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2020年1月10日金曜日

【書籍紹介】病理診断を極める 60のクルー

 病理医向けの書籍、病理診断を極める 60のクルーを紹介します。
 専門医受験前の方や、専門医でもちょっとした事項をまとめて読んでおきたい方にはおすすめできる一冊です。




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2020年1月6日月曜日

【書籍紹介】わかりやすい骨髄病理診断学 - 吸引クロット、生検組織の見方

 病理医むけの一冊を紹介いたします。特に初心者の方や専門医受験前の病理医にお勧めしたいと思います。ちょっと分類などは古く、記載も散逸しているところがあるのですが、基本的なことを身につけるにはとてもよい一冊です。




 【書名】わかりやすい骨髄病理診断学
 【著者】定平吉都
 【出版社】西村書店
 【リンク】楽天ブックス Amazon e-hon honto 
      7net 紀伊國屋書店 図書館


 骨髄病理は、新しいWHO分類において病理診断が病型確定のための必須となったものも多く、重要性が認識され、今後も重要さが増していくところと思われます。

 しかしながら、骨髄病理の診断法についてわかりやすく書かれた本というのはほとんど見受けることができません。もちろん、専門書としては、AFIPシリーズExpert consultシリーズの本をはじめとして紹介したいような良いものはたくさんあるのですが、日本語で、かつ初心者からわかるという本が少ないのですね。

 本書は、日本語で書かれた、故・定平先生 監修の名著です。

 非常にわかりやすく基本的なところから骨髄標本の染色法、見方、評価の仕方がかかれており、考え方やコンセプトもシンプルでよい。写真もきれいで見やすく、染色や免疫染色も映えています。

 やや分類が古く、今の WHO 分類とは変わっているところがあるので注意が必要ですが、基本的な考え方や標本の見方を身に着けるにはよい一冊であると思います。

 病理をはじめたばかりの方や、専門医取得前の方にぜひお勧めしたい一冊です。



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2019年12月23日月曜日

血液病理関係の講演会・学会・研究会の情報 2019年12月

 血液病理関係の講演会・研究会の情報がいくつかありますので紹介しておきます。詳細については雑誌「病理と臨床」の後ろにあるイベント情報などをご覧ください。


● 北陸 lymphoma conference 2020


 2020年1月11日(土) 金沢市 プログラム
  症例検討
  特別講演
   「悪性リンパ腫の治療戦略」 九州大学血液内科 加藤光次先生
   「医学部からのモノ作り・コト作り」 
     自治医科大学分子病態 西村智先生
   「B細胞リンパ腫におけるPD-L1発現の意義」 
     名古屋大学病理 中村栄男先生



● アドセトリス全国Web講演会



 2020年1月15日(水)
 「T細胞リンパ腫の病理」 中村直哉



● リンパ腫炉端会議2020


 2020年2月8日(土) 新潟市
 プログラム
  症例検討
  講演 「低悪性度B細胞リンパ腫の病理
      -FISHと遺伝子検索は有用か-」中村直哉先生



● 神奈川リンパ腫病理研究会


 2020年3月14日(土) 横浜市
 プログラム 
  特別講演 「皮膚リンパ腫の病理」埼玉医大病理 新井栄一先生



● 東京骨髄病理研究会



 2020年3月20日(金・祝日) 東京駅八重洲口 TKPカンファランスセンター
 プログラム
 
 講演「リンパ腫の骨髄浸潤の病理学的評価について」 
   昭和大学病理 塩沢英輔先生
 症例検討
 特別講演「多発性骨髄腫」 金沢大学血液・呼吸器内科 高松博幸先生



● 東京骨髄病理研究会(特別篇)
 「血液病理100例を見る会」(第3回)


 2020年3月21(土)・22(日) 神奈川県 東海大学伊勢原校舎
 プログラム
  特集: 骨髄増殖性腫瘍(MPN)と骨髄異形成症候群(MDS)、
     骨髄と脾のリンパ腫および関連疾患
  症例解説:伊藤雅文先生、佐藤孝先生、中村直哉先生


● リンフォマニアを目指すリンパ腫病理診断コース 
 第10回記念大会リンフォマニア2020


 2020年3月28日(土) 東京 TKP東京駅日本橋カンファレンスセンター
 プログラム

  (1) 14:00~14:40 PTCLとは 田丸淳一先生
  (2) 14:40~15:20 ALCLの病理診断 竹内賢吾先生
  (3) 15:30~16:00 小児T細胞リンパ腫 中澤温子先生
  (4) 16:00~16:30 節外性T細胞リンパ腫 中村直哉先生
  (5) 16:30~16:50 CD30の免疫組織化学 長谷川剛先生
  第10回記念特別講演
  (6)   17:00~18:00 T細胞リンパ腫の治療戦略 伊豆津宏二先生



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2019年4月30日火曜日

【書籍紹介】Quick Reference Handbook for Surgical Pathologists 【病理医必携】

 病理医は絶対に手元においておいて損はないよという有名な本を一冊紹介いたします。ご存知の方が多いとは思いますが…。



 【商品名】Quick Reference Handbook for Surgical Pathologists
     → 新版ももうすぐ出る模様

 この本は、病理医向けのレファレンスマニュアルで、この世界のゲームチェンジャーと言われたほど画期的で便利なものです。

 もともとは、アメリカの病理レジデントたちのお役立ちレファレンスとしてはじまったとのこの書籍ですが、あまりに便利であり、大ヒットになったという一冊です。

 

内容紹介より引用


This book is a compilation of high-yield, at-a-glance summaries for various topics on which pathologists frequently need information in a quick reference format while at the microscope (or when cramming for the boards). 


 まさにその通りで、ちょっとした項目、たとえば CK7とCK20 での原発巣の判別の考え方、様々な診断基準のカウントの基準、紡錘形細胞腫瘍診断時の免染パネル、リンパ腫の免染パネル…などなど、さっと手元にあると確認に便利な事項がよくよくクイックリファレンスの形式でまとまっています。


The authors are early-career pathologists who have compiled this book from the perspective of pathologists-in-training. The focus is not organ-based histologic criteria, but rather everything else that goes into pathologic diagnoses but is difficult to keep committed to memory. 


