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2020年11月18日水曜日

HPV ワクチンに関する報道の潮目が変わったのを感じます

  冬に向けて少しずつ変化している木々がきれいなベセスダです。


Fig.1 研究所構内の紅葉


 さてここ一月ほど、つぎつぎにメジャーな新聞・メディアを含む媒体に HPVワクチンについて比較的肯定的またはフラットに報道する記事が出てくるようになりました。

 ▶ 国民の理解が不可欠 日本経済新聞
  ダイヤモンドオンライン
  女子SPA!
  日経グッディ


 日本経済新聞社が朝刊も含む本紙でとりあげたのは大きいですね。

 これまでずっと大手メディアは無視を決め込んでいた HPVワクチンの話題に触れられるようになったこと自体が大きいですね。

 議連も動いています。

 9価のワクチンも承認されました。

 ぜひ、9価の定期接種化・積極的勧奨は当然、男女ともの接種、空白期間に打てなかった方々へのキャッチアップ助成を勧めていただきたいですね。

 そしてそれと同時に、メディアと国・厚労省からは謝罪を。多くの人から機会を奪い、健康を損なった人もいるはずです、真摯な謝罪を。

 雲仙普賢岳の噴火から30年だったそうですね。当時のメディアの無理によって民間の消防団の方などが巻き込まれて亡くなった方が出ましたね。今になって後悔の念を表した記事がでたそうです。
 朝日新聞の吉田証言も訂正するまでに40年ぐらいかかっていますね。
 
 メディアは無謬ではないですし、間違いを犯すことは人ならだれでもありますが、おかしてしまった過ちを認めず、過ちを過ちとして謝ることのできないのは本当に問題であると思います。関係者が死に絶えたころに謝ったのでは遅いのではないでしょうか。

 当初はセンセーショナルさで報道し、真偽がわからないことはいくらでもあるでしょう。
 しかし、事実と検証が積みあがり全体像がみえてきたときに、その問題にどう真摯に取り組むか、一度大きく取り上げたことをどうフォローしていき、けじめをつけるか、そこが大事ですね。臭いものにふた、なかったことにする、そんなことをするようでは公器などと名乗るのはおこがましいですよね。

 特に大きく副反応を煽り続けたメディアや、その後も副反応の危険を根拠薄弱なまま報じ続けた媒体の動向はしっかり見る必要があるでしょう。
  
 日本経済新聞は動きました。

 主にこの問題をこじらせるのに力を発揮した他の新聞社、テレビは謝罪と方向転換できるかな。注目です。



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2020年7月16日木曜日

HPVワクチンについての記事の紹介




 HPVワクチンについて知りたい方のために初めにこの記事を読んでほしいなというものをまとめておきます。ただのリンクのまとめです。





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2020年1月29日水曜日

BuzzFeed Japan Medical への連載4回目

 一昨日から公開をはじめていただいております HPVV、子宮頸癌ワクチンに関する連載の第四回(最終回)が公開されました。

 ▶ メディア、政治、行政、医療者の責任は? 日本でなぜHPVワクチンはうたれなくなったのか

 連載四回の総括です。
 早速反ワクチンの頓珍漢なコメントがついていますが、それもお楽しみください。
 よろしくお願いいたします。


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2020年1月28日火曜日

BuzzFeed Japan Medical への連載3回目

 一昨日から公開をはじめていただいております HPVV、子宮頸癌ワクチンに関する連載の第三回が公開されました。

 ▶ HPVワクチンをめぐる12個の作り話をファクトチェック 「HANSは?」「男子は必要ないの?」(後編)


 HPVV にまつわる12個の噂話を二回にかけて検証しています。
 できるだけ文献を付けるようにしましたので、ぜひ文献まで見てみなさんに考えてみていただきたいと思います。

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2020年1月27日月曜日

BuzzFeed Japan Medical への連載2回目

 昨日から公開をはじめていただいております HPVV、子宮頸癌ワクチンに関する連載の第二回が公開されました。

 ▶ HPVワクチンをめぐる12個の作り話をファクトチェック 「危険?」「効果がない?」(前編)


 HPVV にまつわる12個の噂話、をまずは二回かけて検証します。
 できるだけ文献を付けるようにしましたので、ぜひ文献まで見てみなさんに考えてみていただきたいと思います。

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2020年1月26日日曜日

BuzzFeed Japan Medical に4回連載します

 昨日から BuzzFeed Japan Medical に、HPVワクチンについての 4回連載を始めました。
 できるだけ初歩的なところから HPVワクチンに関する説明と、誤解を解く話を書いたつもりです。
 初回はこちら、一読いただけるとありがたいです。




 明日以降の連載では、HPVワクチンについての作り話、簡単にいえばデマを検証していき、最後にちょっと現状について論考してみたいなと思っています。

 HPVワクチンについての作り話は非常に多いのですが、検討して、というかしっかりつぶす記事が日本語ではあまりなかったので書いてみました。
 
 どうぞよろしくお願いいたします。




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2020年1月23日木曜日

日本産科婦人科学会より新たな「HPVワクチンに関する要望書」が厚労省に提出されました

 HPV感染を防ぎ、子宮頸癌の他HPV関連癌を防ぐことのできるHPVワクチン(HPVV)ですが、現状、日本では積極的な勧奨が控えられたままとなっており、接種率は1%未満という状況が続いています。
 HPVV については今までも何回も触れてきました。

