Fig.1 Treponema pallidum … 梅毒の原因菌 |
梅毒の感染拡大
ニュースソース
▶ 47ニュース 梅毒患者が増加、福井は最多迫る
▶ yomiDr. 大阪の梅毒感染、今年累計1000人超…女性は20代多く、主婦OLに広がりか
これらのニュースによると、国立感染症研究所の発表では、2018年11月13日現在、梅毒の今年の患者報告数は 5811人になったとのこと(国立感染症研究所 IDWR速報データ 2018年第44週)。
昨年の速報値では 5770人であり、集計が現在の方法となった 1999年以降では最多の感染者数となるそうです。
都道府県別では東京の 1474人が一番多いとのこと。
2011年から感染者数が増加傾向であるが、理由は明確にはわかっていないですね。
雑多な情報源からは、当初は性風俗産業従事者の女性と利用者の男性にひろがったようです(エビデンスの強い疫学調査はない)。
海外からの旅行者の増加にそうように感染が増えたこと、中国人観光客の日本の性風俗産業利用者が非常に多いということ、中国での梅毒罹患率が非常に高いことなどから、外国人観光客ブームではいってきた可能性も指摘されているが、明確な証拠はないのですね。
この辺のことは BuzzFeed.News の記事「若い女性に梅毒が流行中! 患者が増えた二つの理由」に小堀先生(獨協医科大学越谷病院泌尿器科准教授)が冷静に書かれています。
梅毒は性感染症(Sexually transmitted disease; STD)であり、コンドームの使用である程度予防可能であるが、口から口への感染、オーラルセックスでの感染等は防ぐことができないため、完全に安全な性行為というものはないのです。
感染の検査を受けることが流行を防ぐうえでも重要です。
今回のニュースでは主婦・OL にひろがっているとのことであるが、パートナーのことを考えて生活することは非常に重要ですね。
梅毒とは
梅毒は、Treponema pallidum というスピロヘータに分類される菌によって引き起こされる感染症で、性的な接触で感染がひろがる性感染症(Sexually transmitted disease; STD)です。
病名については、初期に生じる発疹疹が楊梅=ヤマモモ に似ていることに由来するとされています。
梅毒の由来は諸説あり、コロンブス一行がアメリカ大陸から持ち帰ったという話は有名ですが、確証にはかけるところがあるんですね。日本へは 1512 年に記録上に初めて登場しており、流行伝播は早かったようで、江戸時代には一般庶民の梅毒感染率は50%であったとの説もあるほど流行していました。
横道にそれるが、梅毒に関連する歴史としては、医学史上はタスキギー実験(Wiki)が有名で、人種差別・倫理的な医学研究というものにたいして大きな影響を与えたのです。この研究については1997年にクリントン大統領が公式に謝罪を行っています。
梅毒の感染力は強いものの、ペニシリンによる治療が可能となってからは、致死的になることは稀となりました。
梅毒の症状は大きく4期に分かれてさまざまです。感染した妊婦からの胎児への先天性梅毒もありますね。
簡単に述べると、
第1期は感染後3週間~3か月程度で、硬性下疳と呼ばれる皮膚病変が生じ、時に潰瘍となる。鼠径部リンパ節腫脹も生じることがあり、横痃(おうげん)と呼ばれる。感染後6週間程度でワッセルマン反応が陽転する。
第2期は感染後3か月~3年程度。全身症状とリンパ節腫脹、時にバラ疹が生じる。
第3期は感染後3年~10年程度。ゴム腫が発生。ちなみにこのゴム腫は英語ではgummaと書き、グンマと発音する。群馬県というと一部医療者がびっくりするのはこういう理由。
第4期は末期であり、感染後10年以降。痴呆、脊髄瘻などの神経梅毒となったり、大動脈瘤なども生じる。最終的には死亡する。
検査と治療
検査はSTS (Serologic test for syphilis)という血液検査である。病変が生じた部分の生検では、病理診断としてトレポネーマを、ワルチン・スターリー染色などの特殊染色で染めてみることもできます。
病理学的には形質細胞の著しい浸潤がみられることが特徴的で、ゴム腫になると肉芽腫が集合してみられる。形質細胞性腫瘍(骨髄腫や一部のMALTなど)との鑑別が問題となることもあります。
Fig.2 ゴム腫の組織像 Flicker より |
▶ 感染症アトラス復刻版 梅毒のページ に詳しいです。
早期の梅毒はペニシリン系の抗生剤で治療でき完治が可能な病気です。
検査については、保健所においてHIVと合わせて無料でできるところが多いため活用することが望まれます。
● 情報のあるページ
・国立感染症研究所 梅毒とは
・Wikipedia
・感染症アトラス復刻版 梅毒のページ
・病理診断については Libre Pathology のページ
0 件のコメント:
コメントを投稿