そう、著者がレジデントであることからも非常に現場オリエンテッドかつ、プラクティスに有用な情報が盛り込まれており、使いやすいメモ、レファレンスなんですね。


The emphasis is on immunohistochemistry, special stains, grading systems, molecular markers, tumor syndromes, and helpful clinical references. The book has a unique format in that the information is presented primarily in tables and diagrams accompanied by minimal explanatory text. 


テーブルとダイアグラムは非常にわかりやすく端的にまとまっていますが、それ以上に内容も盛りだくさんで必ず役に立つといってよいと思います。非常に有用な情報源にもなりますね。リファレンスもしっかりついているので安心です。


It is intended to serve as a ‘peripheral brain’ for pathology residents and also practicing pathologists, where frequently needed information is readily accessible and easy to navigate. 


 ペリフェラル・ブレイン として、座右のレファレンスとして活用できると思います。


この本の対象となるひとは



 端的に言ってしまえば、すべての病理医にお勧めしたいです。
 持っていない病理医は買ってほしいと思いますし、もし知らない病理医がいたら教えてあげてほしい。こういうツールがあるだけで病理診断技術は向上すると思いますし、ある意味で標準化もされると思いますし、時間や労力を節約できることは間違いなく、病理医の能力の向上にもつながると考えるからです。

 日常診療はもちろん、病理専門医試験にでるような知識も身に付きます。読み通すような本ではありませんが、ちらちら読んでいると確実に身につく。

 これはいい本。これの日本語版を作りたいと思います。
 なかよし病理医のどどたんと企画を考えていますが、どこか出版社協力してくれないかなー…!

 おすすめ本!★★★★★








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2019年4月12日金曜日

こういうシンプルな病理読解サイトを作りたい - Gastrointestinal Tract Reading

 病理の組織の読み方、ってなかなか初学者や外の方には難しくて、どこを見ているんだかとか、どこがどういう構造なのかとかを説明するのも困難なことが多いんですね。

 ディスカッション顕微鏡で一緒に眺めながら見ていくっていうのはとてもいいんですが、やはり自学自習でもわかりやすい情報があるといいように思うのです。




 Yale 大学の Gastrointestinal Tract Reading のサイト を見てみました。

 このサイトでは、大きな組織写真を提示し、わかりやすい解説と、図中への矢印の挿入による図解がされており、とてもわかりやすいです。
 これを書籍でやると非常に枚数が必要であることと、行ったり来たりが面倒ですが、サイトでやれば確かにわかりやすい。

 個売ったサイトを作りたいなぁ…病理読解のサイトとして、まずは組織学、そして病理組織学という形で、全身かつ様々な疾患について、ここをこういう風に読んでいるんだよということを示すような形でしたいなぁと思うのです。

 だれか一緒に協力してやってくれる病理医やその他の仲間いないかなぁ…。
 ちょっとこのブログで試しに何回か記事を書いてみて、うまくいきそうならサイトを作ってみようかなぁと考えています。


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2019年2月20日水曜日

【論文紹介】SOX-11陰性 マントル細胞リンパ腫75例の臨床病理学的検討 / AJSP

 マントル細胞リンパ腫に関する新しい論文が AJSP に出ていたので紹介いたします。

 マントル細胞リンパ腫 (MCL)は、B細胞性リンパ腫で、indolent と aggressive の中間程度の悪性を示すことが知られており、形態学的には小~中程度の大きさの均質な細胞の単調または軽度に結節を形成するような増殖をしめし、免疫組織化学的には CD5(+)、CyclinD1(+)が典型的であるが、近年みつかった SOX-11(+)のことが多いのも特徴です。
 臨床的には比較的白血化を引き起こしやすいことも知られています。

 最近までの研究においては MCL のうち、SOX-11 を発現していることが予後度影響するかどうか、はっきりせず論点となっていました。
 今回のこの論文では75冷のSOX-11陰性 MCL との比較によりその臨床病理学的特徴を解析しています。

 それでは論文詳細です。 



● SOX11-negative Mantle Cell Lymphoma Clinicopathologic and Prognostic Features of 75 Patients
 The American Journal of Surgical Pathology: February 12, 2019
 Publish Ahead of Print
 Xu J, Wang L, Li J, Saksena A, Wang SA, Shen J, Hu Z, Lin P, Tang G, Yin CC, Wang M, Medeiros LJ, Li S.

【概要】
 SOX-11陰性MCL75例を検討した。
 SOX-11陽性MCLと比較し、
  より白血化が多かった(21% vs. 4%, P=0.0001)
  より典型的な形態を呈した(83% vs. 65%, P=0.005)
  よりCD23陽性の割合が高かった(39% vs. 22%, P=0.02)
  よりCD200陽性の割合が高かった(60% vs. 9%, P=0.0001)
  よりKi67陽性率が低かった(23% vs. 33%, P=0.04)
  Overall Survival に有意な差はなかった(P=0.63)
  一方、高いKi67陽性率と blastoid/pleomorphic
   morphology は SOX-11陰性陽性にかかわらず
  より短い Overall Survival と関連していた。
  MCL の予後予測スコア(MIPI)でが高い場合、
   SOX-11陰性の場合には有意に予後が悪く(P<0.05)、
   陽性の場合には有意ではなかった(P=0.09)。
  リンパ節病変ありまたは stage III/IV の場合には、
   SOX-11陰性の場合には予後は有意に悪くはないが、
   SOX-11陽性の場合には予後不良であった。
  まとめると、SOX-11陰性MCL はより白血化の頻度が高く
   典型的な形態CD23・CD200の発現率が高く
   Ki67陽性率が低い
   SOX-11陰性MCL の予後因子は、形態、Ki67陽性率、
   MIPIである
【症例の選択】
  テキサス大学アンダーソンがんセンターの
  2004/1/1-2016/12/31 の MCL症例。
  2016年 WHO classification に基づく分類。
  IHCでCyclinD1(+)またはt(11;14)(q13;q32)
   またはCCND1-IGH で診断を確定。
【結果の概要】
  SOX-11陰性 MCL 75例、SOX-11陽性 MCL 146例。

