2018年11月14日水曜日

【論文紹介】直腸につっこまれたナスを内視鏡で除去した論文

 症例報告の論文が出ていましたので紹介します。

 直腸異物は、肛門から異物を入れることでそれが内部に残留し、症例報告になるような場合には、取り出せなくなって医療機関を受診することが多い病態です。

 性的嗜好で入れてしまう人も多いですが、悪ふざけや、他の医療行為で起こる場合などもあります。

 直腸異物は時に危険で、粘膜を損傷して腸炎を起こしたり、腸を貫通して腹膜炎に至ることもあり、最悪死亡することもありますし、人口肛門を造設する必要がある場合もあります。

 直腸異物を取り出す方法は様々ですが、今回のこの論文は、直腸内に挿入されたナスを、内視鏡を用い、ポリペクトミースネアという針金のループのようなものでナスのヘタに引っかけて抜き取ることに成功したことを紹介しています。

 それでは論文詳細です。 


● Rectal Foreign Body of Eggplant Treated Successfully by Endoscopic Transanal Removal.
 Case Rep Gastroenterol. 2018 Apr 26;12(1):189-193. doi: 10.1159/000488974.
  eCollection 2018 Jan-Apr. PMID: 28060572
 Sei H, Tomita T, Nakai K, Nakamura K, Tamura A, Ohda Y,
 Oshima T, Fukui H, Watari J, Miwa H.

【症例】60代男性
【現病歴】彼が酔っ払っていた際に、彼の友人が直腸にナスを入れた。
     翌日、ナスが抜けないため病院を受診。
【既往歴】2型糖尿病、脂質異常症、高血圧症
【CT画像】20cm大の塊が上部S上結腸から上部直腸までに見られた。
     穿孔や腹水の所見は明らかではなかった。
【内視鏡】ナスのヘタ(calyx; ) が肛門側に位置していた。
【異物除去】ナスのヘタにポリペクトミー用スネア
    (CaptivatorTM II, 33 mm; Boston Scientific, Natick, MA, USA)
    をかけ、左仰臥位の状態で、ヘタを切らないように注意しながら
    引っ張りナスを取り出した。
     S上結腸から直腸までの粘膜に出血や線香がないことを確認した。

Fig.1 より (CC BY-NC による転載・引用)
【予後】腹部症状は改善し、経過良好であった。

【考察】
   本論文ではポリペクトミースネアで内視鏡的に異物除去ができることを
  示した。昨今、直腸異物例は増加し、それらにはボトルやグラスが多く
  (42.2%)含まれることも報告されている。
   多くの直腸異物は sexual act に関連する。
   一部の患者は羞恥心から受診が遅れる。そういった患者にはその面で注意
  が求められる。大人のおもちゃなど表面がスムーズなものが内視鏡的に除去
  されたという報告はいくつもあるが、時に異物は取り出すのが困難で、
  穿孔を生じることもあり、
  手術での摘出に切り替わる場合もある。

   一般的に以下の場合は、直腸異物による穿孔が生じるリスクである。
    ・異物挿入後時間がたっており、腸管が拡張している
    ・浮腫が生じ、循環障害が起きている
    ・異物の先行部が鋭利である

   異物除去が困難な理由としては以下があげられる
    (1) 大きな異物の挿入では局所的な浮腫が起こり直腸の括約が生じる
    (2) 長い間挿入されていると骨盤表面と肛門管に固定されてしまう
    (3) 異物の吻側の腸に、引っ張ることで負の圧力がかかる
    (4) 異物の形や材質により、血や粘膜が付着して把持が困難となる

   上記理由により、腹膜炎の証拠がみられる場合には、手術を最初の
  選択肢とすることは一般的と言える。
   腹膜炎がなければ、徒手的または内視鏡的除去が考慮されるべきである。

   これまでに10の内視鏡ガイドによる異物除去の報告があり、スネア、
  鉗子、尿道バルーンなどを用いて異物を取り除いている。
   (Table 1. にサマライズされている
    緑のリンゴ、大きなバイブレーター、マンダリン、ニンジンなど )

   加えて、他の異物としては、バイブレーター、ボトル、果物、
  たばこなどが報告されている。ナスの報告はない。

   この報告では粘膜損傷はなかったが、確認が必要である。

 【結論】
  ”It was thought to be useful for the removal of large foreign bodies,
   such as an eggplant, with a smooth surface.”


 ナスのように表面がつるつるであれば、有用だろうというのはその通りだと思われます。直腸の損傷には注意が必要ですね。
 
 異物の挿入は性的嗜好による場合がおおいのは事実。本ブログ管理人も新宿の病院で初期研修医をしましたが、ペットボトル、バイブレータの異物は診たことがあります。
 また、尿道内に物を挿入してしまうものもあり、学部生時代には、チェーンを膀胱内にいれてしまった症例も担当しました。

 さて、異物の種類というと、いろいろありますが、中には石膏を流し込んでしまったという例まであります(「石膏注入による直腸異物の1例」 日本腹部救急医学会雑誌 33 巻 (2013) 4 号 )。邦文では「経肛門的直腸異物の5例―本邦報告140例の検討を加えて―」(日本外科系連合学会誌  35 巻 (2010) 2 号) がよくまとまっています。 

 直腸異物というと、興味の対象となってしまっておわり、という感じのこともありますが、直腸異物というものを考察することが、我々の認識の枠組みとしてどうであるか、を患者のみならず、医療従事者・一般社会についてまで考察した論文もあります。

● 'Believe it or not': the medical framing of rectal foreign bodies.
 Cult Health Sex. 2017 Aug;19(8):815-828. doi: 10.1080/13691058.2016.1263874. Epub 2017 Jan 6. PMID: 28060572
 Robertson WJ.


 直腸異物の扱いをどうするかについては

Management of rectal foreign bodies.
 World J Emerg Surg. 2013 Mar 13;8(1):11. doi: 10.1186/1749-7922-8-11.
 Coskun A, Erkan N, Yakan S, Yıldirim M, Cengiz F.

Approach to the diagnosis and management of retained rectal foreign bodies: clinical update.
 Tech Coloproctol. 2013 Feb;17(1):13-20. doi: 10.1007/s10151-012-0899-1.
 Epub 2012 Sep 20.
 Ayantunde AA.

 がよくまとまっていますね。

 というわけで、今日は直腸異物除去の一例の論文を紹介しました。

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