2018年12月22日土曜日

【情報】アルツハイマー病・慢性外傷性脳症(CTE)にみられる異常タウタンパクを検出する新しい技術が開発されたという報告

 「コンカッション」(Concussion)という2015年の映画があります



   コンカッション (字幕版) ウィル・スミス 


 ウィル・スミス主演のこの映画は実話に基づいていて、アメリカンフットボールの選手が、長年にわたって脳震盪(コンカッション)を受けることで慢性外傷性脳症(CTE)という病気を発症する、ということをみつけた Dr.Bennet Omalu が主人公の話です。

 2010年の論文はこれですね。
 ▶ J Forensic Nurs. 2010 Spring;6(1):40-6. Chronic traumatic encephalopathy (CTE) in a National Football League Player: Case report and emerging medicolegal practice questions. Omalu BI et al.


 Dr. Bennet Omalu は  forensic pathologist (法医学にちかい病理医)で、神経病理医としても有名になったナイジェリア出身の医師です。

 このCTE発見と報告に際しては、ナショナル・フットボール・リーグ(NFL)は猛烈な圧力を彼にかけました。

 そこら辺のストーリーは非常によくこの映画では描かれています。
 NFLが利益のために博士と選手にいかに圧力をかけ、公表を阻止しようとしたか。

 しかし結局この疾患はその後医学界に認知され、NFLにより選手には補償もなされます。CTEについては 基金などもできて今ではスポーツ関連疾患としてよく認知されています。
 ▶ The Concussion Legacy Foundation
  このサイト内の CTEの解説ページはわかりやすいです。

 この映画「コンカッション」のすごいところのもう一つは、NFL全面協力であるということも挙げられます。すべて公式ロゴもつかっていますし、基本的には実名でストーリーは進みます。

 NFLは誠実にこの問題に取り組むよという宣言でもあり、またエクスキューズでもありますね。選手側も自己選択で選手となったわけですが、こういった疾病はかなり認知されてきており、無理筋の訴訟はほぼなくなっているようです。

 しかし、この CTE は死後の解剖でないと確定診断ができないことが問題でした。診断はとても難しくて画像だけでは疑診程度なんですね。

 それに対する検査法となりうる方法を一つ見つけたよ、という論文が昨日、私も所属している NIAID/NIH から発表されました
 ▶ NIH-developed test detects protein associated with Alzheimer’s and CTE

 論文はこれ (Seeding selectivity and ultrasensitive detection of tau aggregate conformers of Alzheimer disease)で、簡単言うと病的な Tau タンパク質の凝集を、針の先っぽほどのごく少量のサンプルから極めて高い感度で検出する AD RT-QuIC という方法を作ったということです。

 研究は、アルツハイマー病やボクシングの選手でCTEとなった症例などのサンプルを用いています。Tauタンパク質もクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD) におけるプリオンのように 「seed themselves」、増えるんですね…。

 この映画もすごいですし、病気が見つかるプロセス、検査のプロセスがリアルタイムで見られる領域ですね。今後は予防法と治療法にも焦点が当たっていくように思います。

 この領域では、先週、nature にアルツハイマー病の一部の原因蛋白はマウスにおいて、プリオンのように「Transmissible」である可能性があるという発表もありました。
 ▶ Transmission of amyloid-β protein pathology from cadaveric pituitary growth hormone

 興味深い領域ですね。病因の解明と治療法の開発がまたれます。

 話はそれますが、アルツハイマー病に今使われているドネペジル(アリセプト)は、もともとHMG-CoA 阻害薬のシードとして探されていたものを、元エーザイの杉本八郎先生がAChE 阻害薬として活性があることに気づいて開発された薬です。

 この薬については杉本先生自身のかかれた開発譚がおもしろいです。

 神経疾患の領域もどんどん研究が進んでいますね。



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