2020年5月13日水曜日

COVID-19 バブルが研究業界におきている今、研究倫理は…

 今日は快晴なもののやや涼しいベセスダです。





 今日はちょっと雑感を。

 COVID-19 が世界的流行になり、医療従事者・研究者もフォーカスして大量に研究がなされ様々な報告が出てきています。なんというか「COVID-19バブル」とでもいうような状況です。

 もちろん素早く丁寧な仕事をなさる研究者も多く、混乱の中でもしっかりとした報告をしてくださる医療者も多く、この大騒動のなか、素晴らしい仕事も多くみられます。

 しかしながら、一方で、憂慮すべきはやはり研究の質や倫理の問題です。



研究の質を担保するシステムは不全を起こしていないか


 
 研究の方向を学術論文でする際には、peer-review といって同業者による批判的吟味により、出版にふさわしいか否かが判断されます。その review の過程の中で論文は下書きから磨き上げらえて公の議論の土台となる質がある程度担保されて出版されるとされています。

 このような研究の質を担保する上でも重要な peer-review システムが、この COVID-19 流行による研究バブルの中で、ないがしろにされていないだろうか、と懸念しています。
 というのは peer-review を行うということ、しっかりと検討するのは大変な作業であり、時間がかかるものですが、ここのところの COVID-19 バブルでは論文の submit (まぁようは提出)から publish (出版)までの時間が異様に短く、しっかりと review が精査といえるだけなされているのか不安なのです。

 実に出版までの速度が速い。そして大量に論文が出てくるので、出版後に通常であれば注目されて批判的に読まれる割合も相対的に減り、次から次に話題が変わっていくようなところあがある。…とても懸念しています。



プレプリント文化の勃興



 ここ数年、peer-review 前の論文の下書きを、プレプリントとして公開しておき、先取を宣言しておいたうえで引用も可能としておくという文化がでてきていました。
 
 このプレプリント文化がここにきて COVID-19 バブルで大いに勃興してきた感じがあります。

 代表的なプレプリントサーバーである medRxiv、bioRxiv には、5月12日時点で、合わせて3,305 件もの COVID-19 関連のプレプリントが公開されています。

 プレプリントには速報性があり、科学者は新たなデータを素早く取得できるという利点はあります。しかし、review 前のプレプリントは玉石混交も甚だしく、その内容を見極めるのは相当な基礎的な知識・経験と、最新の注意が必要であることはまちがいありません。

 研究者の大須賀先生のこのコメントは本当にその通りと思います。




  結果だけをプレプリントからつまみ出すと本当にまずいことが起こるように思っています。これも COVID-19 バブルでの懸念です…。



実際に問題のある論文も



 個人的に COVID-19 関連の論文・プレプリントを毎日のように集めては読んでいますが、正直、まずいなぁこれはというものも結構ありますし、悩ましいなと思っていたところですが、今日は nature の論文に大変まずい事態が指摘されていました。






 画像が明らかに不適切に使われていることを示すもので、同論文中の別の figure でも不自然なグラフが指摘されています。
 こういうものはもちろん COVID-19 バブル以前にもしばしばみられる研究不正であるわけですが、やはりこのバブルに乗じて多く出てくるのではないかと懸念しています。



そもそも大混乱で倫理の問題は



 あくまでも研究の出版に関する雑感を今は述べただけですが、この COVID-19 大流行下で、多くの人が浮足立ち、拙速になんとかしたいと混乱し、倫理や手続きをないがしろにしているような気がしてなりません。

 とにかく早く治療薬を、の大合唱による 臨床試験の結果さえない薬の compassionate use が増え、データがなくても政治的な特定の薬の後押しの声が響き、多くの人が扇動されて魔法の薬があるのに使えていないかのような幻想を抱かされてしまっていたりします。

 民放程度のテレビはまぁ仕方がないにしても、医療関係者やノーベル賞受賞者までもが、結果が出る前の薬を、承認しろ、早く現場に配れ、ガンガン使え、では困ります。

 慎重であるべきワクチン開発も、現場の声を聞いてきかずか、「ワープスピード 」で開発する、年内に投与可能にしたい、などとにかく丁寧な積み重ねの研究開発というものをないがしろにした発言が増えています。

 さらに、ワクチン開発のためにチャレンジテストという最終手段ともいえる、人への新型コロナウイルスの投与実験なども、どちらかというといけいけの論調のなか推し進める人がでてくるなど、やはり倫理や手続きが軽視される風潮があるように思います。

 もちろん、しっかりとした研究成果、薬、ワクチンが迅速に世界に供給されることがのぞまれますが、何か見失ってはいけないものを見失っているのではないかと思います。

 こういった動きに慎重な姿勢で警告を発している科学者も多くいます。新しく作った COVID-19 情報サイト にも引用しましたが以下のような論考も出ています。

  ● Drug Evaluation during the Covid-19 Pandemic
   NEJM April 14, 2020 DOI: 10.1056/NEJMp2009457
   … パンデミックの中での薬事承認についての論考。
  ● Randomized Clinical Trials and COVID-19: Managing Expectations.
    JAMA. 2020 May 4. doi: 10.1001/jama.2020.8115.
   … 数多く行われている RCT の現状についての論考。



そもそも研究は何のために


 
 医学医療に関する研究は、もちろん知的好奇心を充足させる部分も大きいですが、実際に人の命・健康にも直結するものです。もちろん他の分野でも人間社会に与える研究のインパクトは大きいものです。

 研究を人間社会のためにと常に最重要はそこ、とまでは言いません。

 しかし、確実に社会に影響する研究活動であるのですから、社会にとってミスリーディングや害悪をなすことはないようにしなければいけませんよね。

 大騒ぎで浮足立っている今、拙速にならず着実にかつ普段以上に慎重に、研究の倫理やあり方を感がないといけないように感じています。





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