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2020年5月13日水曜日

COVID-19 バブルが研究業界におきている今、研究倫理は…

 今日は快晴なもののやや涼しいベセスダです。





 今日はちょっと雑感を。

 COVID-19 が世界的流行になり、医療従事者・研究者もフォーカスして大量に研究がなされ様々な報告が出てきています。なんというか「COVID-19バブル」とでもいうような状況です。

 もちろん素早く丁寧な仕事をなさる研究者も多く、混乱の中でもしっかりとした報告をしてくださる医療者も多く、この大騒動のなか、素晴らしい仕事も多くみられます。

 しかしながら、一方で、憂慮すべきはやはり研究の質や倫理の問題です。



研究の質を担保するシステムは不全を起こしていないか


 
 研究の方向を学術論文でする際には、peer-review といって同業者による批判的吟味により、出版にふさわしいか否かが判断されます。その review の過程の中で論文は下書きから磨き上げらえて公の議論の土台となる質がある程度担保されて出版されるとされています。

 このような研究の質を担保する上でも重要な peer-review システムが、この COVID-19 流行による研究バブルの中で、ないがしろにされていないだろうか、と懸念しています。
 というのは peer-review を行うということ、しっかりと検討するのは大変な作業であり、時間がかかるものですが、ここのところの COVID-19 バブルでは論文の submit (まぁようは提出)から publish (出版)までの時間が異様に短く、しっかりと review が精査といえるだけなされているのか不安なのです。

 実に出版までの速度が速い。そして大量に論文が出てくるので、出版後に通常であれば注目されて批判的に読まれる割合も相対的に減り、次から次に話題が変わっていくようなところあがある。…とても懸念しています。



プレプリント文化の勃興



 ここ数年、peer-review 前の論文の下書きを、プレプリントとして公開しておき、先取を宣言しておいたうえで引用も可能としておくという文化がでてきていました。
 
 このプレプリント文化がここにきて COVID-19 バブルで大いに勃興してきた感じがあります。

 代表的なプレプリントサーバーである medRxiv、bioRxiv には、5月12日時点で、合わせて3,305 件もの COVID-19 関連のプレプリントが公開されています。

 プレプリントには速報性があり、科学者は新たなデータを素早く取得できるという利点はあります。しかし、review 前のプレプリントは玉石混交も甚だしく、その内容を見極めるのは相当な基礎的な知識・経験と、最新の注意が必要であることはまちがいありません。

 研究者の大須賀先生のこのコメントは本当にその通りと思います。




  結果だけをプレプリントからつまみ出すと本当にまずいことが起こるように思っています。これも COVID-19 バブルでの懸念です…。



実際に問題のある論文も



 個人的に COVID-19 関連の論文・プレプリントを毎日のように集めては読んでいますが、正直、まずいなぁこれはというものも結構ありますし、悩ましいなと思っていたところですが、今日は nature の論文に大変まずい事態が指摘されていました。






 画像が明らかに不適切に使われていることを示すもので、同論文中の別の figure でも不自然なグラフが指摘されています。
 こういうものはもちろん COVID-19 バブル以前にもしばしばみられる研究不正であるわけですが、やはりこのバブルに乗じて多く出てくるのではないかと懸念しています。



そもそも大混乱で倫理の問題は



 あくまでも研究の出版に関する雑感を今は述べただけですが、この COVID-19 大流行下で、多くの人が浮足立ち、拙速になんとかしたいと混乱し、倫理や手続きをないがしろにしているような気がしてなりません。

 とにかく早く治療薬を、の大合唱による 臨床試験の結果さえない薬の compassionate use が増え、データがなくても政治的な特定の薬の後押しの声が響き、多くの人が扇動されて魔法の薬があるのに使えていないかのような幻想を抱かされてしまっていたりします。

 民放程度のテレビはまぁ仕方がないにしても、医療関係者やノーベル賞受賞者までもが、結果が出る前の薬を、承認しろ、早く現場に配れ、ガンガン使え、では困ります。

 慎重であるべきワクチン開発も、現場の声を聞いてきかずか、「ワープスピード 」で開発する、年内に投与可能にしたい、などとにかく丁寧な積み重ねの研究開発というものをないがしろにした発言が増えています。

 さらに、ワクチン開発のためにチャレンジテストという最終手段ともいえる、人への新型コロナウイルスの投与実験なども、どちらかというといけいけの論調のなか推し進める人がでてくるなど、やはり倫理や手続きが軽視される風潮があるように思います。

 もちろん、しっかりとした研究成果、薬、ワクチンが迅速に世界に供給されることがのぞまれますが、何か見失ってはいけないものを見失っているのではないかと思います。

 こういった動きに慎重な姿勢で警告を発している科学者も多くいます。新しく作った COVID-19 情報サイト にも引用しましたが以下のような論考も出ています。

  ● Drug Evaluation during the Covid-19 Pandemic
   NEJM April 14, 2020 DOI: 10.1056/NEJMp2009457
   … パンデミックの中での薬事承認についての論考。
  ● Randomized Clinical Trials and COVID-19: Managing Expectations.
    JAMA. 2020 May 4. doi: 10.1001/jama.2020.8115.
   … 数多く行われている RCT の現状についての論考。



そもそも研究は何のために


 
 医学医療に関する研究は、もちろん知的好奇心を充足させる部分も大きいですが、実際に人の命・健康にも直結するものです。もちろん他の分野でも人間社会に与える研究のインパクトは大きいものです。

 研究を人間社会のためにと常に最重要はそこ、とまでは言いません。

 しかし、確実に社会に影響する研究活動であるのですから、社会にとってミスリーディングや害悪をなすことはないようにしなければいけませんよね。

 大騒ぎで浮足立っている今、拙速にならず着実にかつ普段以上に慎重に、研究の倫理やあり方を感がないといけないように感じています。





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2020年1月13日月曜日

【書籍紹介】最適な実験を行うためのバイオ実験の原理

 バイオ実験についてわかりやすい初学者向けの入門書を紹介します。



 【書名】最適な実験を行うためのバイオ実験の原理
 ―分子生物学的・化学的・物理的原理にもとづいたバイオ実験の実践的な考え方


 本書は分子生物学的、化学的、物理的な原理から、しっかりとバイオ実験について解説してある初学者向けを銘打った一冊です。

 非常にわかりやすく丁寧に原理から解説されており、バイオ実験においてなにをどのようにどうやって行っているのかが分かるようになっています。
 図もわかりやすく、理解を助けてくれます。

 初学者むけと書かれているものの、中級者以降でもなるほどね、と思うところは多いと思いますし、教えるときにも役に立つことがたくさん載っていると言えます。

 バイオ実験を始める人、学生さん、そして指導者にぜひ読んでいただきたい一冊です。


 
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2019年3月21日木曜日

【実験道具】とても便利なゲルからのバンド切り出しツール x-tracta

 バイオ実験に役に立つ小道具を一つ紹介したいと思います。

 バイオ系の実験をする方においては、アガロースゲル電気泳動ののちに、DNAバンドを切り出すことはよくあるかと思います。

 剃刀の替え刃で切り出す方も多いかと思いますが、面倒、危険、コンタミの可能性あり、で扱いがちょっとなぁと思います。コストもかかります。

 以前、こんな器具があってほしいなぁと記事にしていました。
 ▶ ほしい実験小道具① ゲル切り出しチップ専用ピペット Gel Pipette 
  
 これは、フナコシのフナゲルチップ(説明動画あり)で、100個で 9,300円ですね
これもとてもよい器具で、簡単にゲルからの切り出しができるのですが、今回はさらに簡単でシンプルな器具を紹介したいと思います。


x-tracta™ Gel Extractor



 x-tracta™ Gel Extractor は、きわめてシンプルなつくりのゲル切り出しアイテムです。

SIGMA のサイト より

 非常にシンプルな装置で、ゲルに押し付けてバンドをくりぬく部分と、風船のようになった後部が連結しているだけのもの。これを下図のようにゲルに押し込んでバンドを切り出し、入れたいチューブの上で今度はバルーン部分をプッシュ。すると簡単にバンド部分が切り出せます。


xtracta method to remove gel slices

 ディスポなので、当然コンタミの心配なし。
 日本では、フナコシなどから入手することができます。100 個入りで 11,000円、一回 110円と少し高いですが…(外国ではもう少し安い)。しかし、剃刀の替え刃より取扱いやすいメリットはありますからね。

