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2020年6月17日水曜日

「消毒薬」の「空間噴霧」について

 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の世界的な流行が続いています。

 日本でもまだ新規感染者が毎日出続けている状況であり、流行の火種は残っていますし、海外から流入してくることは当然ありえますので、日常生活では予防の継続が必要であり、まさに専門家会議のいう「新しい生活様式」を継続することが重要ですね。

 「新しい生活様式」、すなわち予防をしながら生活する、ということ以上にする必要があることは個々人のレベルではないですね。

 ここのところそれでもかなりトンチキなことを言ったりやったりする人がたくさんいます(トンデモや陰謀論などまで含めると猛烈にたくさんいます)。
 
 気になっているのは、未だに PCR などの検査を広く国民全体に行うべき、などという思考停止ともいえるような暴論を WHO事務局長上級顧問の肩書きをもつ人や、医療ガバなんとかの医師が言っていたりすること。これについては、いずれまた触れたいと思います。
 
 もう一つは、今回の記事のテーマである、「空間噴霧」です。

 (空間除菌については以前にも触れています)



消毒薬の空間噴霧



 ここで取り上げる「消毒薬の空間噴霧」とは、

 ● 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 対策として、
 ● 次亜塩素酸水・次亜塩素酸ナトリウム水溶液その他の化学物質を
 ● 加湿器や噴霧器のような機械を用いて、
 ● ミスト状にして空間に噴霧する

 行為を指しています。ここが基本なので大事ですね。

 さて、何が問題、結論であるか、これを先に述べておきます。
 ● 「消毒薬」をミスト状にして空間に噴霧することの
  安全性は確認されていない
 ● 「消毒薬」をミスト状にして空間に噴霧することでの
  新型コロナウイルスSARS-CoV-2 の感染対策としての
  有効性は確認されていない
 ● よって、これらの検証がなされ、どちらもが確認されるまでは
  「消毒薬の空間噴霧」は行ってはいけない
 というシンプルな話です。


 さて、店舗や施設において、モクモクと空間にミスト状とした「化学物質」を噴霧している光景がよく見られるようです。
 
 主に用いられているのは次亜塩素酸水や亜塩素酸水のようですが、様々なタイプの「化学物質」を噴霧しています。ただ、水も化学物質でありますが、この場合にはただの加湿器ですね。

 さて、空間噴霧に触れるまでに、消毒薬について考えたいと思います。
 消毒薬ってそもそも何のために、どうやって使うものなのでしょうか。



消毒薬について



 消毒薬とは読んで字のごとく、消毒するための薬のことです。

 消毒というのは定義づけすると大変なのですが、簡単には、病原体(細菌やウイルス)の感染性を失われること、と考えていただければいいですね。

 健栄製薬さんのこのページがとても詳しく参考になります。


 消毒薬というのは代表的なものとしては、アルコール(エタノールなど)、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(塩素系漂白剤として有名)があげられますが、こういった消毒薬を効果的に効かせるためには以下のことが大事になります。

 ● 濃度
 ● 時間
 ● 温度
 ● 作用のさせ方(しっかり漬け込む、塗布する、清拭するなど)

これはどれも重要なファクターで、ただしい濃度で、しっかりと時間をかけて、温度も適切に作用させることが必要なんですね。
 これに加えて、

 ● 適用可能な部位や素材
 ● 消毒の対象となる病原体の種類

これもとても重要になります。
 特に人体に関しては、健栄製薬さんのページにあるように

消毒薬は抗生物質に比べ、抗菌スペクトルが広く、かつ殺菌力も強い。これは、裏を返せば、消毒薬は抗生物質よりも、毒性が高いといえる。したがって、消毒薬の人体への適用では、細心の注意を払いたい

 ということになります。
 病原体の種類も非常に重要ですが、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 はエンベロープのあるRNAウイルスである、ということは大事ですね。

 さて実際の使用例としては、例えば、アルコールで手を消毒する際には、70-85%vol のエタノール製剤で、手をしっかりと浸し、20秒程度かけて丁寧に全体に塗り込むこと、が必要になりますが、

これは
 ● 70-85% という濃度
 ● 20秒程度 という時間
 ● 室温~体温程度という温度
 ● すり込むという作用のさせ方
これらで、
 ● 人体の皮膚という部位・素材に
 ● 新型コロナウイルスSARS-CoV-2対策として
作用をさせている、といえる訳ですね。

 消毒薬についてはこのようにそれぞれの条件をしっかりと確認してどういう使い方が安全で効果的であるか、がわかっている物がおおく、正しく使うことが重要なのですね。




新型コロナウイルス SARS-CoV-2 対策としての消毒薬



 新型コロナウイルス SARS-CoV-2 は主に二つの感染ルートを介して感染します。




それは、
 ● 飛沫感染ルート
 ● 接触感染ルート
の二つです。

 飛沫感染ルートとは、感染者の作り出した「しぶき」= 飛沫 が、直接他の人に吸い込まれたり目などの粘膜に付着することでウイルスが伝播してくる経路のことで、くしゃみ、咳、会話などの際に主に問題になります。

 このルートからの感染を防ぐ方法としては、距離をとること、人混みへ行かないこと(三密を避ける)、換気をすること、そしてマスクやゴーグル、フェイスシールドを適切に用いること になってきますね。

 この飛沫感染ルートに関しては消毒薬の介在する余地はありません
 
 くしゃみしてしまえば1秒以内に飛沫は相手のところまで飛び、消毒薬をこのわずかな瞬間に作用させることはほぼ不可能であるというのがまずは大事ですね。
 そして、空間をある程度の時間漂ってから吸入する場合でも、十分な濃度・時間・作用のさせ方でこういった飛沫や乾燥した飛沫核(=エアロゾルともいいます)中のウイルスを不活化させる効果があることは全く証明されていないのですね。

 よって、繰り返しになりますが、飛沫感染ルートに関しては消毒薬の介在する余地はありません


 さてそうしますともう一つのルートが大事になります。
 それが接触感染ルートになります。
 接触感染ルートとは、汚染された手やモノを触れることで、自分の手が汚染され、その汚染された手で自分の口・鼻・目などの粘膜を触れることでウイルスが伝播してくるルートのことになります。

 このルートからの感染を防ぐ方法としては、手をよく洗うこと、洗えない場合には手を消毒すること、環境を消毒すること、になります。そう、ここで消毒薬の活躍の場がでてくるわけですね。
 一番大切なことは、ただし、消毒ではありません。
 手を洗うことです。手を介在してきますので、とにかく手を洗ってしまえばルートを断つことができるのが、第一義ですね。

 さて、しかしながら、消毒も正しく行えば有効です。
 手指消毒と環境消毒に分けて考えましょう。

 手指消毒は、人体の皮膚という手指に適用でき、新型コロナウイルスSARS-CoV-2に効果が確認されている消毒薬を、適切に(上に述べた条件などを満たして)用いることが大事です。繰り返しますが、例えば、アルコールで手を消毒する際には、70-85%vol のエタノール製剤で、手をしっかりと浸し、20秒程度かけて丁寧に全体に塗り込むこと、などですね。

 環境消毒は、とくに不特定多数の人がよく触れる表面、について、行うことが推奨されます。ドアノブ、共有の取っ手や手すり、共有パソコンの入力器具、ATMのタッチパネルのようなもの、などなどですね。
 適用はプラスチックや金属であることが多いでしょうけれども、十分に効果的に行うには例えば、次亜塩素酸ナトリウム水溶液を200ppm程度に薄めた液体で、ドアノブなどをしっかりと拭く、こういった使い方になりますね。これはしっかり浸すことで消毒し、拭き取ることで物理的にも残骸物を除去し、かつ消毒薬が対象物に作用しすぎないようにすることも意図しますね。

 さて、新型コロナウイルス SARS-CoV-2 の主に二つの感染ルートについて述べてきました。空間噴霧はどちらのルートに作用させることを目的にしており、どちらについて有効なのでしょうか

 答えから言うと、消毒薬の空間噴霧による有効性はどちらのルートにも確認されていません

 ではどういった消毒法が推奨されるのか。
 端的には、

 ● 手指消毒 については、アルコール製剤でしっかりすり込んで消毒
 ● 環境消毒 については、アルコール製剤、次亜塩素酸ナトリウム水溶液、
  中性洗剤で、しっかりと清拭する。

 になります。
 これ以外の消毒法も消毒薬も基本は必要ありません。これらが適切な使用であれば確実で安全といえるものであり、十分安価であり、市販されているからです。




安全性の問題



 消毒薬の安全性は、かならず問題になります。 
 病原体の機能を奪うことのできる化学物質なわけですから、人体にもなんらかの作用をすることは当然なんですね。

 なので、これは安全性のよく確認されているものを、安全で妥当な濃度・方法で人体に適用することが非常に重要ということになります。

 手指などの場合には、皮膚には比較的厚い角質層がありますが、アルコールであっても過敏症をおこす方がいるように、個人差というのも多くありますし、消毒薬が強ければ当然ながらやけどやただれを生じる可能性もあります。

 目や口、肺までの気道などは粘膜でおおわれていますが、これは角質層がなく非常に弱い組織です。そのようなところでは消毒薬での障害もうけやすくなります。

 とくに吸入する場合には化学性肺炎を引き起こす可能性などもあるわけで、安全性が十分に確認された方法で、正しい適用をすることが重要です。






公的な推奨はどうなっているか




In indoor spaces, routine application of disinfectants to environmental surfaces via spraying or fogging
(also known as fumigation or misting) is not recommended. 

