2018年12月27日木曜日

ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1

 しっかりとまとめて、子宮頸癌や "子宮頸癌ワクチン" について触れたいと考えていますが、ちょっと先出しで、"子宮頸癌ワクチン" について触れてみたいと思います。

 "子宮頸癌ワクチン" という言い方は、私は全面的には支持していません

 その理由は最後の方に述べたいと思いますが、このワクチンは ヒトパピローマウイルスワクチンというものです。

 順次説明しながら簡単に今日は触れるだけにしてみたいと思います。



まず絶対的な注意を


 このブログを含む私の情報発信を含め、ネット上の情報というのは真偽の判定も、詳細までが正しいかも判断することは困難なことが多いです。
 できるだけ公の機関が出している情報をまずは確認することをお勧めしています。

 そのためには、官公庁や日本医学会の分科会に所属する学会(▶ リスト) の情報を見ることがよいです。

 医療従事者であっても、議員であっても、個人のページは危ういことが多いです。また、患者会などが正しい情報を発信しているとはいいがたい現状があります。

 さすがに私のページを読まれる方には少ないと思いますが、HPVが子宮頸癌の原因ではない、ワクチンでは子宮頸癌防げないなどという完全なデマを信じてはいけません。
 立憲民主党や自由民主党などの公党に属する議員でもそのような妄言を発信している人がいますが、完全な反科学や陰謀論にはかかわらないようにしてください。

 とても重要なことです。

 以下に述べるように、HPVにより子宮頸癌の多くは引き起こされますし、HIVはエイズの原因ですし、ワクチンにチップは埋め込まれていませんし、ワクチンで人口を減らす陰謀があるなんてことはないですし、ワクチン会社の工作員や陰謀でワクチンがいいよと情報を広げているわけではないですし、ロスチャイルド家が世界全てを牛耳っているわけではないですし…お分かりですね、一線を越えた頭の持ち主と関わってはいけません。(何らかの方法でブラックリストを作成したいと思っていますが、そういう方は容易に集団攻撃や法的手段に訴えるので、方法を模索中です…)。

 さて、では本論に入ってまいります。



ヒトパピローマウイルスについて


 ヒトパピローマウイルス (Human papilloma virus; HPV) はヒトに感染するウイルスで、現時点で200種類以上あることが知られています(Wikipedia)


Fig.1 ヒトパピローマウイルスの電子顕微鏡写真



 HPV の中には病気を引き起こさないものもありますし、いぼのような良性の(=命には基本的には関わらない)病気をおこすものもあります。

 200種類ほどのHPVのうち、悪性腫瘍、とくに子宮頸癌・中咽頭癌・肛門癌・陰茎癌などを起こすタイプのHPV が知られており、それを「ハイリスク型」と呼んでいます。

 具体的には16、18 型が特に有名でかつ癌のハイリスクですが、ほかに、31、33、35、39、45、51、52、56、58、59、86、73、82型などもハイリスク型です。


 つまり、200種類ある HPV のうち、癌のリスクが高いタイプは限られているんですね。
International Agency for Research on Cancer は13種類のHPVが子宮頸がんを起こすよ、と言っています(参考 ▶ CDC のページ  )。




 少しだけ簡単にお話をします。上の図はHPV16の遺伝子の地図の概念図です。DNAがわっかになっているんですね。そこにE1 とか L1とかの名前がありますが、これが書き込まれている遺伝情報で、タンパク質を作ります。

 このうち、E6、E7というのが悪いもので、これらが癌を引き起こすことが分かっています。そして、L1とかL2というのが カプシドタンパク質というんですね。これについては次の項目で簡単に触れてみます。
 



HPVワクチンについて


 さて、ワクチンというのはなんらかのウイルスの成分に対抗する抗体を体に作らせることが主な目的になります(実際には抗体以外にも免疫は反応します)。

 ウイルスがもっている特有のタンパク質やそのタンパク質を少し加工したものを成分として使用しているタイプのワクチンが近年は主流になっています。

 HPVワクチンの場合には、ウイルスの容れ物(カプシド)を作るタンパク質であるカプシドタンパク質抗原というものからなっていますが、これはHPVのタイプによって配列や構造がそれぞれ異なっているんですね。


Capsid とかかれているのが カプシド(容器のところです)


 なので、あるウイルスのものからなる1つのタンパク質をワクチンにいれた場合、基本的に1つのタイプのウイルスしか防ぐことができません




 ほんの少し細かくみてみましょう。上の図で、注射器のところに書いてある L1 と L2 というのが、カプシドのタンパク質なんですね。これを注射すると、B細胞という細胞のなかで、このL1/L2 を認識できるものが、T細胞からの刺激も受けて活性化して増えます。
 すると、このL1/L2に対する抗体を作るようになって、抗体ができるのです。

