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違いについて

 今、新型コロナウイルス SARS-CoV-2(2019-nCoV) の流行が問題になっていますが、感染経路に関する話で、よく「飛沫感染」や「空気感染」といった言葉、「接触感染」などといった言葉が言われていると思います。

 いくつか質問を受けましたので、今回は飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違いについて簡単にまとめておきたいと思います。

 感染様式というのは英語では mode of transmission と言われますので興味のある方は、こういった単語で検索してみるといろいろと調べられると思います。



飛沫感染と空気感染(飛沫核感染)の違い



 感染症を引き起こす微生物(病原性微生物)には、細菌、真菌、ウイルス、リケッチア、マイコプラズマ、寄生虫などなどがありますが、風邪や上気道炎、肺炎(下気道感染症)は感染している人や動物などが吐き出した飛沫を吸い込んだり、手についた病原体が口や鼻から入り込んだりすることで感染します。

 時にエアロゾルといって、液体が霧のようになったものを吸い込むことでも感染し、加湿器や浴場などの水が感染の原因になることもあります。


飛沫とは


 さて、咳やくしゃみなどをすると、飛沫が飛び散ります。飛沫とは、ようは「しぶき」ですが、水分を含んだ分泌物で、唾液・鼻水・痰などが飛び散るのですね。

 飛沫というのは水分がもちろん含まれていますが、それ以外の分泌物や細菌やウイルスが混ざっています。そして、はじめに飛び散った水分が入った状態のしぶきを、とくに飛沫と呼びます

 くしゃみ一回で個数にして 約40,000個ともいわれる飛沫が飛び散ります。また、咳をしたり、5分間おしゃべりをすることで 約 3,000個の飛沫が飛び出すとされていますが、これには幅がありあくまでも目安ではあります。

 多くの風邪やインフルエンザなどはこの飛沫で感染するため、飛沫感染をする、と言います。英語ではこの経路を droplet-borne route と呼びますね。

 これを起こすものとしては、インフルエンザ、風邪、マイコプラズマ、風疹、百日咳、おたふくかぜ…などなどがあげられます。

 この、飛沫というものは、大きさは 5µm 以上で、比較的すぐに落下していくという特徴があります。そのため約 1~2 m の範囲で人に感染が起こることが多いとされています。

 よって、よく用いられる「濃厚接触」という言葉は、明確な定義はないものの、およそ2m以内に長い間一緒にいた場合や医療従事者などをさすことが多いですね。

 また、今回の新型コロナウイルスも飛沫感染がメインのルートだろうと考えられています。



飛沫核とは


 一方、「空気感染」というものを聞いたことがある人もいるかと思います。
 これは別の呼び方があり、飛沫核感染とも呼ばれます

 飛沫核というのは、先ほど説明した飛沫の、水分が蒸発したあとに残る部分の小さな粒子をさします。この中にある種の細菌やウイルスが入っていると、感染を起こすことがあり、それが空気感染(飛沫核感染)というものです。英語ではこの経路を airborne route と言います。

 飛沫核は、大きさは 5µm 未満で、比較的長い間空間をさまよい、遠くまで飛んでいくことも知られています。2 mを超えるような距離でも感染することがあるため、同一の電車の車内などにのると感染するような場合もあるんですね。

 空気感染(飛沫核感染)はそういうわけで飛沫感染より広がりやすいのですが、水分が失われた状態でも感染性をたもつ限られた病原体だけが起こすことが知られています。
 空気感染(飛沫核感染)を引き起こす病原体としては、麻疹(はしか)、結核、水痘(水疱瘡)があるのです。
 

J. Wei, Y. Li / American Journal of Infection Control 44 (2016) S102-S108 より



その他の感染経路


 そのほかの感染経路としては接触感染と経口感染(特に糞口感染)、媒介物感染があげられます。

 接触感染は皮膚や粘膜に直接、病原体のついたものが触れることで感染するもので、インフルエンザや風邪でも起こりますし、伝染性膿痂疹(とびひ)、咽頭結膜熱(プール熱)、梅毒、淋病なども有名です。英語ではこの経路を fomite route と言ったりします。