 屋内での消毒薬の環境表面へのスプレーや噴霧は推奨しない、としています。

Do not perform disinfectant fogging for routine purposes in patient-care areas.

として、消毒薬の空間噴霧は患者のいる場所においてはルーチンでは行わないこと、としています。


Unless the pesticide product label specifically includes disinfection directions for fogging, fumigation, or wide-area or electrostatic spraying, EPA does not recommend using these methods to apply disinfectants

端的には勧めないとしていますね。

 というか、そもそも空間除菌や空間噴霧を推奨している公的機関はないと思われます。

 ※追記
 「5. (補論)空間噴霧について」の項目において「これらの国際的な知見に基づき、厚生労働省では、消毒剤や、その他ウイルスの量を減少させる物質について、人の眼や皮膚に付着したり、吸い込むおそれのある場所での空間噴霧をおすすめしていません」としています。


次亜塩素酸水を巡る動き



 こんな記事が NHK から出ています。

 
 バズフィードには空間噴霧に関連した記事が出ています



 これらは「次亜塩素酸水」の空間噴霧に関するものですが、「次亜塩素酸水」「電解水」などについてはどうなのかということを見たいと思います。

 これについては、簡単で、
 ● 空間噴霧をした場合の安全性は確認されていない
 ● 空間噴霧での新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染予防効果は確認されていない

が結論になります。
 殺菌力のある消毒薬であることなどは事実で、厚労省にも資料がありますし、食品などの殺菌目的では広く使用されている次亜塩素酸水ですが、繰り返しますが、

 ● 空間噴霧をした場合の安全性は確認されていない
 ● 空間噴霧での新型コロナウイルスSARS-CoV-2感染予防効果は確認されていない

のです。
 製品評価技術基盤機構(NITE)他の機関が次亜塩素酸水の新型コロナウイルスSARS-CoV-2に対する効果を検討しています(NHKのニュース)が、いずれも次亜塩素酸水にしっかりと浸した場合などの検討であり、「空間噴霧」による上記2ルートでの感染抑制効果は一切評価されていません

 また安全性についても空間噴霧については十分な評価はされていない状況ですね。

 ※追記
 その後、2020年6月26日、厚労省・経産省・消費者庁が合同で発表を行いました。
 経産省のページに詳細は載っていますが、次亜塩素酸水に関する使用法や注意事項がしっかりとまとめられています。





結局、空間噴霧とはなんなのか



 現時点では無意味であり有害な可能性もある方法であり、どこの素人のチープな発想がこれだけひろがったのであるかよくわかりませんが、一切考慮する必要のない行為です。感染症予防上は無意味です。

 行っている店舗や施設、推奨している人が、非常に低いリテラシーでまともではないことを識別するにはいいでしょう(これは首からかけるタイプの「空間除菌」製品がバカ発見器であるのと同様ですね)。
 
 多くの業者がうごめいています。

 「危険であるという証拠はない」「効果がないという証拠はない」などとかみついてきます。今朝もこんなメッセージが来ていました。

「次亜塩素酸水、反対するのはいいけど実験をして検証しなさい。頭の中の想像で社会に持論を展開するな、このエゴ医者。本当に次亜塩素酸水が体によくないという証拠を出せ。頭の中のエゴ論で有名になるな。発表するなら考えではなく世の中のために本当に真実を出しなさい。」

非常に愚かでため息が出ますね。何か行為をしようとする場合、何かをアーギュメントする場合には、まずそれを行う側が根拠を示していかねばなりません

 特に、景品表示法や薬機法は、消費者を守ることを立法趣旨としている面があることは明らかで、害が及ぶ可能性のあることや、優良性に関する事項は販売する業者側の立証がなければこれをうたうことはできないのです。


 

やるべきこととやってはいけないこと



 さて、簡単に見てきましたが、最後に新型コロナウイルス SARS-CoV-2 対策としてやるべきこととやってはいけないことをまとめておきます。


やりましょう


 ● 原則論
 ・十分な睡眠と栄養をとり規則正しい生活をする
 ・体調不良なら休む
  
 ● 飛沫感染対策
 ・3密を避ける、距離をとれるところではとる
 ・マスク・フェイスシールドをする
 ・咳エチケットを守る
 ・換気をする

 ● 接触感染対策
 ・手をしっかりあらう(無理なばあいの消毒を考慮)
 ・不特定多数の人が頻繁に触れる部分の消毒を考慮する
 ・消毒するなら、
  アルコール、次亜塩素酸ナトリウム液、中性洗剤で十分!

 ● 情報の取り方
 ・公的な情報源を中心に、複数の情報源をクロスチェックして
 ・特に推奨される行為については公的な情報の確認を
 
  とにかく基本をしっかりおこない予防していくという
  新しい生活様式、をたんたんと根気よく行うこと。


やめましょう


 ● 無駄な行為
 ・空間除菌、空間噴霧、買ってきた物などすべての消毒など
  
 ● 差別
 ・感染したヒトは悪くありません、
 ・医療従事者差別などもいけません。

 ● 情報過多になること、煽られること
 ・SNS や野良ブログ、業者の言い分などはまともに聞かない
 ・テレビのワイドショーなどを見ない
 ・国民全員検査などのトンデモ情報を相手にしない
 ・推奨されていない「余計なこと」でプラスアルファを狙わない
  → これは「心の隙間」お埋めしようという悪徳業者につけ込まれます

 基本を蔑ろにしないこと。煽られないこと。
 余計なことをしないこと。



 やってはいけない、ことをやることは実害になることがあるだけでなく、過剰な心配などで心身を消耗したり(ノイローゼになる方もいますよね)、まともなことが何であるかという判断をする能力(リテラシーですね)を毀損したりし、本当に実害のみならず、幅広く有害です。基本に立ち返り、ものごとを行っていきたいですね。




まとめ



 結論はもう文中でのべてあります。繰り返しになりますが、

 ● 「消毒薬」をミスト状にして空間に噴霧することの
  安全性は確認されていない
 ● 「消毒薬」をミスト状にして空間に噴霧することでの
  新型コロナウイルスSARS-CoV-2 の感染対策としての
  有効性は確認されていない
 ● よって、これらの検証がなされ、どちらもが確認されるまでは
  「消毒薬の空間噴霧」は行ってはいけない


 店舗や施設で行っている方はやめましょう。
 そういったところを見かけたらやめるようにぜひ伝えましょう。
 根拠なくこれらを推してくるような人は業者などでしょうから、遮断して距離を取りましょう。

 安全で確実な基本的なことをたんたんと行っていくことが何より重要です。




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2019年11月8日金曜日

「血液クレンジング」をめぐる動きについての簡単なまとめ





 「血液クレンジング」がここ数週間ちょっとした話題になっています。

 血液クレンジングとは、「末梢静脈血を採取して容器に入れ、その血液の入った容器内に酸素・オゾン・オキシドールなどを混ぜた後に、この血液を静脈から(点滴のようにして)体内へ戻すという「行為」」(のちにリンクを張る BuzzFeed の記事より)で、まぁ簡単に言うと、自由診療で行われているトンデモ・インチキ医療です。

 この「治療」の何が問題か、ということは以下にリンクする記事などを読んでいただきたいと思いますが、根拠のないトンデモ医療であって効果は見込めないこと、健康被害も懸念されること、これらが自由診療というかたちでなされており規制されていないこと、広告規制もうまくいっていなさそうな(ステマなどが横行している)こと、などですね。

 トンデモ医療の問題についてはまた分けて継続的に徹底的にまとめながら書いてみたいと思いますが、今回は「血液クレンジング」が唐突に話題になったということの紹介記事です。

