2019年3月22日金曜日

日経メディカル誌にとんでもない記事が掲載

 日経メディカルという雑誌にとんでもない記事が掲載されました。
 まれにみるひどさであったので、抗議しました。このブログ記事に抗議がくるかもしれませんが、書きます。


HPVV副反応問題についてここにきてまたトンデモ記事が



 シリーズ◎何でもPros Cons【どうする? HPVワクチン接種の積極的勧奨】
 HPVワクチン接種後の神経障害は自己免疫性脳炎が原因
 高嶋博氏(鹿児島大学脳神経内科・老年病学教授)に聞く
 2019/3/22 加藤勇治=日経メディカル

 何がとんでもないのかについては少々説明をしないといけませんが、結論から言うと、科学的根拠に乏しく、しかも偏った意見を、いかにもいろいろな「論」があるという形で両論併記するような取り上げ方、これまでの経緯などについて不勉強かつ不見識なままに掲載していること、賛否両論の「論」とは何かをそもそも理解していないであろう記事であることが問題です。

 この記事では HPVワクチン(HPVV)の副反応にのみ焦点を当てています。高嶋博氏(鹿児島大学脳神経内科・老年病学教授)の意見をただ流しているだけの記事になりますが、記事ではまず、

症状を呈した患者の多くは自己免疫性脳炎を発症した患者であり、決していわゆるヒステリー(=身体表現性障害、身体症状症)ではないと考える

として、転換性障害・身体表現性障害・身体症状症をすべて否定します。
 ここは難しいところではありますが、この転換性障害の診断は難しいことも多いのでここでは触れません。ただ、重要なことは「精査」の上、たの疾患を除外して初めて診断できるものであるということ。これは他の疾患でも同様で、証拠が必要です。

 ところが、この先で唐突にこういいだします。

HPVワクチン接種後に様々な症状を呈しヒステリーと診断されてしまった患者にも、自己免疫性脳炎の症状が出現している。つまり、その中に自己免疫性脳炎が多く隠れていると考えられる。

 というのです。自己免疫性脳炎となるとこれは尋常ではないことです。脳炎であれば脳炎の証拠が必要であって、臨床症状だけで追い詰めるのはとても難しいことなのです。
 じっくり経緯を説明しなくてはならないので、今回はラフにしかふれませんが、HPVV副反応調査の際に、明確な根拠なく、「脳炎」が起こっているはず、といいだした「内科」の医師が何人かおり、厚生労働省の副反応調査班などで活動をしています。

 彼らの方法論には非常に問題が多く、かつ、政治的なものであって科学的思考ができていない点があるのですが、彼らがやったことをここでも宣言しています。

我々は本疾患の理解のために「びまん性脳障害」という概念を作り出した

そうなのです。概念を作り出したんです。「仮説」として提示して、検証するならいいのですが、彼らはこういう概念を作り出し、しかもそれに当てはまるかのように事象を説明したうえで、根拠のない概念のままに治療をし、「脳炎」の丁寧な除外や転換性障害の可能性などを十分に検討していないと思われるところが多々あるのです(認知症治療薬の投与や血漿交換療法などまでおこなっているケースもあるようです)。

 その先、この記事ではいろいろ自験例のことや救済制度適応の話などをしていますが、これらがどういう問題であったか、経緯などには全く触れておらず、科学的な検討の有無や内容にも触れていません。転換性障害およびその二次障害でも起きうることも混在しています。
 また、彼らが独自の「治療」をしていること、自分たちのお手盛り学会を作って活動していることなどには全く触れませんし、反対する意見を一度取り上げた上で持論を述べ直すなどの手順も踏んでおらず、自分の言いたいことだけを述べる形になっています。

 世界各地で検討され、「論文化」された多数の安全性に関するエビデンスにも全く触れていないのです。そもそも、彼らの作った「HPVV後の」「びまん性脳障害」については明確な科学的に検討された証拠もなければ、論文もなく、かつ、信州大学の池田修一氏の問題をしっかり総括して科学的に検討しなおしたか否か、どう評価されているのかについてもまとめていない有様です。

ワクチンの副反応と効果を偏りなく説明すべきで

と述べていますが、それはどちらか。そもそもワクチンの副反応に話を絞ったとしても、それが本当にワクチンの副反応か否か、新しく作り出した概念はいままで知られている疾患概念で説明不可能だからできたものなのか否か、そもそも転換性障害をしっかり診断することができる人たちなのか…様々な疑問が湧いてきますし、ここはもう何年も議論されてきたところなはずなのです。

現在の医学では、大脳がびまん性に障害される疾患について、診断や病態の理解が追いついておらず、今後、その病態を解明したい

まだ「概念」の段階で、丁寧な科学的仮説にもなっていないものを「疾患」としてしまったうえに、屋上屋をかさねて理解が追いついておらずと言ってはいけないと思いますよね。病態が何であるかは、もっとオープンにまずは議論できる俎上に挙がるようにデータを共有、セカンドオピニオンなどもしっかり行い、論拠はしっかりとした科学的手順で示しながら進めないといけないと思います。

 一人の論者として言いたいことを言うことは構いません。それぞれにさまざまな考え方があることもそれは当然です。しかし、科学的根拠をしっかりと示さない物言いは「あなたの感想ですよね?」、それは「論」ではありません。

 この記事については、とくに経緯などを踏まえていないこと、非常に偏っていることを重視し、問題視しています。



そもそも Pros Cons をはき違えている



 そもそも、Pros Cons というのは、賛成と反対、賛否両論ということですが、その前提は、それぞれの論が科学的根拠に基づき、いずれもが誠実に相手の論も組みつつ議論するための論の提示から始まる営みです。
 それを、根拠がなく、否定されたことも持ち出し、かつ、これまでの経緯にも触れず、一方的にトンデモに近いものを「両論併記」のような形で突然出してきた…かなりこの記事はとんでもないことなのです。



抗議をしました



 というわけで、早速抗議をしました。問い合わせ先はここです。
 問い合わせに返答が来るかどうかを待ちたいと思います。返答がない場合や、誠実でない場合には、公開質問状を作成し、公開の形に切り替えてこの雑誌に抗議します。

 他の方とも連携してこれには対処しようと思います。



この方々の過去の記事


 脳神経内科(神経内科) 第85巻第5号(2016年11月発行)にこの界隈の方々が特集を組んでものを書いています。
 ひどく偏ったメンバーですね…。アカデミズムというか一部の医療界の闇を感じます。
 

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2 件のコメント:

  1. 今晩は。初めまして。僕は以前から子宮頸がんワクチンにまつわる諸問題に関心がある者です。たまたまツイッターで日経メディカルの当該記事を見かけ、色々調べている内にこちらのエントリーにたどり着きました。

    あの記事を読んで考察し、多くの疑問や異論を持ちモヤモヤしていましたが、このエントリーを拝読して頭の霧が晴れました。ありがとうございます。

    とは云え、まだ色々「?」な点もありますし、また抗議を送られたとの事ですのでその辺りの続報に期待したいと思います。

    p.s. 「科学的根拠をしっかりと示さない物言いは『あなたの感想ですよね?』、それは『論』ではありません」。この言葉、強く同意です。

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    1. ありがとうございます。まだまだ疑問点の多い事項ですよね。冷静に、議論ができる土台で議論ベースで推移を見守ってみたいですね。

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