 経口感染は手などから食べ物などを介したり汚染された手で口をさわるなどするとおこるもので、ロタウイルスやノロウイルスなどが特に有名です(これはときに次に紹介する媒介物感染に含まれて考えられます)。

 媒介物感染というのは英語では common vehicle transmission と vector borne transmission という風に分けて考えることがおおいのですが、汚染された水、食べ物、血液や、昆虫などを介して感染するもので、コレラ、肝炎、マラリア、ジカ熱、SFTS などがあります。



それぞれの予防法・対策



 飛沫感染を防ぐ方法の一つとしては(サージカル)マスクの着用が挙げられます。大事なことは、感染者側がマスクをすることで飛沫を飛び散らせないようにすることです。そしてまた、感染者と距離を置くこと、患者などであれば個室管理が重要になります。

 空気感染の予防法は、飛沫核を防ぐことになりますが、これは通常のマスクでは対応できません。そこで、N95マスクなどの特殊なマスクを用いることが必要になります。その他の対策としては、陰圧室といって部屋の気圧が低い部屋に患者を収容したり、HEPAフィルターなどの高機能のフィルターで空気を清浄するなど空気予防策と呼ばれる対応が用いられます。



参考になるサイトなど



 ▶ 感染症とは AMR
 ▶ 標準予防策と感染経路別予防策 AMR
 ▶ 飛沫感染予防策としてのサージカルマスク BD
 ▶ Airborne spread of infectious agents in the indoor environment


まとめ



 このように感染症は必ず感染経路があります。
 それぞれの病原体がどのような感染経路をとるかを理解し、それに対して適切な予防策をとることがとても重要になりますね。





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2020年1月23日木曜日

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2(2019-nCoV))による COVID-19 について

新型コロナウイルスに関する簡単な解説とまとめ記事


 ※ 本記事は更新していきます。最終更新 2020.5.10
 ※ COVID-19 についての情報集として、新たなサイトを立ち上げました。


 昨年(2019年)12月31日に武漢市が発表した原因不明の肺炎の起因ウイルスは、新しいコロナウイルスであることが中国当局によって確認され(2020年1月9日)、世界保健機関(WHO) は新型コロナウイルスに 2019-nCoV という暫定的な名前を付けました(1月10日)。2月11日には 、WHOは引き起こされる疾患の正式名称COVID-19 とし、 ウイルスについては International Committee on Taxonomy of Viruses は、severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) を正式名称としました。

 日本では1月28日には新型コロナウイルスは、感染症法に基づく「指定感染症」・検疫法の「検疫感染症」に指定する政令が閣議決定されています。
 (指定感染症はここに詳しい ▶ 指定感染症とは|感染症法の解説

 ワクチンは現時点でなく、基本的には手洗いなどの一般的な感染対策(飛沫感染対策+接触感染対策)が予防策として重要です。特効薬も現時点でなく、治療はこれまでに知られているウイルス関連の肺炎に準じた治療などが行われます。

 これまでの経過と、一般的なコロナウイルスに関する話をまじえての、このウイルスに関する情報をこの記事に簡単にまとめていきたいと思います。

 ▶ 厚労省の特設ページに様々な対策や現状 がまとまっています。
 ▶ 国立感染症研究所の特設ページには情報、 
  同じく国立感染症研究所の特設ページには情報 が豊富です。
 ▶ 内閣官房の特設ページ に政府施策などは載っています。
 ▶ WHO シチュエーションレポート
   WHOシチュエーションダッシュボード
 ▶ 日本感染症学会・環境感染学会 理事長名で出された文書

 こういった新たな病原体による感染症の流行に対しては、正しい情報(特に公的な情報を複数)を入手し、決してパニックにならず(デマなどにあおられず)、国であっても個人であっても、できることを粛々と行うことが重要です。煽られたり焦ったり、過剰に不安に思ったりせず、デマ・流言飛語に騙されないようにし、情報に注意しつつ、できる感染対策をして、日常を過ごすことが肝要ですね。



コロナウイルスとは






 コロナウイルスはウイルスゲノムとして(+)鎖の1本鎖 RNAをもつウイルスで、ヒトに感染するものが今までに 6種類 知られており、今回発見された 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 は 7種類目ということになります。