 ▶ ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1
 ▶ HPVV についての WHO 研究所の声明
 ▶ HPVV で子宮頸癌を撲滅状態にできるという予測の論文が出ました。
 ▶ BuzzFeed に HPVワクチンについて、
   元担当官へのインタビュー記事が出ています
 ▶ 朝日新聞に HPVV に関する偏った一連の記事が掲載される
 ▶ 日経メディカル誌にとんでもない記事が掲載
 ▶ 名古屋スタディ関連の八重論文に対する名市大
   鈴木教授のレター第二弾の和訳
 ▶ 薬害オンブズパースン会議のブログで
   とんでもない主張がされています
 ▶ HPVV についての非常にわかりやすく丁寧な Online セミナー動画
 ▶ 【情報】ワクチンの情報のあるサイトまとめ

 など

 さて6年半も「一時的に」積極的勧奨が中止されているわけですが、国内的にも世界的にもこのワクチンの安全性と有効性は確認されているわけで、早急な再開が必要とされます。今回の産科婦人科学会の要望書は非常に真っ当なものです。


 この要望書はシンプルに必要なことを要望しています。簡単にまとめると、

 1. 積極的勧奨の再開
 2. 再普及、促進
 3. キャッチアップ
 4. 9価ワクチンの早期承認と定期接種化
 5. 男子への定期接種化
 6. ワクチン未接種となった方への検診強化
 7. メディアや国民に対する適切な情報提供

 真っ当です。

 非常に真っ当であり、かつ、シンプルに正しい内容です。

 以前から何度か触れている「薬害オンブズパースン会議」という反HPVV団体たちが、厚労省部会に、積極的な勧奨を再開しないようにという強引かつ誤った申し入れをしたばかりですが、こういった間違った言い分ではなく、多くの人がしっかり検討した正しい事実に基づいての、しっかりした要望は大事ですね。

 ぜひこの産科婦人科学会の要望書を一瞥いただきたく存じます。
 日本でもHPVVを再普及させ、しっかりと健康と生命を守れるようにしないといけないですね。 

 私もHPVVの2価を3回接種済みで、この度アメリカで9価も打ちました。
 ▶ HPVV、9価のガーダシル9を打ってきました
 男性も意識高く、是非接種を検討してほしいものです。


 さて、これに関連して BuzzFeed Japan Medical に連載を公開していただきました。こちらもぜひご覧いただきたく存じます。

 ▶ BuzzFeed Japan Medical に4回連載します
 ▶ BuzzFeed Japan Medical への連載2回目
 ▶ BuzzFeed Japan Medical への連載3回目





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2020年1月19日日曜日

HPVV、9価のガーダシル9を打ってきました

 朝は雪、先ほどから霙となったベセスダです。
 結構寒いです。

 本日は、朝から近くのドラッグストア CVS へいき、HPVV(ヒトパピローマウイルスワクチン、いわゆる子宮頸がんワクチン)の ガーダシル9 を打ってもらいました!


Fig.1 ガーダシル9を接種

 以前にサーバリックスという2価のワクチンは接種済みだったのですが、金銭的事情でいままで打てていませんでした。しかしちょっと確認したところ、今入っているアメリカの健康保険がカバーしてくれることが判明!
 ささっと打てる場所を探した結果、ドラッグストア CVS 内に入っている MinteClinic というところで打てることがわかったので行ってきた次第。

 事情を説明すると、写真撮影を許可してくれ、問診と接種、併せて5分以内でさくっとおわりました!

 痛みはまぁ、インフルエンザワクチンと同程度かちょっと痛いぐらい。現在、接種後2時間特に腫れていませんが、これからちょっと腫れるかもしれませんね。

 全3回の接種なので、あと二回、まずは2月、次が7月に行ってきたいと思います。
 しっかり打って守るのがいいですね。


 
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2019年12月11日水曜日

薬害オンブズパースン会議のブログでとんでもない主張がされています

 薬害オンブズパースン会議という反ワクチン活動をしている団体があります。

 もともとは、薬害エイズ訴訟や肝炎訴訟などの被害者サポートなどをしていた真っ当な団体であると認識していたのですが、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV)の「薬害訴訟」に関わり、はっきりと反ワクチンを掲げている状態になっています。

 もちろん訴訟進行中ということもありポジショントークをして世論を動かしたいという意図が見えていますが、NHK のワクチン忌避を特集した番組圧力をかけたり、様々な声明や要望を出したりして反ワクチン運動が目立つようになっています。

 昨日書いたブログでも紹介しましたが、無理に結論をまげた論文を出すなどして、裁判で有利になろうともしていますね。
 ▶ 名古屋スタディ関連の八重論文に対する名市大鈴木教授のレター第二弾の和訳

 そんななか、ブログを開設したようで、その第一弾ともいえる記事で突然、日本産科婦人科学会に言いがかりをつけています。しかも薬害マターというよりも、HPVVの評判を落とすために書かれたとしか言いようのない、とんでもない言いがかりものです。

 理屈は簡単とみられ、
  HPVVに薬害があるとして勝訴したい
  ↓  HPVVが有用なワクチンであってもらってはこまる
  ↓ 子宮頸癌という病気が大した病気ではないように見せたい
  ↓ 子宮頸癌が若年者に多いと説明する
    産科婦人科学会の見解にケチをつけよう
  ↓ 産科婦人科学会の言う若年者は私たちの考える
    若年者じゃないんだ!
  結局、暴論。

 というものですね。

 ちょっと検証してみましょう。
 問題のブログは…紹介したくもないのですが…
 
 ▶日本産科婦人科学会によるアンフェアな印象操作
  ~若年層の子宮頸がんによる死亡者数は増加していません

 このブログの冒頭で彼ら自身が記事内容をまとめています。順番に見ていきたいと思います。

日本産科婦人科学会が、菅義偉内閣官房長官に対してHPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の接種の積極的勧奨を求める要望書を提出した。

その通りです。産科婦人科学会のホームページにも掲載されていますね。
 ▶ HPVワクチンの積極的勧奨再開に関する要望書を、内閣官房長官と厚生労働事務次官に提出しました。
 くしくも本日、産科婦人科学会の情報も更新されています。
 ▶ 子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために



要望書と資料では子宮頸がんによる若年層の死亡者数の増加が強調されているが、なぜか資料とされたグラフでは「20~49歳」が若年層とされている。

さて、ここから突然若年層の定義に噛みついてきました。

 そもそも若年層というのは明確な定義がある言葉ではなく、比較したときに若いということを指しているので、そこに噛みつくというのもどうかと思うのですが(大丈夫か?という意味ですが)、実際にはどのように使われているでしょうか。

 例えば、がんセンターのこのページでは確かに、思春期・若年成人(AYA世代)というのを15歳から30歳前後の思春期・若年成人(Adolescent and Young Adult, AYA)としています。

 しかしこれだけが若年層かというとそれは字義にこだわりすぎていると言わざるを得ません。なぜなら、がん診療においては主たる患者は70代以降であることが実際には多く比較的高齢者層になるので、それより若い世代層であれば若年層と表現してもおかしくはないからです。もちろん定義も明確にあるわけではありませんので、弾力的に用いられる言葉ですよね。なので次の一文は強引すぎると言えるでしょう。


しかし、がんの統計で若年層といえば、AYA世代(15~39歳)のこと。


さて、産科婦人科学会のこの資料のグラフに噛みついているわけです。


 このグラフはもとはがんセンターにもあるがん統計から来ているのですが、出典は論文ですね。原著論文 ▶ Epidemiologic and Clinical Analysis of Cervical Cancer Using Data from the Population-Based Osaka Cancer Registry

 噛みつき方はこうです。

なぜか「20~49歳」を「若年層」として定義しています。

 50歳未満ではまずいようです。どうしても次のようにしたいんですね。

がん統計で「若年層」を区分する場合、通常はAYA世代(Adolescent and Young Adult:思春期および若年成人)と呼ばれる「15~39歳」という区分が用いられています。 

 しかしながら、繰り返しますが、これは厳密に定義されてここでなくてはならないという決まりもないわけで、数値が明示されているのであるから特に問題ない事項でしょう。

 そもそもがんでの死亡者のグラフです50歳未満のがんによる死亡は普通若いと思いませんか?それとも十分に年齢がいっていてがんで死亡しても仕方がない年齢だと皆さん思われるでしょうか。先走りますが、薬害オンブズパースンの人たちは、数値を小さく見せるためにとにかくとても若い人たちだけに注目させようとしていますが、現実的には子育て世代である50代までにがんで亡くなるのは十分に若いと評価するのが普通でしょう、と思います。

 さて戻ります。そうやってこのグラフで書かれている若い世代というのがよくないと思ったようです。で、もっと若い世代だけで見てみるということを彼らはしだします。

「15~39歳」でグラフを作ると、若年層の近年の死亡者数はむしろ減少傾向にあることがわかる。

これには国がんの情報サイトである ganjoho.jp のがん登録・統計のページを用いることができます。彼らもこれを使っていますね。
 こう言っています。

さて、この国立がん研究センターがん対策情報センターのサイトで、AYA世代である「15~39歳」を選択して子宮頸がんの死亡者数の年次推移のグラフを作成してみたところ、次のようになりました。

さて、同じグラフを私も選択して作ってみました。
  ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。

 まず、データ → 「死亡」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。
 次に、部位から「子宮頸部」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると数のグラフができます。これは薬害ブログと同じものですね。



 注意事項はこれはあくまでも「実数」であるということですが(実際には人口も変わるので年齢調整の「率」でみるのがより妥当と思いますが、とりあえず、彼らが実数にこだわっているので合わせてみます)、ここではおきましょう。このグラフに対してブログはこう言います。

 このグラフからわかるように、「15~39歳」の子宮頸がん死亡数は、2000年以降はほぼ横ばいで、近年はむしろ減少しています。

この年齢層のグラフをみると、その通りで、2000年以降はほぼ横ばいで、最後の2年間ほどが下落しています。
 さて、で、だから?ですよね。この世代では横ばい傾向である。最近少し死亡者数がへったかな、ということです。

 彼らは続けます。

「15~39歳」で死亡者数は増加していないのですから、日本産婦学会の資料にある「20~49歳」のグラフが右肩上がりになっているのは、「40~49歳」のデータが強く影響していることが推測されます。

 そうでしょう。そして「がんに関する統計データのダウンロード」から「人口動態統計によるがん死亡データ(1958年~2017年)」をダウンロードして、「20~29歳」「30~39歳」「40~49歳」「20~39歳」「20~49歳」の5種類の区切りでグラフを作ったとのこと。同じ作業をエクセルを使ってやってみました。ただし5歳区切りにしてみました。



 このグラフでわかるように、40-44歳、45-49歳での死亡数は上昇傾向が見られるんですね。十分に50歳未満は若いと思います

 死亡者の年齢層が上昇している原因はいろいろ考えられますが、検診などで早めに発見されて治療介入がされているとか、治療成績がよくなっていることはまぁ考えてよいのではないかと思うのです。しかしなかなか推論としては証拠がないと弱いですね。

 あ、そういえばさっきの統計のページで、「死亡」ではなく「罹患」が調べられたのではないでしょうかね…罹患というのは病気になることですから、なっている人がどのぐらいいてどういう傾向なのかも見ておくのがフェアということになりますよね。

さて、もどってみましょう。罹患のグラフを作ります。

  ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。
 まず、データ → 「罹患(全国推計値)」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。次に、部位から「子宮頸部」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると下記グラフができます。