    
【病理学的解析】
 形態と免疫染色については Table 2 としてまとまっています。

【臨床的アウトカム】
  略:(概要に示したものが代表)
【結論】
 SOX-11陰性 MCL 75例、SOX-11陽性 MCL 146例の検討で、
 SOX-11陰性 MCL はより白血化の頻度が高く、
 典型的形態で、CD23・CD200発現率が高くKi67陽性率が低い。
 SOX-11陰性 MCL の予後因子は、形態、Ki67陽性率、
 MIPIであることがわかった。
  


 MCL は indolent lymphoma と aggressive lymphoma の中間的な場合もおおい B細胞性リンパ腫であり、診断は比較的容易であることもあるものの、時に困難で SOX-11 は有用なマーカーとして報告されました。

 リンパ腫の診断チャートは参考に ▶ 峰式 リンパ腫の病理診断フローチャート

 しかし、SOX-11 陰性 MCL もあるということがまず話題となり、SOX-11 の発現の有無でのふるまいについては議論が分かれているところでした。
 今回紹介した論文では、SOX-11 陰性 MCL では白血化の頻度が高いことや、MIPI を用いて不良予後の予測ができそうであることなどが分かりました。
 
 MCL についてはさらに詳細な生物学的な検討がなされそうに思います。

● 関連記事
 ▶ 【血液病理】DLBCL の Hans の基準
 ▶ 峰式 リンパ腫の病理診断フローチャート
 ▶ 【書籍紹介】レベルアップのためのリンパ腫セミナー
 ▶ 【書籍紹介】若手医師のためのリンパ腫セミナー
 ▶ 【書籍紹介】見逃してはならない血液疾患 病理からみた44症例




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2019年1月31日木曜日

医学部生にお勧めの病理の教科書

 さて、ちょっと質問をいただきました。
 医学部生にお勧めの病理の教科書はなんでしょうとのお題。

 病理学の勉強の仕方はまたじっくりとまとめて行きたいと思っていますが、今日は医学部の学部生、コメディカルの方が使う教科書としておすすめのものを挙げてみたいと思います。

 さて、医学部生が医学部で学ぶ「科目としての病理学」は、病態病理を中心とする総論を学んだ後に臓器ごとの病気をまなんでいく座学の部分と、顕微鏡でみられる組織像を学ぶ病理組織診断学の各論(座学+プレパラートやバーチャルスライドでの実習)の部分に分かれますね。

 この二つの部分+初期研修医ぐらいまでに読んだらいいかなぁというような本についていくつか教科書を紹介しますが、その前に、とっかかりになるような初学者向けの読みやすいものも紹介してみたいと思います。



まずは病理の全体像をつかむ入門・読み物・概要書から


 医学部生やコメディカルやその学生さん向けに、病理学がどんなものであるか簡単に示してくれている本をまず4冊紹介いたします。


Dr.レイの病理学講義第3版




 【書名】Dr.レイの病理学講義第3版
 【著者】高橋玲/北澤荘平
 【出版社】金芳堂
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 新しい一冊。とても図版がきれいで、解説文もシンプルでわかりやすい。対話形式で、病理学がどのようなものかについて解説してくれています。
 読みながら学んでいけるという本のなかでもこれはかなり良い本です。
 第1版から持っていますが、第3版でさらに読みやすくなっていました。

 医学生・薬学生・コメディカル(看護師・臨床検査技師)とその学生さんにもおすすめできる一冊です。
 

なるほどなっとく!病理学




 【書名】なるほどなっとく!病理学
 【著者】小林正伸
 【出版社】南山堂
 【リンク】楽天ブックス Amazon Kindle 7net honto 
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館


 難解な記載はなく、かなり誠実に病態や病理について解説されている一冊。体系的とまでは言えないの物の、基本から忠実に病理総論をまずは俯瞰していく姿勢には恐れ入ります。
 内容も必要十分量であり、医学生・薬学生・コメディカル(看護師・臨床検査技師)とその学生さんにお勧めでき、次の本格的な教科書に進む前に読んでおくと大変理解の助けになると思われる一冊です。


はじめの一歩の病態・疾患学




 【書名】はじめの一歩の病態・疾患学
 【著者】林洋
 【出版社】羊土社
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 医学生・薬学生・コメディカル(看護師・臨床検査技師)とその学生さんにお勧めの一冊の中で、病態・疾患、ここにフォーカスしている一冊です。
 第一章の「病態・疾患学とは?」がとてもよく、そこをもとに全体をみていくと非常にわかりやすく書かれています。
 おすすめ。 


図解入門よくわかる病理診断学の基本としくみ




 【書名】図解入門よくわかる病理診断学の基本としくみ
 【著者】田村浩一
 【出版社】秀和システム
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館
 
 この本は学生さんだけでなく、一般の方にもおすすめしたい一冊。
 病理診断学とはどういうものであるか、病理診断はどうやってやっているのか、といったことがよくわかります。
 学部でならう病理学総論などの勉強まではカバーできませんが、どのように考えて組織を見ているか、正常とはなにか、異常とはなにかなどもわかりやすく書かれています。
 読み物として、入門書としておすすめの一冊。



試験対策などと講義などの理解を助けてくれる本


 試験対策というと、教科書を理解するだけではなかなかむずかしく、概念やポイント、事項を説明できるようにしないといけませんよね。そういったことに特におすすめできる一冊があります。

新病理学フルカラー新装版




 【書名】新病理学フルカラー新装版
 【著者】山本雅博/坂田一美
 【出版社】日本医事新報社
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 このQシリーズはいわゆる試験対策本にちかい位置づけでしたし、また、前版までは総論と各論に分かれていましたが、この版からは統合された上に、説明もわかりやすく、ポイントごとにまとまっているため、非常によい一冊となっています。

