薬害オンブズパースン会議という反ワクチン活動をしている団体があります。
もともとは、薬害エイズ訴訟や肝炎訴訟などの被害者サポートなどをしていた真っ当な団体であると認識していたのですが、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV)の「薬害訴訟」に関わり、はっきりと反ワクチンを掲げている状態になっています。
もちろん訴訟進行中ということもありポジショントークをして世論を動かしたいという意図が見えていますが、
NHK のワクチン忌避を特集した番組に
圧力をかけたり、様々な声明や要望を出したりして反ワクチン運動が目立つようになっています。
昨日書いたブログでも紹介しましたが、無理に結論をまげた論文を出すなどして、裁判で有利になろうともしていますね。
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名古屋スタディ関連の八重論文に対する名市大鈴木教授のレター第二弾の和訳
そんななか、
ブログを開設したようで、その第一弾ともいえる記事で突然、
日本産科婦人科学会に言いがかりをつけています。しかも薬害マターというよりも、HPVVの評判を落とすために書かれたとしか言いようのない、とんでもない言いがかりものです。
理屈は簡単とみられ、
HPVVに薬害があるとして勝訴したい
↓ HPVVが有用なワクチンであってもらってはこまる
↓ 子宮頸癌という病気が大した病気ではないように見せたい
↓ 子宮頸癌が若年者に多いと説明する
産科婦人科学会の見解にケチをつけよう
↓ 産科婦人科学会の言う若年者は私たちの考える
若年者じゃないんだ!
結局、暴論。
というものですね。
ちょっと検証してみましょう。
問題のブログは…紹介したくもないのですが…
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日本産科婦人科学会によるアンフェアな印象操作
~若年層の子宮頸がんによる死亡者数は増加していません
このブログの冒頭で彼ら自身が記事内容をまとめています。順番に見ていきたいと思います。
日本産科婦人科学会が、菅義偉内閣官房長官に対してHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種の積極的勧奨を求める要望書を提出した。
その通りです。産科婦人科学会のホームページにも掲載されていますね。
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HPVワクチンの積極的勧奨再開に関する要望書を、内閣官房長官と厚生労働事務次官に提出しました。
くしくも本日、産科婦人科学会の情報も更新されています。
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子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために
要望書と資料では子宮頸がんによる若年層の死亡者数の増加が強調されているが、なぜか資料とされたグラフでは「20~49歳」が若年層とされている。
さて、ここから突然
若年層の定義に噛みついてきました。
そもそも
若年層というのは明確な定義がある言葉ではなく、比較したときに若いということを指しているので、
そこに噛みつくというのもどうかと思うのですが(大丈夫か?という意味ですが)、実際にはどのように使われているでしょうか。
例えば、がんセンターの
このページでは確かに、思春期・若年成人(AYA世代)というのを
15歳から30歳前後の思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult, AYA)としています。
しかしこれだけが若年層かというとそれは字義にこだわりすぎていると言わざるを得ません。なぜなら、
がん診療においては主たる患者は70代以降であることが実際には多く比較的高齢者層になるので、それより若い世代層であれば若年層と表現してもおかしくはないからです。もちろん定義も明確にあるわけではありませんので、弾力的に用いられる言葉ですよね。なので次の一文は強引すぎると言えるでしょう。
しかし、がんの統計で若年層といえば、AYA世代(15~39歳)のこと。
さて、産科婦人科学会の
この資料のグラフに噛みついているわけです。
このグラフはもとはがんセンターにもあるがん統計から来ているのですが、出典は論文ですね。原著論文 ▶
Epidemiologic and Clinical Analysis of Cervical Cancer Using Data from the Population-Based Osaka Cancer Registry
噛みつき方はこうです。
なぜか「20~49歳」を「若年層」として定義しています。
50歳未満ではまずいようです。どうしても次のようにしたいんですね。