 というわけで、この xtract を使っています。
 ちょっと大きいバンドの時には二回刺さなくてはならず、そうするとちょっと取り出しに戸惑うことがありますが、基本的に問題なし。

 便利で省力化できる器具なので愛用です。おすすめ。

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2019年3月14日木曜日

ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)の見分け方、査読依頼、インパクトファクター…

 ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)について何度か書いてきましたが、今回はそういったジャーナルの見分け方などについて書きたいと思います。




 ハゲタカジャーナルは、日本医学会は悪徳雑誌、Wikipedia では捕食出版としていますね。この記事ではあまり考えずに言葉を使います。

 前までの関連記事。
 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと
 ▶ ハゲタカジャーナル に掲載して博士号取得した例がかなりありそうとの調査
 ▶ ハゲタカジャーナルへ(悪徳雑誌)の投稿を控えるよう日本医学会が注意喚起

 この問題については、北海道大学北キャンパス図書室「国際オープンアクセスウィーク2018」企画の「オープンアクセスとハゲタカジャーナル」の資料もわかりやすいですね。

 なぜ横行するのかは、講談社のサイトに記事があります。
 ▶ ハゲタカジャーナル、ダメ絶対! でも、その横行にはそれなりの理由が……
 ハフィントンポストにもありましたね。
 ▶ 劣悪な学術誌「ハゲタカジャーナル」とは? 掲載料が目当て、 根拠乏しい「疑似科学」を拡散
 日経新聞にも
 ▶ 学術の健全性損なう「ハゲタカジャーナル」 


ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌)の見分け方


 投稿前に考えることをまとめてくれているサイトがあります。
 Think. Check. Submit. (日本語版) です。これは日本医学会の注意喚起でも引用されていました。再度簡単にまとめて示します。これをまずはチェックしましょう。

 (1) あなたや同僚はそのジャーナルについて、
   掲載論文を以前に読んだことがあり
   最新論文を容易に見つけることができますか
 (2) 出版社名が明記され、メール、電話、郵便で連絡が取れますか。
 (3) そのジャーナルはどのような査読を行うか明白ですか。
 (4) そのジャーナルで掲載されるための料金の内容と
   どの段階で請求されるかについて説明 されていますか。
 (5) そのジャーナルには編集委員会は設置されていますか。
   あなたは編集委員について知っ ており、
   編集委員は自身のサイトでそのジャーナルに触れていますか
 (6) その出版社は学術出版業界で認められた団体に加盟していますか。
   ・Committee for Publication Ethics (COPE)
   ・Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA) 
 (7) そのジャーナルは以下のデータベースに収録されていますか。
   ・MEDLINE
   ・WHO Global Index Medicus (GIM) 
   ・Web of Science
   ・Scopus 
 (8) そのジャーナルは以下のリストに登録されていますか。
   ・Directory of Open Access Journals (DOAJ)
 

ホワイトリスト=信用できるリストを用いてのチェック


 とくにDOAJのリストはチェックしておきたいところ。いわゆるホワイトリストであり、ここに登録されていればとりあえずは安心です。
 もちろん、MEDLINE などに登録されているか、検索もするべきです。

ブラックリスト=ハゲタカジャーナル…


 悪徳雑誌である、またはかなり疑わしい、ジャーナルをまとめたリストも公開されていますので、投稿前や査読前、論文を読む前にここでチェックするのも大事です。ホワイトリストと合わせて使用することで、かなり網羅できるはずです。有名なのは以下。

  ▶ Beall's List of Predatory Journals and Publishers - Publishers
  ▶ Stop Predatory Journals
  ▶ CABELLS

 ブログではこんな記事もありました。
  ▶ ハゲタカ出版社チェックはしておきましょう


ハゲタカジャーナルにはインパクトファクター(Impact Factor; IF) はついていないことももちろんありますね


 IFは Clarivate Analytics 社が Web of Science内の被引用数に基づいて計算しており、IFを持つジャーナルは Web of Scienceに採録されている約12,000タイトルに限られています。なので、IFがついていることも重要です。Journal Citation Reports(JCR)にそれらは掲載されます。
 ただし、まともなジャーナルでも新しい雑誌では尽きませんので注意は必要です。
 
 また、IFだけでなく Elsevier の行っている CiteScore というものもあり、こちらは  Scopus での被引用数から算出されています。
 なので、Scopus もチェックするといいですね。

 さらなる注意としては、独自の計算を IF として掲載していることがありますので、かならず、JCR または CiteScore でチェックしましょう。

こういったジャーナルに載ってしまうと不名誉です。また査読依頼は断りましょう


 騙されたり、業績水増し目的だったりするかもしれませんが、こういった悪徳雑誌に載ってしまうと不名誉です。こんないいブログもありました。
 ▶ ハゲタカジャーナル(粗悪学術誌)論文掲載 不名誉な大学ランキング【悲報】東大、阪大などの研究者も投稿していたことが発覚  (≧▽≦ )

 とにかくこういった雑誌に掲載されることは不名誉ですし、業績としてはてなマークになります。また査読を引き受けることも加担したことになりますから、拒否しましょう。
 
 科学の健全な維持・発展のために、こういった雑誌にはかかわらないようにしないといけませんね。


関連記事など


 ▶ ハゲタカジャーナルに関わらないために Medical EnglishService
 ▶ <記事紹介> なぜ研究者は「ハゲタカジャーナル」で論文を出版してしまうのか
 ▶ ハゲタカジャーナル 対策がヤバ過ぎる…
 ▶ ”粗悪学術誌””ハゲタカジャーナル”の何が悪いの?
 ▶ ハゲタカジャーナルに奪われた私の1500ドル
 ▶ 【重要】ハゲタカジャーナルにご注意ください








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2019年3月13日水曜日

ハゲタカジャーナル(悪徳雑誌) への投稿を控えるように日本医学会が呼びかけ

ハゲタカジャーナルへ(悪徳雑誌)の投稿を控えるよう日本医学会が注意喚起





 以前からこのブログでも「ハゲタカジャーナル」について紹介してきました。

 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと
 ▶ 粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル) に掲載して博士号取得した例がかなりありそうとの調査

 ハゲタカジャーナルは、粗悪学術誌のことで、法外なお金を取るだけでなく、その査読などもいい加減で、学術的にも問題が非常に大きい雑誌のことです。

 上の記事でかいた Beall リスト にはそういった雑誌がリストされています。
この問題に関して動きがあり、本日、毎日新聞に記事が出ていました。

 ▶ 「ハゲタカジャーナル」投稿控えて 日本医学会、加盟129学会に注意喚起

記事によると、

日本医学会が、所属する医師や研究者にハゲタカ誌への論文投稿を控えるよう注意喚起した。

とのこと。日本医学会のホームページに掲載されたPDF 原本はこれ ▶ PDF です。
 この毎日新聞の記事にあるように

8日付で注意喚起の文書を学会のホームページに掲載した。ハゲタカ誌を「悪徳雑誌」と表現し、「著者から徴収する掲載料収入のみを目的とし、論文の質の管理が粗雑」と批判

しているんですね。医学会のこの委員会では、ハゲタカジャーナルを、悪徳雑誌(predatory journal)と表現しているのですね。
 これら悪徳雑誌による悪影響は、毎日の記事にあるように、

想定より高額な掲載料を請求される▽論文掲載で著者や所属機関が否定的な印象を持たれる▽怪しい雑誌と気付いても論文を取り下げられない

などであり、科学の発展や理解にも非常に悪い影響を与えることにつながります。
 この学会からの原文には、

「ホワイトリスト」と呼ばれる健全な学術誌をまとめた海外のサイトも紹介している
ので、このブログ記事の最後にも載せたいと思います。


 

悪徳雑誌に投稿しないことは科学者の責務


 科学者が注意しなくてはならないことは潜在的にも多く、実際どんどん増えています。倫理的なこと、法的なことはもちろん普段の活動すべてにリスクがあります。

 なかでも業績として発信する出版に関することは社会との大きな接点でありよくよく考え注意して行わなければなりませんね。
 科学者の責任は増大しており、かつ、研究室主催者にはその責務がのしかかります。医学会からの原文にも、

