2018年12月10日月曜日

【転載記事】Sci-Hubに関する尽きない議論

 Sci-hub について2回書きました。

 ▶ 海賊版論文ダウンロードサイト Sci-Hub も違法化となりそうです
 ▶ 科学論文の「海賊版」サイト Sci-Hub

 この議論はとても深く、科学者にとっては切実な問題でもあります。editage さん(エディテージ・インサイト)にとてもよい記事がありました。クリエイティブ・コモンズに基づきここに転載をさせていただきます。




 以下の記事が転載になります。元のサイトも科学情報に富んでおり、おすすめです。

Sci-Hubに関する尽きない議論:海賊サイトか、研究者の味方か?


 学術論文へのアクセスは無料であるべきでしょうか?学術コミュニティは、長年この質問に悩まされてきました。しかし昨年、エルゼビア(Elsevier)がSci-Hub創設者を訴えるに至り、倫理面の問題と思われていたこの課題は、法的問題へと発展しました。背景を簡単に説明しましょう。Sci-Hubとは、ほぼすべての購読モデルの(有料の)研究論文に、非合法のアクセスを提供するウェブサイトです。カザフスタンの神経科学研究者、アレクサンドラ・エルバキアン(Alexandra Elbakyan)氏の発案により、2011年に開設されました。ウェブサイト上での説明には、「(Sci-Hubは)グローバルな科学技術出版社です。科学コミュニティに、研究論文や最新の研究情報への無料アクセスを無制限に提供します」と書かれています。サイエンス誌(Science)に掲載された記事によると、ウェブサイトに集められた論文は5万本に上り、その数は日々増加中です。そして、資金や情報が不足している研究者をはじめ、世界中の研究者がアクセスしています。

 Sci-Hub開設以後、研究へのアクセシビリティについて様々な議論が行なわれてきました。論文の著作権は著者が保持すべきか、それとも出版社が保持すべきか。また、学術論文へのアクセス費用はなぜ高額なのか。そして、Sci-Hub時代の到来により、学術出版の方向性が変化していくのか、等々の議論です。

 研究者の多くは、Sci-Hubについて、自分を助けてくれる味方だと捉えていますが、出版社は、自社の著作権(とその商売)を踏みにじる海賊サイトだと考えています。エルバキアン氏は、研究者は論文を書くが、そこから何ら利益を得ることはないと論じています。片や、出版社は、自分たちが創作したわけではないコンテンツを出版し、購読に法外な料金を課すことで、莫大な利益を得ています。皮肉にも、研究者は―ときには著者自身でさえ―出版物にアクセスできないのです。この点についてエルバキアン氏は次のように述べています。「収入や所属に関わらず、誰もが専門知識にアクセスする権利があるはずです。それはまったくの合法的行為です。専門知識というものが営利企業の私有財産であるという考え方は断じておかしいと思います」。しかし出版社は、Sci-Hubは違法コンテンツの利用を促しているとして、そのウェブサイトは閉鎖すべきだという見解です。

 研究への取り組み中に、購読料を支払わなければ読めない論文にアクセスできず、途方に暮れる研究者が数多くいます。読みたい論文1本1本のすべてに資金を出せる研究者はほとんどいません。大学でさえ、学術論文へのアクセス費の捻出が困難だと感じています。サイエンス誌編集長のマルシア・マクナット(Marcia McNutt)氏は、「今日のデジタル出版は、紙媒体への印刷や最先端のウェブデザインと同じぐらい高価なものだ」と主張しますが、第一線の研究者や専門家の多くは、この見方に疑問を呈しています。つまり、現在は印刷出版に必要だったコストをある程度削減できる電子出版の時代なので、出版社が過剰なアクセス料金を課すことは受け入れられない、という意見です。

 オープンアクセス方式は、購読方式に縛られた学術文献を開放し、ユニバーサルアクセスを実現する方法の1つですが、Sci-Hubのユーザーデータから明らかになった意外な事実は、研究者による検索頻度の高い論文の多くがオープンアクセスであるということです。それなのに、研究者はなぜわざわざ海賊ウェブサイトを使い、無料でアクセスできる論文を探すのでしょうか?その理由は明らかで、探し求めている研究論文を見つけやすいからです。ジョン・ボハノン(John Bohannon)氏は、ある記事で次のように述べています。「(Sci-Hubでの検索は)Google検索と同じぐらい簡単で、論文のタイトルやDOIが分かっていれば、全文テキストを確実に発見できます。自分が探しているものを見つけられる可能性が高いのです」。つまり、研究者たちは出版社のウェブサイトを使いにくいと感じており、Sci-Hubの利用を好むのは単に使いやすいからだ、ということが言えそうです。

 学術文献へのアクセスが金銭に左右される世界にあって、Sci-Hubは、研究者が目当てのものをもっとも探しやすい場所の1つなのです。エルゼビアのユニバーサルアクセス部長のアリシア・ワイズ(Alicia Wise)氏は、「ユニバーサルアクセスには大賛成ですが、盗みには反対です!」と述べています。これは科学コミュニティ内で繰り返し聞かれる感情が吐露されたものですが、必要な論文がなかなか見つからずに読めないでいることに不満に感じている研究者がほとんどであることも事実です。研究者がSci-Hubを好むのは、それだけ必死にならざるを得ない状況を示しているのです。

 学術出版業界は、この状況をきっかけにユニバーサルアクセスを提供する方向へと変わっていくでしょうか?未来を予測するのは難しいですが、ジャーナルが購読モデルを廃止することはないでしょう。しかし、Sci-Hubからの膨大な論文ダウンロード数や、Sci-Hubにアクセスする多数の研究者の存在により、出版業界が現在のインフラの再考を迫られることは避けられないでしょう。我々は、ニュートンの有名な言葉:「私が少しだけ先を見通せたとしたら、それは巨人の肩の上に立っていたからだを思い出す必要があります。科学文献にアクセスすることなしに、進歩を期待することはできないのです。今こそ、科学をとりまく主要な利害関係者たちが協力し、出版論文を科学コミュニティがすぐに利用できるようにするための解決策を見出すときではないでしょうか。

 エディテージインサイトに掲載されたものです。


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