 既知の 6種類のコロナウイルスのうち、4種類は主にヒトに感染するコロナウイルスでヒトコロナウイルス(Human Coronavirus(HCoV)) と分類されており、名前はそれぞれ、HCoV-229E、HCoV-OC43、HCoV-NL63、HCoV-HKU1 というものです。

 これらの4種類は、いわゆる「風邪」のウイルスで、風邪の10~15%程度、流行期で35%はこれらによるものとも言われています。
 ▶ 国立感染症研究所のページ

 これらのコロナウイルスによる感染症は、多くは軽症ですみますが、時にはインフルエンザ様の高熱などの症状がでることもありえます。ただ、基本は、風邪のウイルス、というものです。
 ▶ 総説としてはこれが非常に良い
  Origin and evolution of pathogenic coronaviruses. 
  Nat Rev Microbiol, 17 (3), 181-192



SARS




 
 さて、残りの 2種類が大きなものです。一つは、コウモリ由来と考えられる、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス(SARS-CoV、サーズと発音)です。これは 2002年に広東省で発生して、かなりの流行になったので覚えておられる方もいると思います。
 ▶ 国立感染症研究所のページ
 ▶ CDCのページ

 SARS は飛沫によりヒトーヒト感染が起こること、致死率も9.6%と高かったこと(775/8,069人)などから感染すると大変であったわけです。これはその後2003年には収束しています。
 ▶ WHOのページ



MERS






 もう一つは中東呼吸器症候群コロナウイルス(MERS-CoV、マーズと発音)です。

 これはヒトコブラクダ(フタコブではない!)に風邪を起こすウイルスですが、ヒトにも感染します。2012年にサウジアラビアで発見され、致死率は 34.4% と報告されています。
 ▶ CDCのページ

 MERS は韓国の病院で起こった感染がありましたが、この際に話題になったのは、非常に大量のウイルスを排出して感染を拡大させるスーパースプレッダーというヒトがいることで、1人から186人に感染が広がっています(スーパースプレッダーについては Wiki にも詳しい)。
 ちなみに、この MERS-CoV は細胞に入り込むときに DPP-4 という分子を使います。そう、糖尿病治療薬のターゲットの DPP-4 ですね。なので、実験上、DPP-4 阻害薬をかませるとウイルスの感染が抑えられたりします。



ウイルス学的にコロナウイルスとは





 このように、これらヒトコロナウイルス、ヒトに感染する6種類と、今回の新型コロナウイルス の他にもコロナウイルスはあり、それらは動物に感染しているため動物コロナウイルスと言います。動物に様々な疾患を起こすのです(▶ 英語版 Wikipedia が詳しい)。

 コロナウイルスはいずれもウイルス学的にはプラス鎖の一本鎖RNAをゲノムとするウイルスで、大きさは 100-120nm ぐらいの球形、表面の突起(スパイクタンパクという成分)が王冠や太陽のフレアのように見えることから corona と名付けられたようです。
 このスパイクタンパク質はインフルエンザの突起であるHA、NAなどとは別物です。
 
 ウイルスの表面はエンベロープと呼ばれる脂質が覆っています。このエンベロープがあるということは、一般にアルコール消毒や界面活性剤(石鹸など)に弱いということになります。よって、コロナウイルスはアルコール消毒が可能で、石鹸などに弱いといえます

 分類学上は、コロナウイルス科オルソコロナウイルス亜科の中で、4つの属、すなわち α、β、γ、δ の 4グループに分かれ、SARS、MERS は ベータコロナウイルスということになります。今回の 新型コロナウイルスもβコロナウイルスです。



新型コロナウイルス関連の事項を時系列で




情報はWHOのサイトに詳しい


 昨年(2019年)の12月31日に武漢市で原因不明の肺炎27人を発表したのが今回の流行の端緒情報でした(武漢市の衛生健康委員会の発表情報)。その後、本年1月5日には患者が59人に増加したと当局が発表し、7日には香港ではこの肺炎を疾病予防制御法の指定にしています。
 