研究室の主宰者などの指導者も、悪徳雑誌の存在などの情報を得て、責任を持って後進の指導に当たるべきです

としており、悪徳雑誌についてはもう常識として、指導をしていかなければならない、新たな項目になっていると言ってよいでしょうね。
 
 読み手も注意をして、上記の記事にも挙げた Beall リストなどをチェックして論文を世読むようにしたいところです。


論文投稿前のチェックのためのホワイトリスト Think. Check. Submit.  - ハゲタカジャーナルの見分け方



 このPDFにはThink. Check. Submit. (日本語版) を元にした最後に投稿のチェックをするための注意も載っています。書き写します。

 (1) あなたや同僚はそのジャーナルについて、
   掲載論文を以前に読んだことがあり、
   最新論文を容易に見つけることができますか。
 (2) 出版社名が明記され、メール、電話、郵便で連絡が取れますか。
 (3) そのジャーナルはどのような査読を行うか明白ですか。
 (4) そのジャーナルで掲載されるための料金の内容と、
   どの段階で請求されるかについて説明 されていますか。
 (5) そのジャーナルには編集委員会は設置されていますか。
   あなたは編集委員について知っ ており、
   編集委員は自身のサイトでそのジャーナルについて触れていますか。
 (6) その出版社は学術出版業界で認められている以下の団体に加盟していますか。
   ・Committee for Publication Ethics (COPE)
   ・Open Access Scholarly Publishers Association (OASPA) 
 (7) そのジャーナルは以下のデータベースに収録されていますか。
   ・MEDLINE  
   ・WHO Global Index Medicus (GIM) 
   ・Web of Science
   ・Scopus 
 (8) そのジャーナルは以下のリストに登録されていますか。
   ・Directory of Open Access Journals (DOAJ)

 
 とくにDOAJのリストはチェックしておきたいところ。いわゆるホワイトリストであり、ここに登録されていればとりあえずは安心です。

 また、ハゲタカジャーナルからの査読依頼はしっかり断った方がいいですね。加担してしまうことになりますからね。

 投稿雑誌にも十分に気を付けねばなりませんね。







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2019年1月30日水曜日

セミナー、雪雪、コンペティターの論文プレスリリース

 今日は朝は曇天それほど寒くないベセスダでした。
 火曜日はセミナーデー。9時から12時30分までセミナー・ミーティング…げっそり。

 実験系の立て直しをしていますが、共通の方法を使いたいスタッフサイエンティストと一緒にトラブルシューティングをすることに。ラッキー。手間が半分。お金も使える。

 午後から雪になりました。


Fig.1 わかりにくいですが雪です

 さて、先週 Nature Microbiology に私が取り組んでいる CAEBV という病気の原因解明という同じテーマの論文が出ました。
 名古屋大学 木村宏 教授グループ。よく存じ上げているうえに、もちろん恩師です。

 論文は Defective Epstein–Barr virus in chronic active infection and haematological malignancy 。次世代シークエンサーを用いた症例の解析で、DDX3X という遺伝子が悪性化する際に変異を獲得していくこと、他の変異も見られること、EBVというウイルスそのものにも欠損がみられ、欠損により悪性化がドライブされることが示されています。

 すごい仕事です。が、CAEBV の原因解明、は言い過ぎかも、しれません。
 ちょっと別の観点から今仕事をしていますが、別の考えをもっています。

 いずれにせよ、コンペティターから仕事がでるとドキッとしますね。
 疾患の全容解明に取り組みたいと思います。

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2018年12月26日水曜日

【転載記事】若手研究者のためのシステマティックレビューの書き方指南

 エディテージ・インサイトさんに良い記事があったので、ちょっと布石として CC に基づいて転載をさせていただきます。

 システマティックレビュー(Wikipedia)というのはあるテーマについて、文献を網羅的に調査して、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを、出版バイアスのようなデータの偏りを限りなく除き、分析を行うこと、です。

 偏ったデータなどを引き合いに出して論陣をはるというか、いろいろ主張する際の誤謬をすこしインスタグラムに図としてまとめて投稿しました(▶ これ)。

 この中に、チェリーピッキングなどの項目がありますが、偏った文献の選択というのはとても問題になります。これは科学的な検討を真摯な態度で行っているとは言えない状況を容易に作り出します。

 そこで、まずはその分野の情報をえるにはシステマティックレビューがあるのであれば、そこからあたるのがかなり無難なのは事実です。
 そしてまた、レビューを書きたい場合にはシステマティックに行うことが望ましいとも言えます。

 今回はシステマティックレビューの書き方を紹介してくれている記事を、CCに基づき転載いたします。
 以下は転載記事です。

若手研究者のためのシステマティックレビューの書き方指南


システマティックレビューとは?
 システマティックレビュー(系統的レビュー)とは、現存する文献の徹底的なレビューを行い、定式化した課題について論じるものです。このレビューでは、明瞭で再現性があり、バイアスを最小限に抑えた方法を用いて、課題に関連する研究のエビデンス(科学的根拠)について、系統的な検索、特定、選択、評価、統合を行います。システマティックレビューは、研究成果の情報源として最良のものと考えられています。システマティックレビューは、エビデンスに基づいて研究が行われる医学分野では紛れもなく重要ですが、その他の分野でも、非常に価値があるものとみなされています。
システマティックレビューは、リテラチャーレビューよりも徹底的に行われます。出版済みの論文に加え、「灰色文献」と呼ばれる未出版の文献も対象となります。灰色文献はシステマティックレビューの重要な部分を占め、レビューの価値を高めるものです。これは、出版済みの文献と比べ、灰色文献には新しい情報が含まれることが多く、出版バイアスが少ないと考えられるためです。灰色文献には、未出版の研究、報告書、学位論文、学会で発表された論文や抄録(アブストラクト)、政府による調査研究、実施中の臨床試験などが含まれます。
システマティックレビューを行う過程は、複雑です。本記事では、システマティックレビューの種類と、標準的な手順や執筆方法に関するアドバイスをご紹介します。

システマティックレビューの種類
  • 質的(Qualitative):このタイプのシステマティックレビューでは、関連研究の結果を要約するが、統計的な統合を行わない。
  • 量的(Quantitative):このタイプのシステマティックレビューでは、統計的手法を利用して、複数の研究結果を統合する。
  • メタ分析(Meta-analysis):メタ分析では、統計的手法を用いて、互いに独立していながらも類似している関連研究の結果の評価を統合し、要約する。

プロトコルを書く
 優れたシステマティックレビューは、プロトコルから始まります。国立衛生研究所(National Institutes of Health, NIH)によると、プロトコルはレビューの道筋を示す地図であり、そのレビューの目的、方法、そして一番関心を寄せた点に関する結果を示すものです。プロトコルの目的は、方法の透明性(transparency)を高めることです。
プロトコルでは、検索用語や取捨選択の基準、分析されるデータなどの定義を行います。プロトコルは、原稿と共にジャーナルに提出しなければなりません。ほとんどのジャーナルは、システマティックレビューの著者に、PRISMA声明あるいはそれに類似したガイドラインを利用することを求めています。

PRISMA声明
 システマテイックレビューを書くならば、PRISMA声明を熟知している必要があります。PRISMA声明は27のチェック項目フローチャートから成る文書で、システマティックレビューの執筆方法やレビューに含めるべき事柄などに関し、著者の指針とすることを目的として作られたものです。
プロトコルには、以下の内容が含まれているのが理想的とされています。
  • 検索可能なデータべースおよび情報源(特に灰色文献に関するもの)
  • 検索時に利用するキーワード
  • 検索に適用される制限
  • 取捨選択のプロセス
  • 抽出されるデータ
  • 報告されるデータの要約

システマティックレビューのプロトコルを登録する
 プロトコルを書いたら、登録することをお勧めします。登録することで、他の人が同じレビューを書き始めてしまうことを防ぎます。
システマティックレビューのプロトコル・レジストリには、以下のものがあります。
  • Campbell Collaboration: 社会的介入に特化したシステマティックレビュー
  • Cochrane Collaboration: 医療介入に特化したシステマティックレビュー
  • PROSPERO : 全てのシステマティックレビュー向けのオープン・レジストリ
レジストリには、登録されたレビューを検索できるデータベースがあります。システマティックレビューを開始する前に、自分の選んだテーマで登録されたレビューがないかどうか、データベースを検索して確認してみると良いでしょう。そうすれば、努力が無駄になることもありません。