 読み通す教科書ではないものの、トピックごとにキーワード付きで解説されており、写真や図もきれいで非常にわかりやすい。
 
 成書といわれる、この記事で後に紹介する教科書と合わせて持って置き、試験対策やトピックの確認に用いると効果的であろうと考えられます。


読みやすい病理総論の教科書を


 病理総論は、病気の仕組みや概念をまなぶところなので、丁寧に説明してくれている本が良いですね。とてもよい教科書がありますので紹介いたします。

皮膚科医のための病理学講義”目からウロコ”の病理学総論




 【書名】皮膚科医のための病理学講義”目からウロコ”の病理学総論
 【著者】真鍋俊明
 【出版社】金芳堂
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 何人かの病理医の先生にお勧めいただき早速購入して確認しました。
 真鍋先生は元、川崎医大、京都大学で病理の教鞭を長くとられており、皮膚科領域の診断・研究だけでなく、病理学全般についても素晴らしい著作のある先生です。

 この本は、皮膚科医のためのとなっていますが、これは明らかな間違いで、すべての医療関係者のためのと書くべき、というほど素晴らしい本でした。
 非常にわかりやすく、病理学総論とはどういった分野でどういった考え方をするのかが書かれています。読みやすくお勧めです。


王道の教科書を2冊紹介


 いわゆる王道の教科書を二冊紹介したいと思います。
 これらの本はどちらを使ってもいいですが、できればどちらかは持っておいて、通読まで行かなくてもしっかり読んでみてほしいと思います。
 

標準病理学第5版




 【書名】標準病理学第5版
 【著者】北川昌伸/仁木利郎
 【出版社】医学書院
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      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 日本語教科書、日本製の一番標準はこれでしょう。読みやすいです。
 そして概念もしっかりしていますし、内容説明も十分と思います。章ごとに考え方を習得できるようにされているので、大変によい。

 ただし、どちらかというと、項目ごとにお堅い教科書である感は否めず、この一冊っだけで全部理解しようとするのは難しい可能性があります。
 上記Qシリーズや、入門本を読んでからの方が頭に入りやすいかもしれません。


ロビンス基礎病理学



 【書名】ロビンス基礎病理学
 【著者】Vinay Kumar/Abul K. Abbas
 【出版社】丸善出版
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      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 医学部学部生までに進める最高の教科書といえば、これです。

 この一冊をしっかり読めば、研修医までは十分でしょうし、概念もよく理解できると思います。この上の、同じロビンス・コトランの名前の一冊もありますが、そちらは診断学よりになりつつ記載量が非常に増えますので、むしろこの一冊の方が学生さんにはよいように思います。
 
 これ一冊を通読してまなべば、医学部生レベルの病理学は完ぺきでしょうし、次のステップに行くための基礎は構築できると思われます。


病理学「実習」向けの診断、組織像の各論には


 病理学のメインパートは総論と診断各論に分かれますが、診断の方にあたる、組織病理学についての本です。こちらはアトラスが中心になりますので、この本を紹介いたします。

病理組織の見方と鑑別診断第6版




 【書名】病理組織の見方と鑑別診断第6版
 【著者】吉野正/小田義直
 【出版社】医歯薬出版
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      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 病理「組織」診断学の実習・学習むけの一冊です。アトラスになります。
 総論が病態などの仕組みを学ぶものであったのに対し、こちらは顕微鏡をつかって各臓器別に病気を診断していくための各論かつ組織診断のためのアトラス。

 章ごとにまずは解説がしっかり描いてあり、そして組織像を提示するアトラスがあります。四枚の写真が一ページにありますが、とても見やすくきれいなものばかり。
 解説もわかりやすく、医学部生~病理専門医受験まで使える一冊です。
 
 この一冊をアトラスとしてはまずお勧めしています。学部生も持っているとよいと思いますね。


医学部生~研修医むけの読み物病理入門


 ここでまた読み物ですが、実務がわかる一冊を紹介してみたいと思います。

臨床に役立つ!病理診断のキホン教えます




 【書名】臨床に役立つ!病理診断のキホン教えます
 【著者】伊藤智雄
 【出版社】羊土社
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 この一冊は、医学部生~初期研修医、コメディカルが病理診断の実際について知るにあたって読み物としてよいかなという本です。
 伊藤先生は、北大出身で、病理医の教育にも熱心かつ、免疫染色についてもエキスパートである熱心な先生で、いまは神戸大学の教授です。

 さすがの書きっぷりで、非常にわかりやすく基本的な病理医の業務に関わることを書かれています。この本はすぐに読めますし、非常に難解なわけでもない。
 実際に用いられる免疫染色などについても触れられており、臨床医が読んでも、あぁ病理医ってこんなことしてるのね、と分かってもらえるところが多いように思います。
 
 気軽に読めるお勧めの一冊です。


研修医~若手病理医向けの病理診断学のおすすめ本


 本格的な本を一冊だけ紹介しておきます。
 ジェネラルなことと各論を含む本です。

外科病理診断学




 【書名】外科病理診断学
 【著者】真鍋俊明/三上芳喜
 【出版社】金芳堂
 【リンク】楽天ブックス Amazon 7net honto
      e-hon 紀伊國屋書店 図書館

 病理志望の研修医・医学部生から病理専門医取得程度までの若手病理医にはぜひおすすめしたい一冊。
 病理診断実務に重要な原理と考え方、実務的なことがよく書かれています。
 ピットフォールも、広く考え方もよく書かれています。

 著者の三上先生は熊本大学教授で婦人科病理を中心に博識博学な先生で、真鍋先生のお弟子さんですね。

 多少の誤植があることと、間違いもあるんですが、非常に新しい情報まで組み込まれており、専門医にとってもとても勉強になります。
 労作であり、読む価値ありです。


というわけで、ラフではありますが


 医学部生、コメディカルの方にお勧めできる入門的な病理の書籍を紹介してみました。追記や更新をこの記事は随時していきたいと考えています。

 まぁ私も友達と組んで、病理学の教科書を書きたいという野望がありますが…。

 ぜひ楽しい病理学勉強ライフをお過ごしいただきたいと思います!