がん統計で「若年層」を区分する場合、通常はAYA世代(Adolescent and Young Adult:思春期および若年成人)と呼ばれる「15~39歳」という区分が用いられています。
しかしながら、繰り返しますが、これは厳密に定義されてここでなくてはならないという決まりもないわけで、数値が明示されているのであるから特に問題ない事項でしょう。
そもそも
がんでの死亡者のグラフです。
50歳未満のがんによる死亡は普通若いと思いませんか?それとも十分に年齢がいっていて
がんで死亡しても仕方がない年齢だと皆さん思われるでしょうか。先走りますが、薬害オンブズパースンの人たちは、数値を小さく見せるためにとにかくとても若い人たちだけに注目させようとしていますが、
現実的には子育て世代である50代までにがんで亡くなるのは十分に若いと評価するのが普通でしょう、と思います。
さて戻ります。そうやってこのグラフで書かれている若い世代というのがよくないと思ったようです。で、もっと若い世代だけで見てみるということを彼らはしだします。
「15~39歳」でグラフを作ると、若年層の近年の死亡者数はむしろ減少傾向にあることがわかる。
これには国がんの情報サイトである
ganjoho.jp のがん登録・統計のページを用いることができます。彼らもこれを使っていますね。
こう言っています。
さて、この国立がん研究センターがん対策情報センターのサイトで、AYA世代である「15~39歳」を選択して子宮頸がんの死亡者数の年次推移のグラフを作成してみたところ、次のようになりました。
さて、同じグラフを私も選択して作ってみました。
ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。
まず、データ → 「死亡」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。
次に、部位から「子宮頸部」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると数のグラフができます。これは薬害ブログと同じものですね。
注意事項はこれはあくまでも「実数」であるということですが(実際には人口も変わるので年齢調整の「率」でみるのがより妥当と思いますが、とりあえず、彼らが実数にこだわっているので合わせてみます)、ここではおきましょう。このグラフに対してブログはこう言います。
このグラフからわかるように、「15~39歳」の子宮頸がん死亡数は、2000年以降はほぼ横ばいで、近年はむしろ減少しています。
この年齢層のグラフをみると、その通りで、2000年以降はほぼ横ばいで、最後の2年間ほどが下落しています。
さて、で、だから?ですよね。この世代では横ばい傾向である。最近少し死亡者数がへったかな、ということです。
彼らは続けます。
「15~39歳」で死亡者数は増加していないのですから、日本産婦学会の資料にある「20~49歳」のグラフが右肩上がりになっているのは、「40~49歳」のデータが強く影響していることが推測されます。
そうでしょう。そして「
がんに関する統計データのダウンロード」から「人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2017年)」をダウンロードして、「20~29歳」「30~39歳」「40~49歳」「20~39歳」「20~49歳」の5種類の区切りでグラフを作ったとのこと。同じ作業をエクセルを使ってやってみました。ただし5歳区切りにしてみました。
このグラフでわかるように、40-44歳、45-49歳での死亡数は上昇傾向が見られるんですね。
十分に50歳未満は若いと思います。
死亡者の年齢層が上昇している原因はいろいろ考えられますが、検診などで早めに発見されて治療介入がされているとか、治療成績がよくなっていることはまぁ考えてよいのではないかと思うのです。しかしなかなか推論としては証拠がないと弱いですね。
あ、そういえばさっきの統計のページで、「死亡」ではなく「罹患」が調べられたのではないでしょうかね…罹患というのは病気になることですから、なっている人がどのぐらいいてどういう傾向なのかも見ておくのがフェアということになりますよね。
さて、もどってみましょう。罹患のグラフを作ります。
ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。
まず、データ → 「
罹患(全国推計値)」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。次に、部位から「子宮頸部」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると下記グラフができます。
15-39歳の子宮頸癌の罹患数は上昇傾向でしたが、ここ数年は下がっているようですね。子宮頸癌は下がっているんだ…なるほどねぇ…となる前に。
子宮頸癌は HPV感染 → 前癌病変 → 浸潤癌 となるのでした。なのであれば、検診などで早期に発見されていれば治療介入がされていて浸潤癌に進む人は減ります。