システマティックレビューに最も適した取り組み方とは?
 システマティックレビューの本質は、システマティックである(体系化されている)ということです。システマティックレビューでは、膨大な量の文献を詳細に吟味し、分析します。効率的かつ効果的に仕事を進めるためには、プロセスを明確にして順に辿っていく必要があります。NIHは、システマティックレビューを以下のような流れで進めることを推奨しています
1.   リサーチクエスチョンを考える
2.   選択基準及び除外基準を定める。
3.   研究を特定する。
4.   研究の質を評価する。
5.   データを抽出する。
6.   分析し結果を提示する。
7.   結果の解釈を行う
8.   必要に応じてレビューをアップデートする。
このプロセスに従って進め、それぞれの段階でメモを取っておくとよいでしょう。そうすれば、レビュー論文を書き進めやすくなるはずです。

システマティックレビュー論文の構成とは?
 システマティックレビュー論文では、原著論文と同じ構成を用います。通常、題名(タイトル)、抄録(アブストラクト)、序論、方法、結果、考察、参考文献が含まれます。
題名(Title):題名は、レビューのテーマを正確に反映したものでなければなりません。「システマティックレビュー」という言葉をタイトルに含め、研究論文の性質を明確に表します。
抄録(Abstract):システマティックレビューには、構成の決まった抄録があるのが普通です。背景、方法、結果、結論の各項目に沿って、短いパラグラフ(段落)で書かれます。
序論(Introduction):序論はテーマを要約し、システマティックレビューを行なった理由を説明します。レビューを行うにあたって、現存の知識に空白がある、あるいは文献に同意できないところがあるなどの理由があったはずです。また、序論では、レビューの目的や目標を述べる必要があります。
方法(Methods):方法は、システマティックレビュー論文のもっとも重要な部分です。どのような方法に沿って行われたかを、明確かつ論理的に説明しましょう。以下の項目について、詳細な考察を行う必要があります。
  • 選択基準及び除外基準
  • 研究の特定の仕方
  • 研究の選別
  • データの抽出
  • 質の評価
  • データ分析
結果(Results):結果も論理的に説明されていなければならない部分です。最初に研究結果を書き、その後で研究の範囲と特徴、研究の質について述べ、最後に、介入が結論に与える影響を考察します。
考察(Discussion):考察では、レビューで得られた主な知見を要約し、さらに研究の限界と結果の信頼性について考察していきます。最後に、レビューの長所と短所を考察し、現在の手法に対する影響について提示します。
参考文献(References):システマティックレビュー論文の参考文献には、通常、膨大な数の文献が含まれます。細心の注意を払い、漏れのないようにしましょう。効率的に文献を扱えるよう、文献管理ソフトを使用しても良いでしょう。

 エディテージインサイトに掲載されたものです。


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2018年12月16日日曜日

【情報】粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル) に掲載して博士号取得した例がかなりありそうとの調査

 ハゲタカジャーナルについて以前書きました。

 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと

 ハゲタカジャーナルは、高い掲載料などをとるオープンアクセス中心の雑誌ですが、問題はその詐欺性だけではなくて、研究者側もまともに査読がないのをいいことにお金で業績が変える手段として利用している、そういう実態があるのではないか、ということでした。

 今回、毎日新聞にニュースがありました。

 ▶ 毎日新聞  粗悪学術誌 掲載で博士号 8大学院、業績として認定

 もととなった論文は「日本の医学博士論文に潜む7.5%のハゲタカOA 佐藤 翔」ですね。

 記事によると、同志社大学の佐藤翔准教授が、医学博士論文106本を抽出調査したところ、ハゲタカジャーナルへの論文掲載を業績として博士号授与されたと考えられる案件が7.5%ほどもあったとのこと。


 博士号は学位授与機関がそれぞれの規則に則り審査して授与するものですが、多くの機関においてはジャーナルに掲載することが義務付けられているようです。

 ちなみに私のでた東大医学系研究科はジャーナル掲載は義務ではありませんでした。理由としては、ジャーナルの査読より、大学教員による審査の方が厳密でよいというものなのですが、今回はからずもそういう可能性があることが分かってしまったのかなと感じます。

 脱線しましたが、ジャーナルに掲載されたことをもって、審査がないがしろになっている大学もあるとは聞きます。実際、博士号レベルの研究をしているか疑問であるケースは、とくに医学博士といわれる医学系には多く見られます。
 臨床系の、つまり医者が博士号を取るのは、他の理学系などよりはるかに研究自体は楽でレベルが「低い」こともよく指摘されるところです。

 学位の業績、というところに今回は焦点が当たっていますが、業績というものをジャーナル掲載やジャーナルの質だけで判断するのは危険な面もあるかもしれませんね。

 良い研究をしていきたいものですが、こういう実態が実際にあることもよく知っておく必要があるように思います。


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2018年12月1日土曜日

【転載記事】学術出版界の本当のハゲタカは著者?

 粗悪な学術雑誌、いわゆるハゲタカジャーナルについて記事を複数回書きました。

 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと
 ▶ 【情報】粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル) に掲載して
   博士号取得した例がかなりありそうとの調査

 これらの問題はかなり深刻で、粗悪な雑誌については科学者は知って多く必要があります。今回は Editage Insights さんにまた良い記事がありましたので、CC に基づいて転載をさせていただきます。

 以下、転載記事になります。

学術出版界の本当のハゲタカは著者?


学術出版界における「ハゲタカ」と言えば、金銭目的で「科学」論文を出版する出版社やジャーナルを思い浮かべる人が多いでしょう。このような出版社やジャーナルは、論文の質にはお構いなしに、著者に出版を約束します。疑うことを知らない著者は、出版費用を払った後で、相手先のジャーナルが偽物であったことに気づきます。論文の取り下げや撤回を求めても、応じてもらえることはまずないと、多くの著者が報告しています。ハゲタカジャーナルは著者の取り下げ要求に対し、拒否するか、法外な手数料を請求するか、単に無視するかの対応を取るだけです。このようなケースでの「ハゲタカ」は出版社であり、著者はその「獲物」だと言えるでしょう。

 しかし、ここで問題提起したいのは、著者こそが科学の構造に傷を付けている張本人になっているケースがあるという事実です。最近、意図的にハゲタカジャーナルで論文を出版している研究者の事例が報告されています。ハゲタカ出版と関わりをもつ研究者の大半は、疑うことを知らない被害者でしょう。しかし、ハゲタカ出版には、よく調べなければならない別の側面があることも確かなのです。

ハゲタカ出版は組織化されつつある?

ハゲタカジャーナルの行為を明るみにすることを目指す研究者グループが2017年3月に発表した論文では、「ハゲタカ出版は組織化されつつある」と報告されています。ハゲタカ出版産業は急成長しており、現在1万誌のハゲタカジャーナルが科学論文を出版していると見られています。ハゲタカ出版市場がとくに栄えているのは、インド、アフリカ、中国などの国々です。

 2017年9月にNature誌で発表された論文では、米国の一流大学に所属する研究者でさえハゲタカジャーナルで論文を出版していると報告されています。これを報告した著者の1人であるオタワ大学のラリッサ・シャムシア(Larissa Shamseer)氏は、「我々の調査で明らかになったのは、ハゲタカ出版は世界規模の現象であり、世界中のさまざまな学術機関に所属する研究者が関わっているという問題です」と述べています。


ハゲタカジャーナルで論文を出版する著者に罪はないのか?