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2018年12月17日月曜日

赤ちゃんレベルの「腫瘍学の話」その1 - 「がん」と「癌」は違うという話


 「がん」と「癌」は違うよということを少しお話したいと思います。

 ブログや note をつかって、ここ数回免疫学やゲノム編集の基本の基本の基本のエッセンスだけを書いてみようということをしたところ、想定外にたくさんの方に読んでいただきとてもうれしく思っています…ありがたい。

 私はもともとは薬学部出で薬理学・分子生物学 (特に GPCR という受容体)の研究をしていて、医者になりなおしてからは、ウイルス学 (ヘルペスウイルスの専門家です)、病理学、免疫学をやっています今はメインがヘルペスウイルスに対する免疫学、なんです。

 そんな関係で、免疫学の基本のところに触れましたしゲノム編集の話をしました。免疫の続きもやりますし、ワクチンやHPVの話もしたいのですが…意外に時間がないので順番に

 今日はちょっと趣向を変えて病理学にちかいともいえる腫瘍周辺の話に行ってみようと思います

 というのは、研究は上で述べた通りなのですが、医者としては病理医だからということと、研究している EBV (Epstein-Barr virus)というウイルスは発がんウイルスといってがんを起こすのです。

 さて、今回のテーマは「腫瘍学の生物学としての基礎の基礎」といったところにしたいと思いますちょっとずつかみ砕いて書いていきます。くどいことと、端折るところが多いと思いますが、しかしながらコンセプトから攻めていきたいという企画です。


腫瘍について


 病理学や病理医についてはあらためて書いていきますが、圧倒的に病理医の仕事のウェイトを占めているのが、「腫瘍」の診断です「非」腫瘍ももちろん大きく大事なところですが、業務上のウェイトでいうと圧倒的に腫瘍の診断ですね。

 2017年の人口動態統計によると、日本の死因の第一位は「悪性新生物」で、27.9%でした。続いて心疾患15.3%、脳血管疾患8.2%です

 つまり日本においてはおおよそ1/3の人は「悪性新生物」と分類される疾患でなくなっています

 さて、「腫瘍」に関する今日は主に言葉の解説と概念の解説をしたいのでした
 早速ですが、ここで出てきた「悪性新生物」という言葉を解説しながら進めたいと思います。

 まず、「悪性新生物」は「悪性」+「新生物」です…当然か。ではまず「新生物」というのは何か

 「新生物」は英語では neoplasm と言います。これはギリシャ語のNeoplasia (新形成) が由来の言葉ですごく簡単に言うと、「新生物」とは「腫瘍」(tumor) のことです。

 そうです、新生物なんて言わずに腫瘍と言えばいいんですが、外国語を訳すとこうなっちゃうんですね

 では、腫瘍(tumor)とは何か。

 腫瘍というのは、細胞が過剰に増えることでできる塊のことです。このtumor という言葉はもともとはラテン語で、「腫れる」という意味合いです

 私たちの体というのは細胞が集まってできています。その数およそ37兆個ともみつもられており、200種類以上の細胞があります。

 これらの細胞はすべて受精卵というたった一個の細胞から分かれて増えてできているのですが、体をつくるためには、厳密にコントロールされた数が、厳密にコントロールされた増え方で増えています。
 なので、健常な状態であれば、いつまで体が大きくなり続けたりすることはないのですね。

 そして、私たちの体では毎日無数の細胞が死んでいますが、同様に無数の細胞が分裂して生まれています。そしてその量は調整されていて、やはり体が大きくなり続けるとか小さくなるとか、どこか一箇所が飛び出してくるとかそういうことはないようにコントロールされているわけです。


細胞が増えるということ


 細胞が増えるときには、細胞が二つに分裂します。細胞が分裂するのはとてもダイナミックなイベントで、分裂して成長して、また分裂して、という周期を細胞周期と呼びます。

 体にあるすべての細胞がこのサイクルにのっているわけではなく、分裂を止めてしまった細胞や分裂しにくい細胞、ちょっとお休みしている細胞などが実際にはあります。

 しかし、いずれにせよ増えるときにはこの細胞周期というサイクルが回るイメージで、細胞は分裂し、大きくなり、分裂する、を繰り返すんですね。



細胞周期


 で、この細胞周期は、周りの細胞の量だとか、血液の中をながれている調節する信号を伝える分子によって回転したり止まったりするのです。そうして、増える量がコントロールされているわけですね。

 がしかし、時に、これらの細胞周期をぐるぐる速く回して細胞がどんどん増えてしまうような、そういう異常が細胞に生じることがあります。例えると回転のアクセルを踏んでしまうような感じですね。

 また、逆に、ブレーキのような仕組みが当然あるのですが、これがおかしくなってブレーキがかかりにくくなることもあります。またチェックポイントという先に進んでいいかどうかをチェックする部分もあるのですが、この監視がおかしくなることもあるんですね。

 さらに、先ほど細胞は日々死んでいくとも言いましたが、なかなか死ななくなる、とか、死ななくなる、ということが起こると、分裂する細胞とのバランスが崩れることがおこります。

 こういったことが起こるとどうなるか、細胞が外側からのコントロールとは無関係に増えてしまい、細胞がたくさんある場所ができてしまいますね。そうして塊になってしまいます

 これが、まずは腫瘍だと考えてください。細胞の増殖と死んでなくなるバランスが崩れて、どこかで細胞が相対的に増えるようになり、塊になる。これが腫瘍。
 病理学的には紛らわしい概念に「過形成」というものもありますが、今回は控えます。


