2018年12月31日月曜日

空間除菌・環境除菌などをうたう製品について

 インフルエンザをはじめウイルス性感染症の流行する季節になってきましたね。

 規則正しい生活をして体調を整えるとともに、体調不良を感じたら外出は控え、十分な休養をとるとともに、感染を拡げないことが重要ですね。

 さて、SNS をみていたところ、二酸化塩素で空間除菌をしてウイルス感染を防ぐことをうたう製品をお勧めしている投稿を見かけました。

 こういった製品について少し述べておこうと思います。

 据え置きまたは首からかける携帯型で、二酸化塩素ガスを逐次、空中に放散させて抗ウイルス効果がえられると標榜する製品は、複数種類が複数社から出ております。

 CM も多く、大手ドラッグストアなどでも普通に売られていますが、先の結論から述べますと、これらの製品に風邪を含むウイルス感染症を防ぐといえるだけの明確な根拠はありません

 一方で、これらの製品の誤飲による重大な事故、接触によるやけど、刺激による諸症状などが報告されており、注意が必要です

 





そもそも二酸化塩素とは


 二酸化塩素(Chlorine dioxide)は ClO2で表される無機化合物で、塩素を含みますね。
 塩素原子上に不対電子をもつラジカル分子であり、反応性が高いことから、実際消毒に使うこともできます。

 アメリカ産業衛生専門家会議(ACGIH)は、塩素ガスより低い作業環境基準濃度を定めていること、ラットでの半数致死量も低濃度であることから、塩素ガスより毒性が高い可能性が示されている物質ですね。さらに、長期曝露毒性については十分な検討はなされているとは言えないものです。

 つまり、安全性に対するデータが十分とは言えない状況にあるんですね。

 日本では労働安全衛生法で「名称等を通知すべき危険物及び有害物」として指定されてもいます。



空間除菌などの言葉を使った製品



 そもそも、除菌、殺菌、消毒といった言葉は使い分けが重要ですが、今回は省略するとして、空間除菌・環境除菌という言葉自体は定義もあいまいで本来使用しないほうがよい言葉です。
 
 しかし、これらの言葉をつかい、効果をうたった商品が次々に出てきて、今でも売られている現状があります。
 2008年には新型インフルエンザ流行の懸念のあった時期に二酸化塩素を用いた製品が宣伝され、知名度が上がったという経緯があります。

 

国民生活センターによる調査と措置命令



 2010年には国民生活センターが、これら二酸化塩素を用いた据置型製品に対する調査を行ったところ、放出が無い製品や、ガスの臭気が原因とみられる体調不良者の発生、有効性・安全性確認が全くなされていない製品などがほとんどであることが判明しました。
 ▶ 二酸化塩素による除菌をうたった商品-部屋等で使う据置タイプについて-


 さらに、同機関による首掛けタイプ製品での調査では、一部では化学やけどを起こすことや、安全性にへの過信を起こさせる表示が認められたことが報告されています。
 ▶ 首から下げるタイプの除菌用品の安全性-皮膚への刺激性を中心に-




でもウイルス抑制効果があるのでは?


 売り出している各社のホームページなどでウイルス粒子の数が減るデータなどが表示されていますが、非常に限定された自社または検査会社によるデータが多い状況です
 しかし、実際には検証した論文が複数出版されています。

 ▶ 低濃度二酸化塩素による空中浮遊インフルエンザウイルスの制御
   西村 秀一 他、環境感染誌 Vol. 32 no. 5, 2017

 この論文では多少のウイルス抑制作用がみられるものの、湿度調整によるウイルス抑制作用へのわずかな上乗せ効果程度しかないことが示されています。


 ▶ 身体装着型の二酸化塩素放散製剤の検証
   西村 秀一 、環境感染誌 Vol. 32 no. 4, 2017

 この論文では「すべての製品で、少なくとも用いたウイルスや細菌に対して標榜されているような抑制効果はまったく認められなかった」と結論しています。そして「イメージ先行のビジネスに結び付けられている面も否めない」と警告しています。