 今回のトレンド・炎上の発端はインスタグラムなどの SNS で芸能人などが「血液クレンジング」を受けたことをアップしたことに対し、ツイッターなどのSNSで多くの方が突っ込んだことであったと思われます。実は、血液クレンジングについては7年ほど前にも一度大炎上したことがあったのが、しぶとく生き残っていたのですね…。

 今回の SNS 上での炎上を拾って BuzzFeed Japan Medical から連続で記事が出ました。

 ▶ 芸能人が拡散する「血液クレンジング」に批判殺到 
  「ニセ医学」「誇大宣伝」指摘も 2019.10.18
 ▶ 市川海老蔵、血液クレンジング報道に反論
  「やめれー」「勧めた事はない」 2019.10.19
 ▶ 「トンデモ医療であると、断言します」血液クレンジング、
  医学的に徹底検証してみた 2019.10.20
 ▶ 拡散や宣伝に協力すれば加害者
  トンデモ医療にだまされないためにできること 2019.10.20
 ▶ 「再発したら...」不安につけいる血液クレンジング 
  「主治医になんでも相談できる関係を」 2019.10.21

 実は、見ていただければわかるように、このうちの2本についてインタビューに答えています。私のところにお問い合わせをいただいたのは、ツイッター上で炎上が始まった翌日ぐらいであったと思いますが、実は以前よりトンデモ医療情報を集めている過程で、早い段階で「血液クレンジング」にも目を付けて調査を少ししていたので、インタビューには比較的すぐに答えることができました。
(参考 ▶ トンデモな健康・医療情報をもとめています
  …トンデモ医療情報を集めていますが、すでに1,000件を超える情報を得ています。)

 そしてその後、日本時間の昨日に国会でも尾辻議員より質問がなされ、BuzzFeed Japan Medical に詳報が載っています。
 ▶ 「血液クレンジング」厚労省が実態調査 
  「有効性・安全性を確認され薬事承認された製品はない」

 SNS が発端となり、一気に国会質問まで行ったわけですが、実効性のある取り締まりをしていただき、広告規制にかぎらず、自由診療で行われているトンデモ医療に規制のメスが入り、とんでもない商売をしている医療者にしっかりと引導を渡す必要があると思います。

 さて、今回のネットでの炎上、盛り上がりについて一連の流れはこの記事に詳しいですね。ネット上でどうなるか、メディアがどう追うかがわかり、ちょっと面白い。
 ▶ 血液クレンジング炎上騒動で考えるネットとメディアの話題のスパイラル

 今回は BuzzFeed Japan の独り勝ちで、たまたま取材もしていただけましたが、その後、他の媒体も後追いをしています。
 文春も二回にわたって記事を掲載しています
 ▶ 「血液クレンジング」なるニセ医療をめぐる
  健康情報の修羅を追って 2019.10.31
 ▶ 大炎上の「血液クレンジング療法」を日本の医療界は笑えるか?
  現役内科医が明かす“衝撃の事実”  2019.11.7
 また現代も
 ▶ 大炎上した「血液クレンジング」について
  医者が真剣に考えてみた 2019.10.30
 女性自身も
 ▶ 「血液クレンジングはニセ医学!」医師が論文と照合し検証
  2019.10.31
 エキサイトニュースにも
 ▶ 見城徹と秋元康が問題の「血液クレンジング」
  PRをこっそり削除していた! 幻冬舎メディアで
  “2人で一緒にやってる”と宣伝 2019.11.2
 東洋経済にも
 ▶ 血液クレンジング騒動で見えた広告規制の限界
 Business insiderにも
 ▶ 血液クレンジングに健康食品。
  飛びつく前に確かめたいこれだけの情報 2019.11.5
 国会質問については JCASTニュースも
 ▶ 「血液クレンジング」について国会で質問 厚労省が回答した内容

 その他にも記事も情報も結構でていますね。

 なかでもこの記事は是非読んでいただきたい一本です。特に、医療従事者をめざす学生さんや、医療従事者に既になっている人に…。
 ▶ 「血液クレンジング」はなぜ倫理に反しているか、医師の私の考え

 さてさて、今後どのような動きがあるか、具体的には厚労省などが広告規制で動いていくかといったことに注目しており、また、自由診療というものでの人体実験まがいの行為や商売優先の一部医療機関への規制などについても議論の端緒になってくれればと願っています。

 継続的にトンデモ医療についても取り組んでいきたいと思っています。
 
 







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2019年8月1日木曜日

アゴラに掲載されている暴論「無給医解消は他の医師の収入を減らして解決すべき」を読む

 アゴラという web 媒体にひどい暴論が掲載されており少し話題になっています。

▶ 無給医解消は他の医師の収入を減らして解決すべき

 この一文は、八幡 和郎 氏のもので、今話題の無給医に触れているものですが、あまりにもひどいので少し見てみたいと思います。

 そもそも無給医とは、大学等に所属する(ここがなかなか契約関係などで難しいところもあるのですが、所属ととらえています)医師で、診療に従事しているにも関わらず、その対価としての給与が支払われていない、そういう医師のことを言います。

 大学院生や研究生として大学に所属している若手に多く、完全に違法な状態です。

 まずそこを押さえなくてはいけません。「違法な状態」におかれた「労働者」であることがまずは問題なんですね。


▶ 外科医・中山祐次郎、産婦人科医・たぬきち 「無給医問題」について熱く対談
▶ 無給医問題「給与払うべき」医学界重鎮「若い医師いなくなる」
▶ 無給医問題 7病院が1300人の回答保留 若手医師ら不安訴える声
▶ なぜタダで働くのか?「無給医」たちの現実 ~医師の視点~


書き出しから間違えている


 さて、この一文では書き出しがこうなっています。

無給医という制度は若い医者に気の毒だから止めろという声が強くなっている。たしかに、法的に不明朗な制度だから改革が必要であることは間違いない。

間違いです。「気の毒だから」「止めろ」でもなければ、「法的に不明朗な制度だから」でもなく、最初に端的に述べたように、「違法状態」でありあってはならない、のです。もうこの時点で、全く問題を理解していないことを露呈しています。

 そして、次にはこう述べます。

しかし、この議論は、どうも医療業界が世論を騙して同情を引き出し、自分たちの利益をあくどく図っているとしか私には見えない。

あなたが色眼鏡をつうじてそう見てるだけですよね、と突っ込みたくなりますが、繰り返します。「医療業界が世論を騙」すわけではなく、まずは違法な労働慣行なのです。いいですか、労働者が給与を受け取れないことに「同情を引き出」す云々ではなく、違法なんですよ。お判りいただけます?無理かな。

 というわけで、非常に偏見とうがった見方でここから書き出しますという宣言のようにしてこの一文は始まっています。


医学部の偏差値が下がらないと日本の将来は絶望的?



 問題を捉えることに失敗している書き出しなのですが、ここから続く文も順にみていきたいと思います。

医学部の偏差値が他学部並みにならないと日本の経済も社会も絶望的な将来しかないと思っている。

と宣言をし、この後なぜそう思うのかが書かれていくわけです。


日本の平均寿命はいまも世界トップクラスであって、これ以上余計に資源を投入して力を入れるべき分野とは思えない。

前段の平均寿命はトップクラスは、正しいですね。昨日のニュースでタイミングよく新しい統計が発表されたことが伝えられています。
 ▶ 平均寿命、最高を更新 女性87.32歳 男性81.25歳 日本経済新聞

 OECD の Helth at a glance 2017 の Life expectancy の項目でも日本は一番です。

 平均寿命も健康寿命も非常に長いことはもう明らかで、ここはその通りですよね。では後段、「余計に資源を投入して力を入れるべき分野」なのかというところです。

 詳細は今回は省きますが、まず、医療費の増加や現状(維持するとして)の評価基準としては平均寿命だけが適切であるか、という論点はあるでしょう。が、しかしまぁそこは置いておき、実際医療のアウトカムは世界トップレベルで飽和しており、資源投入を増やす必要はない、という意見であれば、それは一つの意見であり検討に値するでしょう。価値判断ですから。

 確かに、資源投入量は非常に高くなっているでしょう。

 では、これ以上「余計に」とはどういうことなのでしょうか。アウトカムが伸びないのだから、「新たに」資源を投入すべきではないということなのでしょうかね…一度おきます。

 さて、国際比較ではどうでしょうか。

 またOECD の Helth at a glance 2017 を見てみましょう。一人当たりの医療費、Health expenditure per capita では一番はアメリカですね。
 日本は…19番目に出てきます。OECD平均よりはやや高い。Health expenditure in relation to GDP というところに書かれている GDPとの関係ではどうでしょう。
 日本は… 6番目。やはりアメリカが高いですね。日本はフランスなどよりは低いですね。