 毎年40万本の論文がハゲタカジャーナルで出版されています。この膨大な数を考えると、1つの疑問が浮かび上がってきます。これらの論文を出版したすべての著者が無実で、ハゲタカジャーナルの被害者であると言えるのでしょうか?トンプソン・リバース大学(ブリティッシュコロンビア)経済学部教授のデレク・パイン(Derek Pyne)博士は、次のように指摘しています:「何十万本という論文がハゲタカジャーナルで出版されている現状を考えると、すべての著者や大学が被害者であると信じるのには無理があります」。

 かの有名な「ビオールのハゲタカ出版社リスト」を過去に作成したジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏は、研究者がハゲタカ出版ルートを選んでしまう動機を次のように説明しています:「論文をスピーディーに出版したいがために偽ジャーナルを選択する研究者は存在します」。

 研究者たちが、論文を頻繁かつ迅速に出版しなければならないという過度なプレッシャーに晒されているのは事実です。あるナイジェリアの研究者は、支援組織や助成機関が要求する過度な論文出版件数が、「ナイジェリアの研究者の大半を、疑わしいジャーナルで論文を出版せざるを得ない状況に追い込んでいます」と指摘しています。

 研究者、教授、教員、医師などは、一定数の論文を出版しなければならないという要求に応えるためにハゲタカジャーナルに手を出してしまうのです。そのような著者は若手研究者であるとは限らず、発展途上国の研究者であるとも限りません。ある2人のチェコ人研究者がScopusのデータベースに登録されているハゲタカジャーナルに関する調査を行なった結果、「科学技術先進国においても、多くの研究者が、論文を出版するためにハゲタカジャーナルに金銭を支払う意思を持っている」ことが明らかになりました。


ハゲタカ出版の魔の手から科学を救う手立てはあるか?

ハゲタカジャーナルのネットワークが拡大し続けていることを考えると、偽ジャーナルや価値のない出版物から科学を救う策を今すぐ講じる必要があります。研究者は、ハゲタカジャーナルで論文を出版することのデメリットを認識しなければならないのはもちろんのこと、論文を迅速に出版できるルートはほかにもあるということを知る必要があるでしょう。スピード出版のオプションは、複数の一流誌で提供されています。ハゲタカ出版を根絶やしにするためには、科学コミュニティが一丸となって徹底的な対応を取る必要があるでしょう。

 ハゲタカジャーナルでの論文出版に熱心な研究者が世界中にいるという事実は、質より量が重視されている学術界に巣食う、根深い問題の象徴と言えます。ハゲタカ出版は、科学の公正性に対する真の脅威となっているのです。

 研究を実施するには、時間、コスト、リソースの面で多大な投資が必要です。そのため、研究者がハゲタカジャーナルで論文を出版すれば、その被害は良質な研究にまで及ぶことになります。ハゲタカジャーナルで出版された論文が科学的知見に組み込まれても、恩恵を得るのは科学や人類ではなく、一部の著者だけなのです。


関連記事:

ハゲタカ出版社を見抜くためのチェックリスト
 A predatory journal lures an author with false promises: A case study
 Authors beware: Avoid falling prey to predatory journals and bogus conferences
 How to identify predatory conferences: The Think.Check.Attend checklist
 「『ハゲタカ出版社』は、あらゆる手を使ってまともな出版社のふりをします」
 Academic hijacking: Avoid the dark alleys of academic street crime
 Simple steps authors can follow to protect their research from predatory publishers


関連動画:


 信頼され倫理にかなった研究者になるために何ができるか?


参考資料:


 Many academics are eager to publish in worthless journals
 Nigeria’s predator problem
 Researchers from national institutes publish in predatory journals
 Researchers at Harvard, Mayo Clinic too publish in predatory journals
 Researchers may be part of the problem in predatory publishing

 エディテージインサイトに掲載されたものです。

2018年11月30日金曜日

赤ちゃんレベルの「ゲノム編集」の入門の話

 できるだけ簡単に解説してみようという試み、今回はちょっと時事ネタに絡めて、ゲノム編集のお話をしてみたいと思います。


ゲノム編集で双子が誕生??



 先週、中国でゲノム編集技術をつかってヒト受精卵の遺伝子改変をおこない、双子が生まれたというニュースがありました
 ▶ 毎日新聞  「ゲノム編集で双子」研究者、説得力ある説明せず
 ▶ BBC JAPAN 「世界初のゲノム編集赤ちゃん」の正当性主張 中国科学者
 など。

 ことの真偽は不明で、実際にこれが実施されたか否かについて、賀建奎(He Jiankui)氏からは説得力のある説明はなかったようです。しかし、倫理的・医学的な批判が起こっていて話題となっていますね

 11月29日には中国の科学技術省がゲノム編集活動の中止を命令したようです。
 ▶ AFP 「中国・科技省、遺伝子編集活動の中止を命令



ゲノム編集ってよく聞きますね 



 さて、ここのところ、といってもここ数年ですが、よく「ゲノム編集」という言葉を聞くと思います。遺伝子を書き換える技術なんでしょ、ということは何となくわかると思うのですが、実際に実験で毎日使っているので、今日は簡単にこの技術の解説を試みたいと思います。

 とはいっても、専門的なことや、最先端のこと、例によって細かいことはいくらでもあって、研究成果も多いですが、また大雑把に王道を簡単に解説してみたいという試みです。


ゲノムとは


 さて、まず言葉から入ります。初めに言葉ありき。「ゲノム」というのは「genome」なんですが、これは 遺伝子= gene + それらの総体 ome という意味合いですね。
 生物はたくさん遺伝子を持っていますが、遺伝子全てをひっくるめてgenome と言っているんですね。

 ゲノムというのは我々生物の設計図の総体という感じでとらえられているとおもいますが、おおすじはまちがいではありません。

 実際には遺伝子情報は設計図がすべてではなくて、さまざまな修飾(これも一時話題だったエピジェネティクスとかいいます)が加わりますし、設計図を読み込む機構や環境によって実際に形成されるものは異なるので、設計情報だけがすべてではないのですが…。

 細かいことは置いておいて原則で行きます。さらっと遺伝子について駆け足でみたあとに、ゲノム編集技術に行きたいと思います。

 さて、遺伝子というのは核酸に情報が書き込まれています。核酸というのは DNA と RNA。真核生物という、細胞に核をもっているヒトなどは、DNAに遺伝子情報が書き込まれています

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 遺伝子の書き込まれ方としては、DNAにおいては4つの塩基が「文字」として機能しています。A,C,G,T の4つで、それぞれ アデニンadenine, シトシンcytosine, グアニンguanine, チミンthymine という塩基のことです。
 RNAにおいては thymine のかわりに ウラシルuracil が使われています。A,C,G,U ですね。

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  完全に余談ですが、ウイルスの一部ではRNAが遺伝子を保持する役目を担っています。


遺伝子のコードのされ方



 さて、遺伝子というのはA,C,G,T の文字の並びで記されています。実際にどのようにコードされているかというと、3文字が1セットになっていて、特定のアミノ酸と対応しています。


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 上の図は RNA で書かれていますが、最初の GCU というところが アラニンalanine というアミノ酸に対応しています。
 この3文字のことをコドン(codon)と言い、真核生物においてはすべての組み合わせについてアミノ酸または機能が分かっています。


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 さて上の図は「コドン表」という暗号解読表のようなものを図にしています。

 図の円の中心、真ん中から見ていきます。真下のちょっと左に向かってみると、中心に A のところがありますよね、その外側がTのところもあります。そしてさらにG。つまり、ATG。ここには Mと書かれていて、さらにSTART につながっています。

 この読み方は、ATGという三文字は、M= メチオニン というアミノ酸に対応していて、さらに、この遺伝子の翻訳はここからスタートするよ、ということです。

 さて、「翻訳」という言葉が軽くでてきました。

 実は、遺伝子というのは設計図だと言いましたが何の設計図なのか。これが重要です。


遺伝子というのはタンパク質をコードする


 なんの設計図かというと、遺伝子はタンパク質の設計図なのです。

 タンパク質とは何か。それはアミノ酸が連なった鎖なのです。我々の体の構造や機能を担う多くの分子はタンパク質なんですね。

 で、DNAに書き込まれている遺伝子情報からタンパク質を実際につくるまでの過程は大きく分けて二段階あるのです。

 一段階目はおおもとの設計図であるDNA から一時的な情報伝達を担うRNA に情報を写し取る「転写」(transcript)、そして二段階目はそのRNA の情報をもとにアミノ酸をつないで鎖を作り、最終的にタンパク質をつくる「翻訳」(translation)というプロセスです。

 さて。ここら辺の細かいことは分子生物学の基礎で非常に大事なのですが、今回は大雑把に、DNA→ RNA →タンパク質という形で設計図がタンパク質をつくることにつながっている、と理解していただければいいんじゃないかと思います。
 深入りは全くしません