前癌病変も含めて罹患数をみられないかな…ということで、同じグラフのサイトをみてみると、
「子宮頸部(上皮内がん含む)」という項目もありましたね。これでグラフを作ってみましょう。
ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。
まず、データ → 「
罹患(全国推計値)」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。次に、部位から「
子宮頸部(上皮内がん含む)」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると下記グラフができます。
上昇してきていたんですね。そしてここ数年は横ばい。そういう事がわかります。子宮頸癌になる前癌病変については上昇傾向で、少なくとも、あった、といってよいでしょう。ま、これは子宮頸癌が重要な疾患で問題なんだよというのにはわかりやすいデータですよね。
しかし死亡者数は少し減っている。早期介入や治療の進歩がやはりあるのではないでしょうかね。
さて、彼らの書きっぷりに戻ります。
あえて「40~49歳」のデータを加えたグラフで若年層の増加を強調するのは、アンフェアな印象操作と批判されてもやむを得ない行為。
繰り返しますが、
50歳未満でがんで死亡するのは若い、でしょう。なぜか
薬害オンブズパースン会議の人たちは39歳までが若く、そこまでの死亡だけに同情(?)するという年齢差別的な線をそこに引きたがっているようです。もちろん産科婦人科学会側も50歳で線を引いたグラフをだしているのですが、がん診療の現状から言えば
50歳未満は若いよね、というのはより妥当でしょう。
彼らはこう締めくくっています。
このようなアンフェアな印象操作によって、国の政策に誤った影響が与えられることがあってはならないと考えます。
…一体何を言っているんでしょうか。
40-49歳は「若くないから」「がんで死んでも構わない」という事を強調したいのでしょうか。神経というか正気を疑います。繰り返しになりますが、
50歳未満のがんによる死亡は普通、若いと思いませんか?それとも十分に年齢がいっていて
がんで死亡しても仕方がない年齢だと皆さん思われるでしょうか。
彼らこそ数値を小さく見せるためにとにかくとても若い人たちだけ(なぜかAYA世代でなくてはならないらしい)に注目させようとしていますが、
現実的には子育て世代である50代までにがんで亡くなるのは十分に若いと評価するのが普通でしょう、と思います。産科婦人科学会はなにも「アンフェアな」「印象操作」などしていないでしょう。
また冷静にみていただくと、たしかに実数として直近に当たる数年は減っているといっても、
毎年20-30代女性の150人程度もの方が亡くなっているわけです。まさに子育て世代であり、子宮頸癌が「Mother killer」と呼ばれる理由ですよね…。
こういうことまで言い出してもだれも止めずにブログに掲載までしてしまうそんな団体、皆さんはどう思いますか?産科婦人科学会が真摯に啓発しようとしていることに対して、この言いがかり。ワクチンを何としても貶めたいというのはひしひしと伝わりますが、子宮頸癌を過小評価させようというその行為はまさに品性下劣と思います。
子宮頸癌は若い女性、とくに子育て世代の命をうばうことがある、また、罹患すると子宮摘出などの治療やそれに伴う合併症や後遺症、そして再発やフォローの不安なども起こす重大な疾病であることは論を待たないでしょう。
他の癌にくらべると罹患も死亡も相対的に若年であることも明らかでしょう。
この癌は、
ワクチンと検診の2本立てでかなり防ぐことができます。原因であるHPVの感染をHPVVで防ぎ(完全ではない)、検診で早期発見をする(これも完全ではない)、両者を合わせることでより確実に子宮頸癌で苦しむ人を減らしていくのが大切ですね。
ワクチンはかなり優秀でこんな予測も以前紹介しました。
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HPVV で子宮頸癌を撲滅状態にできるという予測の論文が出ました。
ワクチンそのものについても一度まとめています。
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ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1
なんとしてもワクチンを悪者にしたいというスタンスでさまざまなことをしてくる団体や個人もいますが、冷静にその対象疾患である、子宮頸癌(実際には、外陰癌、陰茎癌、肛門癌、中咽頭癌なども含む)を知っていただき、ワクチンのベネフィットも知っていただき、そして副反応の実態も知っていただき、冷静に判断していただきたいと願います。
今後もこの問題については適宜書いてみたいと思っています。
note に 医学・医療関係の記事をまとめています