 決して世界一ではないんですね。医療費。

 世界一のアウトカム(平均寿命でそうみなすなら)ですが、費用が一番かかっているわけではなさそうです。少なくとも効率においてはびりっけつだとかそういう事はなさそうですね。

 GDP当たりでも突出して一番ではないのですね。

 一方、日本は高齢社会でこれは先進国でも一番の方ですよね…。そして先進国では高齢化は一般的に他の国でも進んではいます。
 そう考えるとこの次の文、

経済の力は低下して、長寿化ばかりが進み、高齢者福祉の負担に若年層は押しつぶされ、老後の生活の質は急速に悪化して行かざるを得ない。

は日本だけではなく、他の国にも言えることであるというのはわかりますよね。

GDPが増えず寿命だけ伸びれば、日本人の老後の生活の質がほかの国より低水準であることも、年金システムや医療・介護システムも財政も成り立たなくなっていくのは当然なのだ。

ここはよくわかりませんね。「老後の生活の質」の定義や比較が明確にされていないので、「ほかの国より」「低水準」であることの真偽がわかりません。システムと財政が成り立たなくなる理屈も、国際比較でみたように GDP当たりでも世界一医療費が高いわけではないことを考えると、他国の方が心配になりますね。
 なんだかよくわかりません。


他分野との比較をしはじめるが


 ここまでもよくわかりませんが、日本の医療は行き過ぎでありこのままでは国を亡ぼすという思い込みがあるようですね。まぁ思い込みだとは思うのですがのっかってみましょう。

 次にこういいだします。

ところが、いま日本は世界でもっともIT技術者の需給バランスが悪い国だとされている。

 これも定義やデータをしらないので「もっとも」「需給バランスが悪い」のが本当なのかどうか私にはわかりません。しかし、ここで、医療とどうもIT技術を比べたりトレード関係にあると持ち込もうとしていることはわかりますね。まぁ実際にはなんでITを引っ張りだしてきたんだかよくわからないんですが。

 実際、そのようで、

優秀な理科系人材は医学部にますます集中する傾向にある。こうしたなかで、医師の経済待遇をさらによくするのは愚の骨頂である。待遇を悪くして、有能な人材をニーズの高い分野に誘導すべきなのである。

と続きます。
 持論展開というところだと思いますが、優秀な人材が医学部に集中してしまい、ITなど他の分野に回すべき人材が相対的に減ってしまっている、または優秀な人材を取られてしまっているという見解のようですね。そして、待遇によってニーズの高い分野に人材を誘導してしまうことがのぞましいという表明ですね。

 さて、医学部や薬学部の希望者が上昇傾向である(あった)ことは確かであり、国家資格を得られ安定している(とおもわれる)職業につけるという意味で人気が高いことはまぁ事実なんでしょう。
 
 さて、それは給与だけの待遇によるものでしょうか、また待遇を悪くすると有能な人材が他の分野にうまく回るのでしょうか。

 私はそうは思いません。もちろん待遇は大事であり志望者数などに反映されるでしょうし競争率などは変えられるかもしれません。
 しかし、国家資格をえて安定した就業ができるというところを崩さなければ、基本的に志望者は大きくは変わらないのではないかと考えています。
 
 そもそも、医学部は全国に約80校、各大学 100名程度ですから、年間 8,000 人程度医師を養成しています。冷静に考えて、たとえ待遇を引き下げても、定員割れすることがなければ、医師数は変わらず、IT技術者が増えるわけでもないでしょう。

 優秀な人の流れのことのみを言っている?とすると優秀な人は医師を目指さなければITに行くのか?そんなことはなくて、個人的にはコンサルトファームや法学系などに行くように思いますけどね、「稼ぎだけ」で進路が変わる層の人はもっと儲けの大きい方へ行くでしょう。

 実際、そんなことをしたとして、医師の質はどうなるでしょう。下がる可能性がありますね。ITも別に上昇しないとすれば、より儲かるところに人が流れるようになって終わり、ではないでしょうか。つまりあまりに短絡的で、医師の待遇をさげて誘導するというのはおかしいと思うのです。

 IT技術者の給与を10倍、「安定度」を10倍にすれば多少変わるかもしれませんね。

 そもそも、どこかの待遇を引き下げて相対的に他をあげるという発想自体が、縮小に過剰適応しているのか、縮小を望んでいるのかは知りませんが理解不能です。

 IT側の待遇をめちゃくちゃあげればいい話でしょう。なぜ他の分野に人を回すために、ある分野の待遇を「下げる」などと言い出すのか。パイは大きくならない、分配の問題だ、と言い出しそうですね。やれやれです。こういう発想の人は需要や供給のバランスや正当な対価というものをどう考えているのか…困ってしまいます。

 

著者の価値観を前面に押し出す


 無給医の話から始まっているのでした。違法状態があり、給与が払われていない医師がおり、問題であるのでした。くどい?でもそこは大事ですよね。
 この次の文は突如、主語が拡大します。

他の仕事より恵まれて美味しい職業である医師という職業をますます不均衡に優遇するのはまったく愚劣である。

主語は医師全体という感じではあるのですが、なにか想定されていると思われる「美味しい職業」である医師となってしまいました。無給医はもう無視、というか忘れているようですね。
 IT技術者に比べてなのか、なんなのかしりませんが、「美味しい」らしいです。

 医師を一緒くたにしてとらえているのは明らかですし、「美味しい」というのもよくわかりません。収入のことでしょうか。国家資格で守られていることでしょうか。羨ましがられることでしょうか。

 医師の職務は他者への責任が大きな行為が多く、専門性も高く、独り立ちするまでには教育にも時間がかかる生き方の上に成り立っています。専門家であり高度な技術をゆうするものなのですから、雇用者はそれ相応の対価を支払い雇うのは当然でしょう。
 医師の給与が高すぎる、となぜ想定されているのか全く分かりませんが、楽な仕事とでも思っているんでしょうか。

 国際比較を参考に出してみましょう。またまた OECD の Helth at a glance 2017 よりDoctors (overall number) です。日本ではOECD平均より医師は少ないですね。

 給与はとびぬけていいんでしょうか。ちょっと見てみます。
 ▶第12回 【2017年版】医師の1時間あたりの給与はいくら?

 たしかに、パイロットの次にいいですね。1240万円となっています。

 ▶ 2019年版 業種別 モデル年収平均ランキング
 ただし、外資系金融の業界年収には負けていますね。

 まぁ、勤務時間や収入の細かな比較(開業医がうんぬんとか言い出すと話がややこしくなりますし、筆者は「医師」とひとくくりにしていますしね)は抜きにしますが、世界一の寿命というアウトカムを世界一ではない医療支出で、平均以下の医師数で回しているんです。それは、受益者にとっては「美味しい」でしょうが、働く人、つまり医師を含む医療従事者にはなりますが、にとって、これは「美味しい」んでしょうか。
 もちろんシステムや能力の差はあるでしょう。しかしそれと同時に「犠牲」が入っていることは想定できませんか?できないかな。わからずに言っているのであれば、愚劣なんじゃないかな。

 そもそも、「医師が恵まれている職業である」というこの著者のイメージ(実際にはなんの論証もしていないので思い込みの可能性が高いと思うのでありますが)を拡大して主語としていることも、まぁめちゃくちゃなんですけどね。


最後に暴論が加速



 ここでめちゃくちゃなことを言い出します。

無給医の制度が不合理なら、有給の医師や開業医などほかの医師の収入を減らして、無給医にまわせばいいだけだ。

はい?なんども言いますが、無給医は違法な状態であり、給与をまず出すということが必要、それだけの話なのです。なぜ、違法状態を是正するために、関係ない他者の給与を減らすことができるのか全く理解不能です。同じ「医師」だから?論理もくそもへったくれもないですね。

 主語をかえてみれば明白です。

 例えば優秀な研究者への研究費が少ないことが問題なことは言われていますが、「優秀でない研究者」の給与を減らして、優秀な研究者に回せばいいだけなのでしょうか。評価も難しいので、東大の研究者の悲惨な状況を改善するために地方大学には潰れてもらうのがよいのでしょうかね。あぁ、大学院生に給与もだしていない国ですから、教授の給与を削って大学院生にだせばいいのか…。

 あ、そもそも「日本国民」として同じなんだから、価値のない駄文でおいしい印税を得ている評論家がその人たちの給与を払うべきと言いたいのかもしれませんね!