 9日になり、中国武漢当局によって、新型の肺炎から、新型コロナウイルスが検出されてSARS や MERS は否定されたことが明らかになりました。同日、WHOは新型コロナウイルスについて声明を発表(WHO Statement)、翌日には新型コロナウイルスの名称を 2019-nCoV と命名しています(Surveillance case definitions)。2月11日には 、WHOは引き起こされる疾患の正式名称を COVID-19 とし、 ウイルスについては International Committee on Taxonomy of Viruses は、severe acute respiratory syndrome coronavirus 2 (SARS-CoV-2) と名付けています。

 このウイルスの発生源は中国武漢の水産市場との報道がなされ、1月26日には水産市場から得られたサンプルからウイルスが検出されていました。1月28日には新型コロナウイルスは、感染症法に基づく「指定感染症」・検疫法の「検疫感染症」に指定する政令が閣議決定されています。
 ▶ 【新型肺炎】指定感染症になるとどうなる?
  Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師

 その後、感染は拡大し、2月13日にはタイで、16日には武漢から帰国した日本での症例が確認され(国立感染症研究所による検索)、20日には韓国、21日には台湾と米国でもそれぞれ1名の症例が確認され、その後もアメリカ、フランス、オーストラリアなどでも患者が発生し、さらに欧米諸国にも広がり、流行の中心は欧米に移っています。

 WHOは 2月22日に「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」(PHEIC)にあたるかどうかを専門家委員会で検討した結果、22日、23日ともにあたらないとしましたが、現地時間30日に開かれた緊急委員会で、PHEIC を宣言、そして3月11日には、WHOはパンデミックを宣言しています。

 5月10日現在、全世界で 3,917,366 症例、死亡は 274,361 例であることが明らかになっています(WHOシチュエーションレポートJHUのページChina CDC より)。WHOのリスクアセスメントは2月28日より、世界レベルで Very High となっています。WHOのモデリングによる暫定指標も公表されており、潜伏期間中央値は5-6日、シリアルインターバルは4.8日、感染者の推定致死率は 0.3-1% とのことです。



新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の特徴



 新型コロナウイルスについてわかっていることを簡単にまとめておきます。

 このウイルスは SARS-CoV 近縁で、コウモリに感染する βコロナウイルス近縁の ベータコロナウイルス属に属するウイルスであることが分かっています(The Lancet January 24, 2020 https://doi.org/10.1016/ S0140-6736(20)30154-9
 ▶ Phylogenetic Analysis Shows Novel Wuhan Coronavirus Clusters with SARS


Genbank リファレンスシークエンスを図示



 ゲノム情報は1月には、中国当局や各国の衛生当局からWHOに提供され、GenBankGenbank には一覧のページも)GISAIDにも公開されています(同定の過程については NEJM 論文に詳細な記述があり、Illumina と nanopore による sequencing で全配列を決定したとのこと)。


Genbank




GISAID


 宿主である動物は現時点では不明で、武漢の水産市場からひろがった可能性が考えられています。

 感染の形態は、ヒトーヒト感染が起こるとWHOの専門家委員会は1月23日のステートメントで発表。当初その多くは家族内感染と医療従事者であったようです。感染経路は主に飛沫感染と接触感染であることがわかってきました
 また、NEJM の報告などでは、糞便中にもコロナウイルスが認められ、糞口感染もありうると考えられています。WHOやCDC、イギリスでは医療従事者は空気感染対策をとることを勧めています。
 参考 ▶ 新型コロナ「エアロゾル感染を確認。要するに空気感染」は誤り。ネットで不安と誤解が拡散

 基本再生産数 R0 の推定値はプレリミナリーな報告として同ステートメントでは 1.4-2.5 とのこと(Nextstrain.org によると 1.5-3.5と見積もり)。

 致死率や病毒性については、報告症例の約25%が重症であるということ、死亡例はほとんどが基礎疾患を持っていたということ、致死率は2-4%程度(その後低下中(感染者数が増えているため))であること(ただし分母が重症者を主体とする報告であり、今後も流動することには注意)はWHOより発表されていますが、あらたに出たThe Lancet と NEJM の論文でその詳細が明らかになりました(次の項目でまとめます)。

