2019年4月10日水曜日

【解説】ウェステルマン肺吸虫症について

 ラジエーションハウスのドラマ第一回を見ました。
 豪華な出演者、ノリもよく医療ドラマとしても楽しめそうな雰囲気ですね。

 早速以下、ネタバレありで今日は出てきたことを一つ解説してみます。

 第一回放送では、頭の中の撮影で画像がうまく得られない、なぜなら頭の中に動脈瘤クリップという金属が入っていて、さらに、奥歯にも金属の詰め物があったから、というストーリーでした。金属が入っていると CT も MRI もなかなかうまく取れません。

 画像が得られないので、動脈瘤の再破裂かもしれない、造影剤を投与して検査しよう…という中、主人公が、これをうまく回避して画像診断をできるようにした。
 そして、…なんと画像では… 肺吸虫症だと診断が…。

 というストーリーでした。

 ドラマなので細かくうるさくは言いませんが、画像も難しく、さらに画像だけで肺吸虫症は確定診断はできません。ほかの検査もしないといけませんが、この寄生虫による病気はちょっと不思議で面白いところもありますので、簡単にまとめてみたいと思います。


肺吸虫(はいきゅうちゅう)症とは



Fig.1 ウェステルマン肺吸虫の成虫の図(Wikiより)

肺吸虫症という病気は、肺吸虫という寄生虫がヒトに感染して起こすさまざまな症状のある寄生症です。

 肺吸虫とは、寄生虫の一種で英語では paragonimius と言います。

 ヒトに寄生することのある肺吸虫(paragonimus)はこれまでのところ、種としては28種が報告されており、日本でみられるのは主にウェステルマン肺吸虫(場合によってはベルツ肺吸虫が含まれる)宮崎肺吸虫による感染の2種類なんですね。その他には大平肺吸虫、小形大平肺吸虫、佐渡肺吸虫などがあります。少なくとも世界的には11種の感染例が知られています。

 まずは情報のあるところを紹介してみます。  
  ▶ わが国における肺吸虫症の発生現況 国立感染症研究所
  ▶ 東京都福祉保健局 食品衛生の窓 肺吸虫
  ▶ 肺吸虫 - 食品安全委員会 PDF
  ▶ CDC Paragonimiasis
  ▶ Wikipedia ウェステルマン肺吸虫

 昨日放送のドラマでは患者は海外へ行って生のカニを食べたことで感染したとされていますが、実際に、日本国内でも生のサワガニなどを食べての感染は起こりえますし、海外で感染して帰ってくることももちろんあります。


どのように感染するのか



 肺吸虫がどのようなところにいて、どのように成長し、どのように生活しているか、といったことを生活環と言いますが、これを解説した図がCDCにありました。

Fig.2 肺吸虫の生活環

 この図にあるように、まず❶肺吸虫のたまごである虫卵は、人の糞便や喀痰とともに排出され、❷水の中で発育して、❸幼虫であるミラシジウムというものになります。

 ミラシジウムは❹第一中間宿主といわれる寄生先といえるカワニナなどの貝に侵入し、貝の体内において、スポロシスト→レジア→セルカリアと成長していきます。

 ❺セルカリアになると貝から出て、第二中間宿主であるカニ(図では海老になっていますね)に侵入して、セルカリア→メタセルカリアへと成長します。

 ヒトなどの最終的な宿主となる生物(ヒトのほか、イヌ・ネコ・タヌキなどもこれになります)が、サワガニやモクズガニなどの第二宿主を食べることで感染し、小腸内で、脱嚢といって中身が飛び出し、おなかの壁を壊して体に入り込み、横隔膜を通り抜けて肺に移動してきます。
 虫嚢といわれる袋のような病変を、虫がペアになってつくり、そこでたまごを生みます。


どんな症状がでるのか


 寄生虫が体のどこに行くかによって、さまざまな症状がでてきます。

 まずは、もっともありがちなのは胸部に行くことで肺などに侵入しますので、血痰、咳、胸痛、発熱、気胸(+胸膜炎と胸水貯留)などが起こることがあります。これを胸部肺吸虫症と呼んでいます。

 脳まで移行すると、今回のドラマのように、頭痛や嘔吐、てんかん様の発作、麻痺などが起こり、場合によっては命にかかわることになってきます。これを脳肺数虫症といっています。

 また、皮膚または皮下肺吸虫症といって、皮膚の下を虫が這いまわることによって痛みや腫瘤ができることがあります。


Fig.3 CDCホームページより

 

どうやって診断するのか



 放射線画像診断では、典型的には肺の中や脳の中に腫瘤ができていることが分かります。ただ、これだけで明確に診断することはとても難しいことが多いです。

 というのは、GGOというすりガラスのような薄い影であったり、癌やそのほかの病気ににた腫瘤をつくったりということもあり、画像だけですぐに肺吸虫を考えるのは難しいことが多いからですね。

 肺吸虫が感染するようなエピソードや地域にいることや、疑われる画像や症状があれば、喀痰や糞便において、沈殿虫卵法という方法で寄生虫の卵を検出することで診断をすることができます。また、最近はゲノムの配列を読むこともできます。

 ▶ 肺吸虫の画像の論文 
   Radiology of Infectious Diseases Volume 3, Issue 2,
    June 2016, Pages 66-73
 ▶ 典型的なCT画像が「多彩な胸部陰影を呈した宮崎肺吸虫症の1 例
   にありました。

 上記論文より。肺でも脳でも空洞のあるような嚢を作ることが多いですね。





 もしも病理検体がでてきたときは、多数の虫卵が認められ、その周りには好酸球の浸潤や強い肉芽組織からなる組織反応がみられます。虫卵の殻は複屈光性を有するので、偏光レンズ観察で光って見えます。

Flicker より





どうやって治療するのか



 これは比較的簡単で、駆虫薬という薬を飲むだけになることが多いです。
 具体的には、プラジカンテルやピチオノールというお薬になります。



どの程度日本に寄生虫がいるのか、どうやって防ぐか



 日本で1950 年代に実施された疫学調査では、北海道を除く全国に肺吸虫症患者がいましたが、その後激減、しかしまた1980 年代に年徐々に増加していました。1986 年から 2005 年までに診断された 200 症例以上は、その 95%がウェステルマン肺吸虫による感染だったとの報告もあります。

 食品の汚染は、食用サワガニの約20%がウェステルマン肺吸虫または宮崎肺吸虫に汚染されていることが証明されているほか、野生イノシシが検査され肺吸虫の幼虫 が検出されたという報告もあります。

 感染自体はメタセルカリアが1 個でも感染が成立して成虫に発育することから、汚染された生ものを食べるのはとても危険と言えます。
 ヒトからヒトへ直接感染することはありません。

 予防のためには、サワガニ・モクズガニ・シカ・イノシシは生食はせずに、十分加熱することが望まれます。また、これらを調理した器具を十分洗浄することが大切です。



というわけで、


 問診による食事の履歴や渡航歴がとても診断には重要な疾患です。寄生虫症は日本では激減していますが、まだ存在します。また、海外ではそのリスクもありますので、生食などは控え、もししてしまった後に症状がでれば受診時にしっかりと伝えることが大切ですね。
 医療従事者はしっかり問診をとり患者の行動を把握したうえで、症状、検査、画像などからの診断を行わないといけませんね。


● 教科書



 医動物学という分野の本が寄生虫を扱っていますね。
 この本は見やすく読みやすくお勧め。







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