 医療費総額をかえずになかで分配せよといっているんだぁ!というのなら、薬の処方量を減らしたり、診断を最小限にするようにして給与に回せ、というのも同じロジックで通用するでしょう。もちろん、はっきり言うとここのつながりは「感情論」なので、「美味しい」認定したところからお金を奪いたいのでしょうけれどもね…。

 この後、アルバイトのことに触れていますが、これは実態をしらずに述べているうえに、副業も認める動きとしても不適切なことを書いています
 そしてダメ押しでまた開業医などの給与を減らせばいいなどと言い出すのです。

 なぜこんなにめちゃくちゃなことを書くのか、最後に告白しています。

そうでなくとも恵まれている医師を社会的に不均衡にさらに恵まれたものにするのでなく、また、健康保険会計や患者に負担をかけるのでなく、医師の世界の収入分配の操作で問題を解決して欲しいと言うことだ。

「恵まれている医師」はい、思い込みですね、ましてや主語が大きい。無給医は恵まれているどころか、違法状態に置かれた弱者である労働者ですね。思い込みが激しい

 「社会的に不均衡に」はい、思い込みですね、日本の医療従事者の努力や環境の実態を知った方がよいですね。

 「健康保険会計や患者に負担をかけるのではなく」はい、では医療従事者だけに負担をかけるのをそれで正当化するということですかね。そもそも公定価格の設定がおかしくて医療従事者に給与をまともに出せない不当労働慣行がはびこっているのではないでしょうかね。その辺の考察はできないんでしょうか。無理でしょうね。

 「医師の世界の収入分配の操作で」…医師は連帯責任のようですね。日本人らしく「日本人」も連帯責任にしてしまってはどうでしょう。みんなの給与を下げて無給医や無給労働者に給与をだしては?


まぁ読む必要がなかっただけかもしれませんが


 ツッコミどころ満載ですが、最後まで突っ込めます。

ひとことでいえば、医師の生涯給与はいまでも他の職種より高すぎるのだから、それを増やさない範囲で無給医問題は解決すべきということだ。

ひとことでいえば、暴論ですよね。

 生涯給与が高すぎる、というこの認識。発想は極めて日本人的で足を引っ張りたい、相手を引き下ろしたい、というものであるのでしょうが、「高すぎる」根拠も示さず暴論を吐くというのは、評論家っていいなぁと思います。根拠なく好きなことを言えるなんて。そして、結論は全く意味が不明。

 この医師コンプレックスは一体何なんなのかわかりませんが、現状も把握していない、論拠も出さない、一方的な物言いを宣言する、本当によろしくない一文だと思います。

 日本に限らず医療の進歩と高度化によって、健康指標はどんどんよくなっています。寿命が延びているのもそうですし、実際疾病から回復する人も増えています。新生児死亡率、妊産婦死亡率なども世界的にも少しずつ良くなっています。
 
 新しい技術がはいれば費用は増加します。また、寿命が延びれば医療費が多くかかるようになるということもあるでしょう。

 先に一度置いておいた、これ以上「余計に」とはどういうことなのでしょうか。アウトカムが伸びないのだから。余計というのは意味がないという意味でしょうけれど、これは医療を進歩させるのはやめよう宣言なのでしょうか。飽和していて行き過ぎだと言いたいのでしょうか。

 需要はあるのです。需要があって、技術的にどんどん向上しているからさらに需要が生まれている。こういう時はどうするか考えてはどうでしょうか。基本的には産業化すればいいのではないでしょうか。とはいってもやりすぎるとアメリカになってしまう。現実的には公的セクターのお金で赤字を出している。
 だれば、需要のコントロールも必要。ならば自己負担率などをあげるという話などにもつながるのかもしれません…そういう展開ならわかるのです。

 現実問題として、医療費は伸びていますが、これは決して医療従事者の給与が伸びているのが主たる要因ではありません。高度化しどんどん開発されている新たな技術に対して多くの支出の伸びがあり、需要が増大しているにも関わらず価格による調整が効かないから、需要も調整されず増えているためという面もあるのではないかと思います(この辺は勘違いが多く、終末期の医療費が著しい負担だとか伸びているだとかというのも間違いですからね)。

 とまぁ脱線しました。つまりかんたんにいうと、医療はよくなっていると思っていますし、多くの犠牲の上に日本では成り立っているのはあきらかでしょうし(もうすぐ崩壊しかねませんが)、現場にいたこともある身としては、また冷静にものごとを考えていきたいと考えている立場からは、医療従事者、とくに医師が、敵視されるほど「美味しい」と思ったことはないんですよ…と言いたいんですけどね。



いい加減なのはやめてほしいですね



 門外漢が頓珍漢なことを言うのはよくあることなので構わないのですが、素人作文の思い込みというようなこれを堂々と発表して掲載してしまうというのはやはりちょっと下品であると思います。

 論評するには論拠を持ち、事実と意見は分け、持論を展開するにしても現在なされている議論の状況を把握して評価し、批判的検討を加えつつ慎重に、自己点検しながら発信をするべきであると思います。

 言論とは言いっぱなしのつぶやきのことなのでしょうか。評論家というのは自分の思い込みを吐露するだけの無責任な生き方なのでしょうか。それが不安になります。
 
 無給医問題は非常に深刻な問題であり、今回は書きませんが、日本の医療のゆがみを反映しているものです。解決しなくてはならない重要なことに対して、いい加減なことを言わないでいただきたい。そう思います。


関連リンク



<無給医の残業代請求について>
 








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2019年7月26日金曜日

BuzzFeed に HPVワクチンについて、元担当官へのインタビュー記事が出ています

 昨日付で、BuzzFeed にHPVワクチン(HPVV)について、厚生労働省での元担当官へのインタビュー記事が出ています。




 まず何よりもこの記事については、記者の岩永氏もインタビューを受けた正林さんも忌憚なく言いたいことを述べており、これだけの記事が出せたことは素晴らしいと評価できるように思います。

 内容は読んでいただくとして、所感を。

 まず、メディアと行政で責任を押し付けあうことは基本的に建設的ではありませんが、両者に言いたいことがあるのは非常によくわかります。

 時にどちらがインタビューしているのかわからなくなるようなこの記事は、緊張感がありながらも聞きたいこと言いたいことをストレートに出しており、隠すところ、ふくむところがないという意味で、非常に好感がもてると思いました。

 行政としては、民意に背くことを決断するのは困難な場合もあり(それが適切かどうかは今は置いておいて現実的な日本の行政としては、という意味合いで)、民意を操ることもあるメディアに対してこの問題では言いたいことがあるのはよく理解できます。
 ましてや、元担当官として、偏った質問を繰り返すばかりであった(ある)メディアの相手を続けてきたのであれば、その無力感・徒労感と憤りは想像に難くありません。

 一方、メディアとしても一緒くたにされ、すべての責任を押し付けられることに反発するのはわかります。また、行政の態度としては、ポピュリスティックではなく、正しい科学的内容に基づいて、断固とした方針を打ち出さない行政へまっすぐ突っ込み、責任回避や責任転嫁をするなと言いたくなるのも物言いとしても理解可能です。

 話は HPVV にとどまらず MMR とそれに絡むワクチン行政の変遷、ゼロリスク信仰の国民性にも触れていますが、責任回避や役人のこざかしい物言いというのが前面にでているというよりは、確かに要因として無視できない事項に触れようとしているというふうにもとらえられると感じます。

 肝の部分、

ーーHPVワクチンはどうやったら積極的勧奨を再開できると思いますか?
わかりません。ただ、国民の理解は重要です。
 
 ここに本当にすべてが凝集されてしまっているように思います。
 国民に理解させるにはどうすればいいのか、本当に理解を得たというのはどうやって評価するのか、そもそも、理解を得るまで再開しないことが多くの国民の益や国益にかなっているやり方なのか…。


ーーこの先もこう着状態が続くことをよしとするのでしょうか?
いずれにしても、このワクチンに不安を感じている多くの国民の気持ちに変化がない限り、例え積極的勧奨を再開したとしても接種する人は増えないのではないでしょうか? 
このワクチンへの不信感を払拭するために役所も新しい情報をリーフレットなどで国民に伝えるようにしていますが、世論を動かすためにはマスコミなどの報道も考え直してもらわなくてはならないと思います。 
 
 マスコミや行政だけでなく、草の根でもSNSでも、各自治体なども情報をどんどん出していかないとかわらないだろうな、と改めて思うところではあります。

 しかし、いずれにしても行政、メディア、そして国民、いずれも責任の所在や問題点を押し付けあい罵り合うばかりではなく、実際に HPVV の積極的勧奨接種の再開ができるように現実的に行動していくことを優先しないといけないとつくづく感じました。