 15-39歳の子宮頸癌の罹患数は上昇傾向でしたが、ここ数年は下がっているようですね。子宮頸癌は下がっているんだ…なるほどねぇ…となる前に。

 子宮頸癌は HPV感染 → 前癌病変 → 浸潤癌 となるのでした。なのであれば、検診などで早期に発見されていれば治療介入がされていて浸潤癌に進む人は減ります。
 前癌病変も含めて罹患数をみられないかな…ということで、同じグラフのサイトをみてみると、「子宮頸部(上皮内がん含む)」という項目もありましたね。これでグラフを作ってみましょう。

 ganjoho.jp のがん登録・統計のページ で皆さんもどうぞ。
 まず、データ → 「罹患(全国推計値)」、グラフ → 「年次推移 部位別」、「数」と選びます。次に、部位から「子宮頸部(上皮内がん含む)」とし、右側のその他の条件で、年を「1958年」から「2017年」までとし、「男女別」、年齢を「15-39歳」としましょう。で、「グラフを表示」を選ぶ。すると下記グラフができます。


 上昇してきていたんですね。そしてここ数年は横ばい。そういう事がわかります。子宮頸癌になる前癌病変については上昇傾向で、少なくとも、あった、といってよいでしょう。ま、これは子宮頸癌が重要な疾患で問題なんだよというのにはわかりやすいデータですよね。しかし死亡者数は少し減っている。早期介入や治療の進歩がやはりあるのではないでしょうかね

 さて、彼らの書きっぷりに戻ります。

あえて「40~49歳」のデータを加えたグラフで若年層の増加を強調するのは、アンフェアな印象操作と批判されてもやむを得ない行為。

 繰り返しますが、50歳未満でがんで死亡するのは若い、でしょう。なぜか薬害オンブズパースン会議の人たちは39歳までが若く、そこまでの死亡だけに同情(?)するという年齢差別的な線をそこに引きたがっているようです。もちろん産科婦人科学会側も50歳で線を引いたグラフをだしているのですが、がん診療の現状から言えば50歳未満は若いよね、というのはより妥当でしょう
 彼らはこう締めくくっています。

このようなアンフェアな印象操作によって、国の政策に誤った影響が与えられることがあってはならないと考えます。

…一体何を言っているんでしょうか。40-49歳は「若くないから」「がんで死んでも構わない」という事を強調したいのでしょうか。神経というか正気を疑います。繰り返しになりますが、50歳未満のがんによる死亡は普通、若いと思いませんか?それとも十分に年齢がいっていてがんで死亡しても仕方がない年齢だと皆さん思われるでしょうか

 彼らこそ数値を小さく見せるためにとにかくとても若い人たちだけ(なぜかAYA世代でなくてはならないらしい)に注目させようとしていますが、現実的には子育て世代である50代までにがんで亡くなるのは十分に若いと評価するのが普通でしょう、と思います。産科婦人科学会はなにも「アンフェアな」「印象操作」などしていないでしょう。

 また冷静にみていただくと、たしかに実数として直近に当たる数年は減っているといっても、毎年20-30代女性の150人程度もの方が亡くなっているわけです。まさに子育て世代であり、子宮頸癌が「Mother killer」と呼ばれる理由ですよね…。

 こういうことまで言い出してもだれも止めずにブログに掲載までしてしまうそんな団体、皆さんはどう思いますか?産科婦人科学会が真摯に啓発しようとしていることに対して、この言いがかり。ワクチンを何としても貶めたいというのはひしひしと伝わりますが、子宮頸癌を過小評価させようというその行為はまさに品性下劣と思います。

 子宮頸癌は若い女性、とくに子育て世代の命をうばうことがある、また、罹患すると子宮摘出などの治療やそれに伴う合併症や後遺症、そして再発やフォローの不安なども起こす重大な疾病であることは論を待たないでしょう。
 他の癌にくらべると罹患も死亡も相対的に若年であることも明らかでしょう。

 この癌は、ワクチンと検診の2本立てでかなり防ぐことができます。原因であるHPVの感染をHPVVで防ぎ(完全ではない)、検診で早期発見をする(これも完全ではない)、両者を合わせることでより確実に子宮頸癌で苦しむ人を減らしていくのが大切ですね。

 ワクチンはかなり優秀でこんな予測も以前紹介しました。
 ▶ HPVV で子宮頸癌を撲滅状態にできるという予測の論文が出ました。

 ワクチンそのものについても一度まとめています。
 ▶ ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1

 なんとしてもワクチンを悪者にしたいというスタンスでさまざまなことをしてくる団体や個人もいますが、冷静にその対象疾患である、子宮頸癌(実際には、外陰癌、陰茎癌、肛門癌、中咽頭癌なども含む)を知っていただき、ワクチンのベネフィットも知っていただき、そして副反応の実態も知っていただき、冷静に判断していただきたいと願います。

 今後もこの問題については適宜書いてみたいと思っています。







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2019年12月10日火曜日

名古屋スタディ関連の八重論文に対する名市大鈴木教授のレター第二弾の和訳

 いわゆる子宮頸癌ワクチン、ヒトパピローマウイルスワクチン(HPVV)の様々な副反応疑いに関連し、名古屋で実施された大規模な疫学調査である「名古屋スタディ」について、その解析結果として様々な副反応疑い症状とHPVV接種の間には関係がみられないことが明らかにされています。

 この論文は名古屋市立大学公衆衛生学教室の鈴木貞夫教授により執筆されて公刊されています(オープンアクセス)。

Fig.1 名古屋スタディの論文 オープンアクセス
 
 この論文では題名の通り、「日本人の若年女性における HPV ワクチン接種と接種後の症状とのあいだには関連性はなかった:名古屋スタディの結果」ということが示されています。

 さて、これに対して同じデータセットを用いたとして、HPVVで副反応のリスクが増えると主張する論文が聖路加国際大学の八重ゆかり氏によって JJNS日本看護科学会の雑誌)に投稿・公刊されました

