2019年5月18日土曜日

重症熱性血小板減少症候群 (SFTS) の簡単な解説



 今、日本でも感染のリスクがあり、かつ非常に高い致死率を持つウイルス感染症があるのをご存知でしょうか。

 それが重症熱性血小板減少症候群、英語では Severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS)と言い、これを引き起こすウイルスが、重症熱性血小板減少症候群ウイルス(Severe fever with thrombocytopenia syndrome virus; SFTSV)です。



重症熱性血小板減少症候群  (SFTS) について


 このウイルスは、ブニヤウイルス科のフレボウイルス属に属するウイルスで、2011年に中国の研究者によって特定されたものです。そして、この疾患はマダニが媒介する感染症で、致死率が非常に高いという特徴があります。

 まず簡単に資料を紹介した後に、❶病気の方から説明し、❷発見の経緯など、❸簡単にウイルスの説明、❹感染経路の説明、❺そして現状についてまとめてみたいと思います。



SFTSに関する様々な資料のあるところ



 重症熱性血小板減少症候群について、資料のあるところをまずは提示します。

国立感染症研究所に詳しい解説ページがあります    

厚生労働省も情報を提供しています

▶ 日本語の総説も読みやすいです 
  https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/65/1/65_7/_pdf/-char/ja
  http://www.chemotherapy.or.jp/journal/jjc/06504/065040558.pdf

▶ 良くまとまったレビューが Lancet infectious disease にあります
 Severe fever with thrombocytopenia syndrome, an emerging tick-borne zoonosis

▶ 実際の解剖例の報告は複数例ありますが、日本から初出はこれですね
 Two autopsy cases of severe fever with thrombocytopenia syndrome (SFTS) in Japan: A pathognomonic histological feature and unique complication of SFTS

臨床家の皆さんには UpToDate のリンク
CDC にのったレポート
 

 さて、資料を紹介しましたが、ここから簡単に解説をしていきたいと思います。


SFTSの簡単な解説



SFTS の概要


 今回まとめるこの疾患、重症熱性血小板減少症候群 SFTS は、SFTSV が感染することで起こる感染症です。
 潜伏期間は6日から2週間程度と考えられ、高熱と血小板低下などが特徴なんですね。

 実際の症状としては、消化器症状として嘔吐・腹痛・下血など、神経症状として頭痛・意識障害など、リンパ節の腫脹、凝固障害・血小板減少などが起こり、多臓器不全で死亡することがあります。

 病態としては、SFTSV が免疫を担う細胞の一種であるB細胞に感染し、急速に増殖することで全身に広がるとともに、血球貪食症候群などの全身性の炎症状態を生じることが分かっています。

 致死率はかなり高く、2019年4月24日現在、日本国内では404例の感染報告があり、65例の死亡例があるような状況です。つまり、致死率は16%に及ぶわけです。

 小児の感染例も報告されていますが(https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-sp/2342-related-articles/related-articles-433/6310-dj4332.html)、死亡例はすべて50代以降であり、高齢者の感染にはリスクがあるともいえると思います。


SFTS の診断法


 診断はまずは病歴や症状から疑うことが大切です。そして血液などからウイルスを分離することや核酸を検出することでなされ、抗体の検査でも行うことができます。


SFTS の治療法


 ワクチンはありません。治療は現在特異的なものはなく対症療法が中心ですが、ファビピラビル(アビガン)が有効でありそうなので期待されています(PLoS One. 2018 Oct 26;13(10):e0206416)。

 薬物療法やこれらの仕組み、ウイルス学的な面などについては、これはまたいずれ詳細にまとめたいたいと思います。


SFTS の発見の経緯から


 さて、発見の経緯です。この疾患は、2007年に初めての報告があり、2009 年 3 月~7 月中旬にかけて、中国の湖北省と河南省の山岳地域において、原因不明の疾患が集団発生したことが初めの報告でした。

 その後、中国人研究者、于学杰 (Xue-jie Yu)らによって2011 年に原因ウイルスである SFTSVが同定されました。

 その報告がこれです。 NEJM誌ですね。
 ▶ Fever with Thrombocytopenia Associated with a Novel Bunyavirus in China

IASR https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/2241-disease-based/sa/sfts/idsc/iasr-topic/4410-tpc408-j.html
より


 その後、これは中国に結構ひろく分布している病原体なのではないかということがわかり、日本にも症例があることが分かってきたために、2013年に日本で後方視的研究をしたところ、100例以上の症例があったことがわかったのです(IASR 34:108-109 & 110, 2013)。

 ▶ The First Identification and Retrospective Study of Severe Fever With Thrombocytopenia Syndrome in Japan

 これはただ事ではなく、日本国内にもウイルスがいることが推定されたため、調査がなされ、実際に日本にはウイルスがすでに土着しており、中国のウイルスと日本のウイルスは遺伝子的に非常に似ているが違いも見られたため、日本に独自に株があることがわかってきました

 系統樹解析といって、ウイルスの近縁の度合いや祖先を考察できる方法で調べると、中国や韓国から海を渡ってやってきたことが示唆されているんですね
 ▶ Phylogeographic analysis of severe fever with thrombocytopenia syndrome virus from Zhoushan Islands, China: implication for transmission across the ocean. Sci Rep. 2016; 6: 19563.