 非常に読みごたえがありますのでぜひご一読を。









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2019年6月21日金曜日

国際調査でワクチンへの信用度が低い国として日本・フランスなどが目立つ

 昨日付で、ウェルカムトラストのグローバルモニター報告書 2018 が出ました。




 ウェルカムトラスト(Wiki)は、イギリスの、医学研究支援などをしている大きな財団です。この報告書はかなり大規模な健康に関する意識の調査になります。

 さて、この報告書の中で、ワクチンを信頼している人の率が少ない国としてフランス、日本、ウクライナなどが目立つことが示されています(Chapter 5 に書かれています)。



 この地図は赤い色ほどワクチンへの信用が低いことを表しています。


 地域別でも、ウクライナと日本が特に悪くフランスも先進国の中ではまずいレベルですね。全世界では 79% の人がワクチンが安全であるということに同意日本は34%)し、7%が反対。全世界の 92% の親は子供にワクチンを受けさせたと回答しています(日本は88%)。

 Dataset をダウンロードして、見てみました。
 Q25 が、ワクチンは安全であるか否かを聞いています。


 どっちとも言い難いという意見が最も多くなっていますね。男女別でみてみるとこのようになります。

 
 少々女性の方が安全であると同意する人が少ないように見えますね。
 このほか年齢別、収入別、学歴別、住んでいる地域特性別などにもデータがまとめられています。

 さて、これを受けてたくさんの報道もなされています。

 などなど…。

 BBCの記事の中では、

In Japan, concerns about the HPV vaccine and a reported link with neurological problems were widely publicised, which experts think knocked confidence in immunisation in general.

 
として HPVVに対する副反応疑いのある訴えがワクチンの信頼全般をだめにしたと、触れられており、Suspension of government support for the HPV vaccine in Japan へのリンクも貼られています。

 フランスでのワクチンの不信は2009年のインフルエンザパンデミック前後において、WHOと製薬企業が癒着しているのではないかという噂などが広まったことから急激に信用度が悪化したのではないか、と分析する記事もあります。

 日本でもワクチンに反対する言動は目立ちますが、やはり HPVV副反応疑いの騒動は大きく影響している可能性があるようにも思えます。

 いずれにせよ、ワクチンへの不信感をぬぐっていかねばなりませんし、間違った情報や不正確な情報に振り回されないようにするため、正しい情報を多く得られる状況を作ることも重要と思います。





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2019年6月16日日曜日

HPVV についての非常にわかりやすく丁寧な Online セミナー動画

 HPVV であるガーダシル製造元の MSD のサイトに、HPVVについて非常にわかりやすく丁寧な Online セミナーを編集した動画が掲載されています。





 HPVV の解説(エビデンスや数値もたくさんありわかりやすくも非常に正確ですばらしいです)、日本での騒動の経緯、今後どうしていくべきか、についても強いメッセージを発信されています。

 子宮頸癌は交通事故より多くの命を奪っています。HPVV の積極的勧奨接種再開に向けてしっかりと医療従事者も学んで行動していくことが必要と思います。

 医療従事者向けですが、ぜひご覧いただきたいと思います。

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2019年6月14日金曜日

朝日新聞に HPVV に関する偏った一連の記事が掲載される

 HPVV についてはこのブログでも何回も触れてきました。
 問題と感じることがありましたので今日は書きたいと思います。


朝日新聞に HPVV に関する新しい記事が



 HPVV とは、ヒトパピローマウイルスワクチン、いわゆる「子宮頸癌ワクチン」のことです。基本的なことは以前にここに書きました。
 ▶ ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1
 ここにもまとめています ▶ 【情報】ワクチンの情報のあるサイトまとめ

 さて、昨日2019年6月12日付で紙媒体の朝日新聞、ネット上の朝日新聞デジタル「アピタル」(4本関連記事がありました)に、この HPVV に関する記事が出ました。




 ▶ 子宮頸がんワクチン、積極的勧奨中止から6年 続く検証 
 ▶ 「副反応の治療態勢、整備が欠かせぬ」HPVワクチン
 ▶ HPVワクチン接種「社会の目線配慮し、合意形成を」

 この3本の記事は著しくバランスを欠く状況ですのでちょっと今日は書いてみたいと思います。のちに触れますが、もう1本のインタビュー記事は現実的な内容でした。

 (朝日新聞のHPVV に関する記事では、以前にもこんなことがありました
 ▶ 朝日新聞配信の子宮頸癌の記事、Yahoo!ニュース配信では一部を削除)



その前日までには…


 その前日までには、中日新聞、時事メディカルにも記事が出ていますが、これらは非常に冷静かつこれまでの経過を踏まえてよく書かれている記事でした。一読をお勧めします。
 
 ▶ 健康被害裁判続く子宮頸がんワクチン 「命を守る接種」学会で相次ぐ声 中日
 ▶ 子宮頸がんと副反応、埋もれた調査 「名古屋スタディ」監修教授に聞く 時事



HPVV の勧奨接種中止からこれまで



 HPVV は、定期接種が開始された2013年4月直後から「麻痺などが起こった」という副反応の可能性のある訴えがあり、マスメディアもこれを大きく取り上げて社会的な問題となったこともあり、これら「麻痺など」の「副反応と思われる症状」とワクチンの因果関係の調査が十分に行われるまで、という名目で「積極的な勧奨の中止」がなされたまますでに6年がたっています。

 その後、HPVVに関する科学的な知見は国内・国外ともに積み上げられ、上記時事メディカルの記事にもあるように、日本においては名古屋市での大掛かりなスタディも実施され、HPVVの「副反応と思われる症状」はワクチンの副反応ではなく、同年代に起こりやすい転換性障害(いわゆるヒステリー症状)などの他の原因の紛れ込みがかなりあるのではないかと考えられるようになっています。
参考 ▶ 転換性障害 Wikipedia、実際に診断は難しいこともあり、誤診率は4%近くあるという文献もあります BMJ 2005; 331

 不安などが原因でワクチン後に様々な症状がでることも、決して珍しいことではなく、AEFI と呼ばれ、これについてもレビューがされていたりします。
 ▶ Anxiety-related adverse events following immunization (AEFI): A systematic review of published clusters of illness. Vaccine Volume 36, Issue 2, 4 January 2018, Pages 299-305

さて、一部の医師たちが、HPVV を打つと起こる有害な事象を HANSと名付けたり、脳炎が生じているに違いない、と言っていますが、彼らの「仮説」はなぜかしっかり検証されず、査読付きのまともな科学雑誌に投稿しての議論は行われず、商業誌などで自説を開陳するばかりで科学的な討論の俎上にのせない状況が続いています。

 そして、これらの意見を「両論併記」の片側としてとりあげるメディアがまだあります…(今回の朝日もまさにこれなのでこの後触れていきたいと思います)。
 実は日経メディカルが以前にそのまま取り上げていました。
 ▶ 日経メディカル誌にとんでもない記事が掲載

 厚生労働省の「副反応と思われる症状」に関しての研究班では、科学的にまずいことが行われたりもしたことも記憶に新しいですが、いずれにせよ、これらの特異的な有害な事象とワクチンの因果関係は明らかになっていません

 国際的にも、海外の多くの研究で、日本で騒がれているような有害な事象はまとめられておらず、WHO は安全性についての宣言をし、日本での状況は HPVV とは関係ないと声明を出しています
 ▶ HPVV についての WHO 研究所の声明

 また、CDC や FDA などのアメリカの公的機関、イギリスの NHS やオーストラリアその他各国の公的機関も、HPVV は安全と宣言し、接種をかなり極的に男女ともに勧奨している状況です。

 日本国内でも、関連学術団体から見解もでています(▶PDFファイル)。
 さまざまな団体が見解を出していますが、日本プライマリ・ケア連合学会のHPVVに対する考え方も公表されています(▶ PDFファイル)。

 そういった状況で、HPVV の安全性はほぼコンセンサスが得られ、積極的勧奨の再開にむけて動き出すことが望まれる状況が出来上がってきているといえると思われます。


HPVV ワクチンの効果に関する研究はつみあがっている


 そういう状況で HPVV の効果については世界各国から研究報告が積みあがってきており、HPVV の接種率を上げ、あわせて検診をしっかり行うことで、2059年までに高所得国(人間開発指数が高い国)において子宮頸癌は事実上の撲滅状態にできるであろうという予測を示す研究が報告も出ています。
 ▶ HPVV で子宮頸癌を撲滅状態にできるという予測の論文が出ました