腫瘍を分類していきます


 さて、細胞が増えて塊をつくるのが「腫瘍」(tumor)でした。ここから、まず概念として、分けていきたいと思います。

 腫瘍(tumor)は、良性腫瘍と悪性腫瘍に分かれます





 良性は英語で benign と言います。ですから、良性腫瘍は benign tumor と言います。

 さて、もう一方の悪性腫瘍ですが、悪性は英語で malignant と言います。よって、悪性腫瘍は malignant tumor と言います。しかし、実際にはこの言葉以外にもう一つ有名なことばがあります。それが、 cancer (キャンサー)です。

 Cancer malignant tumor の別の言い方で、日本語に直せばどちらも「悪性腫瘍」になるんですね。
 ちなみに、cancer の語源は「カニ」です。これは、ヒポクラテスという大昔の医学の祖ともいえる偉人が名付けたもので、乳癌の患者の癌が、固く、カニの甲羅のようであったことから名付けられたと考えられています。






 さて、悪性腫瘍は英語で malignant tumor であり cancer でした。ところが、ここで複雑なことが起こります。日本語にも言い方がもう一つあるのです。それが、「がん」です。「平仮名で」がんです。



 ここはとても重要です。悪性腫瘍 = (平仮名の)「がん」なのですね。

 さて、ここで、さらっと分けてしまいましたが、「良性」と「悪性」の違いはなんなのか考えないと意味がわかりませんよね。良性と悪性ってなにか。



腫瘍の良性と悪性


 医学部生や医者に聞いてみてください。良性と悪性の違いってなぁに?と。
 医学部生なんかだと、突然「えぇと、N/C比が高くて、異型性が…」とかいいだすかもしれません。また医者でも「浸潤が」とか「転移が」とか言い出すかもしれません。

 それらは間違ってはいない解答の一つなのですが、本質ではありません。
「良性」と「悪性」の違い。これをしっかり説明できるようになれば、今回のこの記事は成功です。

 では、本題です。

 「良性」というのは命にかかわらないこと、「悪性」というのは命にかかわること、です

 えー…!まじで?医学的じゃないし、専門用語つかってないし、変だよ、受け入れられない…そういう、特に、医学関係者は多いかもしれません。

 しかし、何が違うかといえば、まずは、宿主(さてすこし専門的になりましたが、腫瘍のできた個人と考えてくださいね)に生命にかかわる悪影響を及ばさないもの、それが基本的に良性なのです。
 そして、放置しておけば、命にかかわってしまう腫瘍、これが悪性です。

 シンプルでしょ。シンプルなんですよ考え方は。考え方それ自体は。

 さて、「良性」と「悪性」を概念で分けました、生死にかかわるか否か。なんてシンプルな分け方なんでしょう。一件落着、ちゃんちゃん…って、ならないですね!

 もし目の前に腫瘍のある患者さんが来たとして、さぁ、診断しましょう。生きるか死ぬか…え?この目の前の腫瘍で生きるか死ぬかって…どうやったらわかるん?わかるの?へ?

 そう、ここから大事なことが分かります。

 つまり、この腫瘍で死ぬか死なないかをはっきりと予言できなければ、診断はできないんですね。逆に良悪性の診断は、この腫瘍はこのままいくとこの人を殺してしまうか否か、を判断する、そういうことになります。そう、これが腫瘍の病理診断の基本なのです。


良性と悪性をどうやって実際に分類し見分けるのか


 さて、どうしましょう。良性か、悪性か。何を見ればわかるの?どうやったら区別できるの?

 これはとても難しい話です。なぜなら、あるヒトに腫瘍が生じたとして、全く同じ腫瘍というのは今までにあったのでしょうか?えー?胃癌とか名前がついてるからあったでしょ、と思うかもしれません。しかし、先走りますが、がんというのは実は非常にたくさんの異常が細胞に蓄積して起こるんです。

 全く同じ異常が、まったくおなじシチュエーション(胃とか肺とか言った場所や、年齢も含めて)で起こるでしょうか…えー…確率としてはほぼないよね…となってしまいます。

 そうなんですね、がんが生じたときに、そのがんはかつて人類に生じたがんであるか否かなんてわかりません。同じがんが世の中にあるのかさえ不明です…。

 それじゃぁなにもできないじゃん!なに言ってんの!と思うかもしれませんが、それは一つの現実なのです。それぞれ人間個性があって、一人ひとりが違うように、がんというものもそれぞれに個性があって、みんな違うんです。

 え…。そんな…となりますよね。なるんです。
 ところがですね、まぁ、そこは天の采配というか、あれなんですけれども、医学というのは経験の学問として成り立ってきたのには理由があるんです。

 類型化がだいたいできるようなところが自然にはあるんですね。

 言葉と概念が難しくなりました。簡単に言うと、厳密にはそれぞれは違うんだけど、同じようなふるまいをする仲間として分類しても、だいだい妥当に分けられる、そういうものなんだよね、ということです。

 ということで、医学はまずはたくさん患者さん=症例をあつめて観察したわけです。
 胃にできるこのタイプの腫瘍は、全身に影響して死につながる。このタイプの腫瘍は全身には影響しない。そういった経験をとにかくとにかく集めたんです。

 そして、集めたうえで、似たものに共通する特徴、そして、別の経過をたどるものとは違う特徴というのを認識していったのですね。

 そうして、この臓器のこの腫瘍は悪性、この臓器のこの腫瘍は良性、というように経験が積みあがっていった。こういう過程が医学では多く見られます。
 これこそ経験の学問である面もある由縁ですね。

 さて、そうやって、いろいろな腫瘍を観察して、「悪性」の特徴、「良性」が分かってきて、そしてまたその特徴をもとに観察を繰り返して、これらが磨かれていった、それが基本的な腫瘍の診断の発展である、と考えてください。

 さて、では実際にはどうやって診断をしてきたのか。これは細かくは病理のお話をするときにしたいと思いますが、簡単に、超簡単に言ってしまうと、顕微鏡をつかって細胞と組織の形をみて診断してきたのです。