 しかし、この八重論文については、不適切なデータの取り扱いをはじめいくつかの問題があるということが刊行直後から SNS 上でもとても話題になりました。
 (感染症のプロの岩田健太郎先生も批判文を書かれています
   ▶ 結論ありきのひん曲げ論文にご用心 ) 

 実はデータの取り扱い以外にも、著者が薬害オンブズパースン会議のメンバーであったなどの COI の問題などもあり、看護科学会はこれをうけて「日本看護科学学会における学術活動の利益相反マネジメント指針」を変えたりもしています
 
 さて、学術論文に異議があったり問題を指摘したり、議論をしたいときには、その雑誌の編集者(Editor)あてにレター(Letter)つまりお手紙を書き、それも刊行して公に議論をやりとりのなかでするというのが慣習になっています

 この八重論文について、複数の専門家がレターを書いていましたがリジェクト、つまり掲載拒否が続いていました。しかしながら、投稿から半年ほどして元の名古屋スタディ論文をかかれた名市大の鈴木先生が書いたレターは掲載されたのです。これに関して著者である八重氏たちからまた反論があったのですが、さらに、鈴木先生が第二弾のレターを寄せています。

 このレター第二弾は八重論文の問題点を非常にわかりやすく指摘しているもので、これの和訳を鈴木先生よりいただきましたのでここにPDFを置かせていただきます。


 当初これら原文はオープンアクセスではなかったようですが、今みたらオープンになっていますね。

 さて、今回の鈴木先生のレター、八重論文はいくつかの方法論に問題、端的に言うと間違いがあり、はっきりいうと妥当ではないことがしっかりと指摘されています。同雑誌に同時に、編集者八重氏の反論も掲載されているのですが、方法論の瑕疵については何ら触れていないどころか、開き直りの様相を呈しています(それどころか八重氏と編集者は事前にやり取りしていることがわかります)。

 この八重論文は、現在行われている「HPVV薬害訴訟」でも弁護団が証拠・論拠として推していますが、この論文は瑕疵も明らかで、問題が大きすぎ、一度撤回(リトラクトといいます)して、検討し直すのが妥当であると思います

 「薬害オンブズパースン会議」(NHKに圧力をかけたりもしている反HPVV活動をしている団体ですね)のホームページにもこの八重論文の日本語訳へのリンクが掲載されていたなど立場性も明らかな論文であり、科学的な問題以外にも問題がありますね(学会からの要望で現在はダイレクトリンク以外では掲載されていない様子…つまり削除はしていない)。

 今回の鈴木先生のレターとそれに対する回答までも含めて一連の流れと論文の内容をみていると、JJNS の問題も見えてきます。そもそも学問的に真っ当ななレビューをしているのか公開して真っ当に討論に臨む態度は妥当か不適と考えられた場合にどのように論文を取り扱うのが慣行であるか理解しているのか、つまり科学ジャーナルとして最低限の基準を満たせているのかということですね。

 いずれにせよ、学術論文を、なんらかの先にある結論を言いたいがために書いたり、政治的につかいたかったりして書いてしまう人はいます。そういう態度はもちろん倫理にもとりますが、公刊された場合にはそれもしっかり学術的に討論して決着をつけていかねばなりませんね。今後の動向にも注目が必要な事項と思います。

 繰り返しますが、学術的になにが正しいか、をまずはしっかりと示し、そして、科学的に正しい根拠に基づいて主張は行わないといけないですね。そうでないとそれは妄想ベースのイデオロギー闘争にしかなりませんね。

 この一連の問題について、名古屋スタディの解説も含めて、鈴木先生の論考が「論座」に掲載予定との情報を入手しました。広く皆さんに読んで考え、討論していただきたいと思います。






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2019年7月26日金曜日

BuzzFeed に HPVワクチンについて、元担当官へのインタビュー記事が出ています

 昨日付で、BuzzFeed にHPVワクチン(HPVV)について、厚生労働省での元担当官へのインタビュー記事が出ています。




 まず何よりもこの記事については、記者の岩永氏もインタビューを受けた正林さんも忌憚なく言いたいことを述べており、これだけの記事が出せたことは素晴らしいと評価できるように思います。

 内容は読んでいただくとして、所感を。

 まず、メディアと行政で責任を押し付けあうことは基本的に建設的ではありませんが、両者に言いたいことがあるのは非常によくわかります。

 時にどちらがインタビューしているのかわからなくなるようなこの記事は、緊張感がありながらも聞きたいこと言いたいことをストレートに出しており、隠すところ、ふくむところがないという意味で、非常に好感がもてると思いました。

 行政としては、民意に背くことを決断するのは困難な場合もあり(それが適切かどうかは今は置いておいて現実的な日本の行政としては、という意味合いで)、民意を操ることもあるメディアに対してこの問題では言いたいことがあるのはよく理解できます。
 ましてや、元担当官として、偏った質問を繰り返すばかりであった(ある)メディアの相手を続けてきたのであれば、その無力感・徒労感と憤りは想像に難くありません。

 一方、メディアとしても一緒くたにされ、すべての責任を押し付けられることに反発するのはわかります。また、行政の態度としては、ポピュリスティックではなく、正しい科学的内容に基づいて、断固とした方針を打ち出さない行政へまっすぐ突っ込み、責任回避や責任転嫁をするなと言いたくなるのも物言いとしても理解可能です。

 話は HPVV にとどまらず MMR とそれに絡むワクチン行政の変遷、ゼロリスク信仰の国民性にも触れていますが、責任回避や役人のこざかしい物言いというのが前面にでているというよりは、確かに要因として無視できない事項に触れようとしているというふうにもとらえられると感じます。