 感染は症状なく起こることもあり、発症者には基礎疾患がないこともあるようです。また、入院症例を検討した The Lancet のはじめの報告では、発症者は全員が肺炎を発症し、多くは熱があり、咳が75%、倦怠感・疲労が44%、一部では頭痛と下痢などが確認されています。症状は軽症から重症まであるようです。

 ウイルスの生物学的特徴はまだ不明なことが多いですが、NIAID の研究者によって、ACE2 という分子がヒト細胞への感染の際の受容体となっていることが確認されています。

 さらに中国科学院上海药物研究所によると、この新型コロナウイルスにコードされている Mpro 蛋白 の構造をX線解析をもちいてすでに決定したとのことです(2月5日にはPDBに公開されました)。このタンパク質の構造をもとに作用する薬をスクリーニングしたところ、30種の化合物に対してMpro蛋白の阻害活性が認められたとのことでした。12種は HIV の治療薬であるとのことであり、すでにHIV治療薬(ロピナビルとリトナビルの配合剤であるカレトラ🄬)を用いたオープンラベルの治験もスタートしており、治療にも用いられ始めています。その他、ORF1abと呼ばれるタンパクなど、いくつかのタンパクについてもすでにターゲットとなる低分子化合物の薬が検索されています。
 ウイルスも分離されており、すでに改変 Vero 細胞などを用いて、薬剤のスクリーニングも行われており、抗ウイルス薬やクロロキンなどに in vitro での効果がありそうであるという論文も発表されています。

 また、査読のないプレプリントという報告において、この新型コロナウイルスのスパイクタンパク質に4か所の挿入配列が見つかり、それが HIV の gp120、Gag にもみられる配列に似ているというものがありました。これについては実際に挿入部位はありますが、HIVのタンパクとの相同性のある部分はごくわずかであり、HIVと類似のタンパクがあるというわけではありません。HIVとこのウイルスは全く異なり、HIVに対する薬がここに効くということでも、HIVのような特徴、つまり免疫不全を引き起こすなどの機能、をこのウイルスが持つわけでもありません
 このプレプリントは、書き方がやや陰謀説的な部分があり著者たちが撤回しています。

 ウイルスの由来については、遺伝配列は上記のようにコウモリのコロナウイルスに近縁であることがわかっています(Nextstrain.org のここにも詳しい)。一時、自然宿主はヘビではないかという意見もあったようですが、実際には、コウモリが由来である可能性が高いという論文が nature に出ました。

 この ような特徴がわかってきたこともあり、さっそくワクチン開発も始まっています(新型コロナウイルスに対するワクチン開発を進めます 厚労省)。薬剤スクリーニングなども行われている状況であり、中国では抗HIV薬(SARSに効き目があった)で治験も開始、治療には実際レムデシビル、ファビピラビル、カレトラ🄬、オルベスコ🄬、クロロキンなどが投入されています。
 日本でも国立国際医療研究センター病院において患者に対してHIV治療薬を使用している、と大曲医師が毎日新聞のインタビューに答えています。



新型コロナウイルスによる患者の特徴


 The Lancet、NEJM、JAMA の論文などにより患者の特徴が明らかになってきています。


・男性73%、女性27
・年齢中央値が49.0 IQR 41.0-58.0
基礎疾患がある人が32 
 (糖尿病20%、高血圧15%、心臓血管疾患15%)
・華南海鮮市場へ曝露した人 66
・一家族のクラスターがみられた
肺炎は100
・合併症としては、ARDS 29%、RNA血症15%、
  急性心臓症状 12%、二次感染10
ICU入室は32%、死亡は15
・血中サイトカインは IL2IL7IL10GCSF
  IP10MCP1MIP1ATNFα が比較的高値

 上記 The Lancet の論文では、41症例の解析において、1/3は ARDS という重症の肺の状態を発症、6症例が死亡、5症例は急性の心臓症状がでており、4症例は人工呼吸器が必要であったと報告されています。