 ▶ ウイルス不活化効果を標榜する二酸化塩素ガス放散製剤の実用性の有無の検証―冬季室内相当の温湿度での空中浮遊インフルエンザウイルスの不活化について―


 この論文においても「ガスへの曝露を受けた空間での活性ウイルスの量は対照のそれと変わらず、不活化効果は確認されなかった」と結論付けています。


 二酸化塩素自体はある一定の濃度以上で十分な時間をかければ、ウイルスや細菌の感染性を失われることはわかっています。しかし、低濃度では密閉した実験状態においてもその効果を十分に発揮するという結果はないのですね。

 またたとえ、効果があったとしても、商品の効果・効能を表示するためには、厚生労働大臣による医薬品としての製造販売承認が必要になります。
 医薬品として販売されている製品はないことから、これらの効果をうたっているとアウトになりますね。

 さて、こういった状況があったために、業界団体は「一般社団法人 日本二酸化塩素工業会」を設立しましたが、ここへの加盟企業も含む業者17社に対して、消費者庁は優良誤認及び有利誤認表示があったとして景品表示法違反による措置命令を出しています。
 ▶ 消費者庁 PDF

 

事故も起こっています



 この製品では、臭気・刺激による体調不良、皮膚の化学やけどのほか、誤飲によるメトヘモグロビン血症などの事故も起こっています。
 ▶ 日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会 Injury Alert(傷害速報)
 



注意も出ています



 公的機関からも注意喚起が出ています。
 
 ▶ 国民生活センター 二酸化塩素による除菌をうたった商品
 ▶ 学校保健のサイト 二酸化塩素による除菌等をうたった製品の使用について



というわけで、ウイルスを防ぐ証拠はありませんので


 以上のように二酸化塩素を用いた「空間除菌」「環境除菌」にはウイルス感染を防ぐ証拠は明らかにはありません。
 そもそも、ウイルス感染をもらう場所は屋内の限られたスペースではなく人込みや、人と人とが非常に近い場所で咳やくしゃみをするなど飛沫の曝露、接触した手から口への接触などで起こるものです。

 製品のごく周囲でわずかにウイルスを破壊してもほぼ無意味と考えられます。

 風邪はライノウイルスなどのウイルス感染が主ですし、インフルエンザはインフルエンザウイルスにより引き起こされるものです。
 これらの感染を防ぐには、とにかく十分な睡眠と栄養をとって体調を整え、感染源に近づかないようにすること、十分な手洗いとうがいでリスクを軽減すること、室内の湿度を保つことなどと、インフルエンザについてはワクチンを接種することになりますね。

 このへんは神戸大学の岩田健太郎先生のインタビューが大変に端的でわかりやすいです。
 ▶ 頭がすっきりする風邪の話。 - ほぼ日刊イトイ新聞


 健康的な生活をして、体調がわるければ人のいるところへは行かない、ワクチンは打つ、これで健康を維持しましょうね。

 消毒については、適切な消毒法で、消毒薬の種類、対象となる病原体、濃度、温度、時間及び適用方法を守って用いないと意味が全くないのです。
 これらについては公的な機関の情報を探すのがいいですね。



リテラシーと大企業にもみられるモラルハザード



 どのような製品や方法が健康によいか、病気にならない暮らしにつながるか、そういった情報は、CMや新聞・雑誌・テレビの情報をうのみにしてはいけません。
 公的な情報にあたるようにしましょう。また、家庭の医学ではなく、医学書をすこし読んでみましょう。その他、リテラシーの重要性についてはこのブログでも書いていきます。
 
 また、この製品群にみられるように大手の会社、著名な会社であってもこういった製品を販売し続けている現状があります。

 これはモラルの問題ですが、商売なので、とにかく消費者が賢くなることが重要です。売らんかな、の精神は、人の健康や幸せを上回ることがあるんですね。
 情けなく悲しい気持ちになりますが、商売なので、と割り切って冷静に見ましょう。

 巷には一線を越えたものがたくさんあります。グルコサミン、コラーゲン、そんなものは分解消化されてから体に入りますので、肉でも食ったほうがいいわけです。
 そういったものについては完全にモラルが崩壊しているのでどうしようもないんですけれどもね…。




 さてさて、というわけで、感染症に注意が必要なシーズンになりましたが、正しい方法で健康維持に努めましょう!






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