 HPVV については以前のブログ記事でもまとめましたが、今後も証拠・エビデンスを紹介していきたいと考えています。

 さてそういう状況なのですが、今回の朝日新聞の記事を少し検証してみたいと思います。


両論併記をしているつもりなんでしょうけれど


 朝日の記事を見てみます。

接種ががんの発症を減らせることを示唆する複数のデータが公表される一方で、重い副反応への心配も消えたとはいえない。

という書き出しであり、HPVVの効果は明らかになっている。一方、経緯も踏まえて副反応についても記載しますという形になっているように読めますね。

 書き出しは、HPVVを接種させることへの不安からはじまっています。まぁ経緯を考えればありでしょう。
 記事の続きでは、子宮頸癌の概説とHPVVについて触れた後に、効果に関する松山市とエジンバラ大の論文の結果を簡単に紹介しています。

 ここで、欄外のグラフを見てみますが、これも意図を感じます。


 がんにならない人が10万人あたり9万8678人とドーナツグラフでかくと、いかにもわずかな人へしか効果がないように見えますよね。これは間違いではないものの、公衆衛生施策のなんたるかをわかっていないとやってしまう方法でのグラフの提示としかいいようがありません。

 本文中では
国内で子宮頸がんになる人は年間約1万人で、約2800人が死亡している。
と実数で記載していますが、これも十分大きな数字であり、これを防ぐことができるのは十分に価値があると考えられませんでしょうか。グラフで、ごくわずかを強調するかのような記載は、一般的ではありません。
 疫学では10万人あたりという数字をよくつかうのですが、こういったグラフをかくと、多くの疾患は大したことがないように見えてしまうのです。
 かなり問題のある印象の操作と思えます

 その後、コクランについて書いているのですが、ここでは、コクランに掲載されたワクチン研究の一部にワクチン会社の資金提供を受けた研究者が評価に加わっていたという批判があることを記載し、研究そのものが結局どう評価されているのかにはふれず、いかにもコクランに掲載された研究が偏っているかのような印象操作をしています

一部メンバーが「ワクチンの関連企業から資金提供を受けていた研究者が、研究の評価に加わっている」

それはCOIといって利益相反についてなのですが、研究の評価がしっかりなされていれば、それが透明性をもって明らかにされていればあり得てもよいことで、即、それだからダメ、ということではないのです。



印象操作ととらえられかねない記載の連続



 さて、その次の小見出しです。




 「重い副反応」と書かれています。さて、地の文ではこうなっています。

… HPVワクチンの安全性は専門家の間で評価が必ずしも一致していない。

ここがもうすでに両論併記の罠にはまっており、誠実に書くなら、「一部の医療関係者が安全性に異を唱え続けている」程度になると考えてよいと思います。なぜなら、国外の研究でも国内の研究でもワクチンに関わる医療関係者のあいだでも、ほぼ安全性の評価は問題ないであろうで一致している状況であるからです。

 そして、ワクチン接種後の副反応の可能性がある症状としてとりあげているのは、

体の広範囲にわたる痛み…呼吸困難やじんましん、嘔吐といった重い症状

と記載しています。「重い」という言葉はここでは不適切です。というのは、重い症状というのは医学的にはやはり入院加療が必要である、後遺症として残存するなどに用いるべきであり、じんましん、嘔吐が重いと書くのはさすがに印象操作でしょう

 そして、その頻度についても

その頻度は、インフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンほかのワクチンと比べて高い

と書きます。これは慎重に書かねばならず、ほかのワクチンから大きくはずれているのか否か、高いなら、どの程度高く、それは明らかな異常な状態なのかを書かねばならないでしょう。やはり印象操作ですね。

そして、WHOは「極めて安全」とするが…「アナフィラキシー」と、接種との関係があると推定した

と書いています。これは、他のワクチンでも推定されていますし、アナフィラキシーは起こりうることは HPVVに関する他の公的情報でも触れられており、ミスリーディングな記載です。頻度も100万件に1件程度のものを突然取り出しています。

 その次に、鹿児島大の高嶋教授のインタビューが入りますが、ここで唐突に

まひやけれいんなどをふくむ重い症状の人

がでてきます。峻別すべき副反応の患者を、データなしでここで唐突に触れており、これもあきらかなミスリーディングです。


両論併記をしているつもりなんでしょうけれど



 この高嶋教授へのインタビューは別建てでデジタルの方に書かれています。
 ▶ 「副反応の治療態勢、整備が欠かせぬ」HPVワクチン

 この記事(インタビュー記事の体ですので、論拠やそのほかは発言者に責任があるという形にしているのかなと思われます)と、HPVVで「自己免疫性脳炎」なるものが起こるということについては、機会を改めてこのブログで書いてみたいと思いますが、現時点では、あくまでも一部の方の仮説にすぎず、まとめて報告した査読付き論文はなく、対照群を設定した疫学的な検討もなく、商業誌での繰り返しての提起にすぎず、神経内科系の医師の間でもコンセンサスを得られているものではない、ということは触れておかねばならないと思います。

 一方、同時に朝日新聞にはこのようなインタビュー記事も出ています。このインタビューはよくまとまっているので一読をお勧めします(他の3本は勧めません)。
 ▶ HPVワクチン「1日も早く積極的な勧奨再開を」

 こちらを掲載したということは一見冷静でまともなんですが、両論併記の片側として出してしまっているのでこちらが一般的な医療従事者の現在の認識とうまく伝わるとは思えません。

 科学や医学については、両論併記は適切ではない場合が多いように思います。
 なぜなら、論拠ありの正しい言説 vs. 信仰 になりがちだからです。

 両論併記すればなんでも正しいという陳腐な考え方がこの新聞社にはどうもあるように思えてなりません。
 「安全性は専門家の間で評価が必ずしも一致していない」といいますが、どこまで一致すればこの新聞社は一致とするのでしょう。
 たとえば「人を殺してはいけないという倫理観は必ずしも一致していない」だって真でしょうが、書き方のバランスというものがあるはずです。
 
 どういった専門家のどんな議論の状況で、どうしてそう判断したのか、しっかり書けないようでは中学生の壁新聞以下でしょう。

 そして、この記事群の一つ、
 ▶ HPVワクチン接種「社会の目線配慮し、合意形成を」
これについては社会の目線・反対者の「お気持ち」への配慮などを中心とした記事で、科学的なことについてだけ読み通すと、意味はわかるのですが、過剰配慮や媚を売ることまで科学に求めているともとれ、やや過剰でバランスを欠く部分があると言えると思います。
 個別の記事の検討はまたしたいと思います。


最大の問題は



 名古屋スタディという日本で実施された副反応が増えているかどうかを検討した研究があります。これについては改めてまた触れたいと思いますが、この記事では全く触れていません

 最初に紹介した時事メディカルに詳しくのっていますが、これを取り上げない時点で、この記事群はどうしようもありません。

 朝日新聞は、こういう姿勢である、と明らかに宣言したととらえてよい記事群であり、朝日の医療系の記事は信頼すべきではない、と医師として言っておきたいと思います。



副反応被害者とされる方へのサポートはさらに手厚く



 さて、この問題に関しては、副反応の可能性のある被害者が実際にいることは忘れてはいけません。もちろん、実際にワクチンの副反応であった方もいるでしょう、また、他の疾患の紛れ込みや、ワクチン接種とは関係なく発症した疾患であった場合もあるでしょう。
 いずれにせよ、HPVV論争とは関係なく、症状のある方苦しんでいる方については医療が十分に提供され、立場性を超えて正しい診断と正しい治療を受けられる状況を作り出すことが大切です。

 HPVVでは副反応は起こらない、というのは嘘です。どんなワクチンでも副反応は起こりえますし、未知の新しい症状・有害事象が起こる可能性は常にあります。ですから、可能性があることはしっかりと拾い上げ、科学的に検証をし、多くの検討がなされねばなりません。

 一方、HPVVの副反応と決めつけられてしまって、他の疾患などがまじっていることも徹底的に避けねばなりません。正しい診断がつかなければ正しい治療が受けられないからです。転換性障害であれば、しっかりと児童精神科を中心としたサポートの体制が必要ですし、起立性調節障害でもしかり、もし本当に、脳炎などがあるのであれば、同様の症状のある対症群と比較して、有意に異なる点を見出せば新しい治療が検討できる可能性もあります。

 とにかく、副反応と思われる方を含むワクチン接種後の有害な事象に苦しむ方については、論争の具にしないことが大切です。患者の会などは、まずは最優先としてそういった方へのサポートと適切な医療提供ができるような協力体制の再構築をしていただきたいと個人的には願っています。