 肝の部分、

ーーHPVワクチンはどうやったら積極的勧奨を再開できると思いますか?
わかりません。ただ、国民の理解は重要です。
 
 ここに本当にすべてが凝集されてしまっているように思います。
 国民に理解させるにはどうすればいいのか、本当に理解を得たというのはどうやって評価するのか、そもそも、理解を得るまで再開しないことが多くの国民の益や国益にかなっているやり方なのか…。


ーーこの先もこう着状態が続くことをよしとするのでしょうか?
いずれにしても、このワクチンに不安を感じている多くの国民の気持ちに変化がない限り、例え積極的勧奨を再開したとしても接種する人は増えないのではないでしょうか? 
このワクチンへの不信感を払拭するために役所も新しい情報をリーフレットなどで国民に伝えるようにしていますが、世論を動かすためにはマスコミなどの報道も考え直してもらわなくてはならないと思います。 
 
 マスコミや行政だけでなく、草の根でもSNSでも、各自治体なども情報をどんどん出していかないとかわらないだろうな、と改めて思うところではあります。

 しかし、いずれにしても行政、メディア、そして国民、いずれも責任の所在や問題点を押し付けあい罵り合うばかりではなく、実際に HPVV の積極的勧奨接種の再開ができるように現実的に行動していくことを優先しないといけないとつくづく感じました。

 非常に読みごたえがありますのでぜひご一読を。









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2019年6月16日日曜日

HPVV についての非常にわかりやすく丁寧な Online セミナー動画

 HPVV であるガーダシル製造元の MSD のサイトに、HPVVについて非常にわかりやすく丁寧な Online セミナーを編集した動画が掲載されています。





 HPVV の解説(エビデンスや数値もたくさんありわかりやすくも非常に正確ですばらしいです)、日本での騒動の経緯、今後どうしていくべきか、についても強いメッセージを発信されています。

 子宮頸癌は交通事故より多くの命を奪っています。HPVV の積極的勧奨接種再開に向けてしっかりと医療従事者も学んで行動していくことが必要と思います。

 医療従事者向けですが、ぜひご覧いただきたいと思います。

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2019年6月14日金曜日

朝日新聞に HPVV に関する偏った一連の記事が掲載される

 HPVV についてはこのブログでも何回も触れてきました。
 問題と感じることがありましたので今日は書きたいと思います。


朝日新聞に HPVV に関する新しい記事が



 HPVV とは、ヒトパピローマウイルスワクチン、いわゆる「子宮頸癌ワクチン」のことです。基本的なことは以前にここに書きました。
 ▶ ごく簡単な「ヒトパピローマウイルスワクチン」(HPVV) の話 その1
 ここにもまとめています ▶ 【情報】ワクチンの情報のあるサイトまとめ

 さて、昨日2019年6月12日付で紙媒体の朝日新聞、ネット上の朝日新聞デジタル「アピタル」(4本関連記事がありました)に、この HPVV に関する記事が出ました。




 ▶ 子宮頸がんワクチン、積極的勧奨中止から6年 続く検証 
 ▶ 「副反応の治療態勢、整備が欠かせぬ」HPVワクチン
 ▶ HPVワクチン接種「社会の目線配慮し、合意形成を」

 この3本の記事は著しくバランスを欠く状況ですのでちょっと今日は書いてみたいと思います。のちに触れますが、もう1本のインタビュー記事は現実的な内容でした。

 (朝日新聞のHPVV に関する記事では、以前にもこんなことがありました
 ▶ 朝日新聞配信の子宮頸癌の記事、Yahoo!ニュース配信では一部を削除)



その前日までには…


 その前日までには、中日新聞、時事メディカルにも記事が出ていますが、これらは非常に冷静かつこれまでの経過を踏まえてよく書かれている記事でした。一読をお勧めします。
 
 ▶ 健康被害裁判続く子宮頸がんワクチン 「命を守る接種」学会で相次ぐ声 中日
 ▶ 子宮頸がんと副反応、埋もれた調査 「名古屋スタディ」監修教授に聞く 時事



HPVV の勧奨接種中止からこれまで



 HPVV は、定期接種が開始された2013年4月直後から「麻痺などが起こった」という副反応の可能性のある訴えがあり、マスメディアもこれを大きく取り上げて社会的な問題となったこともあり、これら「麻痺など」の「副反応と思われる症状」とワクチンの因果関係の調査が十分に行われるまで、という名目で「積極的な勧奨の中止」がなされたまますでに6年がたっています。

 その後、HPVVに関する科学的な知見は国内・国外ともに積み上げられ、上記時事メディカルの記事にもあるように、日本においては名古屋市での大掛かりなスタディも実施され、HPVVの「副反応と思われる症状」はワクチンの副反応ではなく、同年代に起こりやすい転換性障害(いわゆるヒステリー症状)などの他の原因の紛れ込みがかなりあるのではないかと考えられるようになっています。
参考 ▶ 転換性障害 Wikipedia、実際に診断は難しいこともあり、誤診率は4%近くあるという文献もあります BMJ 2005; 331

 不安などが原因でワクチン後に様々な症状がでることも、決して珍しいことではなく、AEFI と呼ばれ、これについてもレビューがされていたりします。
 ▶ Anxiety-related adverse events following immunization (AEFI): A systematic review of published clusters of illness. Vaccine Volume 36, Issue 2, 4 January 2018, Pages 299-305

さて、一部の医師たちが、HPVV を打つと起こる有害な事象を HANSと名付けたり、脳炎が生じているに違いない、と言っていますが、彼らの「仮説」はなぜかしっかり検証されず、査読付きのまともな科学雑誌に投稿しての議論は行われず、商業誌などで自説を開陳するばかりで科学的な討論の俎上にのせない状況が続いています。

 そして、これらの意見を「両論併記」の片側としてとりあげるメディアがまだあります…(今回の朝日もまさにこれなのでこの後触れていきたいと思います)。
 実は日経メディカルが以前にそのまま取り上げていました。
 ▶ 日経メディカル誌にとんでもない記事が掲載

 厚生労働省の「副反応と思われる症状」に関しての研究班では、科学的にまずいことが行われたりもしたことも記憶に新しいですが、いずれにせよ、これらの特異的な有害な事象とワクチンの因果関係は明らかになっていません

 国際的にも、海外の多くの研究で、日本で騒がれているような有害な事象はまとめられておらず、WHO は安全性についての宣言をし、日本での状況は HPVV とは関係ないと声明を出しています
 ▶ HPVV についての WHO 研究所の声明

 また、CDC や FDA などのアメリカの公的機関、イギリスの NHS やオーストラリアその他各国の公的機関も、HPVV は安全と宣言し、接種をかなり極的に男女ともに勧奨している状況です。

 日本国内でも、関連学術団体から見解もでています(▶PDFファイル)。
 さまざまな団体が見解を出していますが、日本プライマリ・ケア連合学会のHPVVに対する考え方も公表されています(▶ PDFファイル)。

 そういった状況で、HPVV の安全性はほぼコンセンサスが得られ、積極的勧奨の再開にむけて動き出すことが望まれる状況が出来上がってきているといえると思われます。


HPVV ワクチンの効果に関する研究はつみあがっている


 そういう状況で HPVV の効果については世界各国から研究報告が積みあがってきており、HPVV の接種率を上げ、あわせて検診をしっかり行うことで、2059年までに高所得国(人間開発指数が高い国)において子宮頸癌は事実上の撲滅状態にできるであろうという予測を示す研究が報告も出ています。
 ▶ HPVV で子宮頸癌を撲滅状態にできるという予測の論文が出ました

 HPVV については以前のブログ記事でもまとめましたが、今後も証拠・エビデンスを紹介していきたいと考えています。

 さてそういう状況なのですが、今回の朝日新聞の記事を少し検証してみたいと思います。


両論併記をしているつもりなんでしょうけれど


 朝日の記事を見てみます。

接種ががんの発症を減らせることを示唆する複数のデータが公表される一方で、重い副反応への心配も消えたとはいえない。

という書き出しであり、HPVVの効果は明らかになっている。一方、経緯も踏まえて副反応についても記載しますという形になっているように読めますね。

 書き出しは、HPVVを接種させることへの不安からはじまっています。まぁ経緯を考えればありでしょう。
 記事の続きでは、子宮頸癌の概説とHPVVについて触れた後に、効果に関する松山市とエジンバラ大の論文の結果を簡単に紹介しています。

 ここで、欄外のグラフを見てみますが、これも意図を感じます。


 がんにならない人が10万人あたり9万8678人とドーナツグラフでかくと、いかにもわずかな人へしか効果がないように見えますよね。これは間違いではないものの、公衆衛生施策のなんたるかをわかっていないとやってしまう方法でのグラフの提示としかいいようがありません。

 本文中では
国内で子宮頸がんになる人は年間約1万人で、約2800人が死亡している。
と実数で記載していますが、これも十分大きな数字であり、これを防ぐことができるのは十分に価値があると考えられませんでしょうか。グラフで、ごくわずかを強調するかのような記載は、一般的ではありません。
 疫学では10万人あたりという数字をよくつかうのですが、こういったグラフをかくと、多くの疾患は大したことがないように見えてしまうのです。
 かなり問題のある印象の操作と思えます

 その後、コクランについて書いているのですが、ここでは、コクランに掲載されたワクチン研究の一部にワクチン会社の資金提供を受けた研究者が評価に加わっていたという批判があることを記載し、研究そのものが結局どう評価されているのかにはふれず、いかにもコクランに掲載された研究が偏っているかのような印象操作をしています

一部メンバーが「ワクチンの関連企業から資金提供を受けていた研究者が、研究の評価に加わっている」

それはCOIといって利益相反についてなのですが、研究の評価がしっかりなされていれば、それが透明性をもって明らかにされていればあり得てもよいことで、即、それだからダメ、ということではないのです。



印象操作ととらえられかねない記載の連続



 さて、その次の小見出しです。




 「重い副反応」と書かれています。さて、地の文ではこうなっています。

… HPVワクチンの安全性は専門家の間で評価が必ずしも一致していない。

ここがもうすでに両論併記の罠にはまっており、誠実に書くなら、「一部の医療関係者が安全性に異を唱え続けている」程度になると考えてよいと思います。なぜなら、国外の研究でも国内の研究でもワクチンに関わる医療関係者のあいだでも、ほぼ安全性の評価は問題ないであろうで一致している状況であるからです。

 そして、ワクチン接種後の副反応の可能性がある症状としてとりあげているのは、

体の広範囲にわたる痛み…呼吸困難やじんましん、嘔吐といった重い症状

と記載しています。「重い」という言葉はここでは不適切です。というのは、重い症状というのは医学的にはやはり入院加療が必要である、後遺症として残存するなどに用いるべきであり、じんましん、嘔吐が重いと書くのはさすがに印象操作でしょう

 そして、その頻度についても

その頻度は、インフルエンザ菌b型(ヒブ)ワクチンほかのワクチンと比べて高い

と書きます。これは慎重に書かねばならず、ほかのワクチンから大きくはずれているのか否か、高いなら、どの程度高く、それは明らかな異常な状態なのかを書かねばならないでしょう。やはり印象操作ですね。