 DNAには実際には遺伝子は連続して書き込まれているのではなく、スキップしていたりいろいろなのですが、そこもはしょって、A,C,G,T の文字列に情報が書き込まれているんだなと理解してもらえば今はよしとしましょう

ゲノム編集


 では、さっそくゲノム編集に入っていきます。

 ゲノム編集技術というのは、狙った遺伝子を改変する技術のことです。

 遺伝子というのはDNAに書き込まれていたのでした。これを改変するということは、大きく分けて、遺伝子を切り取ったり挿入したり文字を書き換えたりということが考えられます。このいずれも行うことができる技術なんです。

 さて、遺伝子を書き換えたりする、すなわちDNAを書き換えたりする、そういう方法は以前からありました。

 それは相同組換えという方法です。これについては後で簡単にふれます。

 相同組換えという方法はあるのですが、効率があまりよくないということもあり、実験において遺伝子を組み替えるのには時間と手間とコストがかかっていました。

 しかし、2005年にZFN という技術が発見されて利用されるようになって以降、思い通りの遺伝子を改変する方法が発達し、効率的に遺伝子を編集できるようになりました。
 これらの新しい技術のことをまとめて、ゲノム編集、と呼んでいるわけです。

 ゲノム編集と呼ばれる技術はいずれも、基本的に、ヌクレアーゼ nuclease という酵素を用います。ふぁ?? なんだ、酵素?込み入らないように説明をします。


酵素について



 酵素というのはラフに考えると機能をもったタンパク質のことです。
 触媒機能、すなわち化学反応を促進する機能なんですが、まぁこの際、誤謬はありますが機能としてしまいます。

 酵素の種類の名前は ase (アーゼ) で終わります。そして反応するものを先にくっつけて名前にします。

 例えば、タンパク質(protein)を分解する酵素はprotease (プロテアーゼ)、脂質(lipid)を分解する構想はlipase(リパーゼ)ですね。

 ヌクレアーゼ(nuclease)の、nucle… はなにかと言いますと、nucleic acid、すなわち核酸、すなわちDNAかRNAです。

 そう、ヌクレアーゼというのは、DNAやRNAを分解する酵素のことなのです。

 さて名前の説明をしてしまいましたが、ゲノム編集にはこのヌクレアーゼを用います。ヌクレアーゼはエンドヌクレアーゼやエキソヌクレアーゼなどと分類できますが、まずはよしとします。

 こう考えます。ヌクレアーゼは、DNAを分解する。ただし、分解といっても粉々のばらばらにめちゃめちゃにするわけではなくて、「ある部分」において「DNAの鎖を切る」、そういう酵素だと考えてください。

DNAを切る


 さて、DNAに戻ります。DNAは二本の鎖がらせんを形成した構造をもっています。ここで、ヌクレアーゼは鎖のうちの一本を「ある部位」で切ることができると考えてください。二本のうち一本に、ある一箇所で切れ目をいれることを「ニック」を入れると言ったりします。


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 DNAの鎖の一本をある個所で切ったとしても、相手側のもう一本の鎖が残っているので、ばらばらにはならず、図のようになりますね。


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 はぁ…DNAの鎖を切る…それがどうゲノム編集、すなわち塩基=文字を書き換えることにつながるの?。そう思いますよね。ここからです。

 ニックをいれるということまでは分かりました。さて、もし、ニックが入った状況でもう一本のDNAの向かい側の同じ場所にニックが入ったらどうなるでしょうか。


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 はい、完全に鎖が切れてDNAは二つに分かれてしまいますね。



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 これを、二本鎖切断 = double strand break (DSB)と言います。

 まぁ言葉は難しいですが、DSBといったらDNAの二本の鎖が切れた状態をつくることです。

 さて、これが実際に起こってしまうと、情報を保存しているDNAが壊れますから、困ります。

 こんなこと起こったら細胞は生きていけません。そこで、細胞はこういったDSB に対して修復をする装置を持っているんです。


DSBを修復する機構


 その方法が大きく二つに分かれます。

 1つは、「相同組換え」あれ、聞いたことありますかね。そう、ゲノム編集技術をつかわないで遺伝子を書き換えるときに実験でも使う方法なんです。

 もう1つは「非相同末端結合」と言います。

 あー言葉が難しくてもうぐちゃぐちゃですね。

 しかし恐れることはありません。DSB = 二本鎖が切れる。そうすると細胞はそこを直そうとするわけです。その方法が「相同組換え」と「非相同末端結合」なわけです。

 さて、「相同」って何?って話になりますよね。相同、ってお互いに同じ、って意味ですよね。何が、何と同じなのか。

 実は、DNAの鎖が二本とも切れてしまった時には、切れた場所周辺と同じ配列をもつ別のDNAを鋳型にして切れてしまった部分を修復する、ということが起こりえます。


 図で示します。細かい機構や機序は一切省きます。


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 さて、図の説明をします。


 まずDSBが起こります。そうするとバラバラになってしまうんですが、それを防ぐためにいろいろな分子がやってきてこれを保護します。保護しているところに、切れた鎖の左右がある程度同じ配列をもっているDNAがやってきたとします。

 そうすると、それを鋳型にして、切れた部分を直す分子がやってきて、直すことができるのです。この図では、真ん中に緑のところがあり、両端は違う配列(黒)ですが、赤と青の部分がおなじDNAがやってきました。

 そうすると、赤と青のところを鋳型にして直すのですが、完成すると真ん中に緑のものが組み入れられています。この緑色のところがポイントになるんですね。この部分は1個の塩基でももっとたくさんの塩基でもいいのです。そしてまた0個でもいい。

 そしてまた、赤と青で示した相同部分も完全に一致していなくてもいいのです👶ほとんどあっていればこの相同組換えは起こる。そうするとですね。この鋳型に、緑色のところでも、赤や青のところでも、変更したい塩基をいれておけば、もともとのDNAを置き換えられることになるんですね。


 さて、次に、相同組換えとは違う方、非相同末端結合についても簡単に説明をしておきたいと思います。

 こちらは、相同な鋳型のDNAを使わずにDSB(二本の鎖の切断でした)をつなぎ合わせる方法です。端っこと端っこがくっつくので末端結合といいます。


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 実はこの非相同末端結合が起こるときに、端っこだった部分がすこし失われて、DSBが起こる前より短くなることも起こるのです。
 こうなると、遺伝子の一部の情報が失われます。これもゲノム編集に使われる一つの現象なのですが、細かくは省略します。遺伝子が失われることがある、と考えてしまってよいと思います

 さて、ここまでを少し振り返ります。

 ① 私たちの細胞では遺伝子はDNAに4文字の配列として書き込まれていました。3文字が1セットで1つのアミノ酸に対応していて、それがつながったタンパク質が作られるのでした。

 ②DNAを切るヌクレアーゼという酵素の一部は、DNAの一本の鎖を切る(ニックを入れる)ことができるのでした。二本の鎖を同じ場所で切る(DSB)と、DNAはバラバラになりかけますが、それを直す仕組み、を細胞は持っていました。

 ③その仕組みが「相同組換え」と「非相同末端組換え」であり、その仕組みを使ってDNAを修復すると、元とはちょっと異なった配列になることがある、ということが分かりました。


ゲノム編集の歴史



 さて、先に進みます。

 ここで、ゲノム編集の歴史の話をしながら、順番に技術の発展を見ていきます。最近よく聞く CRISPR/Cas9 (クリスパー・キャスナイン)というのが最も新しい技術である、というところまで行きます。

 ゲノム編集の歴史としては、DNAを組換える技術が1973年に確立したことがはじめといえると思います。


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 1973年に、相同組換えを用いてのDNAの組換え技術ができました。ここでは詳細には触れませんが、効率とコストの問題があります。
 もちろんこの技術はとても多用されました。

 さて、大きな変化が起こったのが、1996年の ZFN という方法の発見と開発になります。


ZFN


 ZFN というのは Zinc finger nuclease のことです。Zinc というのは金属の亜鉛のこと。Finger は指なのですが、Zinc finger というのは「亜鉛が結合するタンパク質のある構造」のグループで、
 「DNAに結合する」性質をもっているのです。

 ですから、Zinc finger というのは、DNAにくっつくタンパク質の部分のこと。

 Nuclease はヌクレアーゼです。DNAを切るんでしたね。よって、ZFN は DNAにくっつく Zinc finger と ヌクレアーゼ、ということになります。

 さて、ヌクレアーゼは「ある部位」でDNAを切るのでした。
 その場所とはどこか。そこが問題です。

 実際に細胞の中に存在しているヌクレアーゼは、DNAの特異的な配列、すなわち文字の並びを認識して切ったり、片っ端から切ったりといろいろです。

 しかし、このヌクレアーゼの機能を、DNAを切るために使いたいと思った場合には、狙った場所のDNAを切ってもらう、ということができるようになる必要がありますね。

 ここで、Zinc finger は何種類もあるのですが、あるものは「特定のDNAの塩基3文字を認識」する、という性質をもっています。
 持たせることもできます。そうすると、こういうことができますね。


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 GGG を認識する ZF、GGTを認識するZF、GAC を認識するZFをつなげた ZFの鎖を作れば、GGGGGTGAC というDNAの配列を認識してくっつくものが作れる!