 組織、というのは細胞があつまってある形をつくり、ある機能を担う、そういう集合のことだとラフに考えてください。顕微鏡で、腫瘍をみて、その形を記録してみていったのですね。

 そうすると、良性、つまり観察していても死なない腫瘍と、悪性、放っておくと死んでしまう腫瘍の「形」、の知識が蓄積していくことになります。

 それぞれの差はなんなんだろう。差がわかれば、顕微鏡で見れば、ずっと観察しなくても、その場で良性か悪性かがわかるようになるのではないか。

 そういう考え方です。そして実際、それは妥当で、今では基本的にはその時点の顕微鏡の像などを見れば良性・悪性がだいたいわかるようになっているのです(実際にはもう形だけではなく、テクノロジーの進歩でさまざまなことを評価するのですが、原則から入っています)



形で見出された「良性」と「悪性」の違い


 さて、ではそういう風に、「顕微鏡観察 + 長い間経過をみて」見出された、「良性」と「悪性」の違いはなんなのか、それぞれの特徴はなんなのか、これが病理組織学的な良悪性の差異と言えます。

 わかりやすくまず悪性の特徴を挙げていきますが、実は、これは教科書レベルでも専門家レベルでも見解がいくつもあります。ですから、この通りでないものも一杯あります。大事な特徴を抽出したものだと思ってください。

●悪性の特徴①  
 自律的に増殖(コントロールが効かない増殖)をして細胞が死ににくい/死なず、いつまでも増え続ける

●悪性の特徴② 
 まわりの組織を破壊したりしみこむようにしたりして増える(浸潤)

●悪性の特徴③ 
 血管を増やして呼び寄せる

●悪性の特徴④ 
 ほかの臓器にとびうつって、そこでも増える(転移)

(●悪性の特徴⑤ 栄養を大量に消費して、体全体を衰弱させる。)

 これら五つ程度が悪性の特徴です。




 Hanahan D, Weinberg RA (January 2000). "The hallmarks of cancer". Cell. 100 (1): 57–70. doi:10.1016/S0092-8674(00)81683-9. PMID 10647931. では6つの特徴が示されていますし、がんセンターの情報(https://ganjoho.jp/public/dia_tre/knowledge/basic.html)では3つが示されています。
 さらにさまざまな付加的な特徴も見出されていて、いまではたくさんの考え方がありますが、基本はここに含まれていると考えていただけると思います(免疫とのからみの話などがたくさんあります)。

 さて、5つ目は形だけではわかりませんね。ですから、形でまずはわかるのは①~④なのですが、それぞれの見かた、評価の仕方をざっくり説明します。

 特徴① の自律的な増殖というのは、とにかく細胞の量が増えること、が特徴です。良性腫瘍の多くは、self-limiting といって、自分である程度増えると増えるのを止めてしまいます。ですから、大量の細胞が見えて、かつ、細胞が分裂しているところなどが見えると、悪性かな、と一つ思うところです。

 特徴② 浸潤。これは、まわりの組織を壊しているところが観察できれば明らかになります。良性腫瘍は増えるときに周りを押すように膨れます。これを圧排性と言いますが、悪性腫瘍の多くはまわりを壊していくので、正常な組織が壊れているところが見て取れます。

 特徴③ 血管を増やす。これも形でわかります。血管がたくさん増えてきます。時に良性腫瘍も血管をふやすので、これは少し参考になるぐらいかもしれません。

 特徴④ 転移。これは悪性の特徴としては有名です。ほかの臓器から元あったところと同じ形の細胞の増殖がみられれば、転移の可能性が高いですし、この転移を予測する一つの事象として、血管やリンパ管という管の中に癌細胞が入り込んでいっているところを見つければ転移する可能性があるかな、と考えます。

 実際の病理診断では、腫瘍というのは特徴的な配列や構造をつくるので、それを見ているのですが、良悪性の極端な診断については、以上のような特徴が大事なんですね。





 その他に、細胞の形として、悪性の時には核(N)が大きくなって核以外の部分(=細胞質 C)との比率が変わる、N/Cが増大するとか、異型といって、正常な細胞から大きく形が変わるなどの特徴もあります。

 病理学をちょっと勉強した医学部生さんなんかは、悪性って?と聞くと、細胞のこういった特徴に飛びついてしまうんですね。でも、それは悪性の真の特徴ではなくて、傾向であり、細胞像。悪性というのはあくまでも個体を殺してしまう可能性がたかいという特徴なのです。

 とここまで説明しましたが、これはあくまで形によって見てきた、という診断の一側面だということは十分に注意をしなくてはなりません。
 もともとは、病気がどういうものなのかしりたい、どういう仕組みかしりたい、どういうふるまいをするか知りたい、そういうものが病理学の根幹だったはずです。


病理学は形だけの学問ではないから


 「形」で診断するのは「病理組織診断学」とでもいう範囲で、これは病理学のすべてでは当然ありません。ほかの技術、たとえばDNAの配列のどこがおかしくなっているかとか、血液中のマーカーとか、DNAの修飾とか…いろいろな方法を駆使して診断する方がより精緻な診断ができるでしょう。

 しかし、「形」で診断する利点は今まではかなり大きかった…実効性、早さ、コストなどで優れていたため、ほかの検査の代わりにもなる面が大きい「サロゲート」な手段であったともいえるのです。「形」で「代替」して診断しているということですね。

 ある程度これは妥当でしたし、うまくいっているところが多いのですが、最近はそうもいっていられません。たとえば脳腫瘍は、Genotype trumps phenotypeというような標語でもって改訂されました。

 Genotype というのは遺伝子の形のこと、phenotype は形などの特徴ですね、trumps は優るといういみなので、この言葉は、遺伝子の形の方が形などの特徴より(診断・分類するうえでは)優る、ということを言っています。

 脳腫瘍の分野ではこんな論文が今年natureに出ています。
 ▶ DNA methylation-based classification of central nervous system tumours. Nature volume 555, pages 469–474.