 もう一方の論文では、潜伏期間は1週間程度、重症化までは2週間程度と見積もられています(下図)。


 これらに先んじて、中国の武漢の医療機関からは肺炎の臨床画像やまとめについての資料がネット上に公表されています

 29日にはさらに、The Lancet に 2報の論文が、NEJM にも1報の論文がでました。


・男性68%、女性32
・年齢中央値が55.5 (Range 21-82
基礎疾患がある人が51 (心血管疾患 40%、
  消化器病 11%、内分泌疾患13%、悪性腫瘍1%等
・華南海鮮市場へ曝露した人 49
・一家族のクラスターがみられた
・症状としては発熱 83%、咳 82%、息切れ 31%、筋肉痛 11%など
・合併症としては、ARDS 17%、急性腎障害3% など
ICU入室は23%、死亡は11%、退院 31%、入院継続が 58%


 2月7日には JAMA に武漢で入院して治療を受けた138例の症例についての論文も公開されています。
 ▶ Clinical Characteristics of 138 Hospitalized Patients With 2019 Novel Coronavirus–Infected Pneumonia in Wuhan, China


 WHO などによると、感染はどの年代にも起こりうることがわかっており、中国では生まれてすぐの新生児にも感染が確認されたとの報道がありました。日本での症例については2月6日に、国立国際量研究センター病院のグループが治療経過をまとめたものを発表しています。いずれも重症例ではなかったようです。

 2月17日には 中国CDC から44,000例を超える症例を解析した報告が出ています。
 ▶ Vital Surveillances: The Epidemiological Characteristics of an Outbreak of 2019 Novel Coronavirus Diseases (COVID-19) — China, 2020


・中国の感染症情報システムを利用した解析
・総計 72,314例、確定例 44,672例
 疑い例 16,186例、臨床診断 10,567例、無症候 889例
・男性51.4
・重症度については 軽症 80.9%、中等度 13.8%、重症 4.7%、不明 0.6%
・併存疾患としては 高血圧 12.8%、糖尿病 5.3%、心血管疾患 4.2%など
死亡数 1,023例、致死率 2.3%
・医療従事者の症例が 1,716例、5例は死亡


新型コロナウイルスの感染対策


 対応と院内感染対策については、国立感染症研究所と国立国際医療研究センターより「中国湖北省武漢市で報告されている新型コロナウイルス関連肺炎に対する対応と院内感染対策」が発表されています。

 これによると、患者や疑い例については、サージカルマスクを着用、個室管理をすること、医療従事者については標準予防策・接触感染予防策・飛沫感染予防策を基本とする予防策とされています。

 その他、WHOCDCも対策をまとめており、基本的に標準予防策・接触感染予防策・空気感染予防策で対応することとしています。
 しかしこれらはあくまでも医療機関などでの対応時のものです。

 一般の方には、十分な手洗い、人込みを避けること、症状のある人に接触しないこと、症状があるなら外出を控えること、などの一般的な感染対策が重要です。

 インフルエンザのシーズンでもあり、接触情報なども大事になりますが、まずは情報に注意するとともに、パニックは起こさず健康管理を行うことが重要と考えられます。



公的情報源


 公的な情報(少なくともソースが明確である情報)を優先して閲覧し、複数を確認・検討して評価するようにすることが大事と思います。

  内閣官房
  (国立感染症研究所)
  国内のサーベイランス、医療体制整備 (国立感染症研究所)

 ▶ 日本医師会の特設ページ
 ▶ 新型コロナウイルス感染症
   日本感染症学会 リンク集もよく全般的情報あり
 ▶ 新型コロナウイルス感染症に関するQ&A
   日本小児科学会 お子さんへの感染等心配な方によい
 ▶ 妊娠中ならびに妊娠を希望される⽅へ
   日本産科産婦人科感染症学会
           妊娠中・授乳中の方などによい

 ▶ 各国の公的な新型コロナウイルス情報のページ
  ・Australia
  ・Canada
  ・China
  ・France
  ・Singapore
  ・Spain
  ・UK
  ・US



