2018年11月17日土曜日

粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと

 博士学生をしているときに初めて聞いて印象に残っているものがありました。



 
Predatory journal。日本語ではハゲタカジャーナル。


 注意しましょう、とメンターに言われたのです。?? 当時は全くしらなかったのですが…。

 そもそも predatory とは、日本語に訳すと、「生物を捕らえて食う、捕食性の、略奪する、略奪を目的とする」といった意味。映画のプレデターは取って食う悪い奴ですね。

 Journal は学術雑誌です。学術雑誌というのは科学研究の成果を論文にして掲載する専門的な雑誌のことですね。
 Journal の運営は論文投稿者の投稿料、掲載料、そして雑誌の販売・購読料、広告料でなりたっていると思われます。
 

粗悪な journal の出版社とは



 Journal の出版社としては Springer NatureElsevier が最大手ですね。
 最近は購読料が高騰して、いろいろ反対運動も起こっているというのはあるんですが、それはまた別の機会に。

 話は戻って、では predatory journal とは何か、というと、質がまともでなく掲載料などをぼったくる出版社が出しているヤバイ雑誌ということなのです。
 
 質がまともでない、というのは科学研究の世界においては、しっかりとした peer review がなされているか否かということになります。

 Peer review というのは、雑誌に掲載を申し込む投稿作業をしたら、その原稿を、同業者でその領域の専門家が読み、載せてよいかどうかをチェックし判断する仕組みのことです。そう、ライバルともいうべき専門家が載せていいかどうか判断する、この慣行のことを peer review (査読)と言っています。よって、しっかりこれがなされる雑誌を、査読誌と呼びますね。

 この peer review は非常に重要で、論文の質を担保するのです。もちろんいろいろ弊害もあるのですが、現時点ではベストな方法と考えられてると言っていいでしょう。

 掲載料については、最近はやや高いものが多いです。というのは昔は購読料で稼いでいた雑誌社も、最近はオープンアクセスといって、誰でもネットで読めるようにしていたりして、購読料が取れなくなっている場合もあり、その際には投稿者である科学者からお金を少しでも取ろうとしているんですね。

 しかし、predatory journal は法外にぼったくります。一報掲載 100 万円とか。びっくりするような額らしいですよ。知らずにこういった  predatory journal に投稿してしまい、科学者が被害者になっている…。そういう警告を、大学院の時にされていたと思ったのです。

 つまりまとめると、高い高い掲載料を払うと、しっかりしていないいい加減な査読で、粗悪な論文であって掲載する。そういうジャーナルのことを predatory journalといっているんですね。


科学者側にも問題が…



 そんな predatory journal なんですが、実は最近、問題提起されたのは、科学者が被害者であるということだけではなかったんです。

 こんなニュースがありました。
  ▶ 毎日新聞 粗悪学術誌:論文投稿、日本5000本超 業績水増しか

 記事によると、
 
「研究者が業績の水増しに使っている恐れがある」


 とのこと。どういうことかというと、peer review がいい加減またはされていないのをいいことに、雑な論文を掲載してもらい、業績にしてしまう。お金で業績を買っている。
 そういうことなんです。雑誌に掲載されることが業績となる科学者にとって、安易に業績を稼げる方法があったというわけなんです。

 これはひどいことで、科学者の多くは公金で仕事をしている/させてもらっているわけですから、これは雑誌社と科学者の共同正犯的な詐欺ともいえる行為でしょう。
 問題であり、そういった雑誌に投稿・掲載しないこと、していれば疑うことが必要です。


Beall's list 


 ではどうすればそういった雑誌がわかるのか。

 かつて、Jeffrey Beall という図書館の研究者(コロラド大学デンバー校助教授であり、図書館の司書)が、こういった predatory journal の list を作って公開しており、Beall's list として有名でした。しかし、出版社側から名誉棄損等で法的な措置をとられ、消えてしまいました(実際にはほかの事情もあったとの話もあります。Wiki に詳しい)。
 
 このリストをよく眺めていただけに残念でした。

 しかし、最近になって、このリストを復活させた人たちがいます。そのリストが以下。

  ▶ Beall's List of Predatory Journals and Publishers - Publishers

 というわけで、掲載基準などがありますが、このリストをみてみるといろいろわかります。多いですね。本当に多い。
 良いジャーナルの基準というのはとても難しいですが、引用の状況などを、Clarivate Analytics などの引用 (サイテーション) の評価サイトで調べることで判断しているようです。

 その他、最近は新しい Stop Predatory Journals というサイトもありますし、昨年2017年には有料で CABELLS がブラックリストを配布しています。

 が、いずれもジャーナルの選定基準、理由についてはなかなかオープンではないんですね。そこにもいくつか問題があります。もちろん不当にリストに載っているということもあるのかもしれません。

 実はこれら、載っているジャーナルからしょっちゅうメールがくるところもあります。
 気を付けないといけません、投稿する科学者としては。

 そして気を付けないといけません、科学を遂行している者が正当な業績を作っているか。

 科学者にとっての業績とは何か、そういったことを考えるにあたって、これは一つの重要なことですね。気を付けましょう。







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