 この辺のことはこのブログの記事「かんたん赤ちゃんレベルの免疫のお話 その1」や、それらを転載している note のマガジンですこし説明していますが、今後も別途していきます。

 さて、戻ります。
 例えば、HPVの場合、16型のカプシドタンパク質由来のものを打てば、16型は防げますが、ほかのタイプは防げません。

 さて、そこで、上記で述べましたように、ハイリスクタイプのウイルスが子宮頸癌などを引き起こしますので、それらの感染を防ぐことが重要、これは簡単にわかりますね。

 具体的にはまず16と18型は防ぎたい。できれば他のもの全部で13種類でした、もできるだけ防げればなおよい。

 このようにワクチンにおいては、複数のタイプのウイルスのうち、いくつの型に対応しているかを「価」と言っています
 具体的には、16型と18型の2タイプなら2価16型・18型・6型・11型の4タイプなら4価となっています。

 現在日本で承認されているHPVワクチンは、サーバリックス(2価)とガーダシル(4価)です。




 HPVは16型と18型がとくにリスクが高いのですが、これはサーバリックスでもガーダシルでもカバーしています。ガーダシルはこれに加えて、尖圭コンジローマという病気をおこす6型と11型もカバーしているわけです。

 日本未承認の9価ワクチンである「ガーダシル9」ではガーダシルでカバーする4タイプに加え、さらに31、33、45、52、58型もカバーします。これらのカバーするウイルスはやはりいぼや癌を起こすものです。



どのワクチンを選択するべきか


 さて、ではどれを選択し、どう考えればいいのか…そこが大事です。

 子宮頸癌の65%程度は、HPV 16型または18型で引き起こされます

 そして、20~30代の人で感染がみつかるHPVのうち8~9割はこの2つの型なのです。
 参考 ▶ もっと守ろうのサイト


 そして、この2つのタイプのHPVは癌を他のタイプのHPVより早く起こしてしまいます。そのため、日本の20~30代の子宮頸癌の約7割以上はこの2つのタイプにより引き起こされていると考えられています。
 ▶ 日本人における報告 Onuki M et al. Cancer Sci; 2009: 100(7): 1312-1316.

 さらに、基本的に子宮頸癌というのは「扁平上皮癌」というタイプの癌が多いのですが、「腺癌」という見つけるのがやや難しい癌も起こります
 この腺癌が、16型・18型のHPVによって主に引き起こされることもわかっています

 ですから、戦略として、まずはこの2つのタイプ(くどいですが16・18型)に対する防御をすることが重要になります。そのためには、日本で選択可能なサーバリックスおよびガーダシルはカバーしていますね。

 サーバリックスの添付文書ガーダシルの添付文書 にワクチンの基本的な重要な情報はのっていますが、十分な免疫をつけるために、これらのワクチンはいずれも3回接種する必要があります(ただし最新の研究では1回または2回でも十分な予防能力が獲得できていることが示唆されているものがあります)

 この3回打つのは基本的にはセットで、十分な抗体価(抗体という防御タンパクの量=防御力と考えていいです)を確実に得るために、基本的には必要と現時点では考えられているわけなのですね。なので、どちらを選んでも3回は打ちます。

 さて。では4価と2価とどちらがいいか。実際にはちょっと難しいのですが、できれば4価を選びたい。もっと言えば9価を選びたい。さらに言えば、癌を起こすことがしられている13価すべて防げるものなら(そんなワクチンはありませんが)13価打ちたいところです。

 しかし、現実問題として使えるワクチンが限られており、リスクの大小もわかっていますので、日本ではまずは4価でよいように思いますし、2価でももちろん打たないよりずっとよく、打つ価値があります(この辺の比較はまた次回書きたいと思います)。

 重要なことは、他のタイプを防ぐには9価を打つのが選択肢としてあるということですが、上記のように癌を引き起こすHPVは13種類は最低でもあります。
 なので、「いま人類が手にしているワクチンで、100%子宮頸癌の発症を防げるワクチンはありません」

 よって、ワクチンを確実に打つのと同時に、成人以降は「子宮頸癌検診はしっかりと受ける必要」があります。
 未感染の人がワクチンをうてば16・18型による発症はほぼ心配しなくてよいでしょう。しかし他のタイプがありますので。

 ちなみに、サーバリックスを打った後にガーダシル9 など他のワクチンをうってもひどい副反応などがでるということはなさそうなので、私はガーダシル9を打って9つのタイプを防御しようと考えています。