参考になるサイト・記事


 ▶ 新型コロナウイルス どれぐらい警戒したらいいの?
  感染症のスペシャリストに聞きました BuzzFeed Japan
  … 岡部信彦先生へのインタビュー。非常に冷静で役に立ちます
 ▶ 新型コロナ治療、最前線のトップ「国内では一人も死なせたくない」
   BuzzFeed Japan
  … 治療にあたっている大曲貴夫先生へのインタビュー。
    情報も新しく大変に良い。
 
 ▶ How Bad Will the Coronavirus Outbreak Get? 
  Here Are 6 Key Factors
  … NYT の記事。英語ですが非常によい。図もわかりやすい。

  現時点で分かっていること Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師
  … 時系列でわかりやすくまとまっています
  Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師
  … 本記事でも触れている The Lancet 論文を紹介しています。
  … Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師
  … Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師
 ▶ 徐々に見えてきた新型コロナウイルス感染症の
  重症度と潜在的な感染症数
  … Yahoo!ニュース個人 忽那賢志 医師
  メディカルトリビューン 岩田健太郎 医師
  …1月26日時点での最新情報を踏まえ論文解説されている。
  … ハフィントンポスト 1月24日
  … DIAMOND オンライン 1月27日  
 ▶ 新型コロナウイルスについて知っておきたい20のこと
  … 日経ビジネスオンライン、随時更新されている

  … nature 時系列に沿ってよくまとまっています。
    コロナウイルスについてのわかりやすい動画付き。

  … 非常によくまとまっています

 ▶ Wikipedia 日本版 …流動的なので情報が正確かは精査が必要ですが。

 日本医事新報にプロフェッショナルのオピニオンが掲載されています。

 ▶ Novel Coronavirus 2019 (2019-nCoV): What You Need to Know
   … IDSA アメリカ感染症学会の特設ページ



関連する論文



The Lancet には臨床的な特徴についての論文も出ています

 ▶ The Lancet 誌の特設ページから複数の論文にもとべます。1月24日付のLancetに論文は二報。一報は41症例の報告、もう一報は家族内での感染の解析の報告。
 またNEJM、エルゼビア、Cell press も特設ページを開設しています。

  Int J Infect Dis, 91, 264-266 2020 Jan 14.
  J Med Virol  2020 Jan 16.
  J Med Virol 2020 Jan 15
  J Med Virol  2020 Jan 22
  bioRχive 2020 Jan 23
  JAMA Network Viewpoint January 23, 2020
  The Lancet
  J. Clin. Med. 2020, 9(2), 330
  NEJM January 24, 2020
  NEJM January 24, 2020
  NEJM January 24, 2020
  Eurosurveillance  January 22 2020



参考になる書籍等



 ▶ Fields Virology (Knipe, Fields Virology)
  … ウイルス学の定番書。825-858ページがコロナウイルスについて。
  … ウイルスとはなにかを知る入門書として
  … 読みやすくわかりやすいウイルス学の読み物入門書。
  … 本ブログ著者の note、ウイルスについてのごく基本的な話。



新型肺炎関連の報道など


  ロイター 1月20日
   NHK NEWS WEB
  ウォールストリートジャーナル 1月21日
  読売新聞 社説 1月22日
  日本経済新聞 1月22日
  TBSニュース 1月22日
  朝日新聞 1月22日
  朝日新聞 1月22日
  朝日新聞 1月22日
  産経デジタル 1月22日
  産経デジタル 1月22日
  時事ドットコム 1月23日
  時事ドットコム 1月23日
  時事ドットコム 1月23日
  NHK NEWS WEB 1月23日
  毎日新聞 1月23日
  ナショナルジオグラフィック 1月23日
  ブルームバーグ 1月23日
  ウォールストリート・ジャーナル 1月23日
  CNN 1月23日
  BBC NEWS Japan 1月23日
  ロイター 1月23日
  NHK NEWS WEB 1月24日
  日テレ NEWS24 1月24日
   AFP 1月24日
   NHK NEWS WEB 1月25日
   ロイター 1月25日
   時事通信 1月26日
   ブルームバーグ 1月26日
   サイエンスポータル 1月27日
   ビジネスインサイダー 1月27日
   ハフィントンポスト 1月28日




