2018年12月1日土曜日

【転載記事】学術出版界の本当のハゲタカは著者?

 粗悪な学術雑誌、いわゆるハゲタカジャーナルについて記事を複数回書きました。

 ▶ 粗悪・悪意のある学術雑誌の弊害 - Beall's List のこと
 ▶ 【情報】粗悪学術誌(ハゲタカジャーナル) に掲載して
   博士号取得した例がかなりありそうとの調査

 これらの問題はかなり深刻で、粗悪な雑誌については科学者は知って多く必要があります。今回は Editage Insights さんにまた良い記事がありましたので、CC に基づいて転載をさせていただきます。

 以下、転載記事になります。

学術出版界の本当のハゲタカは著者?


学術出版界における「ハゲタカ」と言えば、金銭目的で「科学」論文を出版する出版社やジャーナルを思い浮かべる人が多いでしょう。このような出版社やジャーナルは、論文の質にはお構いなしに、著者に出版を約束します。疑うことを知らない著者は、出版費用を払った後で、相手先のジャーナルが偽物であったことに気づきます。論文の取り下げや撤回を求めても、応じてもらえることはまずないと、多くの著者が報告しています。ハゲタカジャーナルは著者の取り下げ要求に対し、拒否するか、法外な手数料を請求するか、単に無視するかの対応を取るだけです。このようなケースでの「ハゲタカ」は出版社であり、著者はその「獲物」だと言えるでしょう。

 しかし、ここで問題提起したいのは、著者こそが科学の構造に傷を付けている張本人になっているケースがあるという事実です。最近、意図的にハゲタカジャーナルで論文を出版している研究者の事例が報告されています。ハゲタカ出版と関わりをもつ研究者の大半は、疑うことを知らない被害者でしょう。しかし、ハゲタカ出版には、よく調べなければならない別の側面があることも確かなのです。

ハゲタカ出版は組織化されつつある?

ハゲタカジャーナルの行為を明るみにすることを目指す研究者グループが2017年3月に発表した論文では、「ハゲタカ出版は組織化されつつある」と報告されています。ハゲタカ出版産業は急成長しており、現在1万誌のハゲタカジャーナルが科学論文を出版していると見られています。ハゲタカ出版市場がとくに栄えているのは、インド、アフリカ、中国などの国々です。

 2017年9月にNature誌で発表された論文では、米国の一流大学に所属する研究者でさえハゲタカジャーナルで論文を出版していると報告されています。これを報告した著者の1人であるオタワ大学のラリッサ・シャムシア(Larissa Shamseer)氏は、「我々の調査で明らかになったのは、ハゲタカ出版は世界規模の現象であり、世界中のさまざまな学術機関に所属する研究者が関わっているという問題です」と述べています。


ハゲタカジャーナルで論文を出版する著者に罪はないのか?


 毎年40万本の論文がハゲタカジャーナルで出版されています。この膨大な数を考えると、1つの疑問が浮かび上がってきます。これらの論文を出版したすべての著者が無実で、ハゲタカジャーナルの被害者であると言えるのでしょうか?トンプソン・リバース大学(ブリティッシュコロンビア)経済学部教授のデレク・パイン(Derek Pyne)博士は、次のように指摘しています:「何十万本という論文がハゲタカジャーナルで出版されている現状を考えると、すべての著者や大学が被害者であると信じるのには無理があります」。

 かの有名な「ビオールのハゲタカ出版社リスト」を過去に作成したジェフリー・ビオール(Jeffrey Beall)氏は、研究者がハゲタカ出版ルートを選んでしまう動機を次のように説明しています:「論文をスピーディーに出版したいがために偽ジャーナルを選択する研究者は存在します」。

 研究者たちが、論文を頻繁かつ迅速に出版しなければならないという過度なプレッシャーに晒されているのは事実です。あるナイジェリアの研究者は、支援組織や助成機関が要求する過度な論文出版件数が、「ナイジェリアの研究者の大半を、疑わしいジャーナルで論文を出版せざるを得ない状況に追い込んでいます」と指摘しています。

 研究者、教授、教員、医師などは、一定数の論文を出版しなければならないという要求に応えるためにハゲタカジャーナルに手を出してしまうのです。そのような著者は若手研究者であるとは限らず、発展途上国の研究者であるとも限りません。ある2人のチェコ人研究者がScopusのデータベースに登録されているハゲタカジャーナルに関する調査を行なった結果、「科学技術先進国においても、多くの研究者が、論文を出版するためにハゲタカジャーナルに金銭を支払う意思を持っている」ことが明らかになりました。


ハゲタカ出版の魔の手から科学を救う手立てはあるか?

ハゲタカジャーナルのネットワークが拡大し続けていることを考えると、偽ジャーナルや価値のない出版物から科学を救う策を今すぐ講じる必要があります。研究者は、ハゲタカジャーナルで論文を出版することのデメリットを認識しなければならないのはもちろんのこと、論文を迅速に出版できるルートはほかにもあるということを知る必要があるでしょう。スピード出版のオプションは、複数の一流誌で提供されています。ハゲタカ出版を根絶やしにするためには、科学コミュニティが一丸となって徹底的な対応を取る必要があるでしょう。

 ハゲタカジャーナルでの論文出版に熱心な研究者が世界中にいるという事実は、質より量が重視されている学術界に巣食う、根深い問題の象徴と言えます。ハゲタカ出版は、科学の公正性に対する真の脅威となっているのです。

 研究を実施するには、時間、コスト、リソースの面で多大な投資が必要です。そのため、研究者がハゲタカジャーナルで論文を出版すれば、その被害は良質な研究にまで及ぶことになります。ハゲタカジャーナルで出版された論文が科学的知見に組み込まれても、恩恵を得るのは科学や人類ではなく、一部の著者だけなのです。


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 Simple steps authors can follow to protect their research from predatory publishers


関連動画:


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参考資料:


 Many academics are eager to publish in worthless journals
 Nigeria’s predator problem
 Researchers from national institutes publish in predatory journals
 Researchers at Harvard, Mayo Clinic too publish in predatory journals
 Researchers may be part of the problem in predatory publishing

 エディテージインサイトに掲載されたものです。

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