 そして、この鎖の一番先っぽに、DNAを切るヌクレアーゼの、切る機能のある部分をくっつければ、特異的なDNAの配列(この場合GGGGGTGAC)の先っぽでDNAを切ることができるようになります。


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 そして、図にあるように、青と赤に対応する、ZFの2セットの鎖をつかってあげるんです。切りたいところの左側と、右側にそれぞれ特異的な配列を認識するZFの鎖をつくり、先っぽにヌクレアーゼ(図ではFok1)をくっつける。そうすると、狙ったところで DSB (二本の鎖を切る)ことができますね!

 これがZFN です。

 かなり画期的な方法で、この方法により、特異的な配列を決めれば狙った場所にDSBを引き起こすことができるようになりました。


TALEN



 歴史に戻ります。次に出てきた技術が、TALEN というものです。
これは Transcription Activator-like  Effector Nucleases の略です…難しい。

 Transcription というのは「転写」のことで、DNAの情報をRNAにうつすこと、でした、そのあとの言葉の解釈は難しいのではしょりますが、DNAの情報をRNAに移す時にいろいろと作用するタンパク質があります。

 そういったタンパク質の中に、あるDNAの1文字を認識することのできるタンパク質の部分が存在するんですね。
 ZFと同じようなことなんですが、違う構造を持っています。

 そういう、DNA を認識する部分をブロックのようにつなげれば、ZFNのように特異的な配列を認識できるようになる、そして、はじっこに同じようにヌクレアーゼをくっつければ、そこでDSBを起こせる、という発想、それがTALENです。


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  この二つの技術は画期的で、人工的にヌクレアーゼとDNA配列認識部分をくっつけているので、人工ヌクレアーゼといってよいものなのですね。

 これらの技術をつかって、たくさん遺伝子改変が行われてきました。


そしてCRISPR/Cas9


 しかし、真打として登場するのが CRISPR/Cas9 です。これはヌクレアーゼと他のユニットを組み合わせるというのとは、全く違う方法で、一気にゲノム編集の機運が高まったのです。

 真打のCRISPR/Cas9 ですが、発見の経緯と、もともとは何であったのか、から入ります。

 細菌は1個の細胞からなる生物です。え?細菌?

 そう、実はCRISPR/Cas9 は細菌から見つかったのです。しかも、細菌のもっている免疫システムとして見つかったのです。

 細菌に免疫?はぁ?細菌などから私たちを守るのが免疫なんじゃないの?
そう思われるかと思いますが、実は、細菌も狙われているんですね。

 細菌が何に狙われているか。ウイルスです。細菌に感染する、たとえばファージというウイルスがいます。こういったウイルスは、細菌の中に自分のDNAやRNAを打ち込み、細菌の細胞を乗っ取って自分の子孫を作るんです。


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 ですから、細菌にウイルスが感染する、ということがおこるのです。

 これに対して、細菌も抵抗しようという、そういう仕組みを持っています。その一つが、CRISPR/Cas9 の元になるシステムだったのです。


 どういうことなのか順番に見ていきます。
 Jinek et al.  Nature Methods 10, 957–963 (2013)の図を借ります。


 まず、ファージという細菌に感染するウイルスが細菌に表面にくっつき、自分のDNAを打ち込みます。


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 すると、細菌としてはこのDNAをつかってウイルスが増えては困るということもありますので、外来DNAとしてこれをばらばらに切断する分子をつかって壊します。この分子は Cas という分子複数個からなっています。


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 そしてばらばらに切ったウイルス由来のDNAの断片を、自分のDNAの中の、CRISPR と呼ばれる領域に組み込みます。
 これが、「免疫記憶」にあたります。つまり、攻めてきたウイルスのDNA情報を切り取って、自分の中に組み込むことで覚えておくのです。


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 さて、免疫能力を発揮するのは、同じウイルスが二度目に攻め込んできたときになります。

 ファージというウイルスがまたDNAを打ち込んできますが、細菌側としては、自分のDNAのCRISPR という部分に組み込んでおいた ファージ由来のDNA断片をRNAとして転写します。

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 また、同時に、「Cas9」というタンパク質と、「トラッカーRNA」という足場になるようなRNAからなる部品も作ります。


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 作られた ①「Cas9」 は、②「CRISPR 領域から転写したRNA 」と③「トラッカーRNA」とをまとめて複合体を作ります。ここが肝です。


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 この複合体は、④「ウイルスが打ち込んできたDNA」のうち、「CRISPR領域に組み込んで記憶しておいたのと同じ配列を持つ部分」を認識して、その部分にくっつきます。つまり、特異的な配列を認識してくっつくわけです。

 そして、特異的な配列の根本の部分で、ウイルスが打ち込んできたDNAにDSB、つまり二本鎖の切断をひき起こします。
 こうして、ウイルスが打ち込んできたDNAを分解するのです。


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 さて、この仕組み、ざっくりまとめてしまうと、「特異的なDNAの配列を認識するRNAと、Cas9というヌクレアーゼを使って、狙った部分でDNAにDSBをおこす」というシステムですね。

 これは、考えてみれば、ゲノム編集に応用できそうではありませんか!

 だって、「特異的な配列」を狙って、「DSBを起こす」ことができるのですから。

 そこで、これを応用したのが、CRISPR/Cas9 システムなのです。
 仕組みは細菌のもっているのものを応用して少し変更したものです。


CRISPR/Cas9 をツールとして使う


 細菌のCRISPR領域に組み込まれた配列はRNAとして転写されますが、このRNAは「特異的な配列を認識する」、という役割をもつものでした。このRNAをガイドするRNAという意味で 「gRNA」と呼ぶことにします。

 さて、gRNAは、「トラッカーRNA」という足場となるパーツとCas9とくっついて複合体をつくるのでした。しかし、ここで人工的にすこし細工をします。

 gRNA とトラッカーRNAを人工的につなげた RNAを作ってしまえばいいのではないか、そういいう発想です。
 そうすると、この 「gRNA+トラッカーRNA」と「Cas9」があれば、gRNAに対応した特異的配列のDNAを認識して、DSBを引き起こすことができます


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  これが、CRISPR/Cas9 システムをツールとしてつかうことになるのです!

 実際には図にあるように、PAMという配列が必要だったり、Cas9もいろいろな種類があったりするのですが、そこは今回は省略します。


簡単にまとめると


 さて、まず CRISPR/Cas9 について振り返ります。

 このシステムは、細菌がウイルスから自分を守るシステムでした。ウイルス由来のDNAの特異的な配列にDSBを引き起こすシステムで、認識にはRNAを使いました。そして、RNAは gRNAとトラッカーRNAからなるのでしたが、これは人工的にくっつけることができたのでした。

 というわけで、真打のCRISPR/Cas9 システムまで見ました。

 歴史の振り返りとしては、ヌクレアーゼと認識タンパク質で作られた ZFN → TALENと、きて、ヌクレアーゼであるCas9 と認識するRNAで作られた CRISPR/Cas9 システムが出てきた、というわけです。

 さて、DSBを引き起こしたあとの組換え方法やノックアウトと呼ばれる遺伝子をつぶす方法の詳細は、…はぶいちゃいます!とにかく、このテクニックを使うと、遺伝子を書き換えられるんだ、ということがわかっていただければまずは満足です。


時事問題に戻ります


 ここからは、今回中国で騒動となったCCR5 という分子の背景と、技術的になにが問題なのかな、ということを呟きたいと思います。
 倫理的なことは今日は呟きません。定見ももたないので…。

 さて、今回の報道では、中国で行われたと主張されている内容は、ヒトの受精卵にゲノム編集を行って、CCR5という分子を叩き潰した、そういうヒトを作ったよ、という話なんです。

 CCR5は細胞の表面にでているタンパク質です。
 ケモカイン受容体という仲間で、情報をキャッチするのが本来の仕事です。

 しかし、なにが大事かというと、このCCR5は エイズを引き起こすウイルスである HIV が、細胞に感染するときに重要だということです。

 下の図に示すように、HIV(HIV-1)は ウイルスの表面にあるgp120 という分子が、細胞の表面にあるCCR5とくっつくことで、細胞にくっつきます。
 そして、その後、いくつもの分子が働いて、細胞の中に侵入していくのです。

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 とすると、このCCR5がなければどうなるか。

 HIVは細胞に入れませんから、感染しないんですね。というわけで、これは細胞レベルの実験ではよく知られていることでした。

 そして、2010年にはこんな論文が出ています。Holt N et al. Nat Biotechnol. 2010 Aug;28(8):839-47.