 タイミングよく、大阪大学から「HPVワクチンの積極的勧奨再開後の課題と対応策を提言」がありました。よい研究ですね。


 そして、HPVワクチンがの効果に関する報告を挙げておきますね。
 
 ▶ Prophylactic vaccination against human papillomaviruses to prevent cervical cancer and its precursors Cochrane Systematic Review - Intervention Version published: 09 May 2018.  Marc Arvyn et al.
 日本語訳があります https://www.cochrane.org/ja/CD009069/zi-gong-jing-ganoyobiqian-ganxing-bing-bian-noyu-fang-womu-de-tosuruhitopapiromauirusunidui-suruyu

 ▶ 日本産科婦人科学会のこの資料もいいですよ。



情報源をいくつか


● 日本産科婦人科学会のページです 
  http://www.jsog.or.jp/modules/jsogpolicy/index.php?content_id=4

● 以前から紹介してますが、KNOW☆VPD はとてもよい情報源です
  http://www.know-vpd.jp/vpdlist/hpv.htm

● 子宮頸癌については国立がん研究センターの運営する「がん情報サービス」のページ
  https://ganjoho.jp/public/cancer/cervix_uteri/index.html

● ヒトパピローマウイルス感染症については厚生労働省のページもいいですね
  https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou28/hpv/index.html

●英語になってしまいますが、アメリカCDCのサイトは正確かつ分かりやすい情報源です
  https://www.cdc.gov/hpv/index.html
  https://www.cdc.gov/cancer/hpv/basic_info/index.htm

● NIH のなかの NCI というがん研究の総本山のホームページの情報も
  https://www.cancer.gov/about-cancer/causes-prevention/risk/infectious-agents/hpv-fact-sheet

● アメリカの厚生労働省にあたるHHS は AIDSinfo というサイトをやっていますが、そこの中にもHPVの一般的な情報もあります
  https://aidsinfo.nih.gov/guidelines/html/4/adult-and-adolescent-opportunistic-infection/343/hpv

● WHO も情報提供しています
  https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/human-papillomavirus-(hpv)-and-cervical-cancer

● コクランライブラリーというものがあります。これは最も信頼できるデータベースの一つです。https://www.cochranelibrary.com/
 ここで検索することも大事です。



余談ですが重要なこと


 今回は、子宮頸癌を防ぐ目的としての HPVワクチンに触れました。
 しかし、上記で述べたように、HPVワクチンは子宮頸癌(扁平上皮癌+腺癌)のみではなく、中咽頭癌、肛門癌、陰茎癌、そして一部の皮膚癌や疣贅などの病気も防ぎます

 男性への効果についても報告が出始めています。
 ▶ Efficacy, effectiveness and safety of vaccination against human papillomavirus in males: a systematic review,  BMC Medicine201816:110 Thomas Harder et al.

 また、男性にも接種することで、HPV感染を防ぎ、公衆衛生学的に、ウイルスが蔓延するのも防ぐ効果があります。ここら辺のことについてはまた別にまとめます。

 よって、子宮頸癌のみに効くような印象をあたえる ”子宮頸癌ワクチン” という名称には完全には賛成していません。ぜひ、HPVワクチンとして考えていただければと思います。



今回のメインはこれで終わり


 ですが、ここで3冊だけ本を紹介しておきたいと思います。


【書名】10万個の子宮:あの激しいけいれんは子宮頸がんワクチンの副反応なのか
【著者】村中 璃子
【出版社】平凡社
【リンク】Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo
     7net honto e-hon 紀伊國屋書店 ebookjapan 図書館

 英サイエンス誌「ネイチャー」等が主催するジョン・マドックス賞を受賞された村中先生の本です。子宮頸癌ワクチンの副反応の問題を冷静に分析されて丁寧に追われた一冊、一度手に取っていただければと思います。




 【書名】ワクチンは怖くない (光文社新書)
 【作者】岩田 健太郎
 【出版社】光文社
 【リンク】Amazon Kindle 楽天ブックス 楽天kobo 7net

 臨床家としての非常にニュートラルかつ、冷静に考え方からワクチンを解説された一冊です。あっぱれです、としか言いようがないですが、読みやすいのでぜひ手に取っていただきたいと思います。

 そしてもう一冊は、別途記事を書いています。
 
 反ワクチン運動について知るには最高の一冊ですのでぜひお読みいただきたいと思います。



続きは…にかえて、騙されないように


 この続きは継続的に行っていきますし、他の医学の解説シリーズとも合わせて進めていきます。また、反ワクチンの人たちの言い募ることにも一つ一つ丁寧に証拠を出しながら反駁・反論をしてまいります。