デマにご注意を


 SNS などを中心にデマも非常にたくさん飛び交っています。
 SNS 各社も対策に乗り出したという報道もあります。
  ワシントンポスト 1月27日
 
 厚労省もデマに注意とツイッター上で呼びかけたほか、WHO にもデマや作り話、一般的な質問への対策ページができています。
 ▶ Myth busters

 典型的なデマはいくつかあります。
  ● 新型コロナウイルスは生物兵器/人工的に作られたウイルス
  ● 新型コロナウイルスは急激に変異する/人がその場で倒れて死ぬ
  ● 中国政府の発表する数字は実際の 1/10 である
  ● WHO と中国は結託して状況を隠している
  ● 新型コロナウイルスは飛沫で感染するHIVである
  ● アルコールでは消毒できない
  ● 新型コロナウイルスは二回感染し、二回目にすぐ死ぬ
  ● 新型コロナウイルスの突起はインフルエンザのHA・NAと同じ
 などなど、これらはすべてデマです。

 ▶ ファクトチェック・イニシアティブ 新型コロナウイルス特設サイト
  時事通信 1月29日
 ▶ その情報、信じますか? 広がる新型肺炎

 BuzzFeed にも一連のファクトチェック記事がでています。
  “悪乗り”するために押し寄せる」は不正確。まとめサイトが拡散
 ▶ 「新型コロナウイルスは人類史上最凶、致死率15%」は誤り。
  ネットで拡散、実際は…
 ▶ 「武漢から帰国した議員が検査拒否→コロナウイルスに感染」
  は誤り。「殺しに行こう」の書き込みも
 ▶ 新型コロナウイルスは「飛沫感染するエイズウイルス」は誤り。
  専門家「多くの生物から同じような配列は見つかる」
 ▶ 新型コロナ「エアロゾル感染を確認。要するに空気感染」は誤り。
  ネットで不安と誤解が拡散
 ▶ 「歌舞伎町の病院で…」「成田のイオンで…」
  相次ぐコロナ感染のうわさは事実無根


 また、感染対策の方法に関する不正確な情報も出回っています
  ● 空間除菌グッズやアロマオイルがきく 
    → 効きません
   (大手企業の売り出しているクレ●リンなどが
    売り切れているそうですが効果の実証なしです)
  ● 紅茶や緑茶を飲む/紅茶・緑茶うがいが効く 
    → 証拠は一切ありません
  ● ある漢方薬がウイルスに効く 
    → そういう実証データはありません
  ● 血液クレンジング、ビタミンCやビタミンDが効く
    → 効きません
  ● 空気清浄機で完全に防げる
    → 防げません
  ● 体温をあげれば「免疫力」があがり防げる
    → 「免疫力」も意味不明ですが、
      そういう単純なことはありません。

 以前にもこういった事項について記事を書いていますが、標準的な接触・飛沫感染対策が重要であり、こういった嘘に騙されないようにしてください。



 情報の精査は重要です。まずは複数の公的情報をソースとして用い、根拠や発信元・発信者の詳細が不明な情報を信じないようにしましょう。SNS にも嘘が大量に流れています。真偽の確認は困難です。またセンセーショナルな動画などに飛びつかないようにしましょう。




まとめ


 中国武漢から広がっている新型コロナウイルス SARS-CoV-2 による肺炎を主症状とする感染症 COVID-19 はパンデミックを引き起こしています。

 感染力は麻疹などよりは低いものの、ヒトーヒト感染があり、重症例中心ではあるが報告をまとめると死亡率は0.3-1%程度と見積もられています。基礎疾患(糖尿病や高血圧)があるとリスクが高いようですが、詳細は不明です。
 ウイルス学的特徴は次々に判明していますが、ワクチン・特効薬はありません
 
 中国をはじめ各国で対応が進んできてはいます。WHOも情報を頻繁に出しています

 繰り返しになりますが、こういった新たな病原体による感染症の流行に対しては、正しい情報を入手し、決してパニックにならず、国であっても個人であっても、できることを粛々と行うことが重要です。煽られたり焦ったり、過剰に不安に思ったりせず、デマ・流言飛語に騙されないようにし、情報に注意しつつ、できる感染対策をして、日常を過ごすことが肝要ですね。







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