 これは、DNAの修飾のされ方をもとに脳腫瘍を分類してみたところ形で診断するよりよりよく分類できたよ、というような話です。形でなんでも分けられるわけではないですし、形より優れた診断法もあるんだよ、という話ですね。

 純粋な「形」つまり王道的な病理組織診断学の方法で診断するよりも、遺伝子の異常などをもとに病気を分類した方が、「正しい」分類ができる、つまり診断ができる、ということにほかならず、病理組織診断学は万能ではない、根本の病理学から考えれば当然なのですが、という話なのです。

 今後はこういうことが多くなっていくと思います。いろいろな技術が発展することで、「形」だけで診断できる時代は終わりつつあります。それでも「形」による診断も意味がないわけではない、そんなもんかな、と思っていただければいいかなぁと思います。

 ここら辺のことは、病理についてお話しなおすときに触れたいなぁと考えてはいます。


いよいよ「がん」と「癌」の違いに行きたいとおもいます



 さて、戻ります。良性、悪性まで説明しました。くどいですが、悪性腫瘍は malignant tumor であり、cancerであり、日本語でいいかえると「がん」(ひらがな!)でした。

 悪性腫瘍をさらに簡単に分類します。これはそうした方がより特徴が似通ったグループにでき、生物学的にも理解がしやすいからでもあります。

 どうやって今度はわけるか。分け方は単純です。そもそも、細胞がおかしくなって腫瘍になるのでした。であれば、おかしくなった元の細胞は、どんな細胞だったのか、これで分けます。ただ、細胞一個一個の種類まで言及するとめちゃめちゃ大変なので、どんな「組織」=細胞の集団から出てきたかな、ということで分けます

 ヒトの体は非常に複雑な形を持っていますし、臓器ごとにその構造は全然違います。ただ、からだの部分はどこをとってみても「基本的な4つの組織」の組み合わせでできているんです。

 「4つの組織」というのは①上皮組織、②結合組織、③筋組織、④神経組織です。
この4つの組織の組み合わせですべて説明できるんですね。からだの組織の構成というのは。

 さて、簡単にこれらの組織を説明します。
 ①上皮組織、というのは英語では epithelial tissue というのですが、これは主にからだの表面や消化管の内面などの外側の部分をカバーしたり、分泌や吸収などの機能をになう構造などです。

 ②の結合組織というのは、組織と組織をくっつけるノリのような組織です。細胞の種類はすくなく線維芽細胞という細胞などがいます。

 ③筋組織は筋肉で動きを作る組織、④神経組織は電気信号を伝える組織で、脳のような中枢神経だけでなく、体中に張り巡らされる末梢神経組織もあります。

 さて、組織学のことは別途またまとめていきますが、ラフに4つの組織の組み合わせで体はできているのです。

 もどります悪性腫瘍、つまり、がん、をもう少し分けてみようという話でした。そして、がんの由来となった細胞の属する組織によってわけられるよ、という話でした。

 では早速結論を。上皮組織由来の「がん」を「癌」または「癌腫」と言います漢字で書きます!
 英語では carcinoma カルチノーマと言います。これは悪性腫瘍に最も多いもので、胃癌、大腸癌、肺癌…などと漢字で書かれていればこれと考えていいです。

 さて、②~④からでてきた「がん」はそのほとんどを「肉腫」読み方は「にくしゅ」と言います英語では sarcoma サルコーマ/ザルコーマ となります。これは、癌に比べるとレアな腫瘍です。

 そして、実は②結合組織には、血液が含まれているのですが、血液だけは伝統的にちょっと別扱いにしています。というのは、血液はばらばらな細胞からなっていてわけて考えた方がよいからです。

 よって、血液細胞由来の腫瘍は「血液系悪性腫瘍」とでもいえばいいのですが、さらにわけてしまって、血液中を「がん」細胞が流れているものを「白血病」英語では leukemia、血液細胞由来のうちリンパ球から出た「がん」が塊をつくったものを「リンパ腫」lymphoma とわけます。
 実はもう一つ、骨にできる骨髄腫 myelomaというものもありますし、白血病が塊を作ることもありますが、今回はちょっと省いてしまいます。





 というわけで、どこから出てきたか、4大組織のうちどこから出てきたか、が「がん」を分類するもとになるんですね。

 (さらに厳密には、肉腫内には悪性黒色腫、悪性中皮腫、悪性神経腫瘍などもありますが、これらは肉腫とは別に述べることもあります。この辺は慣用と、分類学の限界ですが、今回は触れずに置きますね)。


というわけで表記については


 さて、「子宮頸がん」という表記をしているメディアや記事などをよく見ます。この書き方だと、癌も肉腫も含まれていることになるんですね。

 たしかに、ごくごくごくごくまれに、子宮頸部に肉腫が生じることはあります。生じる肉腫の種類は、平滑筋という筋肉から出てくる平滑筋肉腫や、稀には子宮内膜肉腫や血管肉腫などのいくつかの種類です。しかし、これは非常に稀です。一般的には、子宮頸部に生じる「がん」のほとんどは「扁平上皮癌」という上皮由来の癌の一種です。もちろん他のタイプ(腺癌など)も少数ですがでます。

 そして、HPV、ヒトパピローマウイルスが起こす癌の多くも扁平上皮癌なのですね。ですから、「子宮頸がん」ではなく「子宮頸癌」と書く方がこの場合は妥当そうですね。

 常用漢字の問題や難読ということ、または「癌」という感じの与えるイメージを配慮して「がん」と書いているのかもしれません。しかし、慣用ではありますが学問的にはこれは間違いであって、よろしくない記載です。


今回はここまで


 というわけで、今回はスーパー初歩の腫瘍の話をしてきました。

 「がん」と「癌」が違う概念であることが分かってもらえれば今回はよかった、としたいと思います。

 今後「がん」の発生する仕組みでわかっていることや、もう少し細かい「がん」の分け方と診断などにも触れていってみたいと思います。



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