 健康科学・医療の分野は、非常に身近である上に、人には個体差や恒久性という柔軟さが備わっているため、素人が簡単に何かを試した気になったり、身近な経験やひょんなアイデアのみでものを言ってしまうことがよくあります。

 しかし、医学医療はご存知の通り非常に高度かつ大量の情報と経験と検討の集積です。コンピューターを設計し使えるようにするのも、高層ビルを建てるのも、飛行機を飛ばすのも同じく高度な科学と技術と経験とに基づくものですが、実際に試せず身近でもないことが多いために、専門家でないとできないなぁと誰でも思っていると思います。

 医療医学も同じです。専門家は基本的な訓練を受けて免許などで国家からとりあえず最低限には達している、とお墨付きをもらったうえで、自己研鑽と実務を通じて高度なことをしているのです。

 素人がコンピューターを動かすのにプログラムはいらない電源につなぐ必要もない、とか、高層ビルは設計はいらないからいい石を使えば建つとか、飛行機に翼はいらない、などと言い出したら、まぁ、なんというかやばい人だと思うでしょう

 医療も同じです。感染症はかかった方がよいとか、ワクチンはいらないとか、ステロイドは使ってはいけないとか、ふろに入れてはいけないとか、キャベツで熱を冷ますとか、医療アロマだとか、レメディだとか、ホメオパシーだとか…。
 まともな医療人から見ればあまりにまずい話です。

 こういった妄言は、妄想にとりつかれたり信じ込んだり無知だったり頭が及ばない人、そして心の寂しい人から剥がしとることは困難です。カルト宗教とおなじく洗脳を解くのは至難の業です。

 そして彼らには一定のはまり込む理由やパターンがあります。これについてごく触りだけをインスタグラムに図にしておいてあります(▶ https://www.instagram.com/p/Brvp-SqnTkI/)。
 こういったことや、陥りがちな嘘、そしてこういうことを防ぐ方法も今後まとめていきます。

 大事なことは、関わらないこと、ひろげないこと、近寄らないこと。真実の断片を混ぜ込んで情報を押し付けてきますが、全体として嘘なので、嘘として一切耳を貸さないこと。そして、情報は能動的に自分で集め、検討し、選択すること。

 健康の責任は最終的に個々人にあります。後悔しないためにもよく知ることです。
 かれらは気楽に本当のことを知れとか目覚めよとか目覚めたとか言います。嘘です。なにも見えなくなって閉じこもっただけです。煽っているのは商売です。

 医療従事者や著名人にも彼らにも一片の真実がなどという人がいますが、ただのあまのじゃくです。正道ではありません。たとえ教授であっても。

 子どもが関わることについては、子どもは自己判断ができません。親が代理として監護権を行使しなくてはなりません。なおさら正しく、将来に禍根を残さない選択が必要ですね。

 SNS、YouTube などの動画サイトをはじめ、ネットの情報は本当に玉石混交です。デマも非常に多く、デマを広げる人も多い。そして心理に付け込んでくるものが多い。
 どうか、それぞれが正しい情報を手に入れる、そういう能力をつけることも意識していただきたい、そう思います。



COI の開示


 COI (conflict of interest) とは利益相反行為のことで、この情報は、どこからお金や便益を受けているかなどを明らかにして、便益を図っていないかをみる一つのファクターになります。

 JTから支援をうけたタバコ研究だとか、製薬企業から研究費をうけた薬の記事だとかは、そこを開示したうえで述べないとある意味で義務違反ととらえられますし、読むほうもCOIをチェックしてどの程度信用できるか、ポジショントークではないかを判定するのが賢いやり方です。

 反ワクチンの多くには、自閉症関連で資金を集めている団体などがついていたりしますので、開示を要求しましょう。資金源の目的から、公益とは合わない発信をしていることが多いことに気づくはずです。

 さて、私のCOIを開示します。
 どこの製薬企業・ワクチンメーカーからも一切の資金提供も情報提供も受けていません。所属している研究機関を代表する意見はなく、給与以外の金品の授与もありません。
 政党、各種運動団体等への所属はありません。
 
 note への支援と、polca で実施しているいわゆる広いファンディングで、先週までに3万円ほど支援を受けております。

 以上です。


 というわけで、基礎医学シリーズ (現時点では、免疫学・腫瘍学・ウイルス学だけですが、今後増やしていきます)に加え、ワクチンシリーズも開始したいと思います。
 今回は先取りで HPVについて触れましたが、わかりやすく基礎からのワクチンと、現状のワクチン問題等に絡めた発信もいたします。







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