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 この論文では、ヒト化マウスのCCR5をゲノム編集で無くしたうえで、HIVの感染実験をしています…はぁ??

 かみ砕きます。まず、HIV というのはヒトには感染しますが、マウスに感染しません。なので、普通のマウスでは動物実験ができないのです。HIVが感染しなければなにも起きないので。

 そこで、ヒト化マウスというものを作ります。ヒト化、というのはどういう意味かというと、マウスの、血液だけをヒトのものに入れ替えたマウス、というような意味です。そういうことができるんです。

 どうやって作るかというと、免疫が不全のマウスというのがいて、そのマウスの血液細胞をまずすべて殺してしまいます。そのあとにヒトの血液細胞のもとになる造血幹細胞という細胞をこのマウスに入れるんですね。そうすると、それが分化して血液細胞になるので、マウスの血液をヒト由来のものに置き換えることができるのです。

 これが、ヒト化マウス。

 ヒト化マウスでは、血液がヒト由来になっています。ここで、エイズのウイルスであるHIVは血液細胞の一種であるT細胞などに感染しますのでこの、ヒト化マウスにはHIVウイルスが感染するのです。

 よって、ヒト化マウスはHIVの研究に使えるモデルマウスということなのですね。

 さて、論文に戻ります。この論文ではなにをしたか、それが大事です。もし、ヒト化マウスの中にあるヒト由来の血液細胞にCCR5がなかったらどうなるでしょうか。そういう話です。

 CCR5はHIVが感染するのに必要なのでした。だからCCR5がなければ、このマウスはHIVに感染しない、そういうことになる、ということが予想されますよね。

 では、どうやってCCR5を消せばいいのかそこでゲノム編集技術です。
ヒト化マウスは、ヒトの造血幹細胞を入れて作るのでした。であれば、ヒトの造血幹細胞にゲノム編集をして、CCR5をなくしたあとにマウスにいれたらどうだろう。それをやったのがこの論文です。

 使った方法は ZEN。ついてきてくださった皆さんならお気づきの、最初に作られたゲノム編集技術ですね。これをつかってヒト造血幹細胞のCCR5を叩き潰しました。

 そして、その造血幹細胞をマウスにうって、ヒト化マウスの血液細胞からCCR5が消えたことを確かめました。

 そして、HIVを打ったんですね。そうすると、ZENを使っていないマウス=CCR5があるマウスでは脾臓にいる細胞のうちCD4陽性細胞という細胞が消えてしまいましたが、CCR5がないゲノム編集済のマウスでは消えませんでした。

 CD4陽性細胞というのはHIVのターゲットとなるT細胞なんです。つまり、CCR5のあるマウスではその細胞がHIVに殺されてしまいましたが、CCR5をなくすと殺されなかったんですね。

 ということで、この論文ではCCR5をなくせば、HIVへの感受性がなくなる、すなわち感染しない能力が得られる、ということが示唆されたわけです。

 このCCR5に関しては、TALENを使って叩き潰し、HIV感受性が減るということを示した論文もあります。

 TALEN-Mediated Knockout of CCR5 Confers Protection Against Infection of Human Immunodeficiency Virus. Shi B et al.  J Acquir Immune Defic Syndr. 2017 Feb 1;74(2):229-241.など


 こういったことから、HIVに対する治療的なアプローチとしてのゲノム編集は注目されてきていたのです。
 The therapeutic application of CRISPR/Cas9 technologies for HIV. Saayman S et al. Expert Opin Biol Ther. 2015 Jun;15(6):819-30. などでそのあたりのことはまとめられていました。


今回のニュース


 今回のニュースにもどります。

 つまり、CCR5をつぶす、これがヒトでも同じことができ、ゲノム編集でCCR5をつぶしてしまえば、HIVに感染しないヒトができるのでは…そういうことだったんです。実際、CCR5が少し違う(CCR5-Δ32という変異)ヒトというのはいて、マクロファージ指向性という特徴のあるHIVにかかりにくい/かからないことも知られています

 そこに発想を得ての、今回の発表だったんですね。ことの真偽はわかりませんけれども。

 さて、では、倫理ではなく、技術的にどんな問題があるのか、一点だけ触れたいと思います。

技術的な問題は


 いままでのふれてきたようにゲノム編集技術である「CRISPR/Cas9」法は、「特異的な」つまり、「狙った遺伝子」を「正確に」編集できる、のではないかと考えられてきました。

 しかし、実はこれには落とし穴があったのです。

 狙ったところ以外の遺伝子にも影響を与えてしまう効果がある…。そういったことがわかってきました。これを標的の外への影響、という意味で「Off-Traget effect」 と呼んでいます。

 言い換えるとこれは、gRNAで認識するところ以外の遺伝子も切ってしまったりする効果がCRISPR/Cas9にはある、という問題です。

 そしてさらに、今年の7月には Nature Biotechnology に、標的とした遺伝子周囲のDNAにたくさんの欠失や再構成を引き起こすということが報告されたのです。
 (nature による紹介記事: https://www.nature.com/articles/d41586-018-05736-3)

 元の論文は
 Repair of double-strand breaks induced by CRISPR–Cas9 leads to large deletions and complex rearrangement. Michael Kosicki, Kärt Tomberg & Allan Bradley
 Nature Biotechnology volume 36, pages 765–771 (2018)   
 https://www.nature.com/articles/nbt.4192 です。

 この論文の前にも実は、同じような解析はありました。
 CRISPR/Cas9 targeting events cause complex deletions and insertions at 17 sites in the mouse genome. Shin HY et al. Nat Commun. 2017 May 31;8:15464. doi: 10.1038/ncomms15464.  https://www.nature.com/articles/ncomms15464


 さて、Nat biotechnologyの論文では、狙った遺伝子ではない部分にたくさんの異常がおこることから、pathogenic すなわち不具合を引き起こす可能性がある、と結論付けています。

 つまり、現時点でのゲノム編集技術は、狙ったところだけを改変する完全な技術ではなさそう、ということですね。これは問題です。

 この技術はそういう意味でまだまだ検討していかねばなりませんし、こういった問題を解決しなくてはなりません。

 治療応用や、ましてやヒト受精卵をいじるという段階にはまだ達していないように思います。

 そのほかにも実は、ヒトの遺伝子はそれぞれ同じものが最低2個のっているのですが、その片一方しか編集できなかったり、すべての細胞を編集はできなかったりという問題もあるのですが、ここらへんは端折ります。
 (興味のある方は nature ダイジェスト 2015年にすでにこんな記事があります:ヒトの生殖系列のゲノムを編集すべきでない )

 さて、というわけで、今回は長くなりました(実はここまでで11000文字を超えてしまいました)がゲノム編集を時事問題にからめて触れてみました。

 かなり端折っていますし、簡単にしているので語弊もあるかと思います。


 最後にゲノム編集に関係する資料を置いておきます!
 ▶ 英語版ですがゲノム編集について詳しいフリーブックが addgene で手に入ります   (https://info.addgene.org/download-addgenes-ebook-crispr-101-2nd-edition)
 ▶ 日本語の資料としてはコスモバイオの YouTube がわかりやすいですね。



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