不幸を減らすために



 今回の朝日新聞の一連の記事は、印象操作により HPVV を忌避させる効果が強くでているととらえられると思います。立場性を超えてこれは残念であり、医療系のリテラシーについてこの新聞社は非常にまずい状況であるということが明らかに出ているように思います。

 他の媒体が冷静に状況をみながら良い記事を書き出しているときに、なぜこのような記事が出るようになってしまっているのか、他人事ながら心配になります。

 子宮頸癌は確実に多くの人の健康と命を奪っている疾患です
 これを克服する方法を持ち合わせているにも関わらず、実質的に使用されていない状況が「社会的な要因で」起きてしまっていることは大変によろしくないことと思います。

 今後も HPVV については情報を提供していきたいと思います。


● 関連記事


 ぜひご覧いただきたい動画があります。
 ▶ HPVV についての非常にわかりやすく丁寧な Online セミナー動画







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2019年5月29日水曜日

NHK のおはよう日本に少し出演しました

 本日は晴天のベセスダです。のんびりメモリアルデー明けの週、スタートです。

 27日、NHKの朝のニュース番組「おはよう日本」に少し出演しました。
 テーマは「はしか ワクチン拒否の実態」(リンクから番組ページのピックアップに飛べます)。

Fig.1 ホームページより


 ワクチンを拒否する方や躊躇される方が、世界中に多く、かつ日本にもその流れが入ってきているということで、国際部の方が取材していく過程でたまたま私までたどり着いていただき、なんとアメリカまで来られて取材していただきました。

 記者の方とも意見交換でき、また、こちらもお伝えしたいことを少しお話できました。

 当日の放送を見ましたが、様々な角度から、しかししっかりと取材した内容で(実際には取材したものが多すぎて編集に苦労されたとお伺いしました)大変によい特集であったと思います。

 反響はそれなりにあり、多くのメッセージやメールをいただきました。
 まぁアンチ、というか反ワクチンの方々もなぜか盛り上がっておりますが…苦笑です。

 番組内容はきわめて良質で、最後に添記者がまとめてくださっていたように、「『ワクチンは危険だ』などと単純化されたり、『打ってはいけない』などと断言されると信じてしまいがちですが、そうした分かりやすい情報ほど気をつけるべき」というのは何度でも繰り返しお伝えしたいと思います。

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2019年5月11日土曜日

【記事紹介】反ワクチン運動をやめたわけ

 一つよい note を紹介したいと思います。
 ナカイサヤカさんの訳された海外の、反ワクチン運動をやめた母親の手記です。



 翻訳元の記事は Voices for Vaccines に掲載された手記ですね。
 反ワクチンにとりこまれていたお母さんがどうして止められたのか、どのように感じ考えたのかが端的に記されていて学びがありますね。

病気が大幅に減ったのは衛生と清潔さの向上が理由ででワクチンではないと,彼らは私に言いましたが、そうではないことを証明しているCDCによるグラフと情報を見つけることができました。



 最近、クーヨンという雑誌である医師が「感染症の管理に重要なのは予防接種ではなく、公衆衛生だと言えます」などという misinformation を流していましたが、是非この手記を読み、もとのデータをみて学んでほしいところです。

反ワクチン運動をカルトの一種だとみています。


同意です。あれはカルトの一種ですから、注意が必要です。
 この手記は短いものですが学びがあります。ぜひご覧ください。






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2019年3月14日木曜日

ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)の見分け方、査読依頼、インパクトファクター…

 ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)について何度か書いてきましたが、今回はそういったジャーナルの見分け方などについて書きたいと思います。




 ハゲタカジャーナルは、日本医学会は悪徳雑誌、Wikipedia では捕食出版としていますね。この記事ではあまり考えずに言葉を使います。

 前までの関連記事。
 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと
 ▶ ハゲタカジャーナル に掲載して博士号取得した例がかなりありそうとの調査
 ▶ ハゲタカジャーナルへ(悪徳雑誌)の投稿を控えるよう日本医学会が注意喚起

 この問題については、北海道大学北キャンパス図書室「国際オープンアクセスウィーク2018」企画の「オープンアクセスとハゲタカジャーナル」の資料もわかりやすいですね。

 なぜ横行するのかは、講談社のサイトに記事があります。
 ▶ ハゲタカジャーナル、ダメ絶対! でも、その横行にはそれなりの理由が……
 ハフィントンポストにもありましたね。
 ▶ 劣悪な学術誌「ハゲタカジャーナル」とは? 掲載料が目当て、 根拠乏しい「疑似科学」を拡散
 日経新聞にも
 ▶ 学術の健全性損なう「ハゲタカジャーナル」 


ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)の見分け方


 投稿前に考えることをまとめてくれているサイトがあります。
 Think. Check. Submit. (日本語版) です。これは日本医学会の注意喚起でも引用されていました。再度簡単にまとめて示します。これをまずはチェックしましょう。

 (1) あなたや同僚はそのジャーナルについて、
   掲載論文を以前に読んだことがあり
   最新論文を容易に見つけることができますか
 (2) 出版社名が明記され、メール、電話、郵便で連絡が取れますか。
 (3) そのジャーナルはどのような査読を行うか明白ですか。
 (4) そのジャーナルで掲載されるための料金の内容と
   どの段階で請求されるかについて説明 されていますか。
 (5) そのジャーナルには編集委員会は設置されていますか。
   あなたは編集委員について知っ ており、
   編集委員は自身のサイトでそのジャーナルに触れていますか
 (6) その出版社は学術出版業界で認められた団体に加盟していますか。
   ・Committee for Publication Ethics (COPE)
   ・Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA) 
 (7) そのジャーナルは以下のデータベースに収録されていますか。
   ・MEDLINE
   ・WHO Global Index Medicus (GIM) 
   ・Web of Science
   ・Scopus 
 (8) そのジャーナルは以下のリストに登録されていますか。
   ・Directory of Open Access Journals (DOAJ)
 

ホワイトリスト=信用できるリストを用いてのチェック


 とくにDOAJのリストはチェックしておきたいところ。いわゆるホワイトリストであり、ここに登録されていればとりあえずは安心です。
 もちろん、MEDLINE などに登録されているか、検索もするべきです。

ブラックリスト=ハゲタカジャーナル…


 悪徳雑誌である、またはかなり疑わしい、ジャーナルをまとめたリストも公開されていますので、投稿前や査読前、論文を読む前にここでチェックするのも大事です。ホワイトリストと合わせて使用することで、かなり網羅できるはずです。有名なのは以下。

  ▶ Beall's List of Predatory Journals and Publishers - Publishers
  ▶ Stop Predatory Journals
  ▶ CABELLS

 ブログではこんな記事もありました。
  ▶ ハゲタカ出版社チェックはしておきましょう


ハゲタカジャーナルにはインパクトファクター(Impact Factor; IF) はついていないことももちろんありますね


 IFは Clarivate Analytics 社が Web of Science内の被引用数に基づいて計算しており、IFを持つジャーナルは Web of Scienceに採録されている約12,000タイトルに限られています。なので、IFがついていることも重要です。Journal Citation Reports(JCR)にそれらは掲載されます。
 ただし、まともなジャーナルでも新しい雑誌では尽きませんので注意は必要です。
 
 また、IFだけでなく Elsevier の行っている CiteScore というものもあり、こちらは  Scopus での被引用数から算出されています。
 なので、Scopus もチェックするといいですね。

 さらなる注意としては、独自の計算を IF として掲載していることがありますので、かならず、JCR または CiteScore でチェックしましょう。

こういったジャーナルに載ってしまうと不名誉です。また査読依頼は断りましょう


 騙されたり、業績水増し目的だったりするかもしれませんが、こういった悪徳雑誌に載ってしまうと不名誉です。こんないいブログもありました。
 ▶ ハゲタカジャーナル(粗悪学術誌)論文掲載 不名誉な大学ランキング【悲報】東大、阪大などの研究者も投稿していたことが発覚  (≧▽≦ )

 とにかくこういった雑誌に掲載されることは不名誉ですし、業績としてはてなマークになります。また査読を引き受けることも加担したことになりますから、拒否しましょう。
 
 科学の健全な維持・発展のために、こういった雑誌にはかかわらないようにしないといけませんね。


関連記事など


 ▶ ハゲタカジャーナルに関わらないために Medical EnglishService
 ▶ <記事紹介> なぜ研究者は「ハゲタカジャーナル」で論文を出版してしまうのか
 ▶ ハゲタカジャーナル 対策がヤバ過ぎる…
 ▶ ”粗悪学術誌””ハゲタカジャーナル”の何が悪いの?
 ▶ ハゲタカジャーナルに奪われた私の1500ドル
 ▶ 【重要】ハゲタカジャーナルにご注意ください








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