2018年10月9日火曜日

【書籍紹介】反ワクチン運動の真実: 死に至る選択

 今、考えるのに、知るのによい書籍を一冊紹介をします。


【書名】反ワクチン運動の真実: 死に至る選択
【著者】ポール・オフィット(Paul A. Offit) 
【訳】ナカイ サヤカ  【出版社】地人書館
【リンク】 楽天ブックス Amazon e-hon honto
      7net 紀伊國屋書店 図書館

  原著は Deadly Choices: How the Anti-Vaccine Movement Threatens Us All
  (▶ Amazon.com ではこれ)


巻頭より引用

今も、静かな、命に関わる戦争が続いている。戦線の一方には、毎週のようにワクチンが危険だという話を聞かされている親たちがいる。もう一方には、ワクチンを打たない人々に毅然とした態度を取り始めた医師たちがいる。対立の真ん中にいるのは、免疫がないまま取り残された子どもたちだ。人々を救うはずのワクチンを恐怖の対象にしてしまったのは誰なのか?

ワクチンで防げる病気はたくさんある


 ワクチンで防げる病気のことを VPD (Vaccine-preventable diseases; Wiki)と言います (このブログでも触れていきます) が、VPD は基本的には感染症です。WHO は 26 の疾病を VPD として挙げていますが、今後もこれらは増えていくと考えられています。
 (詳しくは KNOW・VPD! のページがおすすめです ▶ ここです)

 VPD はワクチンを用いれば防ぐことができます。

 実際に人類は、ワクチンを用いて天然痘を根絶し、新生児死亡率を下げ、後遺症を減らし、死亡率を下げ…、感染症を克服してきました。

 ワクチンは人類の健康増進に関して、非常に大きなインパクトを有する、明らかな「大発明」であり、有益な医療の手段であることも明白です。

 しかしながら、ワクチンを拒否し、接種や勧奨に反対し、敵視する人は昔からいて、今でも非常に「熱心」に活動しています。


反ワクチン運動の続く異常な日本で


 感染症というと、風邪やインフルエンザ、エイズなどを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、実際には感染症は、その範囲にとどまらず、がん (癌を含む)とも関連しています。

 なぜなら、感染症の病因の1つであるウイルスには、発がん性のあるものがかなり含まれているからです (ピロリ菌などの細菌や真菌の作り出す成分などにも発がん性を有するものはあります)。

 実に、全部のがんのうち数割はウイルス感染によるものであると考えられています
 そのうち、性感染症であるヒトパピローマウイルス(HPV) のうち何種類かは子宮頸癌を引き起こすことが確実です。

 ヒトパピローマウイルスの感染はワクチンで防ぐことができ、現在そのワクチンは市販されています。しかしながら、日本では現在、定期接種の積極勧奨がなされていません。
 これは、ワクチン接種後に心身の不調をを引き起こした例が、ワクチンとの因果関係は明らかではない状態で広く報道されたのち、さまざまな運動が起こる中で行政が勧奨を差し控えたという経緯のためでした。


本書は外国でおこった今の日本にあるような反ワクチン運動を題材にする


 本書のテーマは反ワクチン運動。19世紀の種痘接種拒否運動、1970年代にアメリカとイギリスではじまった百日咳ワクチンに関する裁判、麻疹・風疹・おたふく風邪ワクチンに対する反ワクチン活動などを紹介し、反ワクチン運動家について述べ、どのように運動が広がったのかを考察しています。

 それらの運動がいかに科学的思考、科学的根拠をかいていて、いかに多くの子どもたちを死に導いたか、いかに危険なことであるかも淡々と描かれていく…。

 読み進めていくと、今の日本で反ワクチンを叫ぶ、叫び散らす人たちと重なって重なって、なんとも言えないむなしい気持ちがわいてきます。

 実は、米国においても現在反ワクチン運動は大変なことになっており、予防接種免除をみとめる州が増えてきているとのこと。

 2014年にはカリフォルニアでひどい百日咳の大流行が起こった…。
 本書はそうした運動に対する危機感のなかで執筆されています。



今日本人が読むべき一冊、反ワクチン運動家には読ませるべき一冊


 著者は医師(小児科医)であり、筆致は極めて詳細かつ丁寧です。

 この著者の前著の、代替医療について描いた「代替医療の光と闇」(Killing Us Softly: The Sense and Nonsense of Alternative Medicine)も非常にわかりやすく核心をついているものでした。

 本書は決して、医療側が正しい、と強弁しているわけではなく、エビデンスに基づいて、検証することの重要さを淡々と描いています。

 反ワクチン運動についてまずは知ることが今求められているように思います。
 本書は知るためにとてもよいのはまちがいない。
 
 訳者の ナカイ サヤカ さん (@sayakatake) によるあとがきが HONZ (▶ ここ)に公開されている。是非ご一読いただきたいと思います。

 また、子宮頸癌は予防できるということをしっかり周知してほしいというキャンペーンが change.org において医師の 稲葉可奈子 先生によって実施 (▶キャンペーンのページ)されています。ぜひご一読いただきたいと思います。

 読むべき一冊。できれば電子化してほしい…。
 ★★★★★ (5/5)


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1 件のコメント:

  1. Akihisa@Yokohama2019年4月14日 22:17

    究極のところワクチン接種もRisk to Benefitの問題点なのかな。 どんな薬にも副作用はある。 もちろんワクチンにも。 ただワクチンや大衆薬は副作用が起こるリスクが低いということ? ワクチンを打つリスクよりも打たないリスクの方が高いということ? 色々な信頼できる情報を入手して最終的には自己判断ということ?

    が、やはり自分の感想としてはワクチンは打った方が良いと思う。

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