 さて、そんな SFTSV ですが、ウイルス学的にはブニヤウイルス科フレボウイルス属というものに分類されます。
 
 マイナス鎖一本鎖RNAウイルスというものになりますね。日本では四類感染症に指定されています。
 
 ブニヤウイルス科には、クリミア・コンゴ出血熱ウイルスや、リフトバレー熱ウイルスなどの非常に致死率の高い出血熱などを引き起こすウイルスがあることが知られています。

 SFTSV はB細胞に感染しますが、これによってB細胞の機能が障害されて、病態が形成されるようであることもわかってきています。
 ▶ Deficient humoral responses and disrupted B-cell immunity are associated with fatal SFTSV infection. Nat Commun. 2018 Aug 20;9(1):3328.

 このようにウイルスについても研究がかなり集中してなされており、どんどん細かくわかってきていますが、今回は割愛してまたの機会に説明しようと思います。

 日本ではウイルス学的な研究は国立感染症研究所ウイルス第一部の西條先生が主導されている仕事が大きいですね(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000196829.pdf)
 臨床も含めると愛媛や長崎の先生も頑張っておられますし、西日本でやはりさかんです。

 余談ですが、ドラマ「インハンド」第二話にでてきたハートランドウイルスは、SFTSV 近縁のもので、2009年にアメリカのミズーリ州で発見されています。別のキララマダニが媒介すると思われているんですけれどもね…。



SFTSV の感染経路



 さて先走りました。感染経路としては、マダニ科のダニにかまれることで感染する人畜共通感染症であることがわかりました。


 
 マダニ科としてはフタトゲチマダニ、オウシマダニ、タカサゴキララマダニなどがあります。
 
 これらのダニが、SFTSVをもつ、ヤギ、ウシ、イヌ、ネコなどを刺し、またヒトも刺すことで人に感染するルートが一般的と考えられています。なので獣医学的にもこれは重要なんです(http://www.eiken.co.jp/modern_media/backnumber/pdf/MM1602_01.pdf

 いまのところ少数例ではありますが、動物から直接感染することもあり、2017年には徳島県で飼い犬からヒトに感染した例が報告されているほか、病猫の看護中にかまれた例、ネコの多頭飼育により感染したと思われる症例も報告されています。

 さらに実は、血液等の患者体液との接触により人から人への感染も報告されているんですね。血液中にウイルスがあるとその血液も危ないことになります。

 まとめると、感染経路は
  ❶ 動物 → マダニ → ヒト、
  ❷ 動物 → ヒト、
  ❸ヒト→ヒト 
 があり得ることとなりますね。

 日本国内におけるSFTSの発症はその多くが西日本で確認されています(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000030jzo-att/2r98520000030k7b.pdf)。

 また、SFTSV の国内分布調査もなされ、患者、SFTSVに抗体陽性のニホンジカ、SFTSVが検出されたマダニはいずれも西日本優位であることが判明しました
 ▶ IASR - SFTSウイルスの国内分布調査

上記 IASRより

そのほか epidemiology についてはこれも参考になります。
 ▶ 日本における重症熱性血小板減少症候群 IASR
 ▶ Epidemiology of severe fever and thrombocytopenia syndrome virus infection and the need for therapeutics for the prevention


SFTS の現状



 さて、現状ですが、日本では依然感染者が出続けており、本日、2019年5月15日には長崎で感染したと思われる東京都内での発症例が報道されていました。
 ▶ マダニで感染症 GW 長崎でかまれる

 こういったことから潜在的に西日本中心にかなり問題のあるウイルス感染症であり、情報を徹底して普及しなくてはならないのですが、なぜかあまり伝わっていないところを感じますね。

 厚労省のページをもう一度みてみますと、資料は豊富ですね。

 このウイルスはワクチンもなく、かつ、治療法も確立したものはないので、予防するには感染経路であるマダニと動物との接触を避けることが大切です。

 感染研のこの情報は重要ですね ▶ マダニ対策、今できること

 そして、実は、外で飼っているペットや多頭飼育、野良犬・野良猫などは危険である可能性もあります。ですから注意しないといけませんね。

 

とにかくまずは知ってほしい SFTS



 実は身近で怖いウイルス感染症なのです。更なる研究も必要ですし、治療法・ワクチンの開発も望まれます。
 とにかく周知が望まれます。最後に厚労省のQ&Aを紹介しておきます。
 






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