そして、WHOは「極めて安全」とするが…「アナフィラキシー」と、接種との関係があると推定した

と書いています。これは、他のワクチンでも推定されていますし、アナフィラキシーは起こりうることは HPVVに関する他の公的情報でも触れられており、ミスリーディングな記載です。頻度も100万件に1件程度のものを突然取り出しています。

 その次に、鹿児島大の高嶋教授のインタビューが入りますが、ここで唐突に

まひやけれいんなどをふくむ重い症状の人

がでてきます。峻別すべき副反応の患者を、データなしでここで唐突に触れており、これもあきらかなミスリーディングです。


両論併記をしているつもりなんでしょうけれど



 この高嶋教授へのインタビューは別建てでデジタルの方に書かれています。
 ▶ 「副反応の治療態勢、整備が欠かせぬ」HPVワクチン

 この記事(インタビュー記事の体ですので、論拠やそのほかは発言者に責任があるという形にしているのかなと思われます)と、HPVVで「自己免疫性脳炎」なるものが起こるということについては、機会を改めてこのブログで書いてみたいと思いますが、現時点では、あくまでも一部の方の仮説にすぎず、まとめて報告した査読付き論文はなく、対照群を設定した疫学的な検討もなく、商業誌での繰り返しての提起にすぎず、神経内科系の医師の間でもコンセンサスを得られているものではない、ということは触れておかねばならないと思います。

 一方、同時に朝日新聞にはこのようなインタビュー記事も出ています。このインタビューはよくまとまっているので一読をお勧めします(他の3本は勧めません)。
 ▶ HPVワクチン「1日も早く積極的な勧奨再開を」

 こちらを掲載したということは一見冷静でまともなんですが、両論併記の片側として出してしまっているのでこちらが一般的な医療従事者の現在の認識とうまく伝わるとは思えません。

 科学や医学については、両論併記は適切ではない場合が多いように思います。
 なぜなら、論拠ありの正しい言説 vs. 信仰 になりがちだからです。

 両論併記すればなんでも正しいという陳腐な考え方がこの新聞社にはどうもあるように思えてなりません。
 「安全性は専門家の間で評価が必ずしも一致していない」といいますが、どこまで一致すればこの新聞社は一致とするのでしょう。
 たとえば「人を殺してはいけないという倫理観は必ずしも一致していない」だって真でしょうが、書き方のバランスというものがあるはずです。
 
 どういった専門家のどんな議論の状況で、どうしてそう判断したのか、しっかり書けないようでは中学生の壁新聞以下でしょう。

 そして、この記事群の一つ、
 ▶ HPVワクチン接種「社会の目線配慮し、合意形成を」
これについては社会の目線・反対者の「お気持ち」への配慮などを中心とした記事で、科学的なことについてだけ読み通すと、意味はわかるのですが、過剰配慮や媚を売ることまで科学に求めているともとれ、やや過剰でバランスを欠く部分があると言えると思います。
 個別の記事の検討はまたしたいと思います。


最大の問題は



 名古屋スタディという日本で実施された副反応が増えているかどうかを検討した研究があります。これについては改めてまた触れたいと思いますが、この記事では全く触れていません

 最初に紹介した時事メディカルに詳しくのっていますが、これを取り上げない時点で、この記事群はどうしようもありません。

 朝日新聞は、こういう姿勢である、と明らかに宣言したととらえてよい記事群であり、朝日の医療系の記事は信頼すべきではない、と医師として言っておきたいと思います。



副反応被害者とされる方へのサポートはさらに手厚く



 さて、この問題に関しては、副反応の可能性のある被害者が実際にいることは忘れてはいけません。もちろん、実際にワクチンの副反応であった方もいるでしょう、また、他の疾患の紛れ込みや、ワクチン接種とは関係なく発症した疾患であった場合もあるでしょう。
 いずれにせよ、HPVV論争とは関係なく、症状のある方苦しんでいる方については医療が十分に提供され、立場性を超えて正しい診断と正しい治療を受けられる状況を作り出すことが大切です。

 HPVVでは副反応は起こらない、というのは嘘です。どんなワクチンでも副反応は起こりえますし、未知の新しい症状・有害事象が起こる可能性は常にあります。ですから、可能性があることはしっかりと拾い上げ、科学的に検証をし、多くの検討がなされねばなりません。

 一方、HPVVの副反応と決めつけられてしまって、他の疾患などがまじっていることも徹底的に避けねばなりません。正しい診断がつかなければ正しい治療が受けられないからです。転換性障害であれば、しっかりと児童精神科を中心としたサポートの体制が必要ですし、起立性調節障害でもしかり、もし本当に、脳炎などがあるのであれば、同様の症状のある対症群と比較して、有意に異なる点を見出せば新しい治療が検討できる可能性もあります。

 とにかく、副反応と思われる方を含むワクチン接種後の有害な事象に苦しむ方については、論争の具にしないことが大切です。患者の会などは、まずは最優先としてそういった方へのサポートと適切な医療提供ができるような協力体制の再構築をしていただきたいと個人的には願っています。



不幸を減らすために



 今回の朝日新聞の一連の記事は、印象操作により HPVV を忌避させる効果が強くでているととらえられると思います。立場性を超えてこれは残念であり、医療系のリテラシーについてこの新聞社は非常にまずい状況であるということが明らかに出ているように思います。

 他の媒体が冷静に状況をみながら良い記事を書き出しているときに、なぜこのような記事が出るようになってしまっているのか、他人事ながら心配になります。

 子宮頸癌は確実に多くの人の健康と命を奪っている疾患です
 これを克服する方法を持ち合わせているにも関わらず、実質的に使用されていない状況が「社会的な要因で」起きてしまっていることは大変によろしくないことと思います。

 今後も HPVV については情報を提供していきたいと思います。


● 関連記事


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 ▶ HPVV についての非常にわかりやすく丁寧な Online セミナー動画







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