この論文は名古屋市立大学公衆衛生学教室の鈴木貞夫教授により執筆されて公刊されています(オープンアクセス)。
Fig.1 名古屋スタディの論文 オープンアクセス |
この論文では題名の通り、「日本人の若年女性における HPV ワクチン接種と接種後の症状とのあいだには関連性はなかった:名古屋スタディの結果」ということが示されています。
さて、これに対して同じデータセットを用いたとして、HPVVで副反応のリスクが増えると主張する論文が聖路加国際大学の八重ゆかり氏によって JJNS(日本看護科学会の雑誌)に投稿・公刊されました。
しかし、この八重論文については、不適切なデータの取り扱いをはじめいくつかの問題があるということが刊行直後から SNS 上でもとても話題になりました。
(感染症のプロの岩田健太郎先生も批判文を書かれています
▶ 結論ありきのひん曲げ論文にご用心 )
実はデータの取り扱い以外にも、著者が薬害オンブズパースン会議のメンバーであったなどの COI の問題などもあり、看護科学会はこれをうけて「日本看護科学学会における学術活動の利益相反マネジメント指針」を変えたりもしています。
さて、学術論文に異議があったり問題を指摘したり、議論をしたいときには、その雑誌の編集者(Editor)あてにレター(Letter)つまりお手紙を書き、それも刊行して公に議論をやりとりのなかでするというのが慣習になっています
この八重論文について、複数の専門家がレターを書いていましたがリジェクト、つまり掲載拒否が続いていました。しかしながら、投稿から半年ほどして元の名古屋スタディ論文をかかれた名市大の鈴木先生が書いたレターは掲載されたのです。これに関して著者である八重氏たちからまた反論があったのですが、さらに、鈴木先生が第二弾のレターを寄せています。
このレター第二弾は八重論文の問題点を非常にわかりやすく指摘しているもので、これの和訳を鈴木先生よりいただきましたのでここにPDFを置かせていただきます。
当初これら原文はオープンアクセスではなかったようですが、今みたらオープンになっていますね。
さて、今回の鈴木先生のレター、八重論文はいくつかの方法論に問題、端的に言うと間違いがあり、はっきりいうと妥当ではないことがしっかりと指摘されています。同雑誌に同時に、編集者と八重氏の反論も掲載されているのですが、方法論の瑕疵については何ら触れていないどころか、開き直りの様相を呈しています(それどころか八重氏と編集者は事前にやり取りしていることがわかります)。
この八重論文は、現在行われている「HPVV薬害訴訟」でも弁護団が証拠・論拠として推していますが、この論文は瑕疵も明らかで、問題が大きすぎ、一度撤回(リトラクトといいます)して、検討し直すのが妥当であると思います。
「薬害オンブズパースン会議」(NHKに圧力をかけたりもしている反HPVV活動をしている団体ですね)のホームページにもこの八重論文の日本語訳へのリンクが掲載されていたなど立場性も明らかな論文であり、科学的な問題以外にも問題がありますね(学会からの要望で現在はダイレクトリンク以外では掲載されていない様子…つまり削除はしていない)。
今回の鈴木先生のレターとそれに対する回答までも含めて一連の流れと論文の内容をみていると、JJNS の問題も見えてきます。そもそも学問的に真っ当ななレビューをしているのか、公開して真っ当に討論に臨む態度は妥当か、不適と考えられた場合にどのように論文を取り扱うのが慣行であるか理解しているのか、つまり科学ジャーナルとして最低限の基準を満たせているのかということですね。
いずれにせよ、学術論文を、なんらかの先にある結論を言いたいがために書いたり、政治的につかいたかったりして書いてしまう人はいます。そういう態度はもちろん倫理にもとりますが、公刊された場合にはそれもしっかり学術的に討論して決着をつけていかねばなりませんね。今後の動向にも注目が必要な事項と思います。
繰り返しますが、学術的になにが正しいか、をまずはしっかりと示し、そして、科学的に正しい根拠に基づいて主張は行わないといけないですね。そうでないとそれは妄想ベースのイデオロギー闘争にしかなりませんね。
この一連の問題について、名古屋スタディの解説も含めて、鈴木先生の論考が「論座」に掲載予定との情報を入手しました。広く皆さんに読んで考え